楽天グループは8月1~4日、都内の「東京ビッグサイト」で、体験イベント「楽天オプティミズム2024」を開催した。4日間で6万6000人が来場している。
生成AIが買い物提案
初日となる1日には、三木谷浩史社長による基調講演を開催。生成AIを使ったコンシェルジュ(案内人)サービスを導入することが明らかになった。ユーザーとの対話を通じ、AIが仮想モール「楽天市場」の商品や、宿泊予約サービス「楽天トラベル」の宿泊施設を提案してくれるというもの。同社が提供するサービスを横断した買い物や宿泊プランなどを案内できるようにすることで、さらなる国内EC流通額向上につなげる狙いだ。
講演の中で、サービス名は「ユニバーサルコンシェルジュ」と明かされた。同社EC広報課によると、具体的な内容や提供時期などは未定という。楽天市場やフリマアプリ「楽天ラクマ」、書籍通販「楽天ブックス」など、グループを横断した買い物案内を可能とする。基調講演ではコンシェルジュのデモンストレーションビデオが流された。ユーザーがタルトの画像をアップロードし「これを作るための材料を教えてほしい」とスマートフォンに話しかけると、AIが画像と音声を認識して必要な材料を回答。さらにユーザーが「タルトに合う小麦粉は」と問うと、適した小麦粉を提案、楽天市場で売られている商品を表示した。重ねて
「500円以内がいいな」と条件を絞ると、該当する商品を示す、という内容だ。
さらには、欲しい商品を明示せず、例えば「これおいしそうだけど何買ったらいいの」「こんなところに行きたいんだよね」といったあいまいな表現でも、AIが商品やホテルを提案してくれるようにするという。「『これに合うコーヒーは』『これが食べられる喫茶店はあるか』といった質問に対しても、
『ぐるなび』などグループのサービスを展開していく」(三木谷社長)。コマースだけではなく、トラベルやフィンテックなど「さまざまな問い全部に答えを返してくれる」(同)ユニバーサルサービスになるという。
AIの民主化」実現へ
「楽天のAIは世界でもトップクラスではないか」と自信を示す三木谷社長。基調講演では、「誰かが使えるAI」ではなく「世界中の人が使えるAI」、つまり「AIの民主化」実現に向け、グループ全体で取り組んでいく方針を明らかにした。これには3つのステップがあり、まずはデータで技術基盤を拡大。次のステップでは社内でAIを活用、モデルケース化する。そして「RakutenAI」として社外へオープン化していく。
「世界の企業の中でも、楽天はAI分野で非常に注目されている」(同)。同社のAIサービスを下支えするのは、自身が保有する豊富なデータだ。
「ほとんどの日本国民が楽天IDを持ち、5000万人弱が当社サービスを使っている。さらに楽天ポイントは年間7000億近く発行している。世界でも18億人が楽天IDを持っている。グーグルやメタ、アマゾンといった『ハイパースケーラー』でも、楽天ほど幅広く深いデータは持っていない」。こうしたデータをさらに深化させるのがモバイル事業の拡大。三木谷社長は「楽天モバイルユーザーの行動データが、個人情報保護法に抵触しない形でわれわれのデータベースに入り、AIを通じて皆さんのサービスで使ってもらえるようになる」と展望を語った。
同社が進めるAI戦略は2つ。OpenAIをはじめとした生成AI企業との連携と、楽天自身の大規模言語モデル(LLM)開発だ。「第2ステップ」となる社内でのAI活用については、具体的な目標設定をしている。「マーケティング効率・オペレーション効率・楽天市場出店者など取引先のオペレーション効率を20%向上する」というものだ。
「第3ステップ」の社外へのオープン化については「ビジネスのやり方が根本的に変わっていくだろう」とし、画像分析や作成、マーケティングの最適化、プロモーションの実行、翻訳機能、顧客サポート、流通・在庫管理、価格設定、商品紹介、さらには冒頭のコンシェルジュサービスと、さまざまな分野で活用を進めていく。
