QVCジャパン×NTTドコモ×Relicが語る メタバースのEC活用の可能性とこれから

 通販専門チャンネルを運営するテレビ通販大手のQVCジャパンは新規層へアプローチや既存顧客との接点拡大のためのタッチポイントとして、インターネット上の仮想世界・仮想空間である“メタバース”を積極活用し、新たな取り組みを進めている。一環としてNTTドコモが保有するメタコミュニケーション技術(超多人数接続技術など)を用いて、Relic(=レリック)が運営するメタコミュニケーションサービス「MetaMe®(=メタミー)」内で、同社の社屋を模したメタバース空間「メタバースQVCお買い物PLAZA」と「QVCイベント空間」を2023年12月15日から2024年4月14日まで公開。様々な取り組みを展開してメタバースのEC活用における新たな可能性を模索した。「メタバースQVCお買い物PLAZA」の戦略や運用などを担当するQVCジャパンの古谷道実氏(ブロードキャスティング・ブロードキャスト&スタジオオペレーションズ・ブロードキャストオペレーションズ・シニアマネージャー)と濵田成就氏(ストラテジー&イノベーション・ポートフォリオ&プログラムマネジメントアナリスト)、QVCの取り組みに協力したNTTドコモの吉田直政氏(R&D戦略部社会実装推進担当部長)とRelicの武内康範氏(ビジネスイノベーション事業本部ビジネスクリエイション事業部シニアマネージャー)の4人にメタバースを積極活用する狙いや同空間で実施した具体的な取り組みや成果、今後のメタバースおよびメタバースのEC活用の可能性などについて聞いた。

2023 年 12 月 15 日から 2024 年4月 14 日まで限定公開した QVC の社屋を模し たメタバース空間「メタバース QVC お買い物 PLAZA」
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TV通販やECでリーチできない新客層へのタッチポイントを

メタバース活用は可能性の1つ

──QVCジャパンはメタバースを積極的に活用した取り組みを進めています。なぜメタバースなのでしょうか。

 古谷:メタバースありきということではなく、テレビ通販やECではリーチできない新規のお客様層へのタッチポイントや新しいビジネスモデル構築の可能性を探るため、様々ある選択肢の中の1つの手段として着目してきました。その一環でメタバースに関して3年前からプロジェクトを組んで取り組んできました。

 まず、2022年8月に(QVCの通販専門チャンネルで放送するファッションアイテムに特化した特番である)「ファッションデー」の時に番組内で登場するモデルの背景について3DCG(=3次元のデジタルグラフィックス)を用いて表現しました。これはメタバースではないのですが、新しいテクノロジーの活用による可能性を探ったという意味でフェーズ1と位置付けています。

 2023年12月にはメタバース空間内でユーザーがアバター同士でチャットや絵文字機能によるコミュニケーション、大型スクリーンによる番組の視聴、売れ筋のアパレルブランドの商品のモデル着用画像が360度どこからでも見ることができるイメージビジュアルを表示してクリックすると通販サイトで購入できる取り組みなどを行った「未来空間QVCプラネット」を作って7日間の限定で公開しました。これがフェーズ2です。この時は既存のお客様がメタバースに興味・関心を持って頂けるかのみをKPIに設定して実施しましたが想定以上に関心を持って頂け、利用を頂きました。

 そこで次は売り上げとニューネーム(=新規顧客獲得)をKPIに置いてビジネスとしての利用を想定したフェーズ3に挑戦してみようという段階になり、今回の「メタバースQVCお買い物PLAZA」(以下、「お買い物プラザ」)を公開しようと考えました。

─「お買い物プラザ」はドコモおよびRelicと組んで作成しました。

 濵田:売り上げやニューネームをKPIとして実施していくためには、当社の既存顧客以外の方々に利用の促進を促す必要があるわけですが、フェーズ2のように当社単独のメタバース空間を作って公開しても難しいわけです。

 そこですでに一定の利用者がいるメタバースサービスと組んで、そこの中に展開していこうと数社のサービスを検討して、その高い技術力や再現性に惹かれて「MetaMe®」を選びました。ここに当社のメタバース空間を展開することでドコモや「MetaMe®」の利用者に当社の取り組みを知って頂き、利用頂きたいと考えました。

