新型コロナウイルスに翻弄された2020年。コロナ禍はEC市場にも大きな影響を与え、巣ごもり消費や新規参入者の増加、置き配の浸透などでEC市場全体にとっては追い風ともなった。コロナの影響で生じた新たな潮流のほか、今後の市場の行方を左右しかねない大手EC、モール各社の新たな動きなど2020年におけるEC業界の10大(重大)ニュースを振り返る。(※ニュースおよび順位は本誌編集部が独断と偏見で選びました)
2020年EC業界10大(重大)ニュース
- 新型コロナウイルス感染拡大がECに追い風
- アパレルのECシフト顕著に
- コロナ禍で置き配が浸透
- 楽天市場が「送料無料ライン」を導入
- アマゾンの協賛金問題にメス
- プラットフォーマー規制に動き
- ライブコマースに再注目
- ネット広告が抱える問題、ステラ漢方事件で露呈
- 「ドコモ口座」で不正出金被害
- 「auPAYマーケット」が始動
1位 新型コロナウイルス感染拡大がECに追い風
2020年は全世界が新型コロナウイルスの感染拡大への対応を迫られる年となった。日本においても4月に緊急事態宣言が発令。実店舗が短縮営業や休業を余儀なくされ、さらには外出そのものを敬遠する傾向も広がっていった。
こうした中で、自宅において生活必需品や食料、娯楽用品などを通販で購入する消費者が急増した。特に、ネット販売は大きな恩恵を受けた格好だ。仮想モールでの販売が巣ごもり関連商品を中心に好調となったようで、楽天市場では今第2四半期(4~6月)における国内EC流通総額(楽天市場や楽天ブックス、楽天トラベルのほか、オークションやチケット販売、ダウンロードなども含む)が、前年同期比15.2%増の1兆309億円と伸長。「ヤフーショッピング」でも今年上半期(1~6月)は、美容家電や健康器具といった自宅での使用を想定した商品の売れ行きが良かったという。「auPAYマーケット」においても、流通額は上期平均で前年同期比約80%増となった。
特に感染拡大が始まった時期に爆発的に売れたのは、マスクや消毒液などの衛生用品だ。「品切れになる」などの不安からトイレットペーパーなどが品薄状態に。アスクルが運営する日用品通販サイト「ロハコ」では、新型コロナの報道が出始めたあたりからマスクや消毒液、除菌シートなどの衛生用品の売れ行きが急増。2月下旬以降は連日、前日の日商を1.5倍以上増えるなど、注文が殺到したという。そのため、出荷残を解消するために3月4日の午後3時から2日間、アスクルが仕入れ販売する直販商品の注文を停止する異例の措置をとった。
国全体でマスクや消毒液が品薄となり、入荷されたドラッグストアには連日長蛇の列ができた。ネットではオークションサイトやフリマアプリにおいて、これらの商品を高額で転売する人が続出。各社仮想モールにおいても、通常価格を大きく上回る、法外な価格でマスクや消毒液を販売する店舗が相次いだ。こうした事態を受けて、政府は国民生活安定緊急措置法を改正し、マスクや消毒液の転売を規制した(現在は解除)。
また、休業を余儀なくされた飲食店が「BASE」などのASPカートを使ってネット販売に参入するケースが目立つなど、実店舗からネット販売へのシフトが大きく進む1年となった。
寸評:コロナ禍はあらゆる分野でデジタル化を促した。まだ一桁だった日本のEC化率も急速に拡大しそう。
2位 アパレルのECシフト顕著に
新型コロナの影響から実店舗の休業を経験したアパレル各社にとって、2020年はECシフトに大きく舵を切った年となった。
各社とも実店舗休業中はEC利用に向けた販促強化や、ECチャネルへの在庫集約を実施するなどしてEC売上高を大きく伸ばした。自社EC強化に向けては、LINEやインスタグラムなどを使ったオンライン上での接客で既存顧客とのコミュニケーションを図ったほか、ライブコマースに取り組む企業も増えた。
