われわれのミッションは共通している マーク・ワング●ショッピファイ / 藤屋俊介●楽天

 楽天とカナダ発の通販サイトプラットフォーム「Shopify(ショッピファイ)」を運営するショッピファイが、ショッピファイを利用するアメリカと日本のネットショップを対象に、ショッピファイの管理画面を経由して、楽天の運営する仮想モール「楽天市場」の店舗運営を可能にするサービスの提供を開始した。楽天市場の出店審査を通過した事業者は、ショッピファイのアプリストアから「楽天販売チャネルアプリ」のダウンロードができるようになる。ともに中小規模の事業者に強く、日本市場においてはライバル関係ともとれる両社だが、今後どのようなパートナーシップを組んでいくのか。(聞き手は本誌記者・川西智之)

スポンサードリンク

アメリカの事業者が売り上げを伸ばし顧客基盤を拡大する大きなチャンスに

日本市場への意欲は強い

─提携の経緯は。

ワング:ショッピファイの機能の一つに「どんなチャネルでも販売できるというオムニチャネル関連がありますが、楽天市場のようなマーケットプレイスもその一つです。日本においては楽天市場が最上位のマーケットプレイスとなります。また、当社のグローバルにおける潜在的な力を理解してもらえる企業と組みたいと考えていました。楽天は楽天市場をグローバルで展開しており、クロスボーダーECの形で日本市場で販売したいという事業者へのサポートもしています。そういった意味で、当社やショッピファイの利用企業受け入れる素地があったと感じます。

藤屋:マークさんには2年ほど前に初めてお会いしましたが、その際に「楽天との協業に興味がある」と言っていただきました。特に当社の決済周りに注目していたようで、そこからディスカッションを開始しました。楽天市場としては、これまで扱っていなかった海外ブランドを取り扱いたいと考えて動いていました。2017年や18年は、日本ではショッピファイの知名度は低かったものの、北米を中心としてD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)という形で小売りをするブランドが増えていました。こうしたブランドが日本の楽天市場を通じて、簡単に日本の消費者に販売するスキームが整えられれば、と考えるようになりました。楽天市場のパワフルな面と、ショッピファイのD2Cブランドをかけ合わせることでシナジーを最大化できると思っていますし、両社の中長期的なパートナーシップを考えると、まずは一番強い部分で組むのが重要です。日本はネット販売の規模は中国・アメリカ・イギリスに次ぐ世界4番目であり、進出したいブランドはたくさんあります。とはいえ、まだまだ日本に進出できなかったり、日本語のサイトを作ってもなかなか売れなかったりという企業は多い。日本人はコンサバティブなところがあるので、馴染みのある楽天市場で海外の商品が買えるというのは非常に大きいのではないでしょうか。昨年7月に契約を締結してアプリの開発に着手しました。

─ショッピファイではクロスボーダーECへの取り組みはしてきたのですか。

ワング:もちろん、クロスボーダーECはショッピファイにとって重要なものであり、複数言語への対応、関税の計算、グローバルでの出荷・物流連携などの機能を設けてきましたが、販売チャネルという意味では、今回の楽天との取り組みが最も野心的で、初となります。アメリカには100万を超えるショッピファイのマーチャントがいますが、多くのブランドはすでに日本でも販売しています。ただ、言語の問題があり、多くの消費者にリーチできてないという問題もあります。楽天との提携により、シンプルな形で多くの楽天市場ユーザーがアクセスできるようになるというのが重要なポイントです。

