「認知機能」の機能性表示食品、一斉監視 ーー 消費者庁が155社131商品に改善指導、新たな監視スキーム構築へ

 消費者庁は、「認知機能」を標ぼうする機能性表示食品の一斉監視を行った。景品表示法、健康増進法に基づき、155社の131商品に表示の改善を指導。総数は販売商品の約6割に上る。注目されるのは、今回の監視にあたり「事後チェック」の新たな監視スキームを構築していることだ。今後も同スキームを活用した「事後チェック」が行われる可能性がある。

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認知機能の問題表示蔓延、流通する6割の商品に改善指導

 ダイエットや便通改善、肌の保湿。制度導入で、企業が表示できる範囲は飛躍的に広がった。新たな市場として注目された一つが「認知機能」。そこに冷や水を浴びせる事態だ。

 消費者庁は今年3月、「認知機能」を標ぼうする機能性表示食品で、認知症や物忘れの予防・改善が期待できるとの消費者の誤認を招く表示が氾濫している状況を問題視。誤認が生じた場合、健増法の「勧告」の発動要件でもある「国民の健康に重大な影響を及ぼすおそれ(適切な診療機会を逸する)」があるとして、事後チェック指針に基づく一斉監視を行った。


112 社に送付された健康増進法に基づく表示是正の要請文書

 指導のパターンは2つ。一つは、物忘れや認知症の治療・予防など「医薬品的効果効能が得られるかのような表示」。より問題性が高く、健増法、景表法の両法に抵触するおそれがあるとして、3社の3商品に直接電話で表示の見直しを指導した。

 もう一つは、「届出された機能性の範囲を逸脱した表示」。景表法が規制する優良性とまで即断できないものの、健増法に抵触するおそれがあるとして、メールや書面で112社の128商品に表示の改善を求めた。

 「記憶力」など認知機能関連の表示を行う機能性表示食品は2月末時点で223件。約6割に上る商品が指導を受けたことになる。

事後チェック指針で規制する「切り出し表示」など問題視

 「認知症は早めに対策すれば発症や悪化を防げる」、「アルツハイマー型モデルマウスが野生型マウスと同程度まで記憶障害が改善」。3社の表示を見ると、同業者でも「疾病の治療・予防と受け止められても仕方がない」(業界関係者)と眉をひそめる表示が並ぶ。112社の表示とかい離もあり、むしろ指導で済んだのは幸運だ。

 一方、112社には「もらい事故」「3社のついで。迷惑な話」と不満の声も聞かれる。とくに問題のある3社を取り上げ、従来の規制手法で景表法に基づく選択肢もあるはずだからだ。

 理由の一つは、消費者庁が「切り出し表示」を問題視していたことがあるとみられる。事業者からも、「届出表示からの切り出しで説明不足となり、全体印象として表示の範囲を逸脱との指摘を受けた」、「『報告されている』との文言追加をしつこく言われた」との声が聞かれる。

 18年の「『歩行能力の改善』問題」と同じだが、「切り出し表示」は訴求力を強くする。また、トクホとの相克もある。

 例えば、血圧関連。国の許可を得て、審査に時間も要するトクホは「血圧が高めの方に」。一方の機能性表示食品は「血圧を下げる機能があることが報告されています」、「血圧を低下させる機能が報告されており」とバリエーションが豊富。切り出せば「血圧を低下」「血圧を下げる」と、表示の強さでトクホと逆転現象が起こる。制度の導入でトクホの魅力が年々失われる中、消費者庁がこうした表示の蔓延を問題視しているとの情報も寄せられていた。一斉監視によりこれをけん制する意図があったのではないだろうか。

「いわゆる健康食品」のネット監視事業のスキームを活用

 今回、消費者庁は「蔓延する問題表示」の是正に向け、「スピード感を重視した」(南雅晴表示対策課長)とする。活用したのが、通年で行う「健康食品のインターネット監視事業」のスキームだ。通常は四半期単位で実施。ロボット型全文検索システムを用い、特定のキーワードで検索された商品を目視で監視する。

 表示対策課の執行・指導ラインは、表示対策課長(公正取引委員会)配下に「ヘルスケア表示指導室」(厚生労働省)、「食品表示対策室」(農林水産省)という混成部隊。「ネット監視(健増法による指導)」は、ヘルスケア表示指導室が、「食品監視(景表法による執行・指導)」は、食品表示対策室が担う。役割の異なる両室を表対課長が取りまとめる布陣だ。

