食品分野の強化でリピート開拓へ 寺村宏●イーベイジャパンフードカテゴリー室長

 仮想モールの「Qoo10」を運営しているイーベイジャパンでは、2019年に「ふるさと納税」のサービスを開始するなど、新たな戦略展開を進めている。その背景には仮想モールでの定石ともされる食品ジャンルをフックにリピート顧客の開拓を図る大きな狙いがある。とりわけ消費者からの人気も高く、他モールとの競争環境も激しい食品ジャンルに関しては、これまでQoo10が得意としてきた女性向けのコスメやアパレルとはまた違った角度から独自性を打ち出していくことが求められてくる。寺村宏フードカテゴリー室長が目指すQoo10ならではの食品強化策とは─。(聞き手は本誌記者・山﨑晋)

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買収後に社内での環境に大きな変化

テレビCM開始で認知度が大きく向上

─2019年は「フード」カテゴリーにおいて大きな変化があったと聞いています。。

 Qoo10=女性会員が多いので、カテゴリーで言うとレディースファッション、コスメが強いのは昔から今も変わりがありません。2016年にはその2つの強いカテゴリーだけでなく、総合モールとしてリピーターの獲得を強化しなくてはいけないというタイミングの中で、「食品」に焦点を当てることとなり、2016年〜2018年にかけて会社を挙げてフードカテゴリーの実績を伸ばしていく戦略をとることとなりました。

─立ち上がりの状況としては。

 2017年当時で見ますと、規模感ではまだほかのカテゴリーよりも小さかったのですが、前年比の伸び率で見ると全カテゴリーの中で一番大きく成長させることができました。コンバージョンも含めて非常に反応が良かったので、会社から露出強化のための支援ももらいつつ、その後もQoo10全体のアベレージと同様の伸びを維持しており、現在に至っています。

 基本的に口に入るものはすべてフードとしてやっています。具体的な商材で言いますとお米や飲料、あとは一般食材のお惣菜やスイーツ、果物などです。健食、サプリメントもフードカテゴリーとしています。

─フードカテゴリーで年間を通じて持続的な成長を果たすことができた理由とは。

 いくつかの環境変化があると分析しています。まず、社外的な変化としては、2018年に(Qoo10を運営するジオシスの日本事業が米イーベイに)買収されて、その年末にはQoo10として初のテレビCMが始まりました。当社の場合、セラーさん開拓の営業は基本的にテレアポでアプローチしているのですが、CM放送以降は今まで「Qoo10を知らない」とお断りされていたような他の大手仮想モールでの人気店舗さんが新たに入店する機会が増えていきました。

 スイーツ関連のセラーさんをはじめ、2019年で言えばフードの需要が一番伸びる第4四半期(10月~12月)にカニや海鮮といった商材で他モールのランキングで常にベスト10に入っているようなセラーさんの出店がありました。以前からお声がけしており、Qoo10の存在自体は知られていたのですが、CMによって存在感が大きく増し、フードだけではなく、全カテゴリーを通じてこのような動きになっていっているようです。2019年は特にそれが加速して、有名どころのセラーさんが一気に増えたととらえています。

ふるさと納税サービスへの参入

─新たな試みとフードカテゴリーのして始めたようなこととは。

 2019年は社内的な変化が大きくありました。10月に「ふるさと納税」に参入したことです。元々、2016年頃から市場の盛り上がりも見つつ、当社でも参入の検討段階にはあったのですが、社内的なリソースの問題から中々実現には至らずにいました。しかし、買収後に技術者の数が一気に増えたということもあり、無事ローンチすることができました。

─サービス開始に当たっては多くの苦労があったのでしょうか。

 我々、仮想モールがふるさと納税のコンテンツを開始すると、一見、「ショッピング感覚」で決済をするというイメージを持たれるかもしれませんが、実際は「購入」ではなく「寄附」に当たるため、既存の決済周りなどはすべて一から開発し直すなど色々と苦労がありました。

