梶原 健司●千趣会代表取締役社長 経営資源を通販に再シフトする

 千趣会は前期(2020年12月)、構造改革の進展やコロナ禍での通販ニーズの高まりも追い風に、通販事業が14年度以来、6年ぶりに黒字化した。社会インフラとして通販の重要性が一段と高まる中、経営リソースを通販に再シフトするとともに、20年9月に資本業務提携を結んで千趣会の筆頭株主となったJR東日本との協業にも力を注いでいく。梶原健司社長が語る構造改革の成果や3カ年の新中期経営計画の方向性とは

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販促物はラブレターを書くように送った

行動指針が会員復活に寄与

─前期はコロナに振り回された1年でした。

 2018年11月に社長に就任しましたが激動の1年が毎年続いている印象です。20年はやはりコロナの影響が大きかったですね。通販事業は構造改革の成果が着実に出た1年となりました。お客様をとり戻すために商品群の見直しだけでなく、販促も強化していました。そこにコロナの影響が出始め、通販事業に関しては追い風となりました。

─連結業績では苦戦しました。

 通販が苦戦し時期に利益面をけん引していたブライダル事業がコロナの影響をまともに受けました。通販が回復したらブライダルが大赤字となり、連結ベースではなかなかうまくいかないですね。「まだ踏ん張れ」ということだと思います。当社の実力を試されていて、今期からが本当の勝負です。

─通販会員が大きく増えました。

 前期はベルメゾン会員が55万人以上増えました。とくに新規会員の約15万人増に対し、継続・復活会員は約40万人増えました。かつて千趣会のファンだったお客様を中心に戻ってきてくれたことは大きいです。DMなども送りましたが、コロナ禍で「ベルメゾンもあったな」と思い出してもらえました。ただ、再度のお試しをして頂いている状況だと認識しています。これから当社の実力が試されていて、継続してもらえるかが大事になります。

─好転した通販事業も気が抜けません。

 社員からは何とか頑張ろうという気概を感じますし、個人力も組織力も高まっています。18年に早期退職者を募集したことで、この3年間で4分の1くらいの社員が入れ替わっています。千趣会のDNAを継承しつつ、新しい風も吹いている状況です。7月に公表する新中計でのモチベーション維持も大事で、コロナ禍だからこそ社内コミュニケーションのあり方や従業員エンゲージメントの向上が必要だと感じています。

─従業員エンゲージメント向上策の中身とは何ですか。

 例えば、現場からも教育プログラムやキャリアアップに対する要望が出てきていますので、会社としてもさまざまな階層を対象とした教育に力を注ぎたいです。構造改革の中では取り組めませんでしたが再成長を下支えする上でも大切です。

─人員拡大も必要になりそうです。

 従来は管理部門の人員が多かったのですが、構造改革時は売り上げを取る販売系の人材採用にシフトしていました。まだマーケティングやIT系は不足気味ですが、管理部門では人事や総務、経営戦略などを統括するコーポレート本部については人員補填を含め組織力を高める必要があります。新卒採用についても早期の再開を目指したいです。

─前期は商品力の部分でも成果が出ました。

 オリジナル商品を軸にした商品力や提案する際の切り口、コンテンツ力が上がったと思います。また、「愛、のち、アイデア。」というブランドコードを掲げたことで、それを行動指針としてベテランから若手までがひとつのベクトルで動けました。当社の通販事業はカタログとECの連動が肝になりますが、ブランドコードを確立するためのプロジェクトの第1フェーズではカタログの表現やコピー・キャッチ、誌面のマナー・トーンなどもブランドコードに沿って見直し、統一しました。

─次のフェーズは。

 発刊物やその表現だけでなく、お客様とのあらゆる接点に広げました。例えば、コールセンターの対応や物流センターでの梱包のあり方など各部署でブランドコードに向き合うことで、当社の“人格”が統一されてきました。従業員が「よし、これだ」と感じられるのはモチベーションにもつながりますし、社外に対しても結果的には差別化要素となりました。

