主要通販・EC実施企業に聞くーー2025年の市場予測と景況感、課題は?

 本誌姉妹紙「通販新聞」は2024年12月に、通販・EC各社にアンケート調査を行い、2025年の市場の予想と現状の消費動向、コスト増の影響、課題について聞いた。物価高が続いている中、より安価な商品を探して購入できる通販・ECの利用が伸び、市場は拡大すると予想されるが、消費意欲は横ばいを予想する声が多かった。事業の最重要課題の1つとして考えられる新規顧客獲得も利益を重視する傾向が続いている。

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1-〈通販・EC市場予想〉「拡大する」が50%に、市場の成長可能性に期待の声

 アンケート調査は2024年12月に、通販・EC実施企業約600社を対象に実施した。

 25年の通販市場について「どのように予想していますか」と聞き、「拡大する」「横ばい」、「縮小する」の中から当てはまるものを選んでもらいその理由を聞いた。

 25年の通販市場について「拡大する」と回答したのは50%だった。前年同期の調査から2ポイント増え、約半数で市場が拡大するとみている。

 主なコメントは「EC通販の利用が定着化しているため」(アスクル)、「EC通販の市場は引き続き拡大すると予想」(ベルーナ)、「物価高による家計負担増の影響で、通販を利用して少しでも安価な商品を探すといった消費行動になるのでは」(アプロス)、「やや拡大していくと考える。通販に代わるようなチャネルができない限り拡大していくと予測する」(ジャパンリミテッド)、「歯科関連商品の通販市場は年々徐々に拡大しており、今後も拡大余地があるため」(歯愛メディカル)など、通販の定着や市場の成長可能性に期待する回答があった。

 また、「物価高とは言え、各種調査によると消費者の購買意欲は拡大しているため。通販市場においても、拡大率が鈍化することはあっても伸長は続くと思われる」(田中貴金属リテイリング)、「個人消費が緩やかな増加傾向で推移しているため。また店頭回帰によりEC通販の伸び率は鈍化しているものの、コロナ禍で獲得したユーザーが定着しており、特に大手ECモールはコロナ禍を契機に生鮮品、日用品、消耗品等を購入する消費者が増え利便性も認知されており、緩やかな成長が続くと考えられる」(北の達人コーポレーション)など、消費意欲の高まりが市場拡大の追い風になるとの予想もあった。

 「企業によって伸ばす企業と低迷する企業がより顕著になると予想。OMO施策やDX関連、インフラ投資の差によって顕著になると予想」(アダストリア)、「ECモールを中心に引き続き通販市場は伸長。広告はネット中心、OMO・DXなど各社デジタルの取り組みを強化していくトレンドはより一層強まることが想定され、通販市場はより一層活性化され伸長するとみている」(ファンケル)など、デジタル化の加速が市場の活性化につながると指摘する回答もあった。

 「機能性のルール変更による影響が出る中でも、紅麹報道の影響の緩和への期待および美容健康への意識は引き続き堅調に伸びるものと推察」(ディーエイチシー)など、美容健康ニーズの高まりを期待する声もあった。

環境変化を受け「横ばい」45%に

 25年の通販市場について「横ばい」と回答したのは45%だった。前年同期の調査から2ポイント増えた。

 主なコメントは「コロナによる巣ごもり需要が終焉し、物価高騰が個人消費を抑制させている。通販事業各社はそれを見越してコスパや希少性、アイデア性をうたった独自の商品の開発やタイムセール、積極的な広告宣伝などでしのぎを削っている。業界全体の顧客に対するアプローチの質があがっているので通販の市場自体が縮小するとは考えていない」(全日空商事)、「通販利用の増加傾向は継続すると予想されるが、商品のカテゴリーによっては成長が鈍化する」(白鳩)、「競争の激化により優劣がつきはじめると思われ楽観視はできないが市場の急激な縮小は起きないと考えている(ニッピコラーゲン化粧品)「物流の2024年問題、機能性表示やサプリメントへの信頼性、物価の上昇などと課題がある。また、消費者の消費動向にあまり変化が見受けられないと考えるため」(八幡物産)など、競争激化や市場環境の変化を指摘する声もみられた。