─「MetaMe®」はどのあたりが他サービスより優れているのでしょうか。

 武内:「MetaMe®」はドコモのR&D(=研究開発)で生み出された技術を活用してRelicが事業主体となって2023年2月からベータ版として公開しているWebブラウザーから利用できるメタバースサービスです。ユーザーはウェブでいうポータルサイト的な役割である「はじまりの広場」から「MetaMe®」内にある様々な空間に移動できます。今回の「お買い物プラザ」のように、企業や自治体が出店する形の空間もあります。例えば北海道の地域創生のためのものや様々なゲームで遊ぶことができるゲームセンター的なものなどです。

 吉田:定常的な催しの一方で、企業とともに月に1~2回程度のペースでイベントを実施しています。出演者とアバターとなったユーザーが同じ空間で一体感を持って盛り上がりつつ、何らかインタラクションしていくというメタバースならでは体験に可能性を感じて頂ける企業も多いです。最近ではVライバー(バーチャルキャラクターによるライブ配信者)によるイベントが大きな盛り上がりを見せました。QVCジャパンでもこうしたイベントを「お買い物プラザ」の公開期間中に6回程度、実施頂きました。利用者数の詳細は公表していませんが、イベント開催時には多くのお客様が参加されます。実は一般的な他のメタバース空間は一度に参加可能なユーザー数は50~100人程度ですが、「MetaMe®」は最大1000人までが同時に集まれる技術を導入しており、より盛り上がれるようになっていいます。これは大きな特徴と言えます。

 濵田:表現力も「MetaMe®」の魅力でした。現状のメタバースサービスのデザインやアバターはアニメっぽいルックスであることが多いです。メタバースとゲーム・アニメは親和性が高いためだと思いますが、広い層の利用を考えた場合、受け入れにくい部分もあるし、自身の分身でいるアバターの現実感が薄くなってしまうこともあります。その点、「MetaMe®」のものはプレーンで大衆受けするルックスです。色々なメタバース空間を試したが一番しっくりきました。実はここは企業が利用させて頂く上で大事な要素だろうと思います。

 吉田:デザインに関しては結構、議論を重ねて最も中道をいくことにして、尖らせないことを尖らせました。世界中で嫌われないデザインは尖りを全部取った形だからです。逆に言うと、ユーザーや出展される事業者自身がカスタマイズできる、尖らせる余白を残しました。

──QVCのように「MetaMe®」に自社の専用空間を作るためにはどのくらいの予算がかかるのでしょうか。

 武内:「MetaMe®」はまだこれから色々と形作っていくところということもあり、正規の価格は定めていません。今の時点ではQVCのような先進的な取り組みを行いたいというような特定の企業と組んでメタバースを盛り上げていきたいとの思いがあり、幅広く出展を募るというような取り組みは行っていなかったですが、今後は料金などをパッケージ化して出展頂きたいと広く事業者の皆様にご案内できる時期が近い未来には来ると考えています。

メタバース空間にQVC本社を再現

─「お買い物プラザ」の特徴は。

  古谷:QVCジャパンの本社「QVCスクエア」を模した空間内に当社が販売する商品を紹介するショッピングスペースを「ファッション&ファッショングッズ」「ヘルス&ビューティー」「ジュエリー」「キッチン&フード」「ホーム&家電」「Men’sセレクション」「QVC催事場」とジャンル別など7つの店舗に分けて設置して、販売中の商品の画像を掲示しています。

 ユーザーのアバターが前に立つと商品名を記したボタンを表示し、当該ボタンをクリックすると説明文が表示され、当該画面の「ECサイトへ」というボタンから当社の通販サイト内の販売ページに飛び、購入できる仕組みです。紹介商品は週1回毎週木曜日に変えてお客様が買いやすく、魅力的なものを選んでいます。メタバース経由でお客様にお買い物をして頂きたいということが一番の狙いです。

─通販へスムーズにユーザーを誘導するために工夫した点は。

 濵田:新規のお客様も多く、「QVCって何」という方もいらっしゃるはずで、また、アバターの操作に慣れていない方も少なくないと考えたので「お買い物プラザ」の入口のところから各店舗が並ぶような全体が見渡せるようにしてショッピングモールだと分かり、操作に不慣れでも目的の場所に直感的にたどり着きやすいように設計にしました。一般的にメタバース空間は迷路みたいな構造のものが多いですが、動き回らなくとも位置関係が分かるようにしました。

 また、その入り口近くには新規会員登録を頂いた方に割引クーポンをプレゼントするというキャンペーン情報の告知や「初めてのお客様はこういったものを購入されている」という案内を記載しました。あとはアバターの操作に慣れていない方でもよい商品にたどり着きやすいよう入り口からまっすぐに進むとたどり着く「催事場」に今、一押しのお得な商品を置いて、それがすぐに目につくようにしました。

