“ソウゾウのナナメウエ”行く集団に 澤田 宏太郎●ZOZO 代表取締役社長兼CEO

 ZOZO(ゾゾ)を創業したカリスマ経営者の前澤友作前社長が退き、澤田宏太郎社長兼CEOが就任して早1年が経った。その頃のゾゾはPB事業の失敗による株価下落などから成長戦略の練り直しを迫られ、当時のヤフーの連結子会社に。新体制下では「PayPayモール」への出店や、「ゾゾマット」をフックにしたシューズ専門サイトの開設など、売り場と商材の拡充を進めている。澤田社長が語るこの1年と今後の戦略とは。

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業界の先頭をぶつかりながらも進んでいく

デジタルシフトが加速

─ コロナ禍での EC 利用者増が追い風 となっています。

 4月の緊急事態宣言を潮目として、事業環境が変わったのは間違いありません。とくに、お客様の心理が変わりました。実店舗で服を買うのが楽しくて、服を探すことは苦でも何でもないという人はまだたくさんいますが、そうした人たちの中に「ECで買う」という選択肢が出てきました。一番ボリュームが大きいのは、実店舗で買うときもあればECで買うときもあるという人たちですが、その人たちのEC利用率がグッと高まったことが大きいですね。

─ ブランドのデジタルシフトも進んでいます。

 ブランドさんの意識は加速度的に変わってきています。自社ECを強化しているブランドさんもありますが、モールという意味では当社に対する期待は高いと感じます。当社としても今までEC領域でファッション業界を引っ張ってきたという自負がありますし、引き続き先頭を走っていきたいです。

─ EC利用が伸びている中でレコメンドの仕組みなどが新規客の定着化につながっています。

 社長就任時は、いろいろな部分が少しずさんになっていたというか、大味なところがありました。リピート化を含めてECには細かく地味だけどけっこう効果として出てくることが実はたくさん転がっていて、そうしたものを拾いながらチューニングを繰り返すということを昨年の冬くらいから取り組んできました。一方、雑なプライスプロモーションを抑えたことで、前期の業績としては少し緩やかな成長率になってしまいましたが、今期に入り新規のお客様が増えたタイミングで、定着化につながる下準備をできていたのは良かったと思います。

─ 「PayPay モール(PPM)店」もデジタル化が追い風になっているのでしょうか。

 PPM店も当初の戦略通りで、ゾゾタウン本店ではとらえ切れないお客様を獲得していくという部分は順調です。Zホールディングスの考えもあってプロモーション自体は抑え気味でしたが、事業環境の安定化もあって下期はしっかり施策を打っていくことになると思います

服好きと技術力の掛け算は最強

─ 組織力で戦う経営を志向しています。

 1年経って会社としての神経回路がつながったように思います。これまでは前澤が会社の軸でした。前澤に代わる軸が必要でしたが、それが私かというとそうではないと思いました。そういう経緯もあ り「MORE FASHION×FASHIONTECH」に軸を置いたわけです。当社にはファッション好きなスタッフが集まっていますので、その部分を生かさない手はないです。一方で、売上至上主義というか、とにかく稼ごうと突き進み過ぎていた部分があり、皆に迷いがあったと思います。稼ぐことを重視し過ぎたことで、自分たちの好きなファッションが壊れていくというような感覚を持って働くスタッフが増え、それを私も感じていたので、改めて「ファッション好きが集まる会社だからこそできることをやろう」というメッセージを込めました。

─ テックの部分はどうでしょうか。

 テクノロジーの部分はZOZOテクノロジーズに分社化した効果もあって、非常にいい人材が集まってきていて、ビジネスにつながるAIのエンジンなどを高度化できています。「MOREFASH-ION」と「FASHIONTECH」をかけ合わせられれば最強です。AIやテクノロジーはさまざまな企業が取り組んでいますが、ファッション領域で当社ほど深いデータを持っている会社はないと思います。具材はたくさんありますので、ファッションの中の深いデータを使い倒して、サイトに来て下さったお客様にまず1回買って頂き、その後はリピートにつなげる仕組み化を進めます。「MOREFASHION」と「FASHIONTECH」のかけ合わせができ始めてきたことが、足もとの業績にも表れているのだと思います。

