「アフィリエイト広告」執行強化へ方針固まる――広告主、外部委託の表示管理強化へ

 

消費者庁が21年6月に始めた「アフィリエイト広告に関する検討会」の方向性が固まりつつある。消費者庁は、アフィリエイト広告について、広告主の責任の周知を図り、景品表示法による執行を強化する方針。販売・製造者にとどまらない商品・サービスの「供給主体性」の解釈を明確にし、一体的に事業活動を行う関連事業者の規制も見据える。一方、アフィリエイト広告にアフィリエイター、広告代理店、アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)など複数の関係者が絡む構造であることから、「表示主体者」の解釈拡大に踏み込む事態も想定された今回の検討会だが、〝何人規制〟など、景表法の適用範囲が大きく変わる大改正は見送られる公算が大きい。

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「執行強化」「管理強化」「情報共有」で適正化

検討会は6月の初会合から月1回のペースで開催。傍聴非公開の3回のヒアリングを挟み、21年11月、第5回会合が行われた。

 消費者庁は年末開催の第6回会合で、報告書案を提示。合意が得られれば年内から年明けにかけて報告書をまとめる。

アフィリエイト広告規制については、「問題のあるアフィリエイト広告に対する執行強化」、「広告主によるアフィリエイト広告の管理強化(未然防止)」、「関係者による情報共有体制の構築」の3点をポイントに進める。

海外はすでにASP等への措置例も

 アフィリエイト広告規制は、すでに欧米で先行事例がある。

 米国は、連邦公正取引委員会FTC)が連邦取引委員会法(FTC法)で不当表示を規制する。対象は「人、パートナーシップ、企業」などいわゆる〝何人規制〟。訴訟提起による広告差止め、是正措置や制裁金、行政措置がある。

 健康食品の減量効果表示をめぐり、アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)が広告主、アフィリエイターらとともに処分された事例がある。その際、ASPがアフィリエイターの行う欺瞞的な表示を〝知っていた〟ことなどから判断。同様に広告の最終的な承認・修正権限を有していることで、広告主が責任を問われた事例もある。

英国は、英国競争市場局(CMA)が不公正な取引方法からの消費者保護規則(CPRs)で不当表示を規制する。対象は、トレーダー。基本は広告主だが、委託を受けてフェイクレビューを行った広告代理店など、消費者と直接取引関係にない事業者も対象になりうる。裁判所を通じた措置命令や確約により対処。ASPを対象にした確約事例もある。広告主の責任は、米国同様、確認・修正権限がある場合や、テーマ、投稿日時・回数の指示等から判断される。

海外の不当表示規制の概要

 また、英国は、自主規制の取り組みとのすみ分けも進む。CMAが社会問題化するような事件で方針を示す一方、自主規制機関である広告基準機構(ASA)の広告委員会(CAP)が、消費者の苦情をもとに調査や措置を実施。問題のある表示の迅速な是正を行う。対象は、広告主だけでなく、代理店、媒体社、ASPなど。アフィリエイターに表示の是正を求めた例もある。

 このほか、中国は「広告主」、「広告代理店や媒体社」、「広告推奨者」などステークホルダーごとに禁止行為を規定して広告規制を行っている。

 こうした諸外国と異なり、日本の景表法は、その規制対象を商品・サービスの「供給者」に限定している。

 アフィリエイト広告は、広告出稿プロセスにASP、アフィリエイターが絡む。このため、責任逃れをする広告主がいた。ASP、アフィリエイターにも遵法意識が醸成されにくかった。

「供給主体」の解釈明確化・周知へ

ただ、消費者庁は今年に入り、連携共同して事業活動を行うなど、実態を重視した法執行を行っている。

 21年3月には、広告素材の提供、内容の合意など確認・修正できる権限があることを前提に、アフィリエイト広告を対象に初めて広告主の責任を認定した。同11月には、インスタグラム投稿のハッシュタグ等を指示していたとして、共同で事業運営していた販売者、実質的な業務を受託していた2社を景表法で処分した。

