吉永安宏●ローカル代表取締役社長CEOーーバリューチェーン築き新鮮青果届ける

食品のネット販売などを手掛けるローカルは2025年12月15日、東京証券取引所のプロ投資家向け市場「東京プロマーケット」に上場した。2008年にコムセンスとして創業した同社は、自社通販サイトや出店する仮想モール「楽天市場」などで売り上げを拡大。現状、主力の「くまもと風土」など28サイトを運営している。26年2月期売上高は、当初見込みの70億8300万円から92億8200万円に上方修正するなど好調だ。食品EC企業のトップランナーである同社の成長戦略は。

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生産者・自治体・消費者に対して最適な施策を実行できるのが強み

「食のSPA」を展開

―上場からしばらく経過しましたが、どんな変化がありましたか。

 大きな変化があったわけではないですが、求人面や金融機関の対応は変わったと感じます。

――東京プロマーケットに上場した理由は。

 本則市場へのステップアップが目的です。当社は上場の準備を3、4年前から進めてきましたが、決算期の変更をせざるを得ない状況にありました。ふるさと納税は10月に制度が変更されることが多いですよね。当社は9月を決算月としていたので、期末に駆け込み需要が発生しやすいこともあり、予実管理の観点からあまり好ましくないと。そのため、決算期を2月に変更したわけですが、一般市場は比較決算が必要になります。一般市場への上場がしばらく伸びてしまうということもあり、まずはプロマーケットに上場しようということになりました。なるべく早いタイミングで本則市場への上場を目指したいですね。売上高100億円が見えてくる中で、拠点やスタッフ、さらには取扱商品のジャンルや量も増えてきています。より管理体制を強化しなければいけません。

――吉永社長の役割が変わってくる部分はあるのですか。

 現場に出ることは減ってきたので、いろいろな会社との連携や、新規事業立ち上げなどについてしっかりとやっていきたいですね。

――楽天市場で頭角を現したEC企業の中には、大手企業などに事業を売却するケースも少なくありません。上場を選んだ理由は。

 当社ではフィロソフィーとして「生産者と一緒に地方から日本を元気にしていく」ことを掲げています。地方に根ざしながら活性化の手伝いをするという観点では、まだまだ道半ば。売上高も200億円、300億円、さらには1000億円という高い数字も目指しているので、M&Aについては全く考えていませんでした。

――上場時の記者会見では「熊本から全国へ事業を拡大する第2創業期と言えるフェーズに入った」と語っていましたが、その真意は。

 100億円という売上高は、1つの山を超えるというか、目標にしてきた数字。あわせて社会の公器として会社を経営していくという責任も重くなりました。楽天には「地方をエンパワーメントする」という企業理念がありますが、当社はこの思想に影響されて上場までたどり着きました。楽天市場と一緒に成長してきたわけですが、今後は生産者や自治体を支える側として、これからも事業を成長させていきたいという思いがあります。

――飛躍的に売上高を伸ばしていく上での課題は。

 今はEC事業とふるさと納税支援事業が柱ですが、これだけでは売上高を500億円、1000億円と伸ばしていくのは難しいでしょう。ECとふるさと納税という、地域資源を活用した「食のSPA」については相乗効果があるので、全国に拠点を広げながら伸ばしていきます。今後はオンライン販売だけではなく、新規事業としてリアル店舗の展開や、輸出も検討します。また、地方自治体とのつながりを活かし、地方創生以外の部分でも、当社がお手伝いできる部分があればビジネスにつなげていきたいですね。

――「食のSPA」に関して、競争力になっている部分は。

 単に仕入れて売るだけではなく、生産者・自治体・消費者という3者を同時にみながら最適な施策を実行していける点が強みです。生産者とつながった上で地域の魅力を発掘し、消費者が喜ぶ商品として販売していきます。ふるさと納税支援事業に関しても、普通の中間事業者の場合、企画・開発まではできますが、ものづくりや在庫を抱えることまでは難しい。当社の場合はECという出口があるので、在庫を共有しながら地域産品を世の中に流通させることができます。これらが有機的につながっているのが当社の強みでしょうね。

