吉岡晃●アスクル代表取締役社長CEO 

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お客様に選ばれるためにすべきことする

 アスクルの業績が堅調に推移している。コロナ禍で主力の法人向けオフィス用品通販事業の売り上げが一時伸び悩んだものの、感染対策品などの売れ行き増や個人向け通販サイト「LOHACO(ロハコ)」が好調で2021年5月期の業績は前年を上回って推移している。一昨年に筆頭株主のZホールディングス(ZDH)と対立し、退任に追い込まれた同社創業者の岩田彰一郎氏に代わって代表取締役社長兼CEOに就任し、同社の舵を握ることになった吉岡晃氏が語ったZHDとの今の関係性とは。また、アスクルが描く今後の方向性とは。

ZHDとの今の関係は良好 一連の騒動のしこり消えた

社長就任からあっという間の2年

─筆頭株主のZHDと運営する「LOHACO」を巡る運営方針や低迷する業績の責任などを巡って対立、関係性が悪化して、19年8月のアスクルの株主総会でZHDらが議決権を行使したことで、創業者で長らくトップを務めてきた岩田彰一郎氏がアスクルの社長を退任することになりました。岩田氏に代わって、新たに社長に就任してから2年が経過しましたが、これまでの率直な感想は。

 あっという間の2年でした(笑)。やるべきことは多く、コロナ禍もあり、今もまさに成長に向けてその途上中です。

─当時、全面対立していたZHDとの関係性はその後、どうなりましたか。

 関係性は極めてよいです。今はその先の段階に進んでおり、互いにどうすればよりよいことができるのかを共に考える新しい関係性を構築しています。

─社長就任当時は「今回の一連のことでできた大きなしこりはそう簡単に消えるものでない」と話されていたわけですが、現在の関係性はこの2年でどう構築してきたのでしょうか。

 社長就任後、まずは(ZHDの)川邊社長や小澤専務とかなりの回数、本音での話し合いを重ねてきました。その中で、当社にとってもZHDにとっても、また、多くの株主にとっても『アスクルの業績をどう高め、企業価値をどう上げていくか』が重要であるという原点を確認でき、その点についてどう考えていくのか。どう協力して進めていけるかというところで一致できたことが大きかったですね。

─19年の株主総会では岩田氏に同調していた3人の独立社外取締役全員の再任も否決されました。独立した立場から業務執行の監視や上場子会社における支配的株主の横暴をけん制するために存在している「会社のガバナンスの根幹」であるはずの独立社外取締役が大株主の意向で容易にやめさせることができたことが当時、問題視されました。

 新たな独立社外取締役を選任すべく、アスクルや大株主とも利害関係がない弁護士の國廣正氏と落合誠一氏と新たに顧問契約を結んで、両氏を中心に、暫定指名・報酬委員会を設置して、アスクルの企業価値向上のために最適な判断ができることなどを条件に、大株主ともコミュニケーションをとりながら独立社外取締役の人選を進め、昨年3月に4人の新たな社外取締役が就任しました。このメンバーが中心となり、組成した指名・報酬委員会の規定を大幅に改正し、独立役員の立場を守りつつ、権限も強めました。

─國廣弁護士はZHDとの一連の騒動が大きなものになってしまった背景に「互いの対話不足がある」と指摘していました。現状、ZHDら大株主との意思疎通はどうですか。

 ZHDとは従来まで月1回、トップ同士の定期会合を設けて話し合いを行っていましたが、(新体制となってからは)その回数を増やしました。加えて、現場ではそれこそ毎日のように連携をとっており、事業としてのコミュニケーションはすごく増やしてきました。また、これは以前にはなかったことですが、独立社外取締役による大株主との会合も定期的に実施しています。。