 消費者庁は、「供給主体性」の解釈の明確化、周知を図り、意図的に問題ある表示を行う広告主、共同で事業活動を行う事業者も対象になりうるものとして法執行する。対象は、いわゆるASPだけでなく、プラットフォーマーに及ぶ可能性もある。

 ただ、景表法の措置は、「優良・有利誤認」の是正にとどまる。法人の清算・設立により、違反行為を繰り返す事業者もいる。特定商取引法の業務停止命令、個人を対象にした業務禁止命令を活用しつつ、規制の実効性を確保する。

「何人規制」など法改正は見送り

一方、「何人規制」など、景表法の規制対象の範囲を拡大する法改正は見送られる公算が大きい。検討会でも学識経験者から「景表法の措置は表示是正など限定的。柔軟な措置が可能な海外法と異なるため、措置内容の議論が必要」との指摘があった。消費者サイドの複数の委員も業界自主規制の先の将来的なステップと捉え、今後の検討課題として継続的な議論を求める。

外部委託の管理指針を策定へ

 未然防止の観点から、意図的とは言えないものの問題ある広告を行う事業者は、景表法第26条「事業者が講ずべき表示管理上の措置」の運用強化で対応する。

 同条は、メニュー表示偽装問題を受け、景表法の14年改正で導入。消費者庁は、コンプライアンス体制の構築に向け、社内に「表示管理責任者」を設置することなど、具体的な措置を指針で示す。

 ただ、現行の指針は、社内体制の整備が中心。アフィリエイト広告など第三者投稿の「外部委託」の管理措置の詳細は示されていない。検討会と並行して行った実態調査でも、企業間でアフィリエイト広告の管理にばらつきがある実態が浮き彫りになっており、指針を改訂して充実を図る。

 消費者サイドの委員からは、広告データの保存、問題のある広告を確認した際のアフィリエイターに対する是正要請・委託契約解除等の措置、苦情対応窓口の設置などを求める声がある。また、アフィリエイト広告に「対価を得た広告である旨」の表示も検討される。

 膨大な数の広告のデータ保存は、企業のコスト負担が大きい。また、ASPには、広告主を直接関与させないことで信頼性を担保するなど、広告主の管理に限界があるものもある。一律の措置ではなく、実効性を踏まえ慎重な検討を求める意見もあった。

情報共有体制構築で悪質層排除

 アフィリエイト広告の2020年度の市場規模は、約3258億円に達する見込み。21年以降も拡大するとの予測がある(矢野経済研究所調べ)。約1万1000の広告主が利用し、広告数は約600万サイトあるとされる。

 問題が多い健康食品、化粧品関連では、広告主が数百から数万の提携サイトを管理する。データ保存は技術的に可能だが、細部の変更も含め頻繁に内容は変更されるため、保存データ量やコストが膨大になり、個々の事業者では限界がある。媒体社やプラットフォーマーも巧妙に大量の不適切な広告を出稿する事業者への大量に苦慮している。消費者の誤認を生じさせたあとで変更される可能性もあり、広告主、ASPが問題のある広告を特定することも難しい。

 また、国民生活センターの「PIO-NET(パイオネット)」に寄せられた、通販の定期購入トラブルの相談件数は約5万件のうち相談数の多い10社で全体の約半分を占める実態などが明らかになっている。意図的に悪質なアフィリエイト広告を運用する広告主、ASPはごく一部。表示適正化には、法執行と情報共有体制の両面から悪質な広告主の排除を進める必要がある。

 情報共有体制の構築では、機能としてASP等による業界自主ルールの策定、広告データの保存・共有、悪質な広告主の共有・排除等の役割を求める声があった。膨大な数のクリエイティブ審査に限界がある。悪質事例が蓄積され、判断する頃には十分な売り上げをあげ、別の顔で取引を始める」(日本インタラクティブ広告協会・柳田桂子事務局長)といった意見もある。官民連携で機動的な対応が行えるかがカギになりそうだ。

 「供給主体性」の解釈周知による広告責任の明確化は、すでにプラットフォーム規制でも言及されている。ウェブを中心に広告・マーケティングの複雑化が進む中、さまざまな立場から広告に影響を与える事業者に対する規制は今後も強まることが予想される。

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