レイ・アイバ●ボディグラムCEO

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返品率の低減などに貢献できる

 米Bodygram(ボディグラム)のAI身体計測テクノロジーを搭載したアプリ「ボディグラム」は年齢や身長、体重、性別を入力し、服を着たままスマホで正面と側面の2枚の写真を撮影するだけで、腹囲や肩幅、手足の長さなど全身24カ所の推定採寸が可能だ。アパレル・ファッションや寝具、ヘルスケアなど幅広い領域で外部企業との連携を進めているほか、無料アプリとして一般ユーザーにも利用されている。2022年1月に同社のCEOに就任したレイ・アイバ氏が語るAI計測テクノロジーの現状や可能性とは。

スマホカメラでの採寸が計測技術の主流になる

店頭の体験価値向上にも貢献

──コロナ禍で世の中が大きく変化しました。

 コロナは人々の生活、消費行動に大きな変化をもたらした一方で、新たなサービスや商品も登場しました。ただ、そうした変化はコロナ以前からあったニーズがコロナ禍で顕在化したと見るべきではないでしょうか。ECはコロナ前から成長率の高いマーケットでしたが、自宅で過ごす時間が増えたことで、ECの利用者は世界的に急増しました。

──アパレル商材のEC利用も増えました。

 サイズ違いによる返品問題が改めて表面化する中で、当社のアプリ「ボディグラム」は自宅にいながら自分の体型データを取得できますので、消費者にとっては自信を持ってECで洋服を購入できますし、企業側もサイズ違いに起因した返品を減らすことができます。

──返品も手間だと感じる日本人と「ボディグラム」の計測技術は相性が良さそうです。

 一般的に日本の消費者は注意深く商品を選びます。ECでの購入を決断するには多くの情報を必要としていて、企業側も通販サイトに長い説明文や詳細なサイズ情報などを掲載しています。米国では説明文でごちゃごちゃするよりも、シンプルなサイトを好む人が多いですね。

 ただ、そうした違いはあっても、ビジネスのゴールは同じです。それぞれのユーザーに最適なサイズの商品を届けることで返品率や返品コストを下げたり、購入率を改善したり、在庫問題を解消したいといったときに、「ボディグラム」は貢献できます。

──コロナ禍もあり、実店舗では来店時に得られる体験価値の重要性が高まっています。

 まさにそうですね。実際に、実店舗での顧客体験を向上させたいという問い合わせもたくさん頂いています。例えば、ハイエンドのブランドを好む消費者は実店舗に足を運んでリッチな体験をしたいと思う人が多いですよね。スタッフが接客してくれて、似合うものをコーディネートしてくれるといった接客体験を重視しています。そうした中でも、「ボディグラム」はスタッフがユーザーのサイズを測るツールとして役に立ちます。

非接触型の接客が求められる中、そごう・西武の紳士服ワイシャツ売り場にも導入された
──店頭でもムダな試着がけっこうあります。

 従来であれば、ユーザーの体型などを目視で確認して「こういう服が合いそう」とか「この服ならこのサイズ」と提案します。そうなると、たくさんの服を試着しなければいけない可能性があって、10着のうち5着くらいはサイズがフィットしない理由で選択肢から外れるかもしれません。

 これはアイデア段階の話ですが、「ボディグラム」を使って来店者の身体を短時間で計測することで、最初からぴったりサイズの服の中から試着してお気に入りの服を選べるような状況を作れると思います。そうすれば、本来は必要のなかった試着分のムダな時間を減らせます。

簡単操作で採寸情報を取得

─改めて、「ボディグラム」の強みは何でしょうか。

 一番の強みは、全身24カ所の推定採寸に加えて、体脂肪率や骨格筋量などの体組成データをすべての人に簡単に提供できるところです。それも片手におさまるようなスマホデバイスだけで各データを取得できます。データの精度についても、熟練のテイラーが採寸した場合の誤差と変わりません。説明書なしで誰でも直感的に理解できる操作性と、安全性も確保している点が強みになります。

─ゾゾが提供する、足の3D計測ができるマット「ゾゾマット」などさまざまな計測テクノロジーが出てきています。

 「ボディグラム」は身体計測テクノロジーの主流でありたいですし、スマホカメラでサイズ情報が得られるというテクノロジーが主流になっていくと思います。

─「ボディグラム」の汎用性については。

 身体の計測情報はライフスタイル領域のほとんどの部分に適応できます。ファッションはもちろん、ヘルスケア領域では自分の健康状態を把握する指標になりますので、身体データを組み合わせることで、将来的に起こりえる病気を警告して予防につなげられるかもしれませんし、保険選びの参考になるかもしれません。フィットネス領域では、いまの身体の状態を把握した上で、理想の姿に向けてトレーナーや栄養士などが最適なプログラム作りの参考にすることもできるのではないでしょうか。

ウエストスキャン機能を追加

─「ボディグラム」の機能開発の方向性や優先順位については。

 まず、現時点で「ボディグラム」が開発できないものはないのではと思っています。それだけ研究開発に投資を行っているし、優秀な人材を集めてチームを構成しています。

 機能開発のテーマは、取引先企業やエンドユーザー、それと社内の意見を参考にして決めています。取引先企業からは、エンドユーザーを見ながら「こんな機能やサービスが欲しい」と要望がきますので、取引先とエンドユーザーのニーズはかなり近いと思います。さまざまな業界を見て、エンドユーザーの利用シーンを想像しながら開発を進めています。

