OMO推進へサポートを強化 柏木 又浩●トランスコスモス 常務執行役員リテールコマース総括責任者

トランスコスモスはコロナ禍で小売りの OMO 化が進む中、企業の OMO 戦略を支援する「リテールコマース総括」部門を 2019 年4月中旬に新設し、舵取り役に TSIEC ストラテジー前社長の柏木又浩氏が就任した。「グローバル企業を除いてメガブランドは なくなる」と指摘する、柏木常務執行役員リテールコマース総括責任者が語る小売り企業の DX(デジタルトランスフォーメーシ ョン)のあるべき姿や当該領域におけるトランスコスモスのサポート体制とは。

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ファッション分野などでメガブランドはなくなる

D2C が育つ環境整備を

─就任後に取り組んできたことは。

 とくにファッションやビューティー分野でメガブランドはなくなると思います。グローバル企業は別にして、店舗の数を増やして規模を拡大していく時代は終わりました。グローバル展開できる企業が少ない中、D2CおよびDNVB(デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランド)が育つ環境を作らないといけません。海外はその辺りを理解している企業が多く、「DNVBが大企業を駆逐する」と言われていますし、実証されてもきています。

─ D2Cが育つ環境とは。

 海外ではネイバーフッド・グッズなどがそうで、D2CやDNVBを育てるプラットフォーマーがいくつか存在します。ネイバーフッドの価値は、D2Cブランドなどを育てるために館として全面的にサポートしている点です。D2Cに対し、来店客のさまざまなデータを開示したり、接客を行うスタッフも用意します。日本では言葉ばかりが先行し“次世代型百貨店”などと称されますが、彼らの本当の価値はD2Cなどの育成を目的とする部分です。

─ D2CとDNVBの違いは。

 私にとってD2CはECにインフルエンサーが付いた“EC+情報”という感覚です。DNVBはそこにサービスソリューションが加わってサブスクリプション化したり、周辺サービスまで提供します。「ペロトン」のようにフィットネスバイクを通じてさまざまなソフトを提供し、サブスク化するようなブランドが当てはまります。

─小規模なD2Cはたくさん出てきています

 大企業もそういうブランドを開発していかないと将来が切り開けなくなりますし、むしろ大企業こそ中小企業を大きくするためのプラットフォーマーになっていくべきです。そういう観点で小売り企業が進めるDX、OMO化を支援する全体戦略を練っています

─具体的には。

 「ショッピファイ」はインキュベーションするのに最適なECプラットフォームだと思っていて、全面的にサポートする意味が当社にはあります。4月に専任チームを立ち上げて「ショッピファイ」を起点としたECワンストップサービスを提供しています。また、「ショッピファイ」と連携できることを前提に、足すべきサービスのキーワードがふたつあって、それはOMOとSNS分析です。OMOについてはコロナ禍でオンラインとオフラインが限りなく近づいてきていて、OMO推進の武器のひとつとしてオンライン対面接客ツール「ヒーロー」の国内独占販売権を10月に獲得しました。

行動履歴を把握したライブ 接客

─ 「ヒーロー」は店舗販売員が顧客と ライブでチャットやビデオ通話を行うツールですね。

 「ヒーロー」の一番のポイントは、ボットではなく常に人が介在する1to1でオンライン接客を行うことに意味があります。EC事業はある一定の規模に達すると売り上げが爆発的には伸びなくなります。ECは単品買いが多く、どのようにセットアップ率を上げられるかを考えたときに、店頭ではセット率が高くてECで高くないのはサポートの仕方の問題です。一番商品を知っている人、つまりブランドの販売員がサポートすべきで、販売員が売る仕組みを探していて「ヒーロー」を知りました。

─ 欧米では導入企業が多いと聞きます。

 2015年からサービスを開始し、「バーバリー」や「フェンディ」「ナイキ」など名だたるブランドが導入して欧米ではナンバーワンのオンライン接客ツールです。日本では分かりやすくオンライン接客ツールと呼びますが、顧客が店頭で買い物をしているような体験が得られることから欧米ではバーチャルショッピングと呼ばれています。

