三﨑経信●ANAXEC事業推進部ANAMallチームリーダー

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“マイルで生活できる世界”の体験を提供

ANAXでは、航空事業を手がけるANAグループが初の仮想モールとして開設した「ANAMall」の運営を担っている。同モールはANAグループ各社が手がける複数のECサービスを体験できる玄関口となっており、マイルを通じて旅と日常がつながる独自の世界観を演出している。2023年1月末の開業から約3カ月が経過し、新規出店者の状況や顧客の購買動向なども徐々に見えてきた。ビジネスマンを中心とする「ANAマイレージクラブ(AMC)会員」という優良な顧客基盤を武器にした、航空事業グループが手がける新たな売り場の魅力に迫る。

40、50代のエルダー層に刺さるカテゴリーの充実へ

購入単価や客層は想定通りに推移

─2023年1月末のモール開設から直近3カ月間の足元の状況について教えて下さい。

 2つ想定通りに動いたことがあります。1つは開設時の記者発表会において、「購買単価が1万円前後になる」とアナウンスしており、それがニアリーになっていることです。2つ目が利用者属性について、当初の想定通り航空利用客とほぼ同じ属性になっているということです。

─ECをはじめたきっかけは。

 現会長で先代社長の橋爪福寿が、ルートで回ってくる営業マンから「ネットで月500万円売ってる会社がある」という話を聞いて興味を持ったのが始まりです。いろいろ調べたところ「面白そうだし俺でもできるんじゃないか」と思ってECを始めたそうです。周囲からは「ネットで家具なんか売れないだろう」と言われたこともあったようですね。

 販売の状況についてですが、オープン2カ月で見ると、数量ベースでは「食品」、「日用品」、「家電」という順で売れています。これが金額ベースになると逆転して、「家電」、「食品」、「ファッション」と言う順番に変わります。家電はパソコンのような高単価商品が動いているため、金額ベースのカテゴリーランキングで上位にきていますが、一応、日常領域のカテゴリーで商品販売をしていきたいということを発信してきた中では、その領域の商品が思ったよりも活発なのかなと思います。

 単価はそこまで高くはありませんが、食品と日用品の合算受注件数が全体の約半数となっていますので、ある程度、「マイルで生活できる世界を目指す」、「日常領域に入っていく」ということに対しては期待通りに進めていると見ています。もちろん全体の数字としては、まだまだこれからになるとは思いますが、実績を見ている中で顧客はそれなりについてきているイメージです。

 また、すべての出店者がみな同じという訳ではありませんが、新規モールのスタートという観点ではかなり期待値に近い売り上げを出せているという言葉をもらえています。しっかり運用している出店者に対して、その参画価値をきちんと提供できているのではないでしょうか。

─現状の商品数や出店規模については。

 この4月末現在で、全26店舗となっており、商品数は25万SKU程度となります。全ジャンルの商品を集められているというわけではないので、今後、新規出店を獲得してSKUを広げていかなくてはいけないと思っています。

まずはAMC会員の集客に注力

─モールではどのような形で集客を図っていますか。

 まず、このモールの利用者層については「ANAマイレージクラブ(AMC)会員」がほとんどを占めています。そのため、集客はANAグループで持っているオウンドメディアが中心となります。(AMC会員専用ページの)「ANASKYWEB」やSNS、メール配信などを最大限活用しています。また、オープン当初にメディア向けの発表会を行ったことで、ウェブやテレビで取り上げられたことは流入にそれなりに影響があったでしょう。我々はBtoBtoCのようなビジネスであるため、顧客だけでなく出店者に対しての発信にもなっており、そのタイミングでの効果はあったと思います。もちろん、オウンドメディアの活用は今も継続しています。

─AMC会員外の集客については。

 この3月末でAMC会員数も4000万人を超えており、そのすべてにすぐ情報が行き渡っているわけではありません。まずは足元のAMC会員を取り込むことが年単位でかかる想定です。オウンドメディアの通常発信では取り込めない顧客もいると思うので、しっかりとターゲティングして、まずは“ゼロイチ”の壁を越えてもらい、新規登録してもらって購入を体験してもらうことに時間をかけていきたいです。

 その後は、当然、会員外に向けて、我々が目指しているマイルで生活できる世界を体験してもらえるように、マイルが貯まりやすいことなどをアピールしていきます。(航空や旅行などの)非日常につながる世界への体験をこのモールを通じていざなってければ。