また、店頭スタッフが自身のコーディネートを投稿する自社ECのコンテンツを強化する目的で参加スタッフを増員したり、EC部門へ人材を配置転換するアパレルもあったほか、EC専用商品の開発にも力を注いでいる企業も多い。コロナによる店舗休業は一時的だったものの、各社は店舗再開後もSNS活用を継続的に強化している。
加えて、これまで自社ECを持っていなかったカジュアル衣料大手のしまむらも10月にオンラインストアをオープン。国内に1400店以上を構える実店舗の強み生かし、既存の店舗向け物流網を利用して送料無料で届ける「店舗受取り」サービスを軸に“ローコストEC”を展開する。一方のユニクロは20年8月期の国内EC売上高が前年比30%増の1076億円となり、初めて1000億円を超えた。
アパレル各社は外出を控えた人のEC利用が増加する中で、外部ECモールへの出店も強化しており、実際に各ファッションECモールで出店ショップ数が伸びている。一時は有料会員向けの常時割引施策でショップ数が減少したこともあった「ゾゾタウン」も勢いを完全に取り戻しており、オンワードグループは8月下旬に「ゾゾタウン」へ再出店したほか、エドウインも出店を再開している。
こうした状況から、アパレル各社のEC売上高およびEC化率は軒並み上昇。とくに主要アパレル企業のEC化率は10%台がほとんどだったが、20年8~9月に中間決算を迎えた企業では、ユナイテッドアローズが37%、オンワードグループが35%、TSIホールディングスが34%、アダストリアが33%、三陽商会が24%、バロックジャパンリミテッドが23%などとなり、各社とも大きく伸ばした。
寸評 コロナ禍でECシフトが加速したが、大量の店舗閉鎖も計画されており、継続的なEC強化が不可欠だ。
3位 コロナ禍で置き配が浸透
新型コロナウイルス感染症の拡大で、非対面でEC商品を受け取るというニーズが高まり、置き配が広く浸透することになった。もともと再配達削減を目的に置き配に対する関心は高まっていて、アマゾンジャパンが積極的に推進するといった動きなどもあったが、コロナ禍にあって受取側にとって安全・安心が担保でき、また配達側においても再配達回避ができるメリットから広く普及することになった。巣ごもり需要でECの利用は大幅に増えているが、外出自粛から在宅率が高まったことも相まって、置き配の普及で再配達率は大きく低下するようになっている。
また大手の宅配便事業者では、以前から日本郵便が積極的に行ってきた。一方、消極的と言われていたヤマト運輸も臨時に置き配に対応し始めるとともに、6月にはEC向けの新配送「EAZY(イージー)」を開始し、本格的に置き配に着手。さらに佐川急便も5月半ばから正式に開始した。
寸評 置き配が一段と普及するとなると、盗難などの対策の必要性も高まると見られる。
4位 楽天市場が「送料無料ライン」を導
楽天では「楽天市場」において送料無料となる購入額を税込み3980円で全店舗統一する施策「送料無料ライン」を20年3月18日に導入すると発表した。これに対し「店舗に一方的に負担を押し付けている」として一部店舗が反発。任意団体「楽天ユニオン」は1月22日、公正取引員会に対して独占禁止法の排除措置命令を求める措置請求書を提出した。公取委でも調査を開始、施策が出店者に不利益をもたらすとして2月28日に緊急停止命令を申し立てる事態となった。楽天ではコロナ禍が店舗に影響を及ぼしていることなどを鑑みて3月6日、施策の全店舗への一律導入を見送ると発表。これを受けて3月10日、公取委も緊急停止命令を取り下げた(調査は継続中)。同社では、現段階においては施策の強制化はしない方針を明らかにしているが、施策を導入しているのは全店舗のうち約80%、導入店舗の売り上げも伸びていることから、今後も施策への参加を呼びかけていくという。
寸評 一般紙やテレビでも大きく取り上げられた同施策。今のところは流通額増の後押しになっているようだ。
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