地上アナログ放送の停波で買い替え需要が一巡し、販売が苦戦する薄型テレビ。こうした中で、こうした中で注目を集めるのが、ネット接続を前提とした「スマートテレビ」だ。家電メーカー各社は、ネット機能を強化したモデルを発売しており、通販企業が対応したアプリを提供するケースも出てきている。ただ、家電メーカー各社が提供するプラットフォーム「アクトビラ」をはじめとして、さまざまな試行錯誤が行われてきた放送と通信の連携サービスだが、苦戦が続いてきた。果たして「テレビコマース」は有力な販路となりうるのだろうか。
「ブラビア」に通販アプリ
3月23日、ソニーではネット機能を強化した液晶テレビ「ブラビア」の新商品を発表した。最大の特徴は、「ユーチューブ」などのネット動画が大画面テレビで楽しめるのはもちろん、ツイッターやフェイスブックといったコミュニケーション関連のサービス、そしてショッピングなど、約170種類のアプリケーションが利用できることだ。リモコンの「SEN」ボタンを押すだけで、ネットテレビ機能のポータル画面にアクセスできるほか、あらかじめお気に入りのアプリを登録し、簡単に呼び出すこともできるようにしている。
スマートフォンやタブレット端末との連携機能も備えている。無料アプリ「メディアリモート」を使えば、モバイル機器をリモコンとすることができるだけではなく、ソフトウェアキーボードを使っての文字入力、さらには音声入力が可能になるなど、ボタンの少ないテレビ用リモコンの弱点を補っている。
ソニーマーケティング・ホームエンタテインメントプロダクツマーケティング部の下川床(しもかわとこ)剛シニアマーケティングマネジャーは「一家団らん時にお茶の間でネット機能を使ってもらいたい」と話す。こうした中で新設されたのが「ブラビアネットショッピングモール」だ。参加しているのは、カタログ通販企業の中ではニッセンとベルーナ。さらに食品はイオン(4月サービス開始予定)、水産物直販の旬材、旅行関係の近畿日本ツーリスト、クーポンのポンパレの計6社となる。
いずれも大画面テレビで電子カタログや写真の閲覧を可能にし、実際のサービス利用につなげるというものだが、特にカタログ通販企業のターゲットとなるのは、テレビを最も利用する機会の多い主婦だ。ブラビア向けにアプリを提供する場合、必要となるのは契約料に加えてアプリの制作料。ソニー側から仕様書をもらい、アプリを作ることになるが、操作性など細かい部分については「クライアントと綿密に相談している」(下川床氏)という。
ベルーナでは、3月28日から「ベルーナらくらくショッピング」を提供している。テレビの画面で同社のカタログが閲覧できるというものだが、カタログはシーズンごとに3種類用意。商品の注文は電話から行う。同様にカタログアプリを提供しているニッセンでは、携帯端末からの注文を行うことができる。おサイフケータイに対応した端末の場合、リモコンのフェリカポートに端末を置いて、ボタンを押すとURLが転送される。未対応の場合は、画面に表示されたバーコードを端末のカメラで読み取ると、同様にURLが転送される形だ。
購入完結が課題に
ベルーナでは中高年女性を主力顧客層としていることから、新サービスはパソコンや携帯電話よりもテレビに慣れている顧客をターゲットとしている。ただ、ここで問題となるのが注文形式だ。
現在、ソニー側では決済手段を用意していないため、注文は電話、もしくは携帯端末などにURLを転送し、購入してもらうことになる。ソニー側では「テレビのアプリ内で購入を完結す
ることは可能」(下川床氏)としているが、その場合相応のセキュリティー対策も必要となるため、当然のことながらサービス提供側の通販企業への負担は増す。かなりの売り上げが期待できなければ導入しにくいのが実情だろう。さらには、住所やカード番号の入力方法を工夫する必要も出てくる。