─ショッピファイの利用企業における日本市場への意欲は。

ワング:さまざまな規模のマーチャントが利用していますが、日本で販売している・したい理由もそれぞれです。大手D2Cブランドはすでに日本で売っていますが、楽天を通じて売ることで、日本における顧客基盤を拡大できます。一方、まだ日本に進出していないマーチャントにとっては、新規市場を開拓できる機会になります。なぜ楽天との提携が重要かというと、日本のネット販売市場は非常に大きい。そして、平均的なアメリカのマーチャントにとって、日本市場はなかなか参入が難しい。それは言語のほか、文化の違い、マーケティング、カスタマーサービスといったさまざまな問題があるからです。しかし、今回の連携によってこのプロセスがシンプルになる。ショッピファイを通じて、RMS(楽天市場の店舗管理ツール)のアカウントを英語で管理できるようになるし、注文処理などもこれまでのオペレーションをそのまま変えずに行うことができます。ショッピファイと楽天との間で深い連携が生まれたことにより、何十万というマーチャントが売り上げを伸ばし、顧客基盤を拡大する非常に大きなチャンスとなったわけです。

─アメリカ事業者間における楽天市場の認知度は。

ワング:「Rakuten」というブランド自体は非常に認知されています。一方で、日本の楽天市場はどうかというと、Rakutenブランドほどは認知されていません。楽天という企業が日本で大きな存在だということは知られていますが、実際にマーチャントが楽天市場でどのように商品を登録し、販売できるかという部分は知られていない。今回のチャネル連携により、その部分が解決されればいいと思っています。

─楽天市場という巨大な売り場が日本にあることを、どのようにアメリカ事業者に伝えていきますか。

ワング:アメリカと日本のマーチャントがショッピファイにログインにすると、販売できるチャネルを表示したセクションがありますが、フェイスブックやグーグルショッピング、インスタグラム、アマゾン、イーベイなどと並んで楽天市場もリストに加わっています。楽天市場を通じて日本で売ることに興味がありそうなマーチャントを洗い出すためのデータはたくさん持っています。例えば、日本すでに販売しているかどうか、売上規模、扱っている商品のジャンルなどから分かるわけです。楽天と協力して、そういったマーチャントに対してはメールでアプローチしたり、管理システムからアプローチしたりしていきます。

─新型コロナウイルス感染拡大の影響で消費が落ち込んでいるのは世界共通ですが、海外市場に目を向ける企業は増えているのでしょうか。

ワング:今は皆にとって厳しい時期ですが、特に小規模な小売り企業にとっては厳しい。ただ、今こそ小売り企業は「オンラインでいかに売るか」「新しい成長源を見出す」ことが必要です。それによって、国内における実店舗の売り上げ減を相殺していく必要があると思っています。マーチャントにとっては売り上げを分散し、多角化するチャンスではありますが、多くのマーチャントがコスト削減し生き残りに必死になっているのも事実です。今回の連携が、こうした難しい時期にマーチャントを支援する一つの手段になればいいと思っています。

ビジネスモデルが違うという両社の特性を活かせば相互補完していける

サイト制作もサポート

─今後、ショッピファイが日本で利用店舗を広げると、楽天にとってライバルとなるのでは。

藤屋:楽天は「オープンコマース」を目指しており、楽天経済圏は楽天市場にとどまることなく、例えば楽天IDを使った決済を通販サイト向けに提供しているわけです。決済サービスの提供についてもショッピファイと協議していますし、そういったところでもパートナーシップを組めると思っています。また、まずはショッピファイでスタートし、より大きなマーケットにチャレンジしたいということであれば、そのまま楽天市場にも出店することができます。ショッピファイの方が固定費が安く、チャレンジしやすいと思いますから、Eコマースをいろいろな事業者に広げるという意味では、ライバルというよりもパートナーとして住み分けできるのではないかと思っています。

─アメリカのD2Cブランドが魅力的とのことですが、どんなブランドを取り込みたいと考えていますか。

藤屋:すでに多数の申し込みがあり、ファッション関連のブランドが大半です。クロスボーダーで人気のカテゴリーですから、まずはこれを取り掛かりにしたと思っています。先ほど新型コロナの話が出ましたが、現在北米から日本への旅客便が減っており、クロスボーダーが加速するタイミングではありません。ただ、問い合わせは増えています。経済活動再開に備えて、販売チャネルの拡大という意味で楽天市場を検討してもらっているのではないでしょうか。