――精米工場や食肉加工場、ミネラルウォーター工場など自前の生産工場を開設していますが、利益面で効果が出ているのでしょうか。

 まだ投資フェーズなので、そこはこれからというところです。生産性を高めていく一方、衛生管理についても留意していきます。また、地方で工場を手掛ける企業の事業承継も進めていきます。当社では熊本県玉東町のふるさと納税事業を支援していますが、同町の事業者がミネラルウォーター工場を営んでいたものの、稼働を停止するという話を聞きました。そこで、当社が事業を譲受して工場でミネラルウォーターを生産しています。こうした“出口”があるのが当社の強みです。地方創生の文脈でいえば「後継者不足」は大きな課題なので、そういった場面があれば当社も積極的に関わっていきたいですね。

――リアル展開に関してはどのように進めますか。

 まずは東京などで地域産品を販売する実証実験を展開したいと考えています。当社は本社のある熊本の産品をたくさん扱っていますが、それ以外でも例えば7月なら和歌山県のモモ、岡山県のシャインマスカット、9月には北海道のトウモロコシと、産地の商品を取り扱うバリューチェーンを構築しています。こうした産品を東京に持っていき、「鮮度」をウリにした形で販売したいですね。一般的な流通経路だと、産地から青果市場を通すわけで、スーモを産地の近くで箱詰めして、鮮度の高い状態で消費者に届ける、というイメージですね。例えばモモなら採れたてだと香りが全然違うんですよ。全国の産品を直送できる体制を構築し、出口として消費者の多い東京で販売できるようにしたいですね。2025年、もしくは26年にはテスト的な店舗を開設したいと考えています。

――すでにバリューチェーンは各地で構築されているのですか。

 熊本のモデルを横展開するイメージです。当社は「消費者から注文があったので出荷してください」と農家に頼むスタイルではなく、例えばミカンなどはコンテナで買い付けています。自分たちで検品し、顧客のニーズに合わせて販売しています。核家族化が進んでいるので、5kg・10kgの果物を流通させるのは難しい。ですから、当社は熊本に選果場を設け、パート従業員が小分け・箱詰めして出荷しています。同様に北海道や和歌山、岡山でも出荷を内製化しています。ですから、鮮度の良い果物を入手し出荷できる、という強みがあるわけです。

 コンテナごと東京に出荷し、その場で箱詰めするというのも臨場感があっていいかもしれないですね。日本人は「旬の産品」が好きなので喜ぶ人は多いと思います。

――店舗の大きさは。

 最終的には、コストコの産直品販売のようなことをやりたいと思っていますが、東京は土地が高いのでまずはスモールスタートですね。

――海外展開については。

 なかなか進んでいないのですが、アリババにコンサルティングしてもらいながら、どの国でどんな商品にニーズがあるかについて調べはじめたところです。ただ、熊本の産品だけだと弱いので、全国の産品を旬に合わせた形で取り扱いできるようにしていきたいですね。恐らく3~5年後には全国にバリューチェーンが構築できるので、海外向けに提案できるラインアップが揃ってきた段階で本格展開をします。それまではテストマーケティングを進めます。どこの国向けというわけではなく、アリババの越境ECプラットフォームを活用しながら、ロジスティクスや法的な部分の知見を貯める必要があると思っています。

――現在、バリューチェーンは全国をどの程度カバーできているのでしょうか。

 まだまだですね。岡山の拠点で中四国を、和歌山の拠点で近畿を、関東は千葉・茨城、そして北海道という形です。まずは農業産出額の大きい県から優先的にカバーしていく計画です。

「リスクをユーザーに押し付けない」ことで顧客満足度が飛躍的に向上

消費者と生産者の架け橋に

――2008年に創業し、楽天市場を中心に売り上げを拡大してきたわけですが、成長の要因をどう分析していますか。

 「地方の魅力を伝えたい」という思いを持ち、生産者と二人三脚で歩んできたことが一つ。また青果物は個体差があるので、どうしてもユーザーとのトラブルは起きてしまいます。そうした際に、生産者とユーザーとの架け橋として頑張ってきたことがもう一つでしょう。例えばミカンであれば、箱詰めした際は問題がなくても、輸送中に割れたりカビが生えたりということはどうしても起きてします。ユーザーの期待を裏切ってしまったときに、誠実な対応ができるか。当社が生産者ともユーザーとも、きちんと向き合ってきたことが大きいと思います。もちろん、言うだけなら簡単ですが、青果物は工業製品とは違い個体差があります。そういった部分でのオペレーションの難しさや課題に関して、一つひとつトライアンドエラーを重ねながら解決してきた点が当社の強みです。

