寝具メーカーのnishikawa(西川)では、実店舗での販売をはじめ、自社ECやテレビ、カタログなど様々なチャネルを駆使した事業展開を行っており、最近では直販を通じた顧客接点の強化にも乗り出している。また、販路の拡大と並行するように、実店舗を使って眠りに関するあらゆる相談をプロのスタッフが受け付けるアドバイザーサービスの全国展開も本格化。現代日本の“国民病”ともされ、多くの人が悩みを抱えている睡眠問題に対して、商品とサービスの両面から解決を図っていく。同社が描く睡眠市場での新たな成長戦略に迫る。
経一人ひとりに合わせた個別の提案が重要に
通販業界団体にも加入し、情報収集を強化
──現在の寝具市場の景況感について。
大川:コロナ禍の時、やはり私たちのような生活用品に類する商品は通販市場でも伸びましたが、それ以降は消費者も外向きのお金の使い方へと変わってきたため、少し苦戦をしている印象です。とはいえ、テレビやカタログなどを通じて顧客にきちんと価値がお伝えできたものに関しては、しっかりと販売ができています。私たちとしてはやはり価値のある商品を顧客に知っていただき、結果的に販売に結びついていければ良いかと考えています。元々、私たちは実店舗での接客がメインであるため、会社の中でも通販のシェア率はまだまだ1桁台程度かと思います。今後、そこを伸ばしていくことも重要だと思っております。
─そうした中で今春に日本通信販売協会(JADMA)に入会されました。この経緯や狙いについて。
須藤:私たちは各取引先に商品を卸して販売をするというのがこれまでのビジネススタイルでしたが、今後、直接の販売も強化していく流れの中で協会に入会した面があります。
通常、卸先である各取引先の戦略の下でそれぞれのターゲットに向けて商品を提供していますが、私たちが直販を行っていくことで、新しい商品や価格帯などの提案もでき、生活者により接点の拡大が出来るようになるかと思います。また、今回、入会登録したのは会社単位としてではなく、テレビ通販などを直営で行っている部署の「広域戦略事業部第3部」単体です。現状テレビ通販は放映枠が限られた中で行っているため、入会することで放映局が広がり、枠の獲得ができる可能性も増えていくと考えています。
テレビ通販に関しては、過去10年くらい前にも少しは行っていましたが、そこまで大々的なものではありませんでした。2年ほど前にインフォマーシャル事業で直営の通販を始めた中で、協会に入会することの重要性を感じたのです。
後は通販業界の中で接点が拡大することで様々な情報が入ってくるメリットが出てくるかと思います。先日もセミナーがあったのですが、顧客情報の管理や景品表示法に関する内容など、一番鮮度の高い情報を得ることができましたので、企業としても積極的に参加してやっていくべきだと感じています。寝具業界だけの情報ではまだまだ狭いため、様々なジャンルの通販企業から情報を得られることは非常に意義があるでしょう。
近年は「除湿」が注目のキーワードに
──改めて、現状の通販での販路について教えてください。
大川:まず、直営のECがあり、それ以外はすべて卸となりますが、民放や通販専門チャンネルを介したテレビ通販をはじめ、ラジオ、大手総合通販カタログ、EC専業企業、ギフト通販企業などとの取り引きがあります。そのほか、厳密に言えば出店という形にもなるのですが、カード会社やエアライン系の仮想モールでも販売しています。仮想モールについては、寝具関連の出店者に卸販売もしております。社内での通販事業のシェアとして見ると、一番大きくなるのは自社ECの売り上げではないでしょうか。
─それぞれの通販のチャネルで共通しているような売れ筋商品はありますか。
大川:過去には羽毛布団の販売が多かったのですが、昨今は競争が激しくなっています。今の主戦場としてはマットレスや枕で、それが売れ筋になります。マットレスで言いますと、2万円前後の価格帯が中心です。あとは季節商材も人気です。いわゆる、ケット類や毛布、敷パッドなどです。
須藤:季節商品も時代によって少しずつ変化があって、10年前はこの時期に冷感寝具が人気でしたが、今年の春夏商戦では除湿系寝具の方が実は先に動いていて、冷感寝具よりも売り上げがテレビ通販では上がっています。業界的には今は「除湿」が伸びるキーワードに当たるかと思います。