─良いサービスを提供するには導入先からのフィードバックが欠かせません。

 その通りです。例えば、非接触で推定採寸が可能な「ボディグラム」は、トンボ学生服さんやセロリーさんなど、学生服やユニフォームの会社とのパートナーシップがコロナ禍で一気に増えました。カンコー学生服さんとはコロナ前から取り組みを進めてきました。

 そうした企業からは「サイズレコメンドにはこの機能がもっと必要」とか「ここはこんな風に変えてほしい」といった具体的なフィードバックをたくさん頂いていますので、それに応える機能開発もできますし、開発を進める前にその機能が幅広い業界に適応できるかを社内検討した上で進めることもあります。

─採寸が難しいパーツのAI計測にも取り組んでいます。

 最近では、下着や靴下などを手がけるチュチュアンナさんとパートナーシップを結びました。店頭で服を着たまま写真を2枚撮影するだけで最適なブラジャーサイズを提案する取り組みを行いました。

 この取り組みの数ヶ月前に、バストサイズを正確に測れないかと社内で話をしていました。バストは呼吸に合わせて動くパーツですので、サイズを測るのは手採寸でも難しいと言われています。だからこそ、「ボディグラム」で簡単にバストサイズを測ることができれば、企業向けでもエンドユーザー向けのサービスとしても貴重なデータになると考えました。

─3月には「3Dウエストスキャン」の機能も追加しました。

 ウエストもサイズ測定が難しいパーツのひとつですが、肥満や循環器系の疾患でも重要視される計測値です。将来的には遠隔医療や薬剤の分野でも技術連携が想定されますので、ウエストを正確に測りたいという思いがありました。アプリ内のガイダンスに合わせて、トゥルーデプスカメラ搭載のスマホデバイスでウエストを360度撮影すると、ほぼ実寸値が測れるようになりました。

トゥルーデプスカメラを用いた新機能によって、より実寸値に近いウエストスキャンが可能になった

 ウエストもサイズ測定が難しいパーツのひとつですが、肥満や循環器系の疾患でも重要視される計測値です。将来的には遠隔医療や薬剤の分野でも技術連携が想定されますので、ウエストを正確に測りたいという思いがありました。アプリ内のガイダンスに合わせて、トゥルーデプスカメラ搭載のスマホデバイスでウエストを360度撮影すると、ほぼ実寸値が測れるようになりました。

 身体の中でも、とくにウエストサイズはヘルスケアやウェルネス領域で重要な指標となりますので、ヘルスケアとウェルネスの両分野での使途拡大が期待できますし、実際にいろいろな企業と話をしているところです。

身体計測情報は究極のパーソナルデータ

─身体計測テクノロジーの可能性が広がりそうです。

 身体計測情報は究極のパーソナルデータですので、テクノロジー開発によってさまざまな領域への応用がさらに進んでいくと思っています。まずは身近なアパレル・ファッション業界での活用が先行していますが、エアウィーヴさんに活用頂いているマットレスのカスタマイズなども含め、幅広い業種に利用されていきます。マットレスのように、頻繁に買い換えない商品だからこそ、身体にフィットするものを買いたいと考える消費者は多いはずです

─ハードウェアも日々進化しています

 その通りです。ソフトウェアのエンジニアがもっとも大事にしているのは、ハードウェアを最大限活用することです。ハードウェア業界も速いスピードでイノベーションが進んでいますが、「ボディグラム」としてはそのイノベーションを先導するくらいのスピード感で技術革新を起こしていきたいと思っています。


ReiAiba(レイ・アイバ)氏

米ニューヨーク出身。2020年COOとしてBodygramに入社。資産運用や財務管理において10年以上の経験があり、とくに急成長組織の資産・財務管理に関してはエキスパートとして深い知見を有する。2012年、シンプレクス・アセット・マネジメント株式会社に入社し、8年間事業開発をリード。シンプレクス社の日本株式戦略のために10億米ドル(約1030憶円)の資金調達に成功。新興国・発展途上国におけるビジネスを数千万ドルから10億ドル以上に成長させた経験がある。Bodygramは彼の入社に合わせてニューヨークを拠点に販売とマーケティングを中心に行う事業を20年8月から開始。世界クラスのマーケティングパートナーとの協業における効果最大化を目指してセールスチームの強化に注力。22年1月にBodygramInc.のCEOに就任。



◇ 取材後メモ

近年、店頭で3Dボディスキャンや足型計測などを実施している企業が増えています。自分のスリーサイズや左右差のある足の大きさなどを正確に把握していない人は意外に多いようです。ただ、どうしてもハード(機器)が必要な身体計測には導入コストや専用のスペースが必要で、エンドユーザーが“いつでも、どこででも体験できる”というわけにはいきません。その点、「ボディグラム」のアプリはスマホひとつで簡単に身体の推定計測が可能で、計測の精度も高いと言います。親和性の高いアパレル業界での活用が先行していますが、レイ・アイバCEOが「身体計測情報は究極のパーソナルデータ」と語るように、ヘルスケアやウェルネス領域への活用が進みそうで、誰もが自分のカルテをスマホ上に持ち歩く時代はそう遠くないかもしれません。

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