─これまでで一番反応が良かった集客施策は。

 やはりメールでの単独配信などは、配信した当日からサイトへの訪問者数が跳ねる印象です。内容としては、キャンペーン告知の配信です。例えば、オープニング時には1月31日~2月末まで、最大で1500マイルを付与する利用促進企画を行いました。3月は単月の企画としてマイルアップキャンペーン、4月は最大1万マイルを付与する特典内容、また、3カ月間の連続利用者に対するインセンティブ付与企画などを行いました。やはりマイルに関連した内容が軸になってくるでしょう。

夏過ぎには50店舗、年度末には100店舗を目指す

─出店者の開拓についてはどのように行っていますか。

 モールの企画・運営や出店者のサポートなどをANAXが行っていますが、新規出店者の開拓についても同様に担当しています。オープン時は23店舗で、4月に3店舗の出店がありましたので、現在は26店舗(4月末)です。これから毎月、片手に収まるくらいの数の新規出店が初夏くらいまで予定されています。また、その後は(多店舗出店者向けの在庫・受注連携などの)一元化ツールを入れる予定なので、ここから飛躍的に拡大していきたいところです。おそらく夏過ぎくらいには50店舗を超えるようなイメージです。年度末には100店舗を目指しています。

─どういった企業に向けて交渉を進めていますか。

 今の段階では、紹介案件やこれまでも取り引き関係があったようなところが中心となりますが、それに加えて、モール開設後から資料請求をいただいていますので、そこで希望者に対して商談を進めています。ただ、それだけでは出店者のカテゴリーも限定的になってしまいますので、足りないジャンルを増やしていくために、カテゴリーマップなどを作って進めていかなくてはいけないでしょう。

─特にアプローチしていきたいカテゴリーとは。

 AMC会員は40~50代のビジネスマンが多くいます。個人的な目線にもなりますが、男性エルダー層の趣味を満たすような商材はまだまだ足りないと感じています。例えば、釣りや車、バイク、もしくは楽器なども考えられるかもしれません。一方で、そうした人たちにはご家族もいますので、そういったニーズも同時に満たしていくことで購買できるカテゴリーが広がっていくでしょう。

─具体的には。

 注文管理の部分で、在庫があって決済に問題がない商品なら、クリックするだけで配送伝票が出るような仕組みを導入しています。顧客対応やシステムでカバーしきれない部分に人員を割くようにしています。

─出店者開拓での口説き文句の1つとしては、やはり「マイル」の話が中心になりますか。

 マイルは当然トリガーになります。しかし、この事業開発の段階で、マイルがなくても戦える事業構造や武器を作ろうという話は出ていました。我々が持つリソースで出店者に刺さる一番のものは何かと考えた中、やはり「AMC」という優良な会員基盤になると思いますし、これこそが他社にはないところでしょう。さらに、AMC会員の中でも(クレジットカードである)「ANAカード」を持つ会員が数百万人いまして、(同カード決済の)平均利用額は相当に高いです。ここまでの高い金額を決済されているカードは日本でも本当に上位ではないでしょうか。

 また、当社は情報の会社でもあります。とりわけ「未来の移動する情報」を持っています。それらを活用して戦うことができるということは、出店者さんに向けてもアナウンスしてきたところです。おかげで新規出店者は順調に開拓できています。

非航空事業であるECをもう一つの柱に育てる

既存のグループECサービスとのシナジー発揮

─ANAグループには全日空商事が運営している「A‒style」のように他にもECサービスがありますが、そことの連携や住み分けなどは。

 当初よりA‒styleもこのモールに出店していますが、現状ではまだ、そのすべての商品がここで販売されているわけではありません。大前提の構想として、ANAグループのECプラットフォームということでこのモールを立ち上げている以上、AMC会員に対してのECサービスはすべてこのモールに集約していきたいと考えています。とはいえ、この作業を一気に進めるにはシステム的な課題もあります。特に、A‒styleなどは段階的に時間をかけてこのモールと合流する形になるのではないでしょうか。