 「縮小する」との予想は0%だった。その他には「予測できない」とする声もあった。

2-〈消費動向〉物価高の影響が続き「下がっている」が34%に

 アンケート調査では「現状の消費動向をどう捉えていますか」と聞き、「上向いている」「下がっている」「横ばい」の中から当てはまるものを選んでもらい、その理由を聞いた。

 「上向いている」と回答したのは13%だった。前年同期の調査から8ポイント減少した。

 主なコメントを見ていく。「アンドエスティが好調。新規会員が増加。会員売上比率が約7割と安定的に推移。新たにグループに加わったブランドでも伸長」(アダストリア)、「市場全体でみれば物価高の影響による節約志向の強まりはあるが、当社顧客層の購買意欲に翳りは見られない。将来の不安からくる貯蓄や投資への関心が、貴金属製品の購入につながる傾向もあり、その点も含め消費動向は上昇が継続す
るとみている」(田中貴金属リテイリング)など、足元の状況を踏まえたコメントがみられた。

 「下がっている」と回答したのは34%となり、前年同期の調査から9ポイント増加した。

 主なコメントを見ていく。「なかなか給料も挙がらない中で、今後も物価高が続くと見込まれるため。家計を守ろうとする心理が強く働くのでは」(アプロス)、「物価上昇により消費マインドが低迷」(ベルーナ)、「必要なものは購入されていると思われるが、節約志向が高まっていると考えられるため」(八幡物産)など、物価高による節約志向の高まりが影響するとみる。

「横ばい」は53%、不透明さや節約志向が影響

 「横ばい」と回答したのは53%。前年同期の調査に続いて半数を超えた。

 主なコメントを見ていく。「外国人観光客が増加傾向にあるが、物価高による消費者の節約意識は高い」(アスクル)、「所得増加の一方、物価上昇影響で堅調」(ユナイテッドアローズ)、「世の中全般的に値上げの波が続いており、消費動向が上向いているとは感じにくいものの、大きく落ち込む動向も特段みられないため」(歯愛メディカル)などとするコメントがあった。

 また、「賃上げ、定額減税、子育て世帯への支援拡充などはありつつも、これまでの物価値上がり、電気料金値上がりなどで実質賃金増とは言い難いこと、さらに今後の値上がりへの懸念などから大枠での国内消費動向は横ばいとみている。全体では横ばいとみているが、その内訳である商品・サービスの内容やお客様層などによって上向き、横ばい、下向きは異なると考える」
(ファンケル)、「所得拡大の政策などはみられるが、消費者が物価の上昇には追い付いていないため」(白鳩)、「雇用や所得環境の改善により消費活動の活発化が期待されている一方、特に個人消費については物価上昇や円安の影響が大きいほか節約志向も強く、減少まではいかないものの急激な増加は難しいと考えるため」(北の達人コーポレーション)との声もあった。
 
 このほかに、「リアルの市場が戻ってきている分、通販市場は苦しくなると感じているが、一方で通販は消費者の購買行動の一つとして根付いているため」(ニッピコラーゲン化粧品)、「購入する回数は減っているが、客単価は上がっている傾向がある」(バロックジャパンリミテッド)、「旅行やレジャーへの消費が高まっており、それらに関連した便利グッズの需要の高まりがみられる。買い物の目的や動機がBeforeコロナ→Withコロナ→Afterコロナで変化しているが消費ポテンシャル自体はあがっているとも下がっているとも言えず、横ばいと考える」(全日空商事)とするコメントがあった。

3-〈コスト上昇への対応策は〉「値上げ」実施は53%、原材料費高騰や郵便値上げが影響

 円安による影響でさまざまなコストが上昇している。これにより通販事業を行う市場環境も変化している。通販新聞社ではコスト上昇による影響やコスト上昇の対策、業績への影響についてアンケート調査を実施した。

 アンケートでは上昇したコストのうち、自社のサービスや業績に影響を及ぼしたものについて、当てはまるものを選んでもらった(複数回答)。

 最多となったのは「原材料費の高騰」で32%だった。「郵便料金の値上げ」が19%、「運賃の上昇」が14%だった。「印刷用紙代の上昇」と「広告出稿関連費用の高騰」がそれぞれ13%だった。