商品数が大幅に増加

─ 現オフィスを段階的に縮小し、週 2日出社を打ち出しました。

 オフィスワークは在宅をメインにした勤務を続ける中、リアルの場で話す意味合いは絶対にあると思っています。とくに右脳を使うデザイン部のスタッフには2週間に1回くらいは感染対策をしながら集まって、緩い感じで会議をしようと伝えました。実際に会って話すといろいろなアイデアが出てきます。当社は業界の先頭を多少ぶつかりながらも進んでいくというポリシーで今後も突き進むつもりですので、そういう部分は大事にしたいです。

─ ゾゾらしさをひと言で表すと。

 社内的な標語として「ソウゾウのナナメウエ」を打ち出しました。ゾゾらしさとは何かを考えたときに、いろいろな“らしさ”がありますが、これだけはというものを決めることになり、「ソウゾウのナナメウエを常に行こう」というマインドにたどり着きました。これを社内に浸透させていきたいですし、当社のDNAだと思います。時代の先頭を走るが故にいろいろなところでぶつかりますが、転んでもタダでは起きないというベンチャー魂みたいなものを今後も重要視したいです。

Z社とは補完関係に

─有料会員制度では一部ショップの退店もありました。ブランドとの関係強化に向けた取り組みは。

 ゾゾとしてはこういうことを考えていますと、ブランドさんにある程度の期間をもってしっかり伝えていくことを指示として出しています。同じ施策を実施するにしても、1週間後に始まるのと1カ月後に始まるのでは受ける印象も異なります。そこは大きな反省点です。スピード感は多少落ちるかもしれませんが、ブランドさんありきの商売ですので、ていねいに取り組みます。当社の強みはファッションを分かっているスタッフが最前線でブランドさんとコンタクトしていることで、そこは他のECモールとは違いますし、真似できない部分だと思います。

─ マルチサイズ展開などもブランドと の関係性強化につながります。─刷新後、売り上げは具体的にどの程度伸びましたか。

 服作りはブランドさんには敵わないということがPBを通じて分かりましたので、マルチサイズプラットフォーム(MSP)事業という形でブランドさんと一緒に多サイズ展開の服を作らせて頂いています。ブランドさんが得意な領域と当社が得意な領域がありますのでMSPに限らず、お互いの得意分野をかけ合わせていきたいですね。 9月の売り上げは前年同月比でいうと約2倍になっています。10月に入ってからは8日現在、すでに9月の売り上げを上回っている状態です。

─ D2Cもそうした取り組みの一環になりそうですね。

 先日発表したD2Cブランドはインフルエンサーさんと組み、当社の生産背景を使っていますが、ブランドさんと一緒に取り組んでいるパターンもあります。ブランドさんにインフルエンサーさんとの取り組みを提案し、ブランドさんの生産背景で商品づくりを行うケースです。そうしたD2Cも含めてブランドさんとはさまざまなコラボレーションをしていきたいです。

─1年前にヤフー(※現Zホールディングス)のグループに入りました。

 パートナーとしての安心感がありますね。良い意味で文化とか事業のやり方などはけっこう違いますが、ぶつかり合うわけではなく補完関係にあります。Zホールディングスはメディアを生業にしてきた会社で、当社はECの会社です。ITという意味合いでは一緒ですが、ビジネスの考え方は似て非なるものです。例えば、広告事業については当社が暗中模索の状態でシステムなどを構築していましたが、アドテクノロジーのノウハウを注入してもらい、確実に効率が高まりました。「ヤフー!」からの送客面でも当社では想像もできなかったチューニングを施しながら綿密に送客してもらえています。

困りごとを解決したい

─その逆はどうでしょう。

 ECは当社にノウハウがある部分が多々あって、「PPM」のUI・UXなどについて日々議論し合うなど、いい補完関係にあります。「PPM」はこれからのECモールで、探しやすさという意味ではゾゾ本店に比べるとまだまだです。今、やることリストができあがっていて、これからいかに開発していくかというフェーズです。

