田道祐樹●ジャパネットブロードキャスティング代表取締役社長

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テレビ業界を元気にできる尖ったテレビ局へ

 ジャパネットグループは3月27日、BS放送局「BSJapanext(ビーエスジャパネクスト)」を開局した。「世の中に埋もれているモノ、サービス、考え方、音楽やスポーツ等のコンテンツ、地域の魅力を広めていくことで社会に貢献しつつ、より深く鋭くリアルさを追求する番組を届ける『必要とされる放送局』を目指す」との方針を掲げる同局を運営するジャパネットブロードキャスティングを率いる田道祐樹社長と同社取締役でジャパネットホールディングスの髙田旭人社長が描く「BSJapanext」のこれからとは。

番組と連動するアプリを軸に視聴者と繋がれる世界を作る

「とてもワクワクしている」

─「BSJapanext」が開局しました。通販番組の制作はノウハウがあると思いますが一般番組、ましてテレビ局の運営はかなり異なります。不安はなかったですか。

 ジャパネットでは何か新しいことを始める際には先にやることを決めて理想を掲げ、それからやり方を考えてきました。今回に関しても正直、あまり心配はなかったです。また、開局に向けてしっかりと準備も進めてきました。私達の考え方などに共感してもらえた有名な番組など色々な番組をこれまで作ってきたディレクター、プロデューサーなど60名程度のメンバーを採用し、しっかりとしたチームもできており、クオリティに高い番組を制作できる体制です。想像していた理想の形でスタートが切れたと思います。ジャパネットらしいテレビ局を作っていきたいです。とてもワクワクしています。

─どのような番組を制作、放送していくのでしょうか。

 様々な番組を制作、放送していこうと思っています。例えば、(長年、朝日放送テレビで放送され)昨秋で最終回を迎えたクイズ番組「パネルクイズアタック25」を、司会を務めていた谷原章介さんを再び起用して毎週日曜日午後1時から放送します。また、毎日午後9時から1時間の帯で国分太一さんら曜日ごとに異なるタレントを起用してそのタレントさん本人がやりたいことを行う番組も放送していきます。ジャパネットグループの2つ目の事業の柱である地域創生に関連しまして、月~金の午後には旅番組も放送していきます。月曜は北海道・東北、火曜は関東甲信・東海・北陸など曜日ごとに旅をする地域を変えつつ、番組に合わせて、その地域でしか放送されていないローカルCMを流したり、当該地域のローカル局から購入した番組を夕方に放送したりなど地域色を出していきます。

 自社制作番組以外ではファンも多いジャンルだと思うので韓国ドラマを購入して放送する。月~金および週末に当該週に放送した話をまとめて放送する形だ。また、幅広い年齢層にリーチしたと思っているので「スポンジ・ボブ」「ハイキュー!」「ベイビーシャークのわくわくショー」といったアニメも放送していきます。

最短2クリックで商品買える

─放送局としては後発です。他局と比べての強みや特徴は。

 1つは番組とアプリ「つながるジャパネット」との連動です。私はよく旅番組を見ている時に出演者の方がおいしそうに食べているものをみると、それをネットで検索して調べたり、購入したりしてしまうのですが、そういう方も多いと思います。ただ、検索するにも時間や手間がかかるし、アクセスが集中しすぎてなのか、目的のウェブサイトを閲覧できないこともあります。

「つながるジャパネット」は現在、放送している番組と連動しており、例えば、旅番組で紹介したご当地の食品などの紹介がアプリのトップ画面に表示され、あらかじめ登録いただいていれば最短2クリックで商品を購入できる仕組みです。もちろん、モノを紹介、販売する機能ではなく、番組へのコメントをリアルタイムで投稿したりなど様々な機能があります。番組内で気になっている商品がすぐに購入できたり、番組を見ながらみんなで意見交換ができたりなどアプリを軸に視聴者の方々と繋がれる世界を作っていきたいです。

─アプリで番組紹介商品を販売する取り組みはどの程度やっていくのでしょうか。

 全体の番組編成として3割は通販番組、7割は一般番組を放送していきますが、通販番組ではすべて連動させてやっていきます。一般番組についてはすべて実施するわけでありませんが、例えば先ほどの旅番組では行います。オンエア上では「アプリで購入できる」と一部、告知もします。あとはアニメでも、関連グッズの販売を行います。収益性の問題もあり、できるものとできないものがありますが、究極的には番組で登場したすべてのものが買える世界になれば最高です。

商品をじっくり紹介する番組に

─「BSJapanext」で放送する通販番組は地上波などで放送しているジャパネットの通販番組と違いは出していくのでしょうか。

 地上波などで放送する通販番組はテンポよく商品を紹介するスタイルが多いですが、BSの視聴者の多くはゆっくり番組を楽しんでいる方が多いと思いますので、1つの商品の特徴をじっくりと紹介、深掘りしていくような番組が増えていくと思います。