─商品力のベースにもなります。

 ブランドコードに則り、愛のある商品に限定したことで商品型数は18年と比べて6割くらいに絞りました。また、これまでファンだったお客様がなぜ当社から離れたのかという分析を行い、ブランドコードに沿って販促物のあり方についてもラブレターを出すよう送り方にこだわりました。通販会社として100種類以上の販促テストを繰り返し、効率の良い手法が見えてきたこともあって20年1月から販促を本格化した後にコロナがきたという部分もあります。

─今期、会員施策のバランスは。

 300万人近い会員数となりましたので、新規よりも継続化に注力し、戻ってきてくれたお客様が再びファンとなってもらえるようにしていきます。新中計でもそうですが、当社の提供価値を固める先には、そこに共感してくれるお客様との長いお付き合いが欠かせません。LTV向上に向けては売上高を大きく拡大するというよりも、ポリシーに共感してくれるお客様や取引先も含めてお付き合いさせて頂いて差別化を図ります。共感できる間柄の中で商売をしていきたいと思います。

JR東日本との協業に注力

─コロナ禍の通販需要拡大で商品型数はどうなりますか。

 この2~3年は効率の悪い商品を削ってきましたが、顧客セグメントごとにニーズの高い商材が見えています。一例として、食品関連は子育て世代やシニア層の需要が高いですね。食品に関係なく、オリジナル商品に重点を置いたこの数年の取り組みは間違っていません。ただ、通販市場への参入企業が増える中で、当社のブランドコードに共感してもらえる取引先との関係を強化していきます。さまざまな取り引き形態、マネタイズの枠組みも含めて商品の不足分を補っていきます。利益と継続性を重視してお客様のニーズに応えます。

─生活総合提案型企業を掲げています。─中国の消費をけん引する、95年以降に生まれた「Z世代」の特徴とは。

 ベルメゾンの不調時は商品を点で紹介していましたが、商品を通してその先の暮らしを提案する必要があります。コロナでお客様の生活スタイルが一変しましたが、その時々のニーズや悩みを理解し、時代に合ったライフスタイルを提案し続けなければいけません。そこには物販だけでなく、サービス販売も含まれます。

─保険事業も手がけています。。

 その通りです。コロナ禍でなければ、全国で無料のマネーセミナーなども開催しています。物販以外でもオリジナル性の高いものであれば加えていきたいと思います。例えば、マタニティ教室や子どもの成長に合わせたアルバム制作など、さまざまなことが考えられます。

─数年前まで千趣会チャイルドケアの社長も務めていました。

 保育園を運営していると、さまざまなニーズが見えます。物販だけでなくワンストップで頼られる存在になりたいです。ベルメゾンの入り口となる妊娠・出産・子育ての流れの中でお客様の声に応えていきます。さまざまなお客様の層がありますが、まずは子育て世代向けで成功事例を作りたいです。

─顧客接点としてのチャネルはたくさん持っています。

カタログやEC、DM、チラシ、頒布会などをかけ合わせることができるのは当社の強みです。加えて、資本業務提携によってJR東日本さんが持つリアルのアセットを通じた接点もできます。

─JR東日本は生活サービスにも力を注ぐといいます。

 コロナ禍でデジタルの必要性が高まっていますし、当社への期待も感じています。妊娠・出産期の女性は鉄道の利用機会が減りますが、当社はそのタイミングが顧客との接点が強まる時期で、補完しあえます。JR東日本さんとはポイント連携をベースにしながら当社のアセットや商材を提供できます。リアルとデジタルの融合という大きな視点で取り組みたいです。

─「JREモール」に出店しました。

 3月1日にベルメゾンの家具やインテリア、ファッショングッズなどの売れ筋を中心に数千点規模で出品しました。ベルメゾンの知名度を高めて新たなお客様とのつながりを持ちたいです。一方でユーザビリティーやUI・UX、サイト運営ノウハウ、販促のあり方など当社がサポートできることはしていきたいと思います。