─一連の騒動で残った“大きなしこり”は消えましたか。

  (過去に)こだわっていても何もよいことはありません。未来志向で考えています。

XSエンジン導入、「ロハコ」をリニューアル

─改めてZHDと今後も組んでいくメリットをどう考えていますか。

 ZHDのグループ各社のサービスへのユーザーの支持が非常に高いことです。「ヤフー」というサービスを使っている方々は大勢います。また、(グループには)「LINE」や「ゾゾ」など、これまた多くの方々が利用しているサービスがあり、お客様の基盤は非常に強いです。これは当社からすると非常に魅力的な経営資源であると考えています。もう1つは技術的な部分です。当社にとってeコマース事業はまだまだ途上の段階ですが、ZHDのテクノロジーのノウハウは日本でも有数です。優秀なエンジニアも多く抱えています。そうした知見の蓄積や人材の確保を当社が独力でやっていくのは大変で課題であったわけですが、(ZHDから協力を得ることで)一足飛びで獲得できることになり、ここは非常に大きいメリットだと感じています。

─ZHDが展開する通販事業者向けの自社サイト構築サービス「XS(クロスショッピング)エンジン」を導入して運営する日用品通販サイト「LOHACO」を6月22日に刷新しました。

 これまで「LOHACO」は当社がすべて自前で開発、投資して運営してきましたが様々な競合がいる中で、お客様から支持を頂くためには、日進月歩であるテクノロジーやセキュリティ対応へのさらなる投資は欠かせません。サイト運営にはそうした様々な課題やコストの負担があるわけで、それらをすべて自前で賄うよりも、そこは協業して、(ZHDが持つECのテクノロジーやノウハウを盛り込んだ「XSエンジン」という)大きな基盤をもとにサイトを運営することでシステム投資やセキュリティへの対応を(XSエンジンに)任せることで、売り場のUI・UXなどサービス面のアップデートの速さなど使い勝手や安全性など『ロハコ』の利便性がお客様にとってあがると考えました。その分、我々は商品開発や物流面に関する取り組みの強化に専念していこうと思っています。

─「LOHACO」の刷新のポイントは。

 何か機能が大幅に変わるというよりも、これまでの「LOHACO」の世界観・サービスを維持しつつ、これまで以上に商品を選びやすく、使いやすくしました。また、(ヤフー運営の仮想モール「PayPayモール」に出店している)「LOHACOPayPayモール店」との連携を強めました。例えば「本店」と「モール店」で同一のポイント倍率を適用したり、モール店での購入履歴を本店で確認できたり、両店を併用した使い勝手が高まるようにしました。さらにヤフーの仮想モールのショッピング機能と親和性を高めて、ヤフーの仮想モールを使っているお客様にとってLOHACOは買いやすく、モールと買い回りしやすいように工夫しました。

LOHACOの構造改革進む

─業績が順調です。理由は。

 1つはコロナ禍の影響があります。BtoB事業(法人向けオフィス用品通販事業)についてはお客様である企業、特に大企業ではテレワークが進んだことで、会社で使う文具・事務用品、コピー用紙の売り上げは下がりましたが、消毒液などの衛生用品などが大きく伸び、落ち込みをカバーして、トータルで伸びました。LOHACOは(コロナを追い風に)大きく伸びました。利益面ではLOHA-COの構造改革が進んできたことが大きいです。これまでは先行投資としてロハコ事業の赤字が拡大していたが、目指すべき方向を変えてお客様の利便性を損なわずに、損益分岐点を下げていく試みが順調に進みつつあります。ロハコに「XSエンジン」を導入したこともその一環ですが、そのほか、一配送当たりでどれだけまとめて配送できるようにするかという工夫など様々な無駄を省き、効率化することで固定費や変動費を圧縮して売り上げを落とすことなく、利益を上げられる構造になりつつあります。

社会のインフラとしての責任を果たしていくことが我々の存在価値

コロナで変化するニーズに対応

─コロナ禍で事業を進めていく上で意識していることはありますか。

 お客様、特に個人のお客様ですが、家にいる時間が増えたことで家事もまた増えました。すると増えた家事を手早く終わらせるためにどうすべきかというさらなる時短ニーズが出てきています。コロナによってニーズやし好も変わってきており、新しいチャンスとも言えます。お客様との接点を直接、持っている当社のメリットを活かして、多くの事業者の中から我々を選んで頂けるように商品、サービスを考えていきたいです。

