慶応義塾大学大学院法務研究科の石岡克俊教授は3月9日、報道陣向けに楽天の「送料込みライン」に関する法的な論点を解説するセミナーを都内で開催し、「公正取引委員会の東京地方裁判所への緊急停止命令申し立ては拙速だ」と批判した。
石岡教授は楽天の依頼を受けて、同施策の独禁法上の問題や緊急停止命令に対する意見書を書いており、同社では意見書を東京地裁に提出している。
セミナーで石岡教授は「2005年の独禁法改正で勧告制度が廃止され、本訴である排除措置命令を出すまでの期間が短縮されたため、仮処分にあたる緊急停止命令の果たす役割は限定的に運用されると考えていた。緊急停止命令を出さなければいけない状況なのか、違和感がある」と話した。
さらに「施策が実行されていない状況で緊急停止命令申し立てがされるのは特異。不公正取引は法益が侵害された後に規制されるのが原則だ」と指摘。過去には1969年に八幡製鉄と富士製鉄の合併をめぐり、合併前に申し立てがされたことがある。これについて石岡教授は「合併は事前届出制を採用している。企業結合規制と他の独禁法の規制はタイミングが違うため、別扱いすべきではないか。ただ、八幡・富士の事例を先例とする考え方もあるだろう」との見解を示した。
今回の施策の特徴について「楽天の収益の中心は手数料収入であり、出店者の取引総額を増やすのが収益拡大のポイント。出店者の自由を抑圧するようなインセンティブはないはずだ。さらには、仮想モールの利用者獲得競争においては、商品・サービスの多様性が重要になるので、公取委の『出店者の自由かつ自主的な判断を阻害している』という主張は、楽天市場の魅力を失わせることにつながる。中長期的に考えると『優越的地位の乱用』は楽天にとってやる意味がない」とみなした。ただ、これについては「あくまで一般的に考えればという話」とし、今回の施策が独禁法における優越的地位の乱用にあたるかについては「楽天と、施策に反対する出店者団体『楽天ユニオン』からきちんと話を聞いたわけではなく、公開されている資料を見ただけなので、判断しかねる」と述べるにとどめた。
なお、公取委による緊急停止命令の申し立ては10日に取り下げられた。