 このように「初めての方」を意識して作り込みました。こういったコンセプトを考えてどこまでできるか相談させて頂きつつ、多少強引なところもあったと思いますが、何とかそこをくもうと色々と尽力頂き、実現できたのはドコモ、Relicのお力で感謝しています。

 吉田:QVCではこれまでのECの経験などを踏まえて、メタバース空間にどう人が入ってきて、空間をどういう形にすれば入ってきた人が回遊し、商品の購買に至るかというノウハウ、設計図が分かっています。我々は正直、そのあたりのノウハウは足りないため、そこはご一緒させて頂いて学ばせて頂きました。

 あとは我々側でも例えばウェブページで言えばバナーで告知するような、店舗の店員におすすめの商品を告知させるような仕組みを「お買い物プラザ」で行おうと、QVC側と議論させて頂きながら当社の技術で開発した「AIショップ店員」というものを実装させて頂きました。このAIショップ店員とはAI(人工知能)で学習しながらユーザーからの問い合わせや商品のおすすめなどを行うチャット形式で行えるものです。ユーザーの空間内の回遊促進や商品購入の導線作りに役立ったのではないでしょうか。

─AIショップ店員はいつから、どこに導入したのでしょうか。

 濵田:サービスの名称は「グルmetaQ(グルメタキュー)」として3月8日から、「お買い物プラザ」内にある社屋3階の「キッチン&フード」の店員として導入しました。店の前に立ってお客様からの質問への返答や自ら話しかけたりもします。また、例えば、「チョコレートが好き」という会話になかで「甘いのと少し苦いのではどちらが好き?」などの会話を繰り返して好みを探るなどして最後に適切な商品をお勧めするというようなレコメンドやQVCに関する質疑応答などに対応しています。

テレビ通販ではできない楽しさ伝える演出で手ごたえ

ラグビー選手が商品を紹介

─「お買い物プラザ」の公開期間中に行った主なイベントの内容と成果について教えてください。

 古谷:主なところでは1月23日にドコモから紹介頂く形でラグビーにおける日本国内最高峰のリーグ「JAPANRUGBYLEAGUEONE(ジャパンラグビーリーグワン)」所属のラグビーチーム「浦安D‒Rocks」の選手たちに出演頂き、ナビゲーター(QVCの通販専門チャンネルに出演する番組進行役)が選手に日々のルーティンについて聞いたり、当社が販売する運動器具「SIXPADパワーローラーS」を実際に体験頂く様子を生配信する取り組みを行いました。

 「D‒Rocks」を応援している恐らくQVCとこれまであまり接点がなかったような若い層の皆様にファンであるラグビー選手が実際に試した健康作りに役立つ商品が響くかどうかということの検証と、それによってQVCを知って頂き、かつ商品を購入頂き、お客様になってもらいたいという狙いでした。「D‒Rocks」を応援されている方々にはそれなりの数の方々にイベントに参加頂け、イベントの自体の盛り上がりにも手ごたえを感じ、そういった意味でも成果がありました。

─盛り上がりに手ごたえとは。

 古谷:テレビの場合は様々な制限があり、自由な演出ができません。分単位で売上目標があり、余計なことをせず商品の特徴の説明などに時間をかけたいからです。一方でメタバースでのイベント配信では、そうした縛りはないですし、メタバースではまず参加頂くための理由付けが第一です。そのためにはユーザーに楽しんで頂かねばければなりません。例えばボールがフィールドの外に出てしまって試合を再開させる際に、外から投げ込まれたボールを選手を高く持ち上げることで奪う「ラインアウト」を実際に選手たちにやってもらったりなど、ラグビーの楽しさを伝えるための演出を多く取り入れました。

 イベント中に紹介した「SIXPAD」はプロ仕様の上位機種を紹介しましたが、テレビ通販であれば、売り上げを確実に上げるためにある程度、決まっている流れに沿って進める必要がありますが、メタバースではそうした決まりはありません。それよりも商品を紹介する上で最も説得力があるのはプロスポーツ選手である皆様のコメントであり、いつも応援しているあの選手が商品を試して感想を話していること自体に特別感があるわけです。

 ですから選手に自由に感想を伺いながら、それと絡めて商品を訴求しました。当社のナビゲーターもいつもより楽しそうに進行していたのが印象的で、参加頂いたお客様にもそのあたりが響いて盛り上がりを見せたのではないでしょうか。

