ディー・エヌ・エー(DeNA)は12月7日、同社が運営するキュレーションメディア(まとめサイト)が掲載した記事に対し「内容が不正確」「薬機法違反の恐れ」「盗用ではないか」との指摘が相次ぎ、全10メディアの公開を停止した件について、記者会見を行った。会見には守安社長のほか、創業者である南場智子会長と小林賢治執行役員経営企画本部長が出席し謝罪。詰めかけた記者からの質問にすべて答えるという方式だったため、会見は3時間にも及んだ。しかし、問題の核心への質問には「把握できていない」「第三者委員会の調査を待つ」との回答に終止し、消化不良に終わった。その原因は「責任者」が会見に顔を出さなかったためだ。
モラル欠くマニュアル発覚
発端は、ヘルスケア情報「WELQ(ウェルク)」が掲載する記事に対し「根拠の不明確な記事が多い」といった指摘がネット上で出たこと。食に関する記事が「吉野家アレルギーって何?」という全く根拠のないタイトルだったり、肩こりの記事では「幽霊が原因のことも?」とあったり、信ぴょう性に欠けるものが目立っており、中には薬機法違反を問われかねないものもあった。
同社ではまず11月29日にウェルクを非公開に。さらに、著作権侵害を疑う指摘が出たことを受けて、「マニュアルやライターへの指示などにおいて、他サイトからの文言の転用を推奨していると捉えられかねない点があり、モラルに反していないという考えを持つことができなかった。このまま記事を提供し続けることは許されない」(守安功社長)として、住まい・インテリア関連情報の「iemo」など8サイトを非公開にした。
女性ファッション情報を扱う「MERY」については、「伝聞形式の文章にするような指示や推奨はしておらず、他の9媒体とは運営手法が異なる」(広報部)ことから継続する意思を見せていたものの、12月7日に非公開に。社外取締役を含む外部専門家によって構成される第三者調査委員会を設置し、事実関係の調査を行なうことを明らかにした。
著作権者への配慮なく
こうした中で開かれた謝罪会見。DeNAのキュレーション事業は、ペロリのMERYのみ独立して運営する形で、残り9メディアの責任者はiemo代表取締役の村田執行役員だった。DeNAは2014年、「iemo」を運営するiemoとMERYを運営するペロリを買収、キュレーションメディア事業に参入した。守安社長は今回の事態を招いた原因について「業績が下降する中で新事業にトライしたがうまくいかなかった。その中でスタートアップを買収したわけだが、スタートアップの良さを失わずに事業を成長させる側面と、一部上場企業として会社の体制を構築するという両者のバランスを取る必要があったが、うまくいかなかった。また、メディア事業を作っていくことに際し、著作権者への配慮や質の担保ができていなかった」と述べた。
記事作成を発注する際に、他人の記事を参考にする場合、元記事と同一にならないよう指導するマニュアルが存在した。こうしたマニュアルの存在について、守安社長は「知らなかった」とし、村田執行役員も「マニュアルの問題点は把握していなかったとの回答だった」(守安社長)。マニュアルがどんな経緯で作られたかについては「現時点では把握できておらず、誰のどんな指示があったかについては第三者委員会を含めてきちんと調査していく」とした。また「組織的な盗用を推奨していたのではないか」との指摘に対しては「著作権を侵害してはいけないということを基本方針としていた」と反論した。
MERYでは、他の9メディアとは異なる記事作成方針としていたものの、「少しでも問題を含む可能性が記事を機械的に検出し、非公開化したところ全体の約80%が該当した」(小林執行役員)。具体的には、美容・健康関連で問題ある表現が含まれていたり、画像の出典不明・許諾がないといった記事だ。「一部非公開化すると聞いていたが、実際には80%だった。取締役会でも議論はあったが、ここまで問題が大きくなった以上、MERYも含めてすべて停止して、態勢を立て直す方がいいと判断した」(守安社長)。
ライオンから「抗議」も
同社では2014年に2社を買収する際にデューデリジェンスを実施。守安社長は「著作権について、一部リスクがあるかもしれないと踏まえた上で買収した」と説明。「実際の著作権者がこの事業をどう考えるのかなど、配慮が不十分だった」と反省した。こうしたリスクについて、広告主に説明していたかどうかについては今後調査していくという。
WELQについては、ライオンのサプリメント「ラクトフェリン」が「ガンや放射能に効くとして記事内で紹介され、ライオンの販売サイトへのリンクもされていた。これに対しライオンは「記事と画像が当社への確認がないまま表示されていた」「届出表示は『内臓脂肪を減らすのを助け、高めのBMI改善に役立つこと』」などの声明を公表した。小林執行役員は「ライオンにはきちんと説明した。今度同様の件がないかどうか調べていく」とした。なお、アフィリエイトリンクかどうか、そうであれば誰が利益を得る形だったかについては「第三者調査委員会の調査で実態を把握する」(広報部)としている。
同社の著作権法上の責任については「ライターにすべての責任があるという考えではないが、今後権利者と相談していく。(DeNAが)法的に責任があるかどうかはまだ分からない」と明言を避けた。
問題はビジネスモデル
問題の根幹は「低コストで記事を量産し、SEO対策で検索上位に表示させることでアクセスを稼ぎ、広告を集める」というビジネスモデルそのものだ。記事作成プロセスは、DeNA社内のプロデューサーが社内外のディレクターに作成を指示。外部パートナーに委託、もしくは直接社内外のライターに依頼し、できた記事を納品してもらう仕組み。また、一般ユーザーが投稿することもできた。記事の品質について責任を負う編集長は存在しなかった。
クラウドソーシングサイトを通じて集めた「クラウドワーカー」に発注した記事はMERYにおいては10%弱。社内でアルバイトやインターンなどが書く記事が大半だった。一方、他の9媒体については60~90%の記事をクラウドワーカーが書いており、問題の発端となったWELQについては90%程度だった。
同社のキュレーションメディア、特にMERYは知名度も高く、今中間期の段階ではMERYほか2媒体で月間利用者数が2000万人を超えるなど、広告出稿企業にとっても優良なメディアだった。しかし、これは「記事にコストをかけない」からこそ成り立っていたもの。今後の事業運営方針について、守安社長は「コンテンツ制作にコストをかけた場合でも、ビジネスモデルを成立させるべくトライしたい」とした。
通販企業にとっても他人事ではない。近年はコンテンツマーケティング観点からSEO対策を意識し、自社商品に関連した記事を掲載したり、情報サイトを作ったりすることも珍しくない。その際には知識のある書き手に依頼し、場合によっては専門家による監修を受けるべきだろう。
「責任者」不在で核心語られず
会見では「マニュアル」が作られた経緯など、核心部分について明かされることはなかった。これは、事業の責任者たる村田執行役員が会見にいなかったことが大きい。同氏はシンガポール在住であり、「健康的な問題」(守安社長)もあり東京には来ていないのだという。
ただ、ここまで大きな問題となった以上、事業運営の詳細を知る村田執行役員が事情を説明するのは当然ではないのか。同氏の責任について、守安社長は「会社としての最終責任はCEOの私1人にある」と述べ、同氏の責任には触れなかったが、これまで積極的にメディアの取材を受けてきた村田氏の沈黙はあまりに不誠実に映る。