細田 知宏●JR東日本事業創造本部新事業創造部門新領域UTマネージャー・統括

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リアルのアセットを持つ強みを生かす

 東日本旅客鉄道(JR東日本)では、運営する仮想モールの「JREMALL」において、鉄道事業ならではのリソースを活用したOMO施策などを展開している。新規出店者数の拡大とともに、取り扱い商品数も増加しており、流通総額は右肩上がりの成長を見せる。コロナ禍で鉄道事業を巡る環境が大きく変化する中、同モール運営チームの責任者である事業創造本部新事業創造部門新領域UTの細田知宏マネージャー・統括が描く、今後の成長戦略とは。

モールの流通総額が前年の約3倍に拡大

鉄道ならではの「コト体験」が人気に

─現在の「JREMALL」での取扱商品数を教えて下さい。

 11月末現在で約14万点(前年の10月時点では約2万2000点)となり、モールへの出店者数は約170店舗(同74店舗)、2020年からモール内で始まったふるさと納税については約135自治体が参加しています。グループ会社の出店は依然として増えていますが、グループ外からの出店も非常に増えている状況です。

 グループ内では2021年においてJR東日本が持つ12支社がそれぞれ直営店舗を出店しました。グループ会社では地産品などを扱っていますが、支社で一番多く扱っているのは鉄道体験コンテンツです。一例として、車両の撮影会や、お仕事体験ツアーなど、「コト体験」があり、これらは非常に大きなヒット商品となりました。また、グループ外からの出店では、2020年に提携した千趣会が3月に出店したほか、(NTTグループの)ひかりTVショッピングなども出店しています。

─新規出店者の開拓手段は。

 基本的に自分たちで行っています。一番多い顧客が(グループの共通ポイントサービスである)「JREポイント」を保有している人達ですが、以前はそのポイントを交換する際に欲しいものがないというケースもあったため、そういった状況にならないよう家電や日用品、雑貨などベーシックなアイテムを揃えていくことは、2021年に非常に注力したところです。

─取扱商材が広がったということですか。

元々、食品やお取り寄せ品は強くて、そこは変わらず伸び続けています。新たなところでは生活雑貨類などの商品点数が増えて売り上げが伸びています。キッチン雑貨であったり、生活雑貨、家具、日用品などがあります。
2021年で言うと、お節料理が引き続
き堅調で、9月から受注を始めて現時点(11月末)で前年の1.5倍は販売しています。そのほか、2021年は「Suicaペンギン」の誕生20周年でもあり、クッキーやケーキ、パスケース、ハンカチなどの関連グッズが相当数売れました。

─「コト体験」は鉄道会社ならではの差別化商品となります。

お仕事体験は親子での参加であったり、写真撮影にはコアな鉄道ファンが参加している印象です。前年から(コロナ禍で)オンラインツアーが話題となっていて実際に当社でも販売していますが、他社には提供できない体験の提供を考えると、やはり(リアルで展開する)普段は立ち入ることができないような車両工場や、鉄道ならではの「車掌」のお仕事体験などだと思います。これは全社的な盛り上がりを見せていて、各地の車両センターや運輸区、駅などが手を挙げてくれたことで夏頃から急速に商品化が進みました。

─従来の鉄道イベントとはまた違った内容なのでしょうか。

 コロナ以前もシミュレーター体験や車両基地の見学ツアーなどがありましたが、それにもう少し色々なメニューを組み合わせて商品化したものが今回の特徴です。メニューによって、数十人規模であったり、絞りこんだ人数で行う場合があります。(人数が限られた)予約制なので、申し込み者に対してより丁寧に案内ができます。車両関係の大規模なイベントがコロナで開催できないこともあり、その代わりとなっている面もあるでしょう。価格帯としては5000、6000円~2、3万円程度などが多いです。

─現状のモールの流通総額については。

 前年の同時期と比べて、流通総額は約3倍程度になっています。千趣会が入ったということも大きいと思います。会員数については46万人となり、前年の同時期は30万人程度だったので、約1.5倍に増えました。やはり、JREポイントの保有者が一番増えています。「ビューカード」や「スイカ」、駅ビルで使える「JREポイントカード」の利用者などがいます。

駅にショーケースやカフェを開設

─モールへの集客のための販促活動については。

 当然、ウェブマーケティングなどは行っていますが、(独自の内容としては)大きく2つあります。まずは、JREポイントの保有者への訴求として、セール情報などをメルマガで配信しています。また、タイアップ企画として、ビューカードから利用者に向けて案内してもらう場合もあります。

 もう1つが、駅というリアル施設を持っているため、そこでの訴求は大きいと思います。11月からは、山手線内を中心に20駅でショーケース型店舗の「JREMALLCar」の設置を開始しました。そして、11月30日にはJR横浜駅構内に、ショールームとカフェが一緒になった複合店として「JREMALLCafé」も開設しています。駅の中でモールの入り口を増やしていくことが2021年の大きな取り組みとしてありました。併せて駅社員にも協力してもらいながら、入会キャンペーンも各駅で展開しています。交通広告とも並行してリアルに入口を作っているという形です。

─JREMALLCarで展開している内容とは。

 ショーケースについては人気商品や旬の商品を置いています。商品についてはそれぞれにQRコードを付けており、そこからモールに入って購入することが可能です。(利用者が)どこの駅でQRコードを読み取ったかが分かるようにもなっています。また、それとは別にショーケースごとにクーポンが手に入るQRコードも付けており、簡単なアンケートに答えてもらって1000円分のクーポンをプレゼントするような企画も行っています。

