注目各社のライブコマースの活用術ーーファンとの距離を縮める工夫とは

  • 2023年1月25日
  • 2023年3月25日
  • 特集1

近年のライブ配信は、コマース機能に特化した内容をはじめ、商品開発で顧客参加を呼び掛けるもの、あるいはエンターテイメント性に力点を置いたものなど、企画内容は企業によって様々だ。いずれにしても、ライブ配信の最大の魅力は、顧客と双方向でコミュニケーションが図れるということ。リアルでの購買活動が戻りつつある中、ネット上でファンとの距離を縮めるツールであることは間違いない。注目企業の活用事例をみてみる。

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事例1ブックオフコーポレーション
アメリカ向け配信が好調で月商1千万円に到達

 ブックオフコーポレーションでは、アメリカや中国向けに中古ブランド品をライブ配信で販売し、成果を挙げている。月間の売り上げは1000万円前後まで達しているという。

 同社では、2020年頃から「タオバオライブ」やアメリカのライブコマースアプリ「ショップショップス」を使い、中国向けにライブコマースを手掛けてきた。当初はKOL(インフルエンサー)に商品を販売してもらっていたが、現在は自社のスタッフがライブコマースを行っている。

求められる目利き力

 ブックオフコーポレーション総合商材EC運営部総合商材EC販売グループの平居宏朗氏は「KOLに任せる場合月1~2回が限度。やはり毎日配信したいと思っていた。また、商品の値付けが当社の国内向け通販サイトと同じになってしまう点も痛かった」と話す。

 つまり、ブックオフの通販サイトで10万円で販売されている商品の場合、KOLが15万円で売ったとしても、ブックオフに入る金額は10万円。自社のスタッフが15万円で販売すれば、差額分が収益となるわけだ。「『日本よりも高く売れる』商品はEC用の倉庫に数万点ある。アメリカや中国の消費者のし好に合わせて、売れそうな商品をセレクトする目利き力が求められる」(平居氏)。

 販売ノウハウを蓄積する上で大事だったのは、配信中のチャットでのやりとりだ。例えば「こんな商品はないの?」と問われ、別の日に合致した商品を紹介するなど、消費者のニーズをしっかりと把握することで「ナレッジを積み上げることができた」(同)という。顧客とのコミュニケーションを重視しており、例えば平居氏がコスプレをして登場し、じゃんけん大会をして勝った人には値引きをするといった演出も行っている。配信が面白くないとすぐに他のチャンネルに切り替えられてしまうため、視聴者を引き付けるための工夫が重要だ。スタッフの会話を楽しみに来るユーザーも多いという。

 もちろん品揃えも重要だ。「配信で売れ残った商品ばかり出していると、視聴者に『同じものばかり売ってるな』と思われてしまう。例えば、中国だと『ヴィンテージ品を持っている』ことにステータスを感じる人が多いので、古めのブランド品を紹介するなど、ラインアップを工夫している」(同)。

チャットでのやり取りを重視している

 自社スタッフによる取り組みを始めてから、1年ほどは中国向けの配信を行っていたが、今年春に上海でコロナ禍を受けたロックダウンが実施され、配送がストップしてしまった。そこで、急きょアメリカ向けにシフト。円安が急激に進行したこともあり、軌道に乗った。

コスパ良いライブコマース

中国向けの配信(タオバオライブ)も22年10月から再開しているが、現在のメインはアメリカ向け(ショップショップス)だ。平日は毎日配信しており、アメリカ東海岸の午後8時~10時の時間帯にあわせて実施している。1回の配信で100程度の商品を紹介。このうち、20商品程度が売れるという。アメリカ向けでは6000人ほどのフォロワーがおり、平均視聴者数はユニークユーザー数で500人程度。視聴者は女性が中心で、3万円前後の商品が売れ筋だ。

 アプリ上で紹介する商品に番号が付いており、順番に紹介していく形だが、顧客はあらかじめどんな商品が販売されるか、アプリで確認できるため、「40番のブランド品が欲しいから見せてほしい」といったリクエストも来る。また、配信終了後も「ライブ中は買わなかったけど、まだありますか?」といったメッセージが顧客から来ることもある。こうしたメッセージのやり取りアプリ上でログとして残るため、非常に便利だという。

フォロワー数は6000人超に達した

 平居氏は「例えばショルダーバッグを肩にかけて紹介したとして、『もっと紐が長いものはないの』といった要望に応えることができる。通常のECにおけるレコメンドよりも、顧客のニーズに合わせてダイレクトに紹介できるのがライブコマースの良いところだ」と話す。国内向けECにおける滞留品を売れるというメリットだけではなく、入荷して商品を「ささげ」の前に販売できる点も、手間を省けるためメリットになる。

 同社ではイーベイなどでの越境ECも展開しているが、「コストパフォーマンスはライブコマースの方がはるかに良い」(平居氏)。1回の配信で売れる20個の商品をまとめて拠点に送れる点と、商品説明を翻訳する手間が必要ない点が大きい。

 EC向け倉庫で扱っている商品のうち、越境ECの売り上げ構成比は20%程度だが、このうち80~90%はライブコマースで売っている。今後は、ブックオフの直営店で買い取ったブランド品をライブコマースで扱う仕組みの導入も検討中だ。

アプリから配信で紹介される商品が確認できる

日本向けはまだマネタイズ困難

 一方、日本のライブコマースサービスに関して、平居氏は「現状ではマネタイズが難しいように感じる」と印象を語る。日本の場合、あくまで「販促」として使う通販企業が目立つ。配信内での販売だけではなく、自社ブランドの知名度向上、さらには商品を詳細に説明するためのツールとして活用しているわけだ。

 ただブックオフの場合、ライブコマースで販売しているのは中古のブランド品。つまり基本的には「1品もの」なのでリピート購入が見込みづらい。「ショップショップスのようなライブコマースアプリがあるわけではないので、販売手数料以外に利用料をプラットフォーマーに支払う形となり、商品の販売だけでペイするのが厳しい。国内向けライブコマースは、時間とお金を使ってもリターンが返ってこない状況ではないか」(平居氏)。また、海外のライブコマースアプリには装備されている、オークション機能や配信が終わってから消費者が交渉する機能がない点なども不便だという。

 平居氏は「そもそも日本の場合は集客面での課題も大きい。『ライブコマース』というよりは『ライブコマーシャル』になってしまっているので、ライブ配信でショッピングを楽しむ文化を作っていかないと難しいのではないか。例えば、配信中の価格交渉が当たり前のアメリカや中国と違い、日本では気軽に価格交渉をするような雰囲気がまだない」と指摘する。

 これまで日本ではあまり浸透していなかったライブコマース。ただ、コロナ禍を受けた在宅時間増加や、動画サイトなどでライブコンテンツを閲覧する習慣が一般化したことなどもあり、徐々に日本においても成果が出始めているという声も聞こえる。

 ただ、ブックオフの事例を見る限り、日本のライブコマースサービスを「新たな販売チャネル」と捉えるには、時期尚早な部分もありそうだ。中国やアメリカとはユーザーのライブコマースに対する意識の違いもあるだろうが、アプリの機能面でも劣る部分があるだけに、諸外国における取り組みを参考に、日本でも「配信だけで利益を確保する」ための仕組みづくりが求められそうだ。

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