─独自の商品として売り出しているものはありますか。
大川:“お尻のまくら”として販売している「Keepsクッション」シリーズが通販での売れ筋商品となっています。1万円前後の価格で、ECやテレビ通販、総合通販カタログを中心に販売が伸びています。
もともとは、クラウドファンディングサイトで発売して、そのアイデア性などから支持を得て、その後一般販売に乗り出したものです。当社の場合、実店舗での販売がメインで、百貨店などで他の寝具とともに取り扱っても(メインの商品ジャンルではないことから)リアルの販路では一般の消費者に気づかれにくい面もありました。
ところがテレビ通販で展開したところ、寝具以外にもアイデア商品を販売しているという認知を多く得る事ができたのです。実際にテレビ通販を見てから実店舗に来店して試されるケースや、通販サイトに来て購入されるケースがいくつか見られており、各販売チャネルで相乗効果があったと思います。
─布団は年々参入企業が増えているということでしょうか。
大川:特に低単価のところで数が増えています。私達はどちらかと言えば、しっかりと価値のある羽毛布団の販売に力を入れていますので、取り扱う比率で言うと年々低くはなってきています。
コロナ禍を経て買い物の在り方に変化も
─近年の通販事業についてはどのように推移していますか。
大川:全体で見ると微増しています。繰り返しになりますが、コロナの巣ごもり需要において、家の中のものを買い替えるタイミングで実店舗が落ち込んだ半面、通販はかなり伸びました。今はそうした動きがかなり落ち着いてきた状況です。
須藤:世の中で買い物の仕方や考え方が変わってきたこともあるかと思います。当社は各取引先が接客をするという実店舗型の販売を長年行っていて、それは今でも強いです。ただ今は寝装品でのギフト系商材が中々伸びづらくなってきていたり、来店数自体が少なくなってきていることがあります。そうした中で何をするべきかと言うと、やはり、付加価値のある商品として健康寝具やオーダー枕など、一人ひとりに合った商品を提供することが実店舗型には重要だと思います。
さらに、今はスマートフォンも普及していてネットで当たり前に買い物ができるわけですから、当然、そこを強化しないといけません。5、6年前に立ち上げた自社ECであったり、直販のテレビ通販の展開など、そうした様々なところで顧客がついてくれればと思います。
─ECの集客で行っていることは。
須藤:通販サイトに来てもらうための情報発信はかなり強化しています。あとはEC限定商品や企画商品の提供、当社ならではのサービス提案をすることでの特別感を提供することで、しっかりと購入していただけるファンを作ることもしております。
大川:寝具は特に消費の二極化が進んでいる分野だと思います。寝具であればどんなものでも良いという顧客がいる一方で、「睡眠」というキーワードで価値を求められている顧客については、私たちのようなメーカーから直接購入したいという想いが強くあるかと思います。やはり、直接、当社のECで注文して購入したいという人は安心を求めているのでしょう。ですから、中途半端な価格帯や商品は非常に売れにくくなっていくでしょう。
「睡眠の悩み」を「睡眠のプロ」が解決するサービス
─実店舗事業と通販事業の間で見られる連携施策とは。
大川:特に今本格的に展開しているのが「ねむりの相談所」で、これを全国に広めようとしています。今では100店舗を超えており、今後は1000店舗を目指していきます。
結局、睡眠は「悩み事」です。睡眠で悩まれている人は非常に多いですし、どの寝具を買えば良いか分からないという人も少なくないでしょう。そうした人たちが気軽に相談に行ける場所を作ったものです。この考えには卸先の専門店などにも賛同してもらい、睡眠に関する当社の社内資格である「スリープアドバイザー」や「スリープマスター」などを取得してもらった人たちを配置して、顧客の身体に合わせた寝具の提案やアドバイスをしていきます。直営の通販をする上で、こことの連携は不可欠だと思っています。
須藤:実店舗の中に1つのコーナーとして設けるイメージで、当然、商品のもその場にあります。寝つきが悪い人にはリラックスアロマやヨガ・ストレッチなどを教えたり、寝返り回数や眠りが浅い人にはマットレスの紹介、また、眠り方によっては抱き枕を紹介するなど、一人ひとりの睡眠環境や眠りの困りごとをプロの目線からアドバイスしています。また、本格的な睡眠計測を行い、睡眠の見える化も行っております。