─ 「ヒーロー」の強みは。

 販売員がライブでテキストやチャット、動画を使って接客を行うこと自体が画期的なのではなく、ライブ接客中に顧客がいま何の商品を見ながら質問をしているかなど、顧客の行動履歴が分かることが強みです。お店で顧客がどの棚のどの商品を手に取っているかを把握して接客するのと同じような状況でオンラインでも接客できます。また、実施したライブ接客を社内で共有し、ひとつの成功体験を広げていけるプラットフォームです。

─機能追加などの予定は。

 海外ではグーグルマップで店舗名を検索した際、マップ上の店舗に「ヒーロー」に直接つながるメッセージボタンを設置できるのも特徴で、日本でもその機能を追加したいですね。

─ 店頭のあり方も変わりそうです。

 世界中で、実店舗はブランドを体験してもらいエンゲージメントを高めるための場所として進化していくと言われていますが、国内ではそれを体験できる店があまりにも少ないのが実情です。オンラインの売り上げをオフラインの販売員がサポートしてモノを作れるようになると、実店舗のあり方は変わってくるはずです。なぜなら、ずっと店舗単位で売り上げノルマに縛られていた販売員にとって、オンラインの売り上げが評価につながると、店舗の売り上げだけが自分たちの売り上げではないということを理解できます。そこでようやくオフラインがブランド体験型ショップに変わるきっかけになります。

─ 「ヒーロー」以外に OMO を推進す る武器はありますか。

 もうひとつがアプリ活用です。「ヤプリ」は自社ECと直結するもので、ロイヤルカスタマー化を推進するに最適なアプリ開発ツールで、ヤプリさんとは10月に業務提携しました。加えて、ライトユーザーを育てるためにLINEミニアプリをLINEさんと一緒に展開していきます。ライトユーザーをLINEミニアプリで獲得し、「ヤプリ」でロイヤル化を図ります。LINEミニアプリはダウンロードもログインも不要という手軽さが魅力です。

海外展開に SNS は不可欠

─ SNS 分析の支援については。

 ECチャネルでは他社EC(モール)に依存するだけでなく、自社ECを強くしつつ、その延長線上にグローバル化を見据えて取り組む必要があります。他社ECから自社EC、そしてグローバルECという流れを否定する人はいないでしょう。自社ECとグローバル化を成功させるにはソーシャルコマースが重要です。いま世界に開かれているPRの場は間違いなくSNSで、それをうまく使うことでさまざまな国の人に見てもらうことができます。

─ 海外の人は SNS の活用がうまいですね。

 その通りで、SNSの使い方がどの国の人よりも下手なのが日本人だと思います。フォロワー数だけを見ても海外とはケタが違います。そこで、海外展開を目指すのに当たってはインスタグラムを使ったグローバルブランディングが必要です。インスタの最大の武器は動画を含む画像です。そのレベルを高めることが最重要で、その領域で最適なツールが9月に国内の独占販売権を取得した「ダッシュハドソン」です。

インスタを使うグローバル ブランディングが不可欠に

─ 特徴は。

 インフルエンサーマーケティングで大成功したコスメブランド「カイリーコスメティクス」も「ダッシュハドソン」を使って大きくなりました。今ではアマゾンやアップル、コスメのグローバルブランドなども利用していて、どんな画像を自社のフォロワーが望んでいるのかを分析できます。

─ 具体的には。

 ブランドのファンに支持される画像とはどんなものかを可視化してくれます。例えば、3つある画像のどれをアップしたらフォロワーに一番好まれるのか、過去の投稿画像に対するフォロワーの反応をAIが解析してランク付けしてくれます。つまり、次にアップする画像にどれくらいの価値があるかをアップする前に判断できます。海外では撮影時にも利用しています。写真が20枚あればそれらもランク付けし、その結果を受けて別のカットも撮るなどインスタのエンゲージメントに合わせた撮影方法を考えることができます。

