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“モバイル最優秀賞”から2年 ヴァイスロイが自己破産申請へ

1月4日、輸入ブランド雑貨のネット販売を手がけていたヴァイスロイ・インターナショナルが20億円の負債を抱え事業を停止した。要因は、不景気や競争の激化で売り上げが減少したことによる資金繰りの悪化。それにより仕入れが困難な状態となり、さらに売り上げが減少する――と”負のスパイラル”にはまり込んでいたようだ。新たな販売チャネルとして期待をかけていた実店舗も思うように軌道に乗らず、収益を圧迫した一因となっていたようで、ノウハウのないネット事業者が店舗を運営する難しさが改めて浮き彫りになった格好だ。
ヴァイスロイといえば、楽天市場で二度にわたり「ショップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど”優秀店舗”の代表的存在と見られていたネット販売事業者。モバイルでもほんの2年前には、ディーツーコミュニケーションが開催する「モバイルショッピング大賞」で最優秀賞を受賞するなど栄華を極めていたはずで、2年後にこのような事態を迎えることになろうとは誰にも想像できなかっただろう。同社では、事後処理を弁護士に一任。3月をメドに自己破産を申請する見通しで、現在は出店していた楽天、ヤフーなど全店舗を閉鎖している。表には知られざるところで、一体同社に何が起こっていたのか――。

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「最先端を走っている」

まず、破綻に至った要因を見る前に、同社のこれまでの軌跡を簡単に振り返ってみたい。
創業したのは約20年前の1990年12月。以来、ペンダントや財布、ブレスレットといった海外ブランドアクセサリーの、PC・モバイルでのネット販売やディスカウント店向けの卸販売を展開してきた。ネット販売市場の拡大とともに順調に業績を伸ばし、2004年12月期には46億4600万円の売上高を計上。モバイルでもその送客数や商品紹介力が高く評価されており、その受賞歴は先に述べた通り。モバイルサイト「海外ブランドセール」は「優良店」として広く知られることになり、2年前の伊藤社長の「モバイルショッピング大賞」受賞時のコメントを借りれば、まさしく「最先端を走っている」はずだった。

“真犯人”は実店舗?

このように一世を風靡したヴァイスロイだったが、08年秋以降は世界的な不況や競争の激化により需要が落ち込み、08年12月期の売上高は約35億円にまで落ち込んだ。それにより資金繰りが悪化し在庫する商品数が減少、「売るものがない」という状況に陥り、さらに売り上げが減少する――という負のスパイラルが形成されていたようだ。こうした事態を受け、同社でもリストラや実店舗の閉鎖などの改善策を打ったものの、業況改善の見通しが立たず、ついに今回の措置を迎えることになったという。
とはいえ、不況や競争の激化はヴァイスロイのみに限ったことではなく、小売事業者全般に当てはまる話。確かに消費者の財布の紐が固いこの時期、ブランド品の販売は相対的に難しく苦戦は免れないが、傷口をさらに広げた「真犯人」は”実店舗”の存在だったようだ。事後処理を担当する弁護士によると、同社では、バッグなどのブランド「ジェイ・ハーシュ」の路面店を、東京・神宮前という好立地に出店していたが、これが軌道に乗らず、収益を圧迫。資金繰りの一層の悪化を招いた”致命傷”となったという。
では、実店舗の運営という「色気」を出さずにネットのみで物販を行っていれば良かったのでは、と言うと、実は一概にそうは言い切れない。と言うのも、一般に、ネット販売事業者の場合、30億円というのがひとつの「ボーダー」と言われており、集客面での限界がちらほらと見え始めるころ。そこで、効率的に集客したいと考えた場合、”実店舗”というキーワードが浮かんでくるのは必然だからだ。
特に、ヴァイスロイの場合は、効率重視の運営を行っていたため社内で分業制を採用しており、スタッフの数も同規模の事業者より多かったという。こうした背景もあって、母体が大きくなりすぎたヴァイスロイはそれを支える必要に迫られ、ノウハウのない実店舗展開にいかざるを得なくなった――との見方が有力のようだ。

「対岸の火事」ではない

以上、ヴァイスロイ転落の経緯を辿ってみたが、ひとつ言えるのは、これは特殊なケースではなく、他のネット販売事業者にとっても決して「対岸の火事」ではない、ということ。それなりの規模に達したときに「集客の壁」に突き当たるのは、ヴァイスロイ同様、倍々で調子よく成長してきた企業すべてが直面する問題であり、その壁を乗り越えるためのひとつの選択肢である「実店舗」に行き着くのは極めて自然な流れであるからだ。
事実、近年では通販事業者の実店舗開設の動きが活発化しており、そうした企業は紙とネット、実店舗を効果的にクロスさせた戦略を採用している。固定費が発生するリスクも負うため、慎重な見極めが必要とされるが、「攻め時」を間違えなければ、差別化につながる有力な成長戦略であることは確かだろう。
とはいえ、実店舗ノウハウを持たない通販企業が安易に乗り出した場合、失敗する確率は決して低くないのもまた確か。実店舗の失敗が即、事業の破綻につながるわけではないが、ひとつ間違えれば最悪のケースを生む可能性があることはヴァイスロイの例からも明らかだ。ネット販売各社は、今回のケースを教訓として「攻めと守りのバランス」を再度意識して考えてみる必要があるかもしれない。
わずか2年間で「天国と地獄」を味わうことになったヴァイスロイ。今後のことは分からないが、数々の賞を受賞するほど高い評価を集めたサイトを運営していたことからも分かるように、拡大するネット販売市場の一翼を担える存在だったことは間違いない。捲土重来を期待したいところだ。

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