 もう1つは置き配です。置き配といってもニーズは多様で、荷物を置いていけばよいわけではなく、重くかさばるものを宅配ボックスに入れるとお客様は大変です。感染の不安から対面では受け取りなくないが、単に置き配で満足かといえばそうではありません。お客様の感覚や要望に応じたサービスが必要です。

 事業面だけでなく、企業としての在り方も問われると思います。コロナは社会の大きなパラダイムシフトのきっかけになりました。ただ、コロナ禍以前から社会の構造は近く、大きく変わっていくだろうと考えていました。気候変動やそれに伴う自然然災害の多発などにより否応なく社会は変化せざるを得ないからです。社会が変化していく中で、役割、目指すべき方向を明確化することが企業にとって大切です。そのため、これは以前から考えてきたことですが昨年、パーパス(存在意義)、バリューズ(価値観)、DNAで構成される「ASKULWAY」という当社の行動規範を新しく策定しました。そのパーパスとは「仕事場とくらしと地球の明日に『うれしい』を届け続ける。」というものです。

 当社では昨年3月に経済産業省と厚生労働省の要請に応え、消毒液を医療機関や介護施設などに出荷する事業を請け負いました。消毒液の調達が困難な小規模施設などを対象として当社の物流を活かして届けるものです。当時は必要な物資が不足しており、買い占めや転売も見受けられました。そこで当社がとるべき行動は何かと考えた時に、こうした状況に乗じて売り上げをひたすら上げることなのかと。それは違うだろうと。全国の医療機関など必要としているところに確実にすぐにお届けすることこそ、我々のミッションだろうと考え、請け負うことにしたわけです。業績はもちろん大切ですが、しっかりと社会のインフラとして責任を果たしていくことが我々の存在価値であり、それこそがお客様から選ばれるための要素になると思っています。

─現状の課題や今後の方向性は。

 お客様にいかに選ばれていけるかでしょう。コロナでECのプレイヤーは一気に増えました。その中でお客様に振り向いて頂けるか。そのためには、お客様の要望にきめ細かくこたえ続けていくしかありません。品ぞろえや価格、デリバリーはもちろん、今後は特にサスティナビリティという観点も重要です。それらをスピード感を持って改善、実現していくには徹底的にAIなどテクノロジーを活用してDX化を進めていきます。そのためには(グループの)ZHDやソフトバンクの力もふんだんに借りながら、実現していきたい。また、すでに現場レベルでは情報交換などを行っているがLINEやゾゾとの連携も模索していきたいです。


吉岡晃(よしおか・あきら)氏

1968年1月12日生まれ。西洋環境開発を経て2001年にアスクルに入社。2006年メディカル&ケア統括部長、2011年メディカル&ケア担当執行役員、2012年執行役員BtoCカンパニーCOO、同年取締役BtoCカンパニーCOO。2019年に代表取締役社長CEO就任した。

◇ 取材後メモ

仕事場とくらしと地球の明日に「うれしい」を届け続ける――。これはアスクルが昨年、策定したパーパス(存在意義)です。少し前までの環境問題といえばどこか他人事でした。ところが近年の異常気象は各地で甚大な被害を出し、目の前の脅威として形を見せ始めています。アスクルは昨年から「事業活動を通じて社会課題を解決する」というビジネスに組み込んだ持続可能な形で環境に配慮した取り組みを行なう形に舵を切り、顧客を巻き込んだ様々な取り組みが成果を出し始めています。これからの企業は営利のことだけでなく、“地球の明日”を考えた事業活動を行うことは責務と言えそうです。未来を考えない企業に消費者の支持が集まることもないでしょう。次代の事業者のあるべき姿に向けて明確に進化し始めたアスクル。今後に注目したいです。

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