 コスト増を受けて、主力商品の値上げを実施したのは53%だった。値下げは0%で、47%が価格改定は行わなかった。

 主力商品について値上げを実施した企業からは、価格改定のタイミングや理由について回答を得た。主な回答は「主力商品に限定していないが、商品ごとの原価率が適正な範囲に収まるように適宜値上げは実施している」(オイシックス・ラ・大地)、「シーズンの切り替えと同時に値上げした」(ベルーナ)、「為替相場や原材料高の高騰を受けて商品リニューアルとともに値上げした」歯愛メディカル)、「自社の販売価格設定基準に則り、ベースとなる貴金属価格の変動に伴い改定を実施」(田中貴金属リテイリング)、「値上げというより値下げ率の抑制という形でセール時のオフ率などを調整」(白鳩)などのコメントがみられた。

 価格改定はしていないとする企業においても、「今後は値上げまたは仕入れコストの見直しを行う(JALUX)とするコメントもあった。

 コスト増を受けて価格改定以外に行った対策について聞いた(複数回答)。「原材料などの変更」が28%、「メーカーの変更」と「関連資材の変更」がそれぞれ27%だった。「内容量を減らした」と「その他」がそれぞれ9%だった。

 コスト増への対策を実施したことによる業績への影響について聞いた(複数回答)。「販売数量が減少」と「販売数量は横ばい」がそれぞれ23%だった。リピーターや新規顧客数の減少がといった影響がでたもよう。

 利益面への影響は「利益は横ばい」が27%。「利益が増えた」、「利益が横ばい」がそれぞれ9%だった。

4-〈今後の課題〉新規顧客獲得も“利益”重視の傾向に、原材料や人件費のコスト増が影響

 通販・ECを行う上での現状や今後の課題や課題になる点を聞いた。21の項目の中から重要度が高い順に選んでもらった。収集した回答について、通販新聞が独自ポイント化して集計しランク付けした。

 1位は「新規顧客の開拓」、2位は「既存顧客の満足度」、3位が「商品の開発・育成」で、前年同期の調査から変わらなかった。4位に「顧客サービス・顧客対応」が、5位に「原価率の改善」がランクインした。各社のコメントからは原材料費や人件費、物流費の高騰を背景に、これまでよりも利益を重視する声が多かった。

1位は「新規顧客の獲得」

 1位は「新規顧客の開拓」。主なコメントは「アクティブ顧客の増加が売り上げに直結するため」(ディーエイチシー)、「会員数拡大が売り上げの成長ドライバー」(オイシックス・ラ・大地)、「40~50代のミドル世代の開拓が課題。商品ラインアップを拡充することで、シニアからミレニアル世代まで全世代へ通じるブランド成長を目指す」(新日本製薬)などのコメントがあった。

 新規顧客獲得が将来的な利益への貢献に期待する声もあった。「広告費高騰に伴う獲得効率の悪化の状況から、新規顧客の新たな獲得手法の確立は成長性や利益成長の観点からも重要課題」(ファンケル)と指摘する。「サブスクリプションモデルを採用しており、長期的な利益を生み出す新規顧客の獲得は、今後の事業成長に重要な課題である」(北の達人コーポレーション)との声もあった。

2位は「既存顧客の満足度」

 2位は「新規顧客の満足度」だった。主なコメントは「よりファンになってもらうことが常に必要」(アダストリア)、「継続的な来店・購入頻度の増加を目指す」(ユナイテッドアローズ)、「競合が増える中で、差別化や顧客の囲い込みが重要と考えられるため」(白鳩)とした。

 また、「伸びしろがある」(ニッピコラーゲン化粧品)、「顧客視点で使いやすいサイト運営により、購買率を高め、信頼感あるサービスによりリピーターを獲得する」(全日空商事)などサービスの強化や改善を視野に入れたコメントもあった。

3位は「商品の開発・育成」

 3位は「商品の開発・育成」。新規顧客の獲得や顧客の満足度向上につながる商品開発を重視する声があった。「新規顧客獲得および既存顧客の満足度向上において不可欠」(ディーエイチシー)。「魅力ある商品で顧客を誘引したい」(JALUX)、「幅広い年齢層に受け入れられるための新たな商品開発が課題」(八幡物産)などのコメントがあった。