─具体的には。

 地上波などで放送する通販番組の場合、当然、媒体効率を考えますので、本当は伝えたいことが10個あるとして、その中の3~4個に絞り込んで、限られた尺の中でいかに効率よく商品の魅力を伝えられるか、というところに取り組んできたわけですが、BSJapanextでは自社放送局ということもあり、媒体効率よりも商品の様々な良さを伝えたり、特徴を深掘りして紹介していきます。例えば、掃除機を販売する際にはとことんゴミを吸う実演をしてその吸引力などをじっくりと見せたり、炊飯器では様々な機能をそれぞれ紹介するなどですね。

─通販番組は収録ですか。生放送もやりますか。

 収録がほとんどですが両方やっていきます。月~金の午前10時から30分間と午後3時から30分間、合計1時間は生放送をします。午前の枠では先ほど説明したように商品をじっくりと説明していきます。午前の枠ではこれまでネット販売限定で行ってきた商品購入者を募り、購入希望者数があらかじめ設定した目標数に達した場合に販売する「購入約束型みんなで買いまショッピング」を番組としてアプリと連携させながらやっていきます。

リアルさを追求する

─収益を含めた今後の方向性は。

 “普通のテレビ局”になるつもりはありません。番組は表面をなぞるようなものではなく、“リアルさ”を追求していきたいです。例えば、旅番組では2時間をかけて1つの街をしっかりと歩いて番組を見ればその街の良さが伝わるような、それで足を運びたくなるような構成にしたいです。番組のクオリティは高めつつも、一方で効率化も進めていきます。例えば、毎週放送する2時間の旅番組を制作していくためには通常、何十人のスタッフが関わっていく必要があると思いますが、アプリで全国の視聴者から情報を募ることで、その土地の魅力などの情報を集めて、次回の旅先を選定したり、過剰なテロップはやめて、その分、編集時間を圧縮したりなどで数人で制作できるような体制作りに取り組んでいます。旅番組だけでなく、他の番組についても事前にしっかりと準備して撮影に臨むことでまとめ撮りをするなど効率化を進めていきます。BSJapanextでは地域創生を掲げ、様々な番組を放送していきますが当然、慈善活動ではないため、多額の利益を稼ぎ出すということでないが、最低限、収益化はしたいです。私としては2年目で黒字転換することが目標です。様々な取り組みを行い、尖ったテレビ局としてテレビ業界全体を元気にしていけるような存在になれたらいいなと本気で思っています。

コメント数や評価、売上額など視聴率以外の評価軸を作る

フラットな番組を作ることができる

─ジャパネットグループの強みをどのようにBS局「BSJapanext」に活かしていこうと考えていますか。

 通常、テレビ局はCM収入がメインになりますが、我々は通販会社なので、(全体の編成の3割を占める)通販番組での収益が増えることで、CM収入については他局より少なくても成り立つと思っています。そして、そうなることでスポンサーのことを考え過ぎることなく、フラットな番組が作れることも強みだと思います。

 また、番組と連動するアプリ「つながるジャパネット」はもともとジャパネットのショッピングアプリをアップデイト(※番組紹介商品を購入できる機能、番組へのコメント投稿、アプリ内での番組視聴、クイズ番組への参加者募集の機能など加えた)する形でリリースしたため、すでに数十万人に利用されています。

 たくさんの情報の行き来がアプリでできるようになることでオペレーションコストもすごく下がります。番組参加者の応募はもちろん、例えば、地域の情報収集などもアプリから各地域の視聴者に集めてもらって、それをもとに例えば旅番組の候補地や内容を決めるといった番組作りができるようになります。

─番組編成上で工夫したことは何でしょうか。

 曜日ごと、時間帯ごとのコンセプトを分かりやすくしたことです。例えば19~21時は曜日ごとにそれぞれの地域を散歩する番組を放送しています。21時台はタレントさんが好きなことをやる番組、22時台は若者向けの番組など、(視聴者が)どこにいけばよいかわからない状態を作りたくないので、そうならないように編成は考えました。我々のチャンネルは深い場所にあり、ザッピングで見てもらえるというわけではありません。分かりやすい編成でかつ面白い番組を作り、視聴習慣に組み込んで頂くようにしてもらわなければなりません。今後も習慣化いただけるよう色々と考えていきたいです。

ポジティブな意見が多い番組は継続

─アプリでも番組の同時配信をします。理由は。

 アプリは同時配信もできるし、番組への意見や評価もコメントできます。これを使ってテレビの世界に視聴率以外の評価軸を作れないかなと思っています。例えば、ポジティブなコメントが多い番組は多少、視聴者が少なくても続けていくとか、視聴率で白黒つけるだけでなく、コメント数や評価、時には通販の売り上げなどを指標にして番組作りを考えていきたいです。

─CMに関してはどうですか。

 我々はこれまでCMを出稿する側だったため、その立場からのニーズを色々と考えて、例えば、シニア向けにCMを放送したい方、子供向けに、各地域に向けてなどとCM枠のパッケージを作って販売するようにしています。時間帯で決めるのではなく、視聴者層に合わせた形ですね。また、月曜日は東北・北海道、木曜は九州・沖縄というように曜日ごとに訪れる地域を変えた旅番組のCMはその地域でのみ放送されているローカルCMを放送する取り組みなども行っています。当社の営業チームが地域企業に声をかけると皆さんが「面白いね」と乗ってくださいました。購入側としての立場から「こういう企画があったらよい」というアイデアを出しながらCMについても販売していきたいです。

