原材料費の高騰が続いている。世界的な人口増加に伴う需要増や原油高、天候不順による穀物相場上昇、コロナ禍の影響など複数の要因で食用油や海産物、小麦や大豆などの穀物類など様々なジャンルの原材料が高騰し続けており、その結果として、それらを原料とする商品の価格も値上がり。仕入れコスト増や商品原価アップなどECを含む小売事業者に影を落とし始めている。通販・EC実施各社に原材料高騰による影響や対策などについて聞いた。
商品刷新し価格転嫁で対応、値上げで販売数減など懸念
原材料の高騰を受けて、すでに小売り各社は対応に乗り出している。食材の宅配事業などを行うパルシステム生活協同組合連合会では1月31日付で「原料高騰による価格改定について」として小麦・食用油脂・原油などの価格が高騰したことを受けて、「商品価格の値上げについて産地やメーカーなどと協議を重ね、一部商品を値上げすることにした」と発表。今後、パンやマヨネーズ、パスタ、小麦粉など200品目超の商品価格を値上げするとしている。
一方でネットスーパー事業なども展開する西友は3月14日付で6月末まで同社が展開するプライベートブランド(PB)「みなさまのお墨付き」について食料品や飲料、日用品などの全商品、1254品目について売価を据え置くと発表している。
通販実施事業者は原材料の高騰を受けてどのような対応をとっていくのだろうか。本誌姉妹紙、週刊通販新聞では3月中旬に通販・EC実施企業約20社を対象に原材料値上がりに関するアンケートおよび聞き取り調査を実施した。同結果をもとに各社の動きを見ていく。
仕入れコスト増、原価率悪化に影響
アンケートでは有効回答を得られた企業のうち、およそ9割が原材料の値上がりの影響を受けていると回答した。
「影響を受けた」とする事業者に具体的にどの原材料の値上がりがどのような影響を与えると考えているかと尋ねた。
ベルーナでは、「仕入原価の上昇の影響がある見込み(海上運賃の上昇、工場加工賃の上昇など)」で「短期的には売り上げの押し下げ、原価率の押し上げに影響が出ると考えられる」とした。
千趣会は、「主に衣料品の原材料となる綿とポリエステル。主に家具・インテリア商材の原材料となる木材と鉄の値上がりが仕入れコストの上昇に影響」しているとする。
スクロールは、「通販事業において、アパレル商材の原材料となる綿の高騰やカタログに使用する用紙(紙)や印刷関連費の値上がりが、仕入れコスト上昇のほか、為替(円安)も影響し、原価率悪化につながっている。また、原油高により輸送コストも上昇」しているという。
オイシックス・ラ・大地は、「小麦、大豆、植物樹脂、魚の高騰で商品原価の上昇」に影響がでているとしている。
くずもちの製造・販売を行い、ネット販売も展開する船橋屋は「(くずもちの原材料である)小麦の価格アップ要請を受けている。砂糖も昨年9月に3%、今年2月には2%アップ。大豆も値上げ要請を受けると思う。寒天は今年5月から5%アップの予定。また梱包箱や包装資材が5~8%程度上がっている」という。
通販企業A社(※匿名を条件に回答)は「商品全般、石油系原材料、輸送費の値上がりが仕入れコスト上昇に影響」したという。
このほか、「商品仕入れコストの上昇が懸念」(DINOSCORPORATION)、「石油化学製品や食品の高騰で仕入れコストが上昇」(ロッピングライフ)、「半導体不足、原油由来の原材料(樹脂・ウレタンなど)の高騰で仕入れコストが上昇し、発注ロットの増加につながっている」(日本テレビ放送網)、
「(食品通販事業「虎ノ門市場」の)海鮮商品で仕入れコストの上昇、サプライチェーン(輸送コスト)の値上がり」(テレビ東京ダイレクト)などとしている。
原材料高騰に関する注目の動き❶ カニ高騰で年末商戦に影響、ロシアの輸入滞ると拍車も
カニなどを販売する「越前かに職人甲羅組」の伝食では、コロナ禍で業績を伸ばしてきたものの、昨年12月にカニの大幅値上げを余儀なくされたこともあり「ここまでのトレンドに急ブレーキがかかった感がある。年初からの動きも鈍い」(田辺晃司社長)という。
近年、ズワイカニの相場は値上がりを続けている。コロナ禍以前は1キロ2000円程度だったが、21年初頭は同2500円に、春頃には同3000円を超えた。現在は同4000円代後半から5000円、大きいサイズは同5500円まで達しているという。
同社では安い仕入れルートを確保していたこともあり、大きな値上げをしていなかった。ただ、12月に入ってからは「企業努力では吸収できないほど相場が高騰した」(同)。値上げ幅は平均で1.5倍、大きいサイズのカニは収穫量が少ないことから、約2倍まで値上がりしている。
相場高騰の原因は、近年アメリカや中国においてカニの需要が高まっており、日本の市場に回ってくるカニの量が減っていることにある。特にアメリカでは、新型コロナウイルス対策の給付金が支給され、「これがカニの消費にも回っているのではないか」(同)。そのため、今後は相場が下落する可能性はあるものの、コロナで物流が滞留していることもあり、今年の年末商戦は高騰した価格で仕入れたカニを販売せざるを得ない可能性が高い。
甲羅組だけではなく、ECではカニは人気商材だけに、影響は大きそうだ。また、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、ロシア産水産物の輸入が滞る恐れもある。甲羅組のサイトによれば、同店ではこれまで、春漁の5~6月限定で大型サイズのズワイガニをロシアから仕入れていたという。仮想モールにおいてもロシア産水産物を販売している店舗は少なくなく、特に輸入量の多いタラバガニやズワイガニ、ウニといった水産物はECでは人気が高いだけに、今後の影響が懸念される。報道によれば、ロシア産水産物の輸入禁止措置は実施しない方向とされているが、今後も情勢の混乱が続けば、カニの最需要期である年末商戦に向けて、さらなる価格高騰は避けられそうもない。
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