 ちなみにテレビと比較すれば厳しいですが、このくらい売れればいいかなという目標に届く程度には商品も売れました。

メタバースはいまだ生活圏にない3つの壁を乗り越える必要ある

新作スニーカーを先行販売

─ほかに印象に残ったイベントは。

 濵田:通販との連携で言うと2月15日に実施した米シューズブランド「スケッチャーズ」のQVC限定モデルの新作スニーカー「スケッチャーズアーチフィットスリップインズワイドスニーカー」をその翌日に放送する(QVCの通販専門放送の)番組に先駆けて紹介、先行販売を行ったライブイベントです。

 スケッチャーズは戦略として2023年末から2024年の年始にかけて、タレントを起用して新発売の靴べらのようなかかとで立ったままでも手を使わずにスッと履けるスニーカー「スリップインズ」を紹介するテレビCMを相当量、放送していました。このタイプのスニーカーはQVCでもテレビ通販で販売する予定でしたが、メタバースで先行販売を行うことでテレビCM効果も手伝って話題性もありますし、メタバースに新しいお客様を呼べる理由付けになるのではということでやってみることにしました。

 メタバース内での紹介の仕方も先ほどの「D‒Rocks」同様、通販番組のセオリーにはない演出を行いました。通常の番組では本社内の撮影スタジオで商品を紹介するわけですが、スタジオではなく、本社の前で「これが本物のQVCスクエアですよ」としつつ、ナビゲーターがそのスケッチャーズのスニーカーを履いて歩いてきて、歩きやすく履きやすいというところを訴求する演出としました。加えて本来、番組では出演してはいけない決まりのスタッフをあえて登場させて、その場で4人のスタッフが並んで次々にスニーカーを簡単に履けていく様子を紹介したり、あわせて本社内も歩きながら、撮影スタジオも外から紹介するなどして「スタジオは実はこうなっているんですね」などいつもの番組ではお見せしていない裏側を見せていく演出にしました。

 CMで話題のスケッチャーズの新たなスニーカーという話題性に加えて、QVCの通販の裏側を見られるというようなメタバースならではの特別感を感じて頂ける演出にしたことで、スニーカーに興味を持ってメタバースでの先行販売イベントに来て頂けた新規のお客様に当社にも興味を持って頂けるような形で訴求でき、一定の成果を上げることができました。この取り組みにはスケッチャーズの日本の代表の方もすごく喜んでいました。

─eスポーツ大会を配信、EC連動も

 「お買い物プラザ」の最終公開日である4月14日には主催するeスポーツ大会「『ぷよぷよeスポーツ』QVCCUPinMetaverse」をライブ配信しました。これまで行ってきたイベントの中でも最も規模の大きいものになったと思いますが、実施した狙いや通販との連携はいかがでしたか。

 古谷:新規層へのタッチポイントという意味でメタバースに取り組んだのと同様に、老若男女、様々な世代に幅広く楽しまれ競技人口も多いeスポーツにも取り組んでみたいということで当社と同じく三井物産の資本が入っており、関係性のあるBSチャンネル「BS12トゥエルビ」を運営するワールド・ハイビジョン・チャンネルに総合プロデュースをお願いしつつ、当社の中心お客様層である中高齢層の方々でも楽しんで頂けやすいシンプルな操作性で分かりやすいパズルゲームである「ぷよぷよ」のeスポーツ大会を初めて主催することにしました。

 そして、メタバース空間では親和性の高さからeスポーツ大会やオンラインゲームのイベントを頻繁に開催されているということもあり、当社としても大会の模様は「MetaMe®」「お買い物プラザ」でのみの配信としてメタバースにユーザーを呼び込むための施策としました。結果としてeスポーツ顧客層にアプローチでき、多くの集客が得られました。濵田:通販との連携については全部で約3時間かけて行う試合の合間に10分程度の商品紹介コーナーを2回設けて、「D‒Rocks」のイベントでも紹介した「SIXPADパワーローラーS」を大会に出場したeスポーツの選手に使ってもらう形で紹介しました。

 eスポーツに選手はモニターの前でコントローラーを握ってほぼ同じ姿勢でゲームをプレイします。そうなるとやはり腰や手が疲れるという悩みもあるようです。であれば、やはり「SIXPAD」を選手の方々に使って頂きたいと考え、無理なく通販と絡めた演出として訴求しました。実際の販売の成果としても想定通りの売れ行きとなりました。