大川:ECやテレビ通販などで接点を持った顧客に向けても、それぞれの地域にある眠りの相談所に行ってもらい、悩み事を相談していただくような送客の仕組みを作っていければと思っています。すでに公式通販サイト内にはそうした案内も掲載しております。
通販で得られた反応を商品開発に活用
─現状、テレビ通販ではどのようなペースや尺で露出していますか。
須藤:番組によって異なるため、週に3回の時もあれば、月に5回の時もあります。寝具は気温にも影響される商品のため、時期によっても異なるでしょう。マットレスや枕のように、季節に左右されない商品は売り上げも伸びているので放映回数もかなり増えています。また、放送時間としては、民放ですと15分であったり、通販専門チャンネルでは1時間だったり様々です。
演者として当社の営業担当や商品開発担当が出させていただいておりますが、ここは日々練習を重ねているところです。やはりここでのコミュニケーションによって売り上げも大きく変わりますので。時には外部の実演販売士を招いて勉強することもあり、日々練習することで商品に対する新たな訴求方法の発見もあります。
──対面できない通販において顧客とのコミュニケーションは重要なテーマですか。
大川:元々私たちは卸ですので、卸先に商品を供給したらそこで完結していたという面はあります。今は直販をやる上で、そこから先の生活者に向けてどのような情報を発信していくか、心に響くためにはどのような導線づくりが必要になるのかなどをここ数年で色々考えるようになりました。通販事業の担当者全員で勉強をして、顧客に共感や納得感、安心感を得てもらうように、できるだけ寄り添えるような体制を心がけています。直販の良いところは、顧客からの意見や反応をリアルタイムで見られることです。それらの声は商品開発にも生きています。
─これまでに何か印象的だった顧客からの反応や、商品開発に生かせた事例などはありますか。
大川:例えば、小柄な女性からパジャマの丈は長いことが多いため、袖に(袖口を絞るための)ゴムが入るような穴が欲しいという声に応えた商品を開発したことがあります。また、布団の収納作業が大変だという意見から、布団のプロが考えた最適な収納ができる専用のボックスを作ったこともありました。様々な顧客の声が商品開発に生きています。
健康や美容に向けて睡眠からできる提案を
写真での見せ方にも変化
─これからの通販事業で取り組んでいきたいこととは。
須藤:通販は販促手法が多様化していると思います。例えばこれまではカタログに商品を掲載したら、それで終わりとなっていたような面もありましたが、今はその先でSNSを活用して顧客接点を拡大するためのデジタル戦略も必要になっています。現在、通販部門公式の「インスタグラム」を開始したり、各担当者が自ら動画を制作できるように技術をつけることをしています。さらに、ネットで販売する企業も増えていますので、商品写真1つをとってもウェブ上での見せ方に意識した撮り方を強化しています。商品そのものだけではなく、空間を意識してライフスタイルに合うブランドを提案していきます。
─「空間」を見せるとは、具体的には。
須藤:これまで商品単体だけしか写していなかったものを、利用シーンも含めて見せるようなことです。今は寝具を一つのインテリアとして購入を考える人もいます。例えば、毛布などはその柄だけを見て買われていたものが、今は「部屋の空間の中の一つ」という考え方にもなっています。顧客自身が自分のライフスタイル全体の中で合うか合わないかを見ているのではないでしょうか。商品単体ではなく(背景も含めた)空間全体、そして使用イメージを想像できるような撮り方が必要なのだと思います。
あとは、生活者の声をどれだけ生かせるかです。商品開発をする前からどれだけ生活者の声を拾うようにしていけるかというところも強化しています。今までは「機能」寄りでの開発が多かったのですが、ちょっとした悩みや問題を解決するような「生活者共感軸」での開発も進めています。
─動画制作ではどのような場面で使うものを想定していますか。
