ブランド単位でEC最適化を目指す【柏木又浩 TSI EC ストラテジー代表取締役】

TSIホールディングス傘下でネット販売事業を統括するTSIECストラテジーは、実店舗との連携を深めたオムニチャネル戦略の要として、グループ企業が持つブランドごとに通販サイトの開設を進めている。ブランド単位でECの最大化と最適化を進める同社の柏木又浩社長に、グループのアパレル商材を扱う通販モール「セレクソニック」の方向性やオムニチャネル戦略などを聞いた。(聞き手は本誌・神崎郁夫)

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ブランド力が強いほどO2O施策の価値は高まる

撮影スキームを見直し

――まず、前期は「セレクソニック」が大きく変わりました。

2014年2月期は、自社通販モール「セレクソニック」のリブランディングに着手しました。それまで行っていた他社商材の仕入れをやめて、グループが展開するブランドの販売に集中しました。サイトのメーンターゲットも少し上の年齢に引き上げ、大人の女性が安心して買い物を楽しめる売り場を目指しました。

実際、通販の顧客層は確実に少し上にシフトしてきています。これは全社的な物作りとして、商品の上質化ニーズに沿っている部分も大きいです。

――通販サイトで受注会も行っていますね。

従来、受注会はリアル店舗の重要顧客向けにしか実施していませんでしたが、前期は自社通販モールでも複数のブランドで行いました。例えば、「アドーア」というブランドは通販サイトでブランドをお気に入り登録していたり、購入実績のある顧客だけにシークレットの受注会を開催しました。

「アドーア」は高額なアイテムが多く、2013年秋冬シーズンでは、例えば、コートは10万円台からメーンの40万円前後の商品をトライアルとして通販顧客に提案しましたが、一定の成果を得ることができました。とくに、ブランドのお店がないエリアの消費者に刺さり、ピンポイントに「アドーア」が好きな顧客が購入してくれました。大都市圏よりも、実店舗のない地方の顧客が購入してくれたという印象です。

「アドーア」以外では、「ヴィヴィアンタム」や「ジルスチュアート」というブランドでもウェブ受注会を実施しました。今期は、受注会の対象ブランドをさらに広げて、より特別感のあるサービスで各ブランドのコアなファンを増やしていきたいです。

――そのほかの取り組みについては。

前期は撮影業務を見直しました。ECの撮影は外注するアパレル企業も多いですが、当社は内製化しています。本来は、商品単価や売り上げに応じてブランドごとに最適な撮影スキームがあるべきで、その点を重視してブランドごとの撮影原価を出しました。今期は、ブランドごとに撮影費用を割り振って、強弱をつけました。掲載する商品画像の質を落とすことなく、全体の撮影コストは10%程度削減して臨んでいます。そういう意味では、前期は業務の棚卸にも着手しました。

各ブランドのEC支援が使命

――2014年3月にネット販売の専門会社として発足されました。グループの中で求められる役割は変わったのでしょうか。

従来は、自社通販モールの「セレクソニック」を運営するチームという位置づけでしたが、いまは、ブランドごとのネット販売を伸ばすためのサポート役となりました。自社モールだけではなく、ブランドごとに立ち上げる通販サイトや他社ECモールへの商品供給も含めて必要な支援を行うことが当社の使命です。

――すでに他社ECモールへの商品供給も担っているのでしょうか。

2015年3月をメドに全社的な基幹システムを刷新する計画でして、そのタイミングで他社ECモールへの商品供給をTSIECストラテジーとしてグループの事業会社、ブランドから代行できるシステムになります。これを前提に、今期は各事業会社とのリレーションや社内契約の準備を進めていきます。

――新会社として、そのほかの役割はどうでしょうか。

2つ目の役割は、グループ各社にデジタルマーケティングのソリューションを提供することです。2014年3月からは当社が各ブランドサイトやコーポレートサイトの運用を一元管理していて、例えば、ブランドごとに活用すべきSNSを検証するなど、デジタルプロモーションについてもブランド単位で最適化を目指しています。

また、3つ目の役割としては、グループのECラボラトリーのような機能を担います。変化の早いITやECの新しい技術や情報を当社が蓄積したり分析してグループ全体に発信します。例えば、6月にアメリカで開催された世界最大級のECイベント『IRCE』に行ってきましたが、この調査レポートをまとめることでグループ各社が共有できるようにします。下期からは各事業会社が参加できる“学び場”も作っていきたいと考えています。

店頭受取りは販売に直結

――ブランドごとの通販サイトも相次いでオープンしています。

オムニチャネル化の“要”としてブランド単位の通販サイトを立ち上げていますが、まだトライアルの段階です。オムニチャネル化を実施するためのインフラ作りを今期中に行って、来期はブランドごとの通販サイト、グループでは“オムニチャネルサイト”と呼んでいますが、これを軸に収益化を図っていくフェーズになります。

そのためにも、今期はよりO2O(オンライン・トゥー・オフライン)施策が必要であろうブランドからオムニチャネルサイトを開設していきます。これまでに「マーガレット・ハウエル」や「プラネットブルーワールド」「ナチュラルビューティーベーシック」「トッドスナイダー」の4つのブランドのサイトをオープンしましたが、今期中にあと6~8ブランドのサイトを立ち上げていく計画です。

――オムニチャネルサイトが必要なブランドの特徴は。

ブランド単独の通販サイトが必要なのはリアルで多店舗展開していて、ネット販売チャネルは自社に集中すべき時期にきているブランドですね。一方で、店舗数が少ないブランドは他社ECモールで拡販をしながらネット売り上げを作っていく必要があります。

前者のブランドはリアル店舗を含めた複数チャネルでサービスを構築できる利点があります。ブランド力が強ければ強いほど店頭受け取りサービスなどのO2O施策や通販サイト自体の価値も上がります。

――オムニチャネルサイトを作るのは前者の多店舗展開しているブランドだけでしょうか。

どちらのケースも考えられますが、機能を分けていくことになるでしょう。現状、オムニチャネルサイトを持つ4つのブランドのうち「マーガレット・ハウエル」と「ナチュラルビューティーベーシック(NBB)」は実店舗が多く、「プラネットブルーワールド」と「トッドスナイダー」は店舗数が少ないです。

通販サイトを立ち上げてみて分かったことは、2極化したカテゴリーのブランドで提供すべきサービスの種類は異なるということです。まだデータを蓄積している段階でそれぞれの仕掛けはこれからになりますが、前者は店頭在庫の表示機能や商品の店頭受け取りなどお店への来店を促せるサービスを強化します。

後者のブランドは実店舗に来店できる消費者が少ないため、ネット向けのサービスを強化する必要があります。

――オムニチャネルサイトでスタートされた店頭受け取りサービスの利用状況はいかがでしょうか。

まだ始めて間もないですが、予想以上に利用されていると感じています。「マーガレット・ハウエル」の店頭受け取りの対象店舗は13店舗ですが、「NBB」は80店舗以上で対応しています。また、自社通販モールでは店頭在庫を表示する機能もないのですが、ブランドの通販サイトでは店頭在庫を1時間ごとに更新していますので、「ウェブ上で在庫を確認できて嬉しい」という声も届いています。

ネットで商品情報をチェックし、実店舗に来店して在庫がなかったということが大幅に解消されたという点でも消費者の利便性は高まったと言えます。

――店頭受け取りは販売につながるのでしょうか。

店頭受け取りの場合、決済は店頭払いで、しかも商品を購入しなければいけないわけではないが、「マーガレット・ハウエル」のケースだと肌感覚ではあるが、7~8割が購入につながっている印象です。店頭の売り上げになるため、販売員のモチベーションも上がります。

――オムニチャネル化の重要性は高まりそうです。

オムニチャネル化については、EC先進国アメリカのメイシーズでは、2つ以上のデバイス、チャネルを利用する消費者の客単価が一番高いといいます。パソコンとスマホ、タブレット端末、実店舗などさまざまな販売チャネルの中から、2つ以上に触れている顧客を作ることが大事です。それが、オムニチャネルの原点だと思います。そのためのインフラを整備しないといけません。

集客力の弱いブランドは自社モールで光を当てる

セレクソニックを刷新へ

――自社通販モールの強化策については。

「セレクソニック」は今秋、システムからフロント、機能面も含めてフルリニューアルします。今のシステムは古く、提供できるサービス水準が低くなっていました。ポイント制度や電子クーポンの発行の仕方、2点以上の購入で10%オフになる機能などがないなど、ウェブサービスのレベルを高めるためにフルリニューアルします。現状のブランド群をどういう形で見せるかなどは、まさに検討しているところです。

――「セレクソニック」の重要性に変化は。

もちろん、自社通販モールは引き続き重要です。ブランド単位で集客できるものはブランドの通販サイトが主軸になれば良いと思いますが、一方で集客力の弱いブランドをサポートし、特集コンテンツなどでフィーチャーできるプラットフォームは持っておくべきだと思います。

今後、ネット販売の売り上げをもっと伸ばそうというときに、すでにEC化率の高いブランドをさらにネットで売っていくよりも、現時点ではあまりネットで売っていないブランドのEC化率を高める方が効率的ですよね。

――他社通販モールの活用についての考え方は。

いくつかの他社ECモールとは来期に向けて基幹連携の準備をしています。せっかく撮影業務を内製化している強みを生かす意味でも、商品情報を一括提供できるようにしたいと思っています。

そうなると、必然的に他社モールの販売チャネルは増えることになりますが、それを実現するためには在庫の案文をリアルタイムに限りなく近づけないといけません。各モールに商品在庫情報をリアルタイムで提供し、どこの通販モールで売れてもいい状況を作ることが大事です。ファッション系の通販モールや総合仮想モールを含め、売り場のハブを作る作業を今期中に行います。そのあとは、各事業会社の意向に沿って出店先や品ぞろえを決めていくことになります。

――今後のネット販売の展開で大事なことは。

他の大手アパレル企業と比べてもTSIグループが展開するファッションブランドは顧客層や価格帯、テイストなどが幅広いのが特徴です。そのため、ブランド単位でのEC最大化と最適化を考えることが重要になります。これからは、ブランド単位で成功事例や失敗事例、トライ&エラーを蓄積していきます。

◇プロフィール◇

柏木又浩(かしわぎ・またひろ)氏
1962年生まれ。青山学院大学卒業後、ビジネスプロデューサーとしてローソン「Loppi」のコンテンツプロデュースや着メロ・着うた人気サイト、XJAPANの「YOSHIKI.NET」などの音楽コンテンツビジネス、住金物産の「MOSTI」、スターダストプロモーションの「Smooch」などのファッションECやTVショッピングのプロデュースなどを数多く行う。13年3月TSIホールディングスWEB戦略事業部長、14年3月から現職

◇編集後メモ◇

2014年 3 月 に ス タ ー ト し たTSIECストラテジーは、グループが展開するファッションブランドのネット販売をブランド単位で伸ばしていくという役割を担っています。そのため、自社通販モールの「セレクソニック」に加えて、ブランドごとにリアルとの連携を意識した“オムニチャネルサイト”のインフラ構築を進めています。そこには、価格帯やテイスト、客層などに加え、EC化率などネット活用の取り組み具合が異なるブランドを数多く抱える同社グループならではの悩みがあるようです。すでに一定の集客力を持つ自社モールの拡大はもちろんですが、来るべきオムニチャネル時代に向けて、まずは今期中にどれくらいインフラ整備ができるかも、来期以降を占うポイントとなりそうです。

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