 機能性表示食品の表示への対処を振り返ると、「葛の花事件」(17年)は景表法による措置命令、「歩行能力の改善問題」(18年)は薬機法の観点から厚労省の指摘を受け、消費者庁が届出表示の「撤回」を指導している。ただ、措置命令は違反認定に時間を要する。また、今回は届出表示そのものではなく「広告」の問題で、「撤回」の必要性はない。表示の蔓延から個別の対処が難しい中、効率的・効果的に是正を図る手法として、両室の所掌事務横断で指導を行う新たな規制タッグを構築したのだろう。

 一斉監視は2月に実施。指導は3月、要請文書で4月8日までに改善を求めるなど早期是正を可能にしている。

事業者に不満の声も「健食であれば処分の可能性」

 各社の反応は「要請に従った形で修正を行う」、「新規向け広告はオフラインも同様の認識で止める。販売は終了しないが今後は縮小」と概ね修正で対応する。

 一方、指導には「全体の印象で逸脱しているとして具体的な修正箇所は不明確」、「指摘内容がよく分からず見直しの余地がないため削除になる」、「具体的な逸脱例と正しい表現例を提示してもらいたい」と困惑の声もある。消費者庁の対応にも「指導先が多く、担当者で対応が異なる。具体的助言を得たところもあれば、要領を得ないところもある」と対応の差がある。

 機能性表示食品への広告規制に「また始まった」「一度届出を受理したものなのに」と、意欲を削がれる事業者もいる。ただ、制度は「事後チェック」がベース。一部に届出を逸脱した表示があったことも事実だ。これが健食であればどうか。前出の公取OBは「3社は処分でもおかしくない。健食なら打たれていた」と指摘する。推測の域をでないが、制度に則り、その育成に関わる事業者であるため、指導で済んだとの見方もできる。


景品表示法・健増法に基づく改善指導(3社3商品)

物忘れ、認知症の治療・予防効果等の医薬品的効果の標ぼう

「認知症予防の救世主○○大学教授監修」
「認知症は物忘れだけではありません! トイレで用を足せない、徘徊す る、暴言を吐く、幻覚を見る、異性に抱きつく、暴力を振るう、不潔な ままでいる、認知症の原因は40代から始まっている!」

一部を切り出して強調することで、届出範囲を逸脱した表示

「認知機能の一部である空間認知能や場所を理解するといった記憶力を 維持する機能があることが報告されています」(届出表示)
→「記憶力を維持!」(広告)

解消に至らない身体の至らない組織機能等に係る不安や悩みを列挙した表

「あなたも『脳疲労』が蓄積していませんか?(略)よく眠れない、 便秘気味、食事がおいしくない、脳疲労は万病のもと!」

消費者庁の許可や承認を受けているかのような表示

「機能性表示食品の取得、(略)安全性、科学的根拠を満たし、適切に 情報提供を行うことが消費者庁より確認された商品です」

実験結果、グラフの使用により届出範囲を逸脱した表示

届出範囲が「認知機能の一部である空間認知能や一」(上記同)であ るにもかかわらず、「高齢者の徘徊、転倒に関連する『場所を認識す る力』が改善することが明らかに!」と低下した認知機能が有意に改 善した試験結果が得られたことを強調したグラフを表示。

健増法に基づく改善指導(112社社128商品)

対象者の範囲を逸脱した表示

中高年対象→「受験生の考える力を鍛えるために」等

一部を切り出して強調することで、届出範囲を逸脱した表示

「加齢によって低下する脳の血流を改善し、認知機能の一部である記 憶力(略)を維持することが報告されています」(届出表示)
→「脳の血流を改善」(広告)

解消に至らない身体の至らない組織機能等に係る不安や悩みを列挙した表

「こんなことありませんか?あれはどこにしまったかしら。最近よく忘 れてしまう。人の名前をよく忘れるようになった。日付もとっさに聞か れると出てこない。ひょっとするとそれは。加齢と共に起きるン品値機 能の一部(記憶力)の低下によるものかもしれません」

消費者庁の許可や承認を受けているかのような表示

「(略)消費者庁の機能性表示食品に、全国で初めて認定されました」

実験結果、グラフの使用により届出範囲を逸脱した表示

「加齢に伴って低下する記憶力(略)を維持することが報告されていま す」であるにもかかわらず、「12週間摂取し続けたところ『記憶力』に 関する試験(略)で有意な改善が期待できました」と試験結果を強調し たグラフを表示。

ネット監視で発覚した景品表示法、健康増進法に抵触するおそれの ある表示


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