お客様の日常に浸透していない

─4月14日で「お買い物プラザ」は公開を終了したわけですが、今回のメタバースの取り組みを一旦終えて感じた成果と課題についてはどう考えていますか。

 古谷:率直に感じたのはメタバースはまだお客様の日常に浸透してないということです。「お買い物プラザ」に来て頂けるお客様の絶対数が少ないですね。お客様に「あそこに行ってみよう!」という確かなメリットを与えることができて、お客様の日常の一部になることができればまた変わってくるだろうなという印象です。

 成果に関しては「お買い物プラザ」を紹介するランディングページへのアクセス数は予想以上に多かったことです。つまり、メタバースや「お買い物プラザ」に興味を持ってもらい、「何だろう?」というところまではきて頂いています。そこから実際に「MetaMe®」にログインして「お買い物プラザ」に来て頂ける方は多くなく、そこも課題の1つです。

─メタバースのこうした課題についてはどう考えていますか。

 吉田:先ほどもお話した通り、何かイベントを行うとユーザーが一定程度、来て頂けるますが、その後に“定住”頂ける方は多くありません。多くの方々にとってまだメタバース、「MetaMe®」は生活圏ではないということなのでしょう。

 メタバースが人々の生活圏となっていくためには「とにかく入ってもらう」というステップをまずは超え、その後、「定着してもらう」。最後に「経済活動してもらう」。メタバースが広く浸透していくためにはこの3つの壁を段階的に超えていかなければならないと考えています。

 とにかく入って頂くためには「入りやすさ」が重要です。そういった意味で我々が機能的なサポートして「MetaMe®」で最近始めたのがID登録しなくともクリック1つで「MetaMe®」の世界に入ることができるようにしたことです。

 やはり、ID登録が1つの壁になり、ログインしない方も少なくなりません。まずはできる機能を絞ってでも一度、体験頂きたいと。それでもっと「MetaMe®」の世界を楽しんでみたいと思って頂けたときに改めてID登録頂き、その際にはコマースもできるようにするなど段階的にUXを設定することで入口の壁をなくしたいと思っています。

 なお、4月に東京・二子玉川で開催されたリアルイベントにQVCがブース出展した際に「お買い物プラザ」でブース内で紹介した商品を紹介・販売したり、イベントの模様を生配信するなどメタバースとの連携を行った時に実はこのID登録なしで「MetaMe®」に入ることができる機能をテスト的に導入しています。

 次のステップである「定着してもらう」ための1つのやり方はイベントをやり続けることです。ただ、そのためには「MetaMe®」でイベントをやりたいと思って頂ける企業や団体が必要です。

 これまではモノやサービスを新規ユーザーに訴求したい企業・団体を募っていましたが、今回のQVCとの取り組みを通じてヒントを得たのですが、今回はQVCが主体となり、ラグビーチームの「D‒Rocks」側は出演者という立場でイベント参加したわけですが、「D‒Rocks」メンバーが参加してユーザー、ファンとの接点を持ててモチベーションが高まったということで自らイベントをしたいと話していました。必ずしも自分たちが提供する商品やサービスを購入する新規顧客を獲得したいという企業・団体だけでなく、既存客との接点作りを行いたい企業や団体などの需要も得てイベントを持続的に行える仕掛けが作れないかなと考えています。

 また、「定着してもらう」ためには使い勝手も重要です。メタバースでありがちな迷路のような作りではなく、「お買い物プラザ」のように一目で全体が見渡せて盛り上がっているところも一目で分かって、そこにすぐ行けるようなバーチャル空間ならではの体験価値を高めるような設計が必要でしょう。また、メタバースでのコマースにおける商材もメタバース内で使用できるもの、例えばアバター用の服など販売していく必要があります。そこに定着して生活してもらうにはおしゃれだとかの要素が必要です。そうした何か新しい価値を提供できる商材の販売などはやっていきたいです。「定着」が進めば、その後のマネタイズのフェーズに乗せていけるのかと思
っています。

ライブコマースや顧客との接点作りに可能性感じる

─今回、QVCもまさにコマースとの連携の部分に挑戦したわけですが、メタバースにおけるコマース活用の今後の可能性についてはどう考えていますか。

 古谷:時間はかかるだろうが新しいビジネスモデルの形にはなっていくのではないかという印象はあります。今回行った取り組みには反応があります。興味がなければ反応もしないはずで、一定程度の反応がお客様からあるということは可能性があるのだろうと思います。