三木谷社長は講演の最後に「皆さんよりも少しだけ先を見て、そこに向かって果敢なチャレンジをし、道を切り開くのがわれわれの役割だ」と自負の言葉を口にした上で、「AIによって、世の中は根本から変わる。それを皆さんとともに実現していきたい」と結んだ。
「買い回り」を疑似体験
同イベントは今年で5回目の開催となる。今年は「AI」と「モバイル」をテーマに、国内外の業界リーダーが講演を行う「ビジネスカンファレンス」や、最新テクノロジーや「楽天エコシステム(経済圏)」を体感できる体験イベント「フューチャーフェスティバル」を実施した。
「フューチャーフェスティバル」では、「楽天ふるさと納税」で人気の全国18自治体が出展し、各地の名物料理や特産品をその場で味わうことができる「ご当地屋台横丁」などの「ふるさとエリア」や、AIと画像認識技術で顔の表情を読み取り、一人ひとり異なるオリジナル漫画風写真が作れる
「AI漫画セルフィー」といった、AI技術を活用したコンテンツを体験できる「AIエリア」など、さまざまなエリアに分けブースを設けた。
楽天の手掛けるサービスが体感できる「ディスカバリーエリア」における「楽天市場」ブースでは、出店する企業の人気商品を紹介する「ポップアップストア」を設置。商品を実際に見たり体験したりできるだけでなく、気になる商品は商品横のQRコードを読み込み、楽天市場内での詳細をチェックすることができる。
ブース全体を、部屋のようなイメージで3つに空間を分け、それぞれ家電製品、ファッション・コスメ、食品を展示。前回までは出店店舗にブースを販売し、出店者自身が商品やグルメを販売していたが、今回は楽天が主体となり、楽天市場のイベント「買い回り」をブース全体で疑似体験してもらえるようにした。楽天市場の世界観を伝える狙いがあるという。
家電はマッサージチェアの「トクヨ」やハンディー掃除機の「シャークニンジャ」など8店舗が出展。ファッションは「アンティカ」や「イーザッカマニアストア―ズ」といった人気の4店舗が、コスメは「エスティローダー」や韓国コスメの「TIRTIR」など4店舗が出展した。食品は、近年「完全食」がブームとなっていることを受け、健康を意識した食品を販売する店舗を選定。自然食品の「タマチャンショップ」と豆粉パンの「ZENB」が出展した。
ブランドとの出会いにつなげる
ファッション・コスメのブースでは、イベントのテーマである「AI」と掛け合わせ、外部ベンダーを取り入れてAIを活用した「骨格診断」や「パーソナルカラー診断」を実施した。
骨格診断などを行うミラーサイネージ「プラスミラー」では、正面と横から全身写真を撮影し、体型に関するいくつかの質問に答えると、自身の骨格の特徴を表した「骨格タイプ」とその解説がデジタルサイネージ上に表示される。似合うアイテムや着こなしなどのパーソナルアドバイスも表示され、その人の体型を綺麗に見せるファッションを知ることができる。診断後に表示されたQRコードを読み込むと、携帯・スマートフォンの画面でも結果を確認することが可能だ。
ブースに展示されている商品には、おすすめの骨格タイプが書かれたタグが付いているため、診断後に自分に合ったアイテムをその場で選ぶこともできる。プラスミラーはデイトナ・インターナショナル子会社のInnovationStudioが手掛けるサービス。東京・新宿の「ルミネ新宿」などにも設置されており、診断結果から通販サイトへ遷移させることも可能だ。
同じくプラスミラーを活用した「パーソナルカラー診断」では、紙でもらえる診断結果内にコスメの購入に使えるクーポンを添付するなど、楽天市場に送客できる仕組みも整えた。
さらに家電コーナーでは、マッサージチェアやスマートバスマット、100インチプロジェクターなどの人気家電を展示、1人暮らしのリビングルームを再現した。
同社では「楽天市場の面白さはディスカバリー(発見)にある。競合他社は価格を重視して検索から流入するユーザーが多いが、楽天はブランドとの出会いを大事にしている。ブランドをもっと知ってもらうためにも、コンテンツをきちんと提供したいと考えた」(マーケットプレイス事業ECコンサルティング部の草壁匠シニアマネージャー)と、体験コンテンツを設けた狙いを説明した。