─クロスショッピング構想も始まりつつあります。

 ゾゾタウンのPPM店でブランドの店舗在庫を表示して、店頭在庫をピックアップする運用を11月中に始めます。PPM店の一部ブランドで始まり、ゾゾ本店での運用も視野にあります。PPM店ではテスト的な要素もあるので、そこで得たものも含めてゾゾ本店にも導入したいです。ただ、決済のタイミングを詰めないといけませんし、ブランドさんだけでなく館さんも関係してしますので調整も必要です。PPM店での運用については、支払いはPPM内で済ませてもらい、お客様が館のショップか直営店に取りに行く形で、在庫は店頭の在庫になります。

技術革新をベースに商材を広げることが勝ちパターン

ゾゾスーツ2を発表

─商材と売り場を拡張しています。

 シューズは、自宅で簡単に足の3Dサイズを計測できる「ゾゾマット」対応の靴が20年2月下旬のサービス開始時は100モデルでしたが、10月下旬時点で1173モデルまで増え、売り上げもついてきています。ただ、現状に満足しているかというとそんなことはなく、「靴を買うならゾゾタウン」というところまでもっていきたいです。そのためにもプロモーションやサイト上の見え方の部分も変えていきます。商材を拡充する上で、テクノロジー活用というフックは必要だと思います。今どきECで売っていない商材はあまりないので、当社の強みを生かすためにも技術革新をベースに商材を広げることが勝ちパターンになります。ちょっと面白い仕掛けも用意して新しいカテゴリーに挑戦していきます。

─「ゾゾスーツ2」を発表しました。

 技術として半分は旧ゾゾスーツの延長線上ですが、ロジック自体は大きく変わっていて、けっこうジャンプアップしています。旧ゾゾスーツのように大量配布する計画はありません。技術は外部のパートナーさんと組んだ方が遠心力が働くと判断し、幅広い活用に向けてパートナーさんを募集させて頂きました。服もボディーサイズが分かっただけではダメで、服自体の採寸や素材なども分かった上で初めてマッチングできます。ボディーサイズのその先を考えると、さまざまな会社のいろいろな可能性に使って頂いた方が当社の技術を広める近道になります。

─スーツによるPBの再拡大は。

 そうはなりません。服のデザインに関して餅は餅屋だと思いますので、最近の取り組みとしてはインフルエンサーさんの知見を使わせて頂いてD2Cブランドを作りました。服をデザインするという部分は外部の知見を頂きながら取り組みます。ただ、服を製造するということについては、業界を引っ張り、先頭を走る上では必ず必要な機能になります。IT技術力などを導入してパートナーの企業さんと一緒に行っていきます。例えば、想定外に多く売れた商品が出てブランドさんの追加生産も間に合わないときに、生地はオリジナルと違っても同じような商品を当社の生産背景を使って素早く作れれば、「ゾゾタウン」ですぐに予約販売できますし、サプライチェーンが回ることになります。そうした取り組みを多くのブランドさんとできれば業界の健全化にも貢献できますので、ブランドさんとの協業を志向しています。


澤田宏太郎(さわだ・こうたろう)氏

1970年12月15日生まれ、神奈川県横浜市出身。早稲田大学理工学部を卒業後、株式会社NTTデータ入社。その後、コンサルティング会社2社を経て、2008年5月、アパレルメーカーの自社ECサイト支援業務を手がける株式会社スタートトゥデイコンサルティング(2013年8月に当社に吸収合併)を設立し、代表取締役に就任。2013年6月、当社取締役に就任。2019年9月代表取締役社長兼CEOに就任。

◇ 取材後メモ

澤田氏がゾゾの社長に就任して1年強が経ちました。創業者でアイデアマンでもある前澤前社長のバトンを受けることには重圧もあったと思います。就任後はコロナ禍もあって従来のように派手な会見などはなく、コツコツと、地道ながらEC運営には不可欠な顧客定着化に向けたさまざまな施策のチューニングなどを行ってきた印象です。一方、“服好きが集まる会社”というゾゾの一番の強みでもある部分に回帰し、新しい標語「ソウゾウのナナメウエ」を打ち出すなど同社の尖った部分を大事にする姿勢には、「つまらない会社にはならない」という気概も感じます。コロナ禍でのデジタル化も追い風に、強いゾゾとしての次の一手に注目が集まっています。

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