─ さまざまな使い方ができますね。

 競合ブランドの画像も解析し、自社のフォロワーに対してどういう画像が好まれるのかを知ることもできます。撮りたい画像のプランが可視化できるため、予算を立てるときにも正しい効果測定を導き出せます。どの画像が一番コンバージョン率が高いかを判断するのにすべての通販企業が悩んできたはずで、これを解決できるため、インスタだけでなく EC 用の画像を選ぶときにも使えます。実際 に、インスタで一番効果が高い画像を EC のメイン画像に使用するといった使い方を海外の導入先はしています。。

─ そのほかの活用方法は。

 「ダッシュハドソン」のもうひとつの特徴としてはUGC(ユーザー生成コンテンツ)の使い方で、アットメンションすると「ダッシュハドソン」がクローリングして表示するため、商品を購入したファンがSNSに投稿したものをブランド側が確認できます。海外ではそうしたファンの一部をマイクロアンバサダーとして起用するために「ダッシュハドソン」上で了承を得てブランドのインスタに画像をアップしています。その際もAIが解析し、誰をアンバサダーにすれば効果的かを判断できます。

─ 「ヒーロー」と「ダッシュハドソン」 が向いている業種は。

 「ヒーロー」は想定よりも幅広く利用されそうで、ファッションやビューティー、ライフスタイル、ホームセンター、量販店、商業施設など小売りには全般的に導入されていくと思います。旅行代理店や不動産屋などからも問い合わせがきています。「ダッシュハドソン」はファッションとビューティー、旅行関連などインスタが強い分野との親和性は間違いなく高いです。ビジュアルとして訴求しやすいペットやウェディングなども向いています。

─DXやOMOをサポートするための武器は十分でしょうか。

 今後の方向性は、店舗側のデジタル化に向けていくつかソリューションを検討していて、実店舗における顧客行動解析をサポートしていきたいです。もうひとつは、無人決済や無人店舗を促進するためのPOSやバーコードなど、パーツごとに何がいいのかを検証したいですね。店舗まわりのサポートをしていくべきですし、そのためにリテールコマースの部門を作りました。

─オンライン上での課題は。

 パーソナライゼーションのあり方を再検討していくことになるでしょう。これまではデータをとることからレコメンドが始まっていましたが、これからはクッキーの問題を含めてユーザー自身から情報を入れてもらう必要が出てきます。とるのではなく、ユーザー主導の時代になるため、パーソナライゼーションのためのアルゴリズムも変わっていくと思います。


柏木又浩(かしわぎ・またひろ)氏

青山学院大学経済学部卒。数々のファッション企業やメディア、エンタテインメント事業のデジタル戦略プロデューサーを経て、2012年TSIホールディングスに入社。2014年グループのオムニチャネルEC事業、デジタルマーケティングを統括するTSIECストラテジー代表取締役社長、2016年TSIホールディングスデジタル担当執行役員を経て、2020年4月よりトランスコスモス常務執行役員・リテールコマース総括責任者に着任。NEXT小売の最適化されたDX戦略を描く。

◇ 取材後メモ

TSIECストラテジーからトランスコスモスに転職した柏木常務ですが、TSI時代からEC界隈では数年先を行く欧米の状況に詳しく、常にアンテナを張ってさまざまなツールなどを貪欲にトライアルされる姿が印象的でしたし、数年先の話をよくされていました。そうした姿勢がトランスコスモスでの「HERO」と「ダッシュハドソン」の国内独占販売権取得につながっているのだと思います。
10年前とは比べものにならないほど、さまざまなツールやプラットフォームがあふれる中で、全体を見渡せて先を見通す力のある人がベンダー側にいるということは、変化の激しい小売りやECの事業者にとって心強いのではないでしょうか。

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