 商品開発においてはトレンド変化をとらえることが重要のよう。「顧客の世代やライフステージの合わせた新商品、新サービスの展開が課題と考えている。市場のトレンドや顧客の意見や要望を効率的に収集し、分析するためAIを活用する。当社独自の価値を掛け合わせることで、ヒット商品の開発精度の向上やスピーディに商品を開発する体制を構築する」(新日本製薬)、
「当社の主力である『スキンケア化粧品』はトレンドの影響を一定程度受ける。トレンドの変化も意識した上で新たな需要を喚起する新商品を継続的に発売することが必要」(北の達人コーポレーション)などがあった。

4位は「顧客サービス・対応」

 4位は「顧客サービス・顧客対応」だった。競争激化を背景に、レベルアップを図りたい考えがみられた。「顔が見えないからこそ、顧客サービス・対応にさらに力を入れないと競合他社に負ける」(アプロス)、「実店舗と同レベルの接客サービスを目指す」(ユナイテッドアローズ)などのコメントがあった。

コスト増対策の重要性増す

 5位以下はコスト増を指摘するコメントが多くみられた。5位は「原価率の改善」で、「原材料の高騰、為替の影響により原価率が悪化しているため」(ベルーナ)、「原材料費の高騰や、円安等により近年上昇傾向にあるため」(歯愛メディカル)とするコメントがあった。「利益率を強化するためのドライバー」(オイシックス・ラ・大地)として対応の重要性も増しているようだ。

 同率5位の「ウェブの集客」は、「よりパーソナライズされたコミュニケーションを実現するため」(ディーエイチシー)や、「ウェブに集客し、店舗へ送客、オンラインショップでのコンバージョン獲得といった一連の出来栄えが売り上げや利益に大きな影響を与える」(田中貴金属リテイリング)などのコメントがあった。コスト増の観点からも「広告費の配分、削減とあわせてSNSなどの活用が重要と考える」(白鳩)との指摘もあった。

 8位の広告費の配分、削減については、「情報過多の時代に沿って広告の最適化が重要」(アダストリア)とする声があった。「紙代、印刷代の値上げにより広告効率が悪化している」(ベルーナ)、「利益確保を目標とする中で、適正化を図る必要がある」(白鳩)などのコメントがあり重要度が増しているようだ。

 8位は「原材料価格の高騰」だった。「取引先から仕入れ額アップの要求がある」(アプロス)や、「数年にわたり続いており利益を圧迫している」(歯愛メディカル)などのコメントがみられ、課題は深刻化しているようだ。

 10位は「物流コストの削減」。物流2024年問題を背景にしたコスト増が影響し「物流費の効率が悪化」(ベルーナ)。「利益率強化のドライバー」(オイシックス・ラ・大地)、「避けられない課題」(ニッピコラーゲン化粧品)とする声があった。

 10位は「人材確保」が並んだ。「採用において通販経験者は多く存在するが、マネジメント層は希少」(バロックジャパンリミテッド)、「事業の拡大に伴い、実務担当者、中間マネジメント層の積極的な採用や能力向上に向けた人材育成が必要不可欠」(北の達人コーポレーション)などのコメントもみられた。

下位にLTV向上を指摘する声

 12位は「休眠顧客の活性化」で、「リピートにつなげる休眠顧客の掘り起こし策が重要」(八幡物産)のコメントがあった。

 同率12位の「客単価の向上」は物流2024年問題や人件費の高騰を背景に「1受注1配送あたりのコスト効率を考えると客単価の上昇は重要」(ファンケル)、「データベースマーケティングを通じた新たな提案やクロスセルを積極化することでLTVを向上させる」などのコメントがあった。

 14位の「購入頻度の向上」は、「売り上げや顧客満足度に直結する」(バロックジャパンリミテッド)として重要視するコメントがあった。15位の「DXの推進」は「スタッフのスタイリング投稿の一層の強化により、ECと実店舗の売り上げ拡大を目指す」(ユナイテッドアローズ)との声が挙がった。

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