─技術的な部分だけではなく、自治体の開拓といった営業面での苦労についても教えて下さい。

最初は我々の方から直接、自治体さんにアプローチして登録してもらう形をイメージしていたのですが、それではスタート時に多くの数を集めるのは難しいのではないかという結論に至りました。そこで、すでにふるさと納税事業を行っているレッドホースコーポレーションさん(以下レッドホース)とアライアンスを組むことで、既に契約のある自治体様の営業、サポートをもらう形を取るようになりました。

 結果的に30自治体で、品数で言うと3000品くらいの規模でのスタートとなりました。自治体数と品ぞろえという部分は今後の大きな課題になるのかなとは思います。返礼品の内容に関して、結果からするとランキングに入るような売れ筋品は、お肉や米、海鮮といった他社でも人気があるようなカテゴリーでした。今後は、何かQoo10で独自性を出すというところも考えていきたいと思っています。

女性顧客を多く抱えていることが強みに

─ふるさと納税を行っていく上での課題とは。

 これだけ(ふるさと納税自体の)市場全体が伸びているという状況にも関わらず、実際の利用者数ではまだ2割もいないと言われています。また、利用者の大半も男性名義です。Qoo10の会員属性としては20代~40代の女性を7割以上持っているので、ふるさと納税がこれだけ話題となっている中で、まだそれを利用したことがないような新しい層にアプローチできるということは(自治体にとっても)差別化のポイントになると考えています。

 実際に、レッドホースさん経由で自治体にヒアリングをしたところ、これまで取れていなかったような女性からの寄附を集めることができたという声をいくつか聞くことができました。確かにQoo10での寄附者のデータを集計してみますと女性の数が多いというイメージがあります。金額の大小というよりかは、一度経験してもらうと寄附者にとっては当然大きなメリットがあるので、まずはやっていない人に経験してもらいたいという考えです。

─顧客に向けてのアプローチ手段について。

 現状、利用拡大に向けての販促としては、ターゲットに刺さるキャンペーンをサイト上で行っています。すでにQoo10を利用している顧客に対してのポイント付与や抽選でのプレゼントなどがあります。2019年12月31日までに利用された人に、化粧品やお米、旅行券などQoo10で人気のあるものをプレゼントする企画として行いました。

 2020年についてはベンダーさんとの同行営業も含めて、新しい利用者層が開拓できるというメリットを自治体に引き続き説明していき、目標としては100自治体の掲載をできるように考えているところです。

次の購入が期待できる「食品」

─フードカテゴリーを底上げしていくことによって、もたらされるメリットとは。

フードカテゴリーに関してはお米やお水、その他食材など、一度、気に入ればまた次の購買が期待できるものなので、モールの中でも非常に重要なポジションとなります。当然、良い商品を出さないといけないのですが、それだけ良いセラーさんを開拓していくことが大事になるでしょう。繰り返しになりますが、Qoo10は若い女性顧客が多いので、色々とアイテムがある中でも、健食・サプリメントは特に伸びしろが期待できる分野だと思っています。

 会社としても2020年はこのジャンルでの露出を増やしていくことを考えています。これまでも、外部のウェブメディアでの露出枠を確保して情報発信を行ったり、会員へのメルマガ、スマホアプリでのプッシュメッセージなどを使ってきましたが、こうしたところは引き続き行っていくつもりです。

─フードカテゴリーの中で特に人気がある商品は。

 現状、人気があるものとしてはダイエット系のサプリメントです。大きくは2つのパターンがあり、1つはプライベートブランドで“コスパ”のある1カ月分で数百円程度の商品。もう一方は、ナショナルブランドでテレビCMも放映しているようなメジャーな商品。このように完全に二極化しています。