須藤:ウェブにアップできるような動画です。世の中的に、今はインスタグラムや「TikTok」などSNSが盛んで、個人が動画をアップしてシェアするという流れが高まっています。商品についてガチガチの説明を行っているような内容ではなく、見たら「この商品興味があるかも」、「この商品をちょっと使いたいな」と思えるような動画を作ることに取り組んでいます。先ほどのカタログの話にもつながりますが、誌面上の静止画だけではなく、ウェブ上に動画を掲載することで、商品の魅力をさらに伝えることで出来るかと思っております。
また以前、ある化粧品会社が寝具を販売するという企画の中で、先方のインスタライブを一緒に行いました。「眠り」と「美容」には深い関係性がある中、当社の商品を取り扱いたいとのお声がけをいただいたものです。インスタライブの中では商品だけではなく、睡眠の大事さも伝えさせていただきました。質問もその場で対応することで納得して購入してもらえるようにもなるため、(静止画以上に)成約率も高まり、顧客満足度も高まったかと思います。言葉での伝える重要性を感じました。
直販を通じて顧客との距離を縮める
─社内での通販事業の位置付けや、期待されている役割とは。
大川:実店舗での販売について、今は縮小傾向に入るのかなとは思っていますので、ここだけでこれから大きく伸ばしていくということは難しいため、やはり通販でのシェア拡大は期待されていることだと思います。もちろんそれは、直販のECだけではなく、卸先のカタログやテレビなども含めての話です。今は、既存の倍くらいの規模まで伸ばすことを目指しています。
また、大事なこととして直販も強化はしていきますが、当社が積極的に前にどんどん出ていって直販事業ばかりを広げていこうとしているというわけではありません。既存の卸先とは今まで以上に取り引きを拡大させていかなくてはいけないということがまず大前提としてあります。直販についてはそれとは別に、そこではできていないことをする場所としてあるものだと思っています。
今の卸先は顧客との距離が非常に近いところが多いです。それぞれが抱えているロイヤルカスタマーに対しての提案も非常にうまく行われています。(提供できる)商品の数や価格帯が限られているという面もあるかと思うのですが、逆に言えばしっかりと顧客のことが見えているということなのでしょう。
今後ますます高齢化が進む社会で、いかに健康で、かつ、医者にもかからずに過ごすことができるかということは睡眠からも提案できる部分があるはずです。もちろん、病気になってからではなくて、予防も含めての話です。女性に対しても(美容面をはじめとする)提案をしていくことも大事です。
だからこそ、商品を売るだけではなく、サービスも重要になるということです。先ほど申し上げた「ねむりの相談所」に来てもらって、眠りの質自体を改善してもらうということもそうした取り組みの一つでしょう。こうしたことも含めて、色々と広がる動きの中で、私たちは顧客と近い位置にありたいと考えています。
須藤健二朗(すどう・けんじろう)
1980年生まれ。2002年に西川産業(現:西川株式会社)に入社。百貨店営業を担当後、営業戦略室に異動。キャンペーン企画立案、CM・店頭動画などの映像制作、販促戦略などの業務を担当。2022年より通販業態の運営担当として、商品開発・販促や新規事業の立ち上げを行う。
大川裕史(おおかわ・ひろふみ)
1971年生まれ。1994年大阪西川(現:西川株式会社)に入社、商品部門にて商品開発・仕入業務に携わる。量販業態営業などを経験した後、通販業態営業を担当。西川3社統合後の直近についても商品部門・通販営業部門を担当。現在引き続き通販業態に在籍。
◇ 取材後メモ
老舗の寝具メーカーとして、長年、日本の睡眠関連市場を支えている同社ですが、時代とともに細分化される消費者ニーズの変化に合わせ、定番の布団類以外にもマットレスや機能性のクッションなど独自商品の開発が幅広く進んでいます。とりわけ、マットレスに関しては、メジャーリーガーの大谷翔平選手が出演しているテレビCMを目にしたことがある人も少なくないのではないでしょうか。日本橋にある東京本社のエレベーターロビーには、大谷選手のユニホームやパネルが飾られるなど、両者のパートナー関係の深さが窺えます。引き続き拡大が見込まれる「スリープテック」市場ですが、今後、どのような独自目線を持った企画を打ち出していくのか、非常に注目されるところです。