新たなやり方、収益モデル

─地上波や他のBS局で通販番組を提供している立場でもあるジャパネットが自分たちでチャンネルを持つことについてどう整理しているのでしょうか。

 自分たちでBS局を持つことで地上波や他のBS局での放送枠を減らそうという考えはありません。我々のチャンネルはまだまだ皆様の生活の中心になれるようなものではないと思っており、地上波やBS局の集客力は高く共存していきたいです。

 一方でおこがましいですが、テレビ業界に対して貢献できるような取り組みをしていきたいと思っています。先ほどの曜日ごとにそれぞれの地域を散歩する番組に合わせて、17時台にはその地域の地方局から情報番組などを購入して放送しています。これによって、地方局の新たな収益源が1つ作れるのではないでしょうか。

 また、アニメについても購入して放送しますが、あわせてアプリでグッズの販売も行います。これもテレビ局の新しいビジネスモデルの1つだろうと思います。

 やり方を変えてみたり、新しい収益源を見つけたりなど様々なチャレンジを我々が取り組みながらテレビ業界全体を少しでも前に進めていきたいと考えています。

 また、我々は働き方改革に力を入れており、放送局にも適用していきます。効率化のためにロボットカメラを導入して、スタジオでは複数のカメラマンを置かず、1人がカメラを操作して収録する取り組みも行っています。ジャパネットグループの方針として(放送局でも)休日出勤や残業はさせないようにしています。また、他の放送局さんでは書類が積み上がっているというイメージがありますが、当社グループは「紙は持たない」という決まりでやっています。我々なりのやり方をBS局にも取り入れ、テレビ業界に貢献ができたらと思っています。

必要とされるテレビ局に

─BS局の収益目標は。

 運営コストから逆算すると、BS局として上げなければいけない年間売り上げと採算のラインはありますが、短期的な収益よりも大事なことがあると考えています。例えば、毎朝6時から放送する美木良介さんのロングブレス(※運動方法を紹介する番組)は本当に毎朝やって頂ければ、日本中の方が健康になると思います(笑)。本当に良いものを紹介するという視点で番組作りを行っています。収益化するのはもちろん早い方がいいですが、それ以上に視聴者に必要されるテレビ局になることを優先したいと思っています。

─「テレビ離れ」と言われている状況の中でのBS局開局となりました。

 テレビ離れに対する危機感はありますか。テレビ離れということよりも、(視聴媒体の主流が)インターネットになることに対する日本の未来への危機感を感じています。テレビは「ながら視聴」で様々な情報が入ってくる。それによって、(家族や友達などと)共通の話題が増えたりします。これが「ユーチューブ、ユーチューブ」となってしまうと、好きなものしか見なくなってしまいます。そうなると、コミュニティも同じ趣味の人たちだけが集まり、小さくなってしまいます。我々としてはとにかく皆が安心してみることができる番組を作っていきたい。そして、テレビを盛り上げていきたいと思っています。(2022年3月27日開催の会見での本紙記者を含む報道陣との一問一答より要約・抜粋)


田道祐樹(たみち・ゆうき)氏

1987年3月10日生まれ、34歳。長崎市出身。2009年にジャパネットたかたに新卒入社、テレビ企画制作部に配属。2012年、商品開発本部でバイヤーを歴任。2018年ジャパネットたかた執行役員に就任。2022年、ジャパネットブロードキャスティング代表取締役社長に就任。


髙田旭人(たかた・あきと)氏

1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、証券会社を経て、ジャパネットたかた入社。バイヤー部門、コールセンター部門、物流部門の責任者を経て、2010年にジャパネットコミュニケーションズ代表取締役社長となる。2012年ジャパネットたかた取締役副社長を経て、2015年1月、ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任。2019年には通信販売事業に加え、スポーツ・地域創生事業をもう一つの柱とし、更なる取り組みを進める「リージョナルクリエーション長崎」を同年6月に設立。2022年にはBS放送局「BSJapanext」を開局し、同社の取締役も務める。


◇ 取材後メモ

ジャパネットグループがBS局を開局しました。テレビは依然、強い影響力を持っていますが、インターネットの登場等で視聴者離れが進み、収入を減らすテレビ局も少なくありません。そうした状況下での開局ですが、ジャパネットに悲壮感はありません。自社テレビ通販に加え、番組連動アプリによる番組内商品のECなど多様な収益源を確保しつつ、テレビ局の主な収益源であるCMについても出稿する側だった立場から、広告主にとって利便性のあるターゲット別のCMパッケージなどを考え、営業に臨み成果を上げつつあるようです。番組の評価軸も視聴率だけでなく、視聴者からのコメント数や評価、通販収入など様々な指標を活用していく考えです。また、効率的かつ省人的な番組制作方法の確立や休日出勤や残業の制限など働き方改革も進めていくといいます。ジャパネットのテレビ局の行方はもちろんのこと、その取り組みがテレビ局というビジネスに新たな道や可能性を示すことができるのか、注目したいです。

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