 ダイエットは女性だけでなく男性にも需要があるものなので、美容系のサプリメントなどと同じ枠に出して見せてもダイエットサプリの方が一番動きがあります。

“コスパモール”として魅力を発信

課題は独自性を持った商品の提案

─差別化に向けた、今後の戦略について。

 今後については2つ大きな考えを持っています。2019年と同様に大手のセラーさんの開拓を引き続き強化していくことなのですが、実際に新規で大手販売店様の出店も決まっています。また、他モールで実績を挙げているセラーさんの出店話も複数進んでいる状況です。若い女性を新しくターゲットにしたいセラーさんにとっては、Qoo10が一番メリットを感じてもらえる場だと思います。

 また、他のモールと比べた時の差別化のポイントとして、Qoo10では以前から韓国商材に関して特に顧客からの人気が高い傾向にありました。2020年は今一度、それを強化したいと考えています。やはり、Qoo10でしか買えないような韓国関連商品を食品でも増やしていくことになるのでしょう。まだまだ、新たに入ってもらえるセラーさんもいると思うので、(出店開拓の)営業面からもテコ入れしているところです。

─アイテム数を拡大していくということが一つのテーマになるということでしょうか。

 いずれにしても、フードだけに関わらず商品数を増やしていくことはQoo10全体の課題でもあります。今は、コスメでもファッションでも差別化できている商品は何なのかに原点回帰しているところです。例えば、チケットの販売であれば韓国のチケットを売っていこうなどということです。今はそれぞれのカテゴリーで差別化できるポイントを確認しているところです。

 また、元々、お得な商品であるということも〝コスパモール〟を掲げるQoo10にとって独自の差別化ポイントになっているのではないだろうかと思います。

CtoCアプリの盛り上がりがEC市場の底上げにも

─現状の国内EC市場についてどう見ていますか。

 市場環境的には日本国内のEC化率はまだ2桁には届いていない状況で、韓国や欧米と比べてもまだまだこれからも伸びていく市場だと思っています。これまではネットで売る側も個人というよりかは会社でしたが、CtoCアプリの影響もあって、消費者が売り手に回る機会もかなり増えてきました。今後はそうした動きがより加速していくのではないかと感じています。

 そういった意味ではQoo10は月額の固定費や初期出店費用がかかるモールではありませんので、個人で販売している人が「モールでもそうした売り方ができる
のか」と感じて出店が増えることも考えられます。モール全体を見ても、一昔前と比べて出店に関わるスキームはかなり楽になりました。今はスマホで商品写真を撮って、早ければその数分後には掲載することができ、売ることもできるようになった時代です。こうした流れの中で個人プレイヤーが売り手として徐々に増えていくこともEC市場全体の底上げにつながっていくのではないのでしょうか。

寺村宏(てらむら・ひろし)氏

投資会社に入社後、事業の立ち上げに従事し、その後主要モールでの販売・運営を経験。2012年にジオシス(現eBayJapan合同会社)に入社し、リビングカテゴリーを担当。2016年よりフードカテゴリーに異動し、2017年の流通額が前年比2倍に成長。2019年にはふるさと納税事業を立ち上げ。現在に至る。

取材後メモ

 まだ、米イーベイに買収される前のジオシス時代からQoo10の取材を行ってきましたが、当初はコスメやアパレルなど若い女性向けの商材を扱っているモールという印象が強くありました。今もこの2つのジャンルが主力分野であるということに変わりはないのですが、買収以降はその資金力を生かしてテレビCMなど大規模な投資を実施し、老若男女の幅広い層に向けてアプローチを行っています。当然ながらそれに呼応して取り扱う商材もどんどん広がっているようで、食品カテゴリーを強化するということも必然の流れだったのかもしれません。今は新型コロナウイルスの影響もあり、実店舗への買い物を手控えているという消費者がたくさんいます。食品は生活に欠くことができない重要な商材でもあるため、想定とはまた違った形で需要が伸びていく可能性もあるのではないでしょうか。

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