 また、2023年3月期の第4四半期業績(2023年1月~同3月)で見ますと、A‒styleの本店も数字が上がっており、このモールのA‒style店舗との合算で見ても前年同期の業績を上回っていますので、数字を見れば現段階では良いシナジー効果が出ていると思います。実際にA‒style店舗で販売している商品はこのモール内のランキングにおいて、全体でも上位に入っています。それほどオープン時からANAのロゴ入り商品は人気となっていました。A‒styleの商品企画力であったり、得意分野はこのモールでも発揮できている印象を受けます。

─A‒style以外でのANAグループからの出店状況は。

 ANAデザインの御朱印帳を扱っている「ANAウィングフェローズ・ヴイ王子」や、機内食を提供している「ANAケータリングサービス」、また、当社が東京・八重洲で運営している地域の商品を扱う直営店舗の「TOCHI-DOCHI」、和食器や生活雑貨を扱う「WA+YO」などが出店しています。もともと、それぞれが小規模な形でECも行っていました。グループ会社が持っているECの露出先としても活用されるプラットフォームであることから、改めてこのモール運営をしっかりやっていかなくてはいけないと感じています。

─モールを開設したということで、ANAグループ全体でECビジネスに対しての高い熱量を感じます。

 もともと、2023年3月までは「ANASTORE」というサイトがいわゆる“まとめサイト”のような形であり、そこにA‒styleやふるさと納税をはじめ、「ANAセレクション」、「ANAマイレージモール」などがありました。

 以前からその各ECの決済情報やマイルを積算できる仕組みを統合していきたいという構想自体はあったものの、その当時はまだコロナ前であり、航空事業も非常に堅調で、中々、大がかりな予算をかけてECに取り組めなかった経緯があります。しかし、コロナ禍となり、A‒styleをはじめとしたEC事業の数字が落ちずに非常に好調となりました。そこで、グループとしてもECにそれだけの価値があるということを改めて認識でき、ここにきて統合型のECとしてこのモールを立ち上げることになりました。これからは、航空事業だけではなく、非航空事業であるこのECがグループのもう1つの柱の事業となれるよう期待がかかっています。開設時の記者会見でも説明した通り、初年度はこのモール単体で年間流通額100億円を目指しています。

─今後の展望や取り組み予定の施策について。

 色々と出店者から既存の大手モールが行っている取り組みを要望されることもあるため、そうした施策にもチャレンジできるようにしたいです。また、せっかく、このモールを選んで出店してもらったので、まずは新規出店のたびにうまく支援できるようなマイルによる販促キャンペーンは継続的に行っていきたいです。露出も含めた支援をできる限り行うということが、まず目の前にあるものです。

 そのほかにも、既存の他モールの動きも見ていますので、参画店舗へのレビュー会やカンファレンス、優秀店舗の表彰、出店希望者を集めた説明会などを行える体制は整えていきたいです。また、今は物販のECしか行えていませんが、他モールのように、複数のサービスをこのプラットフォーム上で展開していくことで、日常的に来訪されやすくなるサービスを構築しなくてはいけないと思います。それを上手く作っていくかは今後考えていくところです。

 そして、差別化のポイントとしては、当然、ANA経済圏での顧客とのつながりはマイルであるということが大きくなるでしょう。モール単体でのサービス施策だけでは限界もありますので、ANAらしくグループ内の様々なところで幅広い経済圏のサービスを展開していますので、そうしたところと連携してうまく相乗効果が得られるような横断型のキャンペーンも行いたいです。既存のAMC会員向けだけでなく、新たに会員になってもらえた顧客に対してもマイルで生活できる世界を実感できるようなサービス体験を提供していきたいです。


三﨑経信(みさき・きょうじ)氏

1976年5月生まれ。1999年に全日空商事入社。入社当初はスカイホリデー事業(旅行事業)などを担当し、その後2003年に商社事業へ異動し勤務。2020年にはANAXへ出向し、EC事業を担当。2023年に、現職のANAMallチームリーダーに就任。



◇ 取材後メモ

新型コロナウイルスを巡る国内での感染対策の在り方も徐々に緩和が進み、EC市場でもかつてのようなコロナ禍特有の「巣ごもり消費」という言葉は聞かれなくなりました。社会全体がウィズコロナの新しいステージに進みつつあり、ECサービスにも時代に対応した変化が求められています。そうした中、ANAグループが提案する仮想モールは、人々の外出機会の高まりを受けて、旅や出張などで貯めたマイルを日常的に消費できる売り場としての活用が期待されています。航空グループならではの独自の視点を持った新ECサービスの行方に注目です。

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