ソニーの調査によると、2011年モデルのネット接続率(1カ月に1回アクセスする人)は18%。ただ、大型に限ると40型以上で32%、46型以上で41%にまで達しているという。この数字は、他メーカーのネット接続率に比べると「1.6倍ほど高い」(下川床氏)という。特に目立つ使い方は、ハイビジョン対応のユーチューブ動画のテレビでの閲覧だ。とはいえ、ネット接続の利用は男性が中心。ソニー側としても、女性顧客の多い通販企業などと組むことで、メールマガジンやウェブやカタログなどでネット接続を周知してもらいたいという狙いがある。
ソニー以外でも、パナソニックがネットワークサービス「ビエラ・コネクト」を提供するなど、こうしたトレンドがさらに広がるのは確実といえる。ただ、利用者視点からみれば、アプリ内での購入完結は必須の機能だろう。操作性、課金システムなど、テレビに合わせたユーザーインターフェースを開発し、いかにストレスのない環境を用意できるかが、最初の課題となりそうだ。
既存アプリ流用しやすく
一方、NTT西日本では、手持ちのテレビで、ネットを介した映像コンテンツなどを利用できるようにする情報端末「光BOX+」を3月22日に発売した。インターネット接続サービス「フレッツ光」の新たな利用シーンの創造を狙いに開発したもので、西日本エリアで販売している。
光BOX+での物販展開では、千趣会が同端末の発売と同時にアプリの提供を開始。スマートテレビでの物販の可能性の検証を狙ったもので、提供するアプリは、既存のAndroid端末向け「ベルメゾンネット」画面を活用した。まず、導線の確保やユーザーニーズの把握などを進める意向で、さらにネットなどで展開する動画資産の活用も構想する。
千趣会では、昨年には、「ベルメゾンネット」内に「ベルメゾン動画ショッピング」を開設し、すでに数百本の動画を展開。従来の商品説明的な活用から、動画を見ながらショッピングを楽しむ流れ作りにも力を入れており、情報番組風の動画や通販番組風の動画なども用意する。
読めない普及時期
2011年7月に野村総合研究所が実施した「スマートテレビの利用意向に関する調査」によれば、国内におけるスマートテレビの利用世帯数は、2011年度の27万世帯から、2016年度にはほぼ30倍の770万台に拡大する見込みだという。テレビの販売台数が伸び悩む中で「買い替えの動機にしたい」(ソニーマーケティングの下川床氏)とメーカーが力を入れるスマートテレビ。とはいえ、コンテンツのさらなる充実など、普及には課題も残る。
テレビのネット接続自体は真新しいサービスではない。これまでも家電メーカーは普及に取り組んできたが、あまり広がらなかったという経緯がある。ブラビアにアプリを提供する2社も、今後のサービス普及時期やアプリの利用頻度については「何ともいえない」(ニッセン)「読めない」(ベルーナ)と口を揃える。
これまで普及が進まなかった理由について、下川床氏は「テレビでやれることが限られていたことが大きいのではないか」と分析する。また、家電メーカー各社では、ネットサービス「アクトビラ」を提供しているが、ただ、アクトビラはブラウザを使うこともあり、ハード的な制約があるテレビではどうしても動作が重くなる。アプリ形式ならこうした心配はいらない――というわけだ。
通販の利用シーンは少ない?
ネットに接続する人が増えれば、通販企業にとっても大きなチャンスとなるのは間違いない。とはいえ、スマートテレビの利用がどこまで伸びるかは未知数な部分もある。4月からは見逃
した過去の番組などを有料で視聴できるVOD(ビデオオンデマンド)サービス「もっとTV」が始まっているが、さらなるコンテンツの充実とともに、より手頃な値段での提供は、利用者増に向けて不可欠。著作権管理の厳しさが、放送と通信連携サービスの普及を阻んできた過去もある。
もう一つの問題が利用シーンだ。テレビがパーソナルな機器ではないことを考えると、電子カタログを見ながらの買い物は、どうしても主婦が一人でいる昼間などに限られてしまう可能性
が高い。通販企業はきちんとニーズを考慮した上でサービスを提供する必要がありそうだ。