 今回、お客様が最も反応されたのはナビゲーターと直接、話ができたこと。クリスマスのイベントの時などに行ったのですが、ナビゲーターが「お買い物プラザ」に自分のアバターを操作して空間内を案内するツアーを行った中でユーザーと直接、お話する取り組みを行いました。普段、テレビで見ているナビゲーターと直接お話できるということはお客様はとてもうれしいことでしょう。メタバースにはこのようにテレビやECではできないようなことができます。おそらくメタバースのEC活用の可能性は当社の場合は、ここにヒントがあるように思っています。

─メタバース内で気軽に会話をしながらライブコマースを行うようなものですか。

 濵田:それはやりたいです。テレビだと「私はここが気になっている」とは聞けないですが、メタバースではその場でナビゲーターに聞くことができます。ナビゲーターもテレビとは異なり、アバターのため、メイクなどの準備をする必要もなく、自宅からでも仕事できるかもしれません。声だけ出せ、文字が打てれば接客ができます。そういう形のビジネスは構想として可能性はあるなと感じました。

 また、お客様との接点作りとしても可能性を感じています。当社は実店舗を持っていません。顧客接点の観点からは必要だと思いますが店舗はコストもスタッフの運用管理も発生してしまうし、例えば東京に店舗を構えたとしてもお客様は全国にいらっしゃるわけで、東京外の地域にお住いのお客様は「東京に行かないといけないのか」となってしまいます。これがメタバース内にバーチャルショップを作って、オフィシャルのお店とすれば解決できます。そこで先ほどのナビゲーターによるライブコマースを含めて様々な取り組みを行うことで、お客様に来て頂ける理由付けにもなりますし、コミュニティにも買い物の場にもなります。メタバースにはこうした可能性を感じています。

5年後にはメタバースのEC活用の道大きく開ける

─メタバース全体のコマースとの連携・活用の可能性についてはどうお考えですか。

 吉田:先ほど申し上げたようにアバター用の服のようなものもコマースとして考えればメタバースは例えば高齢者の方も若い姿でも生活できるため、リアルの世界では買えないようなデザインや形の服やアイテムが欲しいというニーズも生まれるでしょうし、メタバースではリアルタイムにインタラクションできるため、おしゃれに着飾った誰かのアバターのトータルコーディネートをそのまますべて購入したいという需要もあるのでないかと思うのでメタバース内で企業が何かを売るというだけでなく、参加する人が企業の商品を売るという形もありそうです。

 販売で言えば、先ほどのAIショップ店員のようにその人向けの店や商材をおすすめしてくれるものがでてきて極限までパーソナル化が進んでいくでしょう。メタバース上におけるコマースの体験価値はかなりあがっていくのではないでしょうか。

─メタバースを通販事業者が活用することが当たり前になる世界は何年後になりそうですか。

 吉田:確実に来るはずです。今の若い世代がバーチャルネイティブとして当たり前にメタバースを使いこなして、それより上の世代も先ほどの3つのステップを進んでいく過程で、ステップを一気に進ませる仕組みが出てきて、メタバースが生活に浸透していくでしょう。

 インターネットは10年で世界中に広がりました。2月にアップル社が「VisionPro」(ゴーグル型高性能デバイス)を発売するなどメタバースが当たり前になる世界までの期間を短縮し得る様々な新しい技術や製品、アイデアが出ているし、今後も出てくるはずでもっと短く恐らく5年くらいでそうした世界が来ると思っています。

 そうなるとコマースの活用についても道が大きく開けそうですし、コマース活用においてももっと様々なアイデアも生まれてくると思います。



(左から)QVC ジャパンの濵田成就氏、古谷道実氏、NTT ドコモの吉田直政氏、Relic の武内康範氏
◇ 取材後メモ

数年前から徐々に広がりを見せ始めているメタバース。嗅覚鋭い事業者はメタバースでのEC活用を模索し始めており、近年、その事例もだいぶ増えてきたように思います。ただ、売り上げや新規顧客獲得といった観点からみた費用対効果という点においてはいまだ大きく成功したと言える事業者は多くはないのではないでしょうか。とはいえ、デバイスや技術、通信環境向上などとともに確実に世間に浸透しつつあります。メタバースの利用が当たり前となった暁にはEC事業者にとって同空間の活用は必須のものとなるかもしれません。QVCのように来るべき未来に備えてメタバースの活用について着実に準備して実行できるかが、今後の浮沈を分ける可能性もありそうです。

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