─新規ブランドが出店することで、どういった層の消費者にアピールできると思いますか。

藤屋:海外コスメやサプリメント、アパレルには一定のファンがいます。楽天市場で検索はされるのに取り扱いがない、というブランドは一定数あるので、そういったキーワードを中心に商品を増やしたいと考えています。よりトレンドに敏感な世代が対象になるでしょう。

─アメリカの事業者が出店する際のプランは。

藤屋:1プランのみで、日本に事業者向けに用意した『スタンダードプラン』とほぼ一緒の内容です。ECコンサルタントもカリフォルニア州のサンマテオに拠点を構えており、バイリンガルのスタッフが北米の店舗をサポートします。

─通常の出店プランの場合、RMSでショップ構築をすることになりますが、ショッピファイ経由で出店する場合はどうなるのですか。

藤屋:今回の連携によって可能になったのは、主に受注管理と商品登録、在庫管理です。価格調整や在庫調整はショッピファイ上で完結可能なので、RMSにログインする必要はありません。ただ、決済方法や配送方法の登録、楽天市場のトップページ作成などはRMSで作業する必要があります。理想はショッピファイ上での完結ですが、現時点ではそうなっていません。日本国内に「RMSサービススクエア」という、制作会社などを紹介するサービスがあるので、英語対応できるベンダーを紹介して、外注できるようにします。ただ、顧客対応を考えると日本語ができる必要があるので、出店時の条件として日本語のスピーカー確保を入れています。とはいえ、日本語はできてもRMSが使えないということもあるでしょうから、そういう店のために「初期設定パック」を作っています。ショッピファイとの提携の中でも、もともと日本に向けて出荷していたり、興味を持っていたりする企業に声をかけているので、ある程度日本語対応できるということが下地となっています。

─ショッピファイ側のサポートは。

ワング:ショッピファイとRMSの間では機能連携がされているわけですが、楽天市場にショップを立ち上げることに関しては、カリフォルニアの楽天スタッフなどと連携して作業する必要があります。ショッピファイ側ができるのは、店舗管理や受注管理、在庫の同期など、技術面でのサポートをしていきます。

─今回の連携以外で、他にどういった部分でパートナーシップを組めると考えていますか。

ワング:両社間で最初に話していたのは「日本向けの決済システムで連携できないか」ということです。また、ショッピファイは物流面や商品出荷面の機能を強化していますが、楽天はこういった点で日本においてもアメリカにおいても強みを持っているので、こういた分野での連携が考えられます。楽天はマーケットプレイスとしても、アメリカやドイツなどグローバルで存在感があるので、こういった国でも今回の提携と同じことができれば良いと思っています。日本以外の国で楽天が展開するマーケットプレイスでも今回と同じサービスを行うということです。また、楽天市場を通じて日本へ売るという提携については、全ての国に広げていきたいですね。

藤屋:そもそも楽天とショッピファイは企業理念が似ています。ショッピファイは自社サイトを作るというサービスで、中小企業を中心に店舗を拡大してきました。一方、楽天はマーケットプレイスという場を提供することで中小企業をサポートしてきました。やり方は違うが向かっている方向は同じなので、お互いにサービスを広げていくことで、社会や人々をエンパワーメントしていきたいと思います。楽天市場だけにとどまらず、決済や配送、他の国で展開するマーケットプレイスにおいてなど、グローバルな提携ができれば。また、今回の提携はアメリカと日本の企業が対象となっていますが、楽天市場の中でも韓国コスメは大変な人気です。ショッピファイでは韓国でも事業を開始しているので、韓国企業が簡単に出店できるようにしたり、あるいはショッピファイの強いヨーロッパの企業を対象にしたり、そういったことをやっていきたいですね。

──参加店舗数や流通額の目標は。

藤屋:サービスを開始したばかりであり、議論している最中なので、現時点で出せる数字はありません。ただ、アメリカと日本で同時に告知を開始していますが、アメリカからの問い合わせが非常に多いです。コロナ関連のニュースばかりという状況で、さらに楽天市場のアメリカにおける知名度は、日本においての知名度に比べたら低いわけです。ショッピファイのパワーもあると思いますが、とても関心が高まっているということだと思います。