─外部ECモールの売り上げも増えました。

 国内は「楽天市場」や「PayPayモール」「アマゾン」に出店し、海外は中国の「天猫」向けに展開しています。3カ年で外部ECモール経由の売り上げは約2.8倍に増えました。前期はコロナ禍ということもあって服よりもリビング、キッチン用品、家具、寝具などが売れました。新中計でも国内外の外部モールでの販売は強化します。

どういう企業から買うかが重視される時代にいる

モニターサイトを再強化

─7月に新中計を発表します。

 奇をてらったことはしません。通販事業モデルを進化させるために、当社のミッションやビジョン、ブランドポリシーを固めた上で、お客様、取引先とのつながりをより強化していきたいです。

─具体的にはどんなことを考えているのでしょうか。

 従来はお客様と一緒に商品を作る取り組みをしていました。例えば、ベルメゾンのモニターサイト「ベルメゾンデッセ」には約22万人の登録会員がいます。ここに改めて力を注ぎます。一方向の「to」ではなく、「with」の関係を大事にします。良い商品をSNSで拡散してもらったり、ブランド作りにも参加してもらうような取り組みができればいいですね。それにはさらに商品力を高める必要がありますので、取引先との協業を進めます。

─千趣会グループの変革にも取り組みます。

 通販事業を核としたポートフォリオを再構築します。ブライダルや保育事業などもありますが、経営リソースは通販に再シフトして、グループ間での送客や事業連携などを図ります。また、何よりもJR東日本さんとの協業を広げていきたいです。

─持続的社会への貢献も掲げています。

 ESGやSDGsの取り組みも進めます。2021年は創業66年、通販事業は45年になりますが、コロナ禍で通販が社会インフラとして重要視されています。ブランドポリシーを含め社会貢献にさらに力を注ぐべき局面がきたと感じます。当社は事業の延長線上で社会に貢献できます。環境問題や女性活躍支援なども含めて取り組みます。物も情報も飽和した世の中で、商品の良し悪しはもちろんにあるにせよ、どういう企業から商品を買うかという部分が重視される時代になりました。新興企業による通販参入が増えてくる中でポリシーを持って臨みたいです。

─投資についてはどうでしょうか。

 DX化に向けてシステム基盤を整備します。これまでカタログをベースにした基幹にさまざまなサービスを継ぎはぎで構築してきましたが、変化に迅速に対応するためにも22年1月をメドにECベースのシステムに大幅刷新します。相当額の投資になりますし、業務改革を伴うものになります。

─コロナの収束が不透明です。

 コロナ禍でこそ人のつながりを大事にしてきた当社の強みを出せると考えています。IT化はもちろん進めますが、アウトプットは変わらずにヒューマンタッチを大事にしたいです。


梶原健司(かじわら・けんじ)氏

1961年6月20日生。88年8月千趣会入社、2009年1月執行役員、ファッション事業本部副本部長、10年1月ベルメゾンネット推進室長、11年1月EC事業本部副本部長、EC事業本部EC事業企画部長、同年8月EC事業本部EC販売企画部長、13年1月販売企画本部副本部長、14年1月ファッション事業本部長、15年3月取締役執行役員、同年4月ファッション事業本部長、SPAブランド事業本部長、同年8月ファッション事業本部長、16年1月東京本社代表、事業開発本部長、同年7月千趣会チャイルドケア代表取締役社長。17年1月東京本社代表、事業開発担当、18年11月代表取締役社長に就任(現任)、19年6月ワタベウェディング社外取締役(現任)

◇ 取材後メモ

 梶原社長が就任して2年半。昨年はコロナ禍で通販需要が高まったとは言え、通販事業が6年ぶりの黒字を確保したことはターニングポイントとなったに違いありません。コロナ前から休眠客の掘り起こしを進め、復活会員を数多く得たことは会社の財産となりますが、「まだお試し頂いている状況」と気を緩めないのは、コロナが直撃したブライダル事業を抱えているからかもしれません。新中計では“生活総合提案企業”を掲げ、サービス販売にも目を向けるようです。梶原社長は千趣会チャイルドケア時代に子育てママを近くで見てきただけに、ベルメゾンの入り口となる顧客層の満足度を高める施策には自信がありそうで、再成長への次の一手に注目が集まりそうです。

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