─利用者からの反響としてはいかがでしょうか。

 まずは東京駅で開始したのですが、かなり立ち止まってもらえている印象を受けます。今(11月末現在)は「Suicaペンギン」の20周年記念をショーケースの中で打ち出しておりますが、見てもらえる顧客は増えています。モールへの流入は間違いなくあり、そこでの購入も見られています。東京駅のショーケースについてはオンラインでオペレーターともつながっていて会話ができるようにもなっています。日中の時間帯でタブレットを通じて、ショーケース内の商品説明やQRコードからの買い物の仕方などを案内しています。今後は順次、山手線以外にも拡大していく予定です。

─JREMALLCaféも新しい業態ですが、こちらで展開される内容については。

 カフェについては2週間ごとに企画を変えていくもので、例えば「新潟県のふるさと納税特集」という内容であれば、新潟県の自治体の返礼品をショールームとして置いていき、QRコードからモールで申し込むことができます。また、カフェの方でも(特集で置いている一部商品について)簡単な加工食品などはイベントメニューとして提供しています。

─体験型という観点での取り組み内容は。

 店内にあるモニターを通じて、土日を中心に現地の人とオンラインでつないでワークショップを開催することもあります。新潟であれば組子細工の紹介や酒蔵ツアーなど、横浜のカフェの中から生産地や販売者と直接つながることができる体験型のショールームとなっています。また、店前ではポップアップショップも設けているため、企画と連動した商品がその場で買えるようにもしています。顧客に対してお知らせもするし、モールとして集客もする、ショールーミングもするというシームレスな形となっています。

本当の意味でのOMO シームレスなサービスを

千趣会との相互送客にも着手

─モールとリアルとの連携が順調に進んでいる印象を受けます。

 「エキュート」や「グランスタ」といった駅の商業施設で商品受け取りの予約ができるサービスの「ネットでエキナカ」もモール内で展開していますが、今回、ロッカーでも商品を受け取れるようにしました。以前は予
約した店に行って受け取る形でしたが、それに加えて、(店が)営業時間外であってもロッカーを使うことで受け取れるサービスとなっており、12月から開始しています。

 やはり、「駅」という生活導線上にある施設を持っていることは大きいでしょう。駅もロッカーも店舗もあらゆる空間が、モールへの入り口や受け取りに使えるということです。

─2020年に提携した千趣会との相乗効果については。

 東京駅に常設で「ベルメゾン」の実店舗を2つ開設しており、その中でOMOの仕組みを作って、駅受け取りや(駅コンビニの)「NewDays」でのEC購入商品の受け取りなど色々とトライアルを始めています。

 また、商品がモールでも買えるということだけでなく、気に入った情報をストックすることができる「MYLISTSHOPPING」という機能も新たに入れています。これは、リアルからどれくらいウェブに遷移して購買したかが計測できるもので、アプリから商品バーコードを読み込めるようになっており、モールでの購入だけでなく、情報としてストックし、検討できるようにもなっています。

─千趣会の存在はモール全体の売り上げにも好影響が出ているのでしょうか。

 出店した「ベルメゾン」の売り上げが着実に伸びてきていることは大きいと思います。また千趣会ではリアルの常設店の出店で、OMOのトライアルも含めてお互いに色々と試すことができていることも大きな成果です。これ以外にも、品川駅や八王子の駅ビル、最近では青森や仙台など様々な場所で(千趣会に)催事を行ってもらっており、ECだけでなくリアルでの連携もかなり高まってきました。

 やはり、長年、通販業界でやられていた会社なので、そこでのマーケティング力はこのモールにはなかったところだと感じています。また、タイアップ企画で千趣会の顧客にモールへの案内メールを出してもらったりなど、少しずつ(相互送客に向けて)取り組んでいます。千趣会は商品開発からマーケティングまで一貫して持っているので、今後もモールや商業施設などで新しい商品や業態を一緒に立ち上げることができれば、面白い取り組みとなるのではないでしょうか。

─今後のECでの計画や目標について教えて下さい。

 2025年にJREMALの取扱額として1300億円を目指しています。これは数字を達成すること以上に、これくらいのボリュームのサービスをデジタルのプラットフォームを通じて提供できているということが、沿線に住んでいる人達へのサービスアップにつながると思っています。

 足元で言いますと、私たちはECサイトそのものとしての実力をもっと高めないといけないので、アイテム数を増やすことであったり、その中でもJREMALLならではの特徴のあるものを開発する必要があります。

 また、UIの改善ももっと行わなければならないでしょう。もちらん、我々が持っているリアルとしての接点をもっと増やして、本当の意味でのOMO、シームレスなサービスを提供し
ていきたいと思います。

─他の仮想モールとの差別化となるポイントとは。

やはりリアルのアセットを持っているという強みを生かしていきたいです。それができないと、鉄道利用者へのサービスアップにもつながらないと思います。結果的にそれが差別化の要素になるのではないでしょうか。


細田知宏(ほそだ・ともひろ)氏

1972年生まれ。1997年東日本旅客鉄道入社。入社以来一貫して駅ビル事業の分野を歩み、商業施設の開発や運営に携わる。直近では2019年開業のプレイアトレ土浦にて、サイクリストホテルへの業態転換を推進。2020年4月JR東日本に復帰。復帰後はJREMALL事業の推進を担当。

◇ 取材後メモ

仮想モール事業としては後発での参入となるJREMALLですが、「鉄道」「駅」という生活者にとって欠かすことのできないインフラと連携できることは非常に大きな魅力となります。リアルからECに送客するという点では、これ以上に差別化できる武器はないでしょう。今回の話にあったショーケースやカフェなどはその最たるものですが、DX化のアイデアが軌道にのると、その取り組みメニューはさらに広がることが予想されます。鉄道利用者に寄り添った、新しいコンセプトを持つモール運営の行方に今後も目が離せません。

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