――サポート体制は。

 選果場にカスタマーのメンバーが20名ほど常駐しています。納期の調整や、品質に問題があった場合の対応をしています。ご迷惑をかけたユーザーに対しては、送り直しや返金などの対応を行っています。最近はトラブルが減ってきましたが、10数年前は割れたり傷んだりしたミカンがあった場合に「騙された」というレビューを投稿するユーザーも少なくありませんでした。当時は「青果物などで仕方がない」という前提の対応をしてきたのですが、現在はリスクがある商品についてはページできちんと説明した上で、販売量よりも少し多めに送る、といった手法を採っています。それでもクレームがあったばあいは、「満足してもらえなかったのは当社の責任」と考えて、送り直しもしくは返金を行っています。クレームをしたユーザーも「1000円、2000円の買い物でそこまでやってくれるんだ」と感じ、逆にファンになってくれるようなケースもあります。

――顧客対応の方針を変えたのはいつ頃ですか。。

 2013年頃です。きっかけは、2012年に楽天イーグルスの優勝セールがあり、当社が過受注を起こしてご迷惑をかけてしまったことにあります。あのときは楽天市場全体が大変でしたが、優勝セールをきっかけとして、当社もモール自体も顧客満足度を上げる方向に舵を切りました。

――プラスの影響は出ましたか。

 リピート率の向上、そしてレビューの評価も良くなりましたね。青果物は天候に左右される商品なので、予期しないことも起きてしまうわけですが、「リスクをユーザーに押し付けない」という方針です。

――「楽天市場出店者友の会」では代表世話人を務めています。2025年は有力EC企業が自己破産の憂き目に遭うなど、EC企業にとって環境が厳しくなっています。市況をどうみますか。

 円安が進んでいるので、海外から商品を調達し販売している企業が厳しいのは確かです。型番商品など価格転嫁がしづらい商材を扱っている企業は特に大変でしょう。ですから、付加価値をつけた形で商売ができる店舗が残っていくのではないでしょうか。

――代表世話人として楽天市場に求めていくことは。

 「友の会」は、出店店舗の団体としては唯一の公認なので、随時細かい要望や意見は送っています。「TikTokShop」や「Temu」、「メルカリShops」などいろいろなプラットフォームが出てきているので、「楽天らしさ」を突き詰めてほしいと思っています。楽天市場の良さは「店舗との距離が近い」ところ。その部分が、最終的に商品を購入するユーザーにとって、どうプラスになるのか。共に考えながら楽天市場を良くしていきたいですね。単に「売って終わり」ではなく、CRMを強化してもらえればユーザーとも付き合いやすくなるので、そこは意識して注力してもらえれば、と思っています。



吉永安宏(よしなが・やすひろ)氏

1992年西洋環境開発入社。2001年アスクル入

1978年生まれ。1996年楯己入社。98年オー・ディー・エー入社。2000年サカイコーポレーション入社。03年デルタポート入社。08年コムセンス(現ローカル)設立、代表取締役社長CEO就任(現任)。

◇ 取材後メモ

吉永社長が印象深いエピソードとして挙げるのは、テレビ番組「鉄腕ダッシュ」にて契約農家のトウモロコシが取り上げられたときのこと。放映後に注文が殺到したものの収穫直前に台風が襲来。一部顧客に届けられない事態となったため、該当顧客には未熟品のうち食べられる部分だけを無料で配送。代金は同社の持ち出しとなったが、きめ細やかな対応の積み重ねが上場につながったといえるでしょう。「友の会」でも中心的存在の吉永社長。楽天市場発のEC企業トップランナーとして、店舗ビジネスでどこまで成長できるか。注目です

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