─ショッピファイ経由で新しい店舗が出店した際に、楽天市場ユーザーに向けてどのように周知していきますか。

藤屋:楽天市場内に特設ページを作ったり、クーポンを発行したりといったことを考えています。海外からの購入に不安を感じるユーザーもいるでしょうから、利用者向け補償制度「楽天あんしんショッピングサービス」があることや、送料や関税に対する疑問に答えるなど、不安を払拭するためのコンテンツを準備しています。

─今後の目標などは。

ワング:今回の楽天との連携で重要なのは、両社のミッションや理念が共通しているということです。両社は手法こそ違いますが、事業主の成長・成功を支援していくという点では同じです。今回の提携で両社が望んでいるのは、マーチャントができるだけ多くの消費者のリーチできるようにしていくことです。そして、クロスボーダーのビジネスが拡大することで、マーチャント・消費者双方にメリットが生まれるでしょう。ミッションが共通でビジネスモデルが大きく違うという特性を活かせば、両社は相互補完していけるのではないかと思います。楽天はさまざまな事業を抱えていますから、強固なパートナーシップを築いていきたいですね。クロスボーダーのみならず、決済や物流面での連携もしていければと思います。

藤屋:ショッピファイには当社の「イノベーションを通じて人々と社会をエンパワーメントしていく」というミッションに共感していだたいているので、パートナーシップが早く実現できたと思っています。両社のミッションは似ていても進んできた道が異なるので、強いところも違います。当社の楽天経済圏はもはやEコマースだけではなく、決済やポイントパートナーなども強みです。ショッピファイが日本でビジネスを拡大していくにあたり、そういったところのサービス提供が検討できると思います。パートナーシップは加速度的に大きくなっていくのではないでしょうか。

MarkWang(マーク・ワング=写真左)

Shopify日本カントリー・マネージャー。1978年生まれ、カナダ出身。マギル大学卒業後、2002年にJPモルガン・チェースに入社。その後、シティグループを経て、インドネシアをはじめとしたアジアに活躍の舞台を移し、スタートアップ企業の支援に従事。オープンな文化とリスクを恐れない挑戦的な社風に惹かれ、世界最大のECプラットフォームShopifyへ2016年に入社。2017年から現職。国際的に展開するShopifyにとって重要な市場の一つと位置付けられている日本でのサービスローカライズに挑む。

藤屋俊介(ふじや・しゅんすけ=写真右)

1984年生まれ。楽天市場のPC・家電カテゴリーにて出店店舗の店舗コンサルタントを経て海外営業戦略部に異動。楽天市場における海外企業の新規店舗開発からグローバルレベルでのアライアンスまで楽天市場の越境イーコマースを横断的に担当。2017年8月にRakutenUSAIncに出向後、2020年3月より楽天株式会社コマースカンパニーマーケットプレイス事業海外営業戦略部シニアマネージャー就任。上記の継続担当に加えて、楽天モバイルデバイス戦略部副部長として楽天市場を活用したデバイス販売戦略を担当。

取材後メモ

 近年、日本でも注目を集めているショッピファイ。使いやすさに定評があるほか、開発に要する時間が不要なため、その日に通販サイトが開設できる手軽さが特徴です。ともに中小事業者に強く、日本市場においては、仮想モールを手掛ける楽天とは競合ともいえるわけで、連携はやや意外な感もありました。楽天の三木谷浩史社長は5月13日に開催された決算説明会で「何がなんでも楽天グループのサービスで取り組まなければいけないということではなく、われわれのエコシステムの一部でも使っていただける事業者にも開放していこうというオープン戦略を取っている」と、今回の連携の理由や意義を説明しました。消費者にとっても、アメリカでしか買えないブランドの商品が日本から簡単に買えればメリットは大きい。ただ、事業者にとっては最初にページを作らなければいけないという点で、ややハードルがあるようにも思えます。この部分をいかに乗り越えやすくするかが、今後のカギとなりそうです。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG