ヤフーがスマートフォン対応を積極化している。同社は11月21日、自社仮想モール「ヤフー!ショッピング」に出店している店舗が簡単に「通販アプリ」を作成・配信できるサービスを開始。ヤフー自らが配信しているアプリ「ヤフー!ショッピング」同様、ポイントキャンペーン情報などをプッシュでユーザーに通知する機能や、商品情報をメモする機能などを利用することが可能で、キャンペーン情報は店舗が自由に設定して配信することもできるという。同社では現在、専用の部署を設置してスマートフォン経由のコマースの強化を進めており、同サービスの開始でこうした戦略をより強固なものにする考えだ。仮想モールの利用者には特定の店舗でしか買い物をしないユーザーも多いため、店舗に直接アプローチできるこの仕組みは「売り手も買い手も喜ぶ(ヤフーモバイル企画部・秀誠部長)とみており、スマートフォン経由の取扱高拡大につなげたい構想だ。
まずは71店舗から導入
ヤフーが開始したサービスは「ヤフー!ショッピング ストアアプリ」。名前の通り、「ヤフー!ショッピング」に出店している店舗が、専用の設定フォームから色味やモジュールを好きに設定して自分の店のアプリを構築する仕組み。トップページの構成や専用の特集ページなどを作ることも可能だ。
対応端末は、始めはアンドロイドOS搭載のスマートフォンのみ。iPhoneに対応していないのはアップルのガイドラインの問題のようで、抵触する可能性がないと判明すれば、iPhone版も提供する予定だ。
対象店舗は、まずは「ヤフー!ショッピング 2010年 年間ベストストア」を受賞した71店舗からスタートする。そこで利用者の声などを収集してフィードバックし、機能を改善するなどしたのちに、「来年中には数百、数千にして、いずれは全ストアにまで」(同)拡大していく計画だという。
現在はヤフー側がアイコン画像やプロモーション用の画像、アプリ名などの基本的な素材を店舗から収集して人力で設定しているが、いずれは店舗側で登録して自動でアプリが構築される仕組みに移行する考えだ。
同アプリの提供は無料。有料で提供している他社の事例もあるが、「デバイスの進化に沿った形でECの仕組みを提供するのは当然のこと」(同)としており、あくまで従来のサービスの一環と捉えているようだ。
個々の店舗が自由にキャンペ情報を配信
ネット販売事業者が「ストアアプリ」を利用するメリットは、まず、個々の店舗がモールを介さず、直接「ファン」と取引できる点にあるようだ。言ってみれば、初めから価格比較とは無縁の位置で潜在顧客を囲い込めるわけで、これはモールにはない強みといえる。今後、広告枠などをアプリに設ける計画は「今はまったく考えていない」(同)とし、当面は「ヤフー!ショッピング」全体の取扱高が増えればいいというスタンスのようだ。
もう一つのメリットは、アプリを訪れたユーザーに対して個々の店舗が自由に販促できる点だ。アプリでのみ閲覧できる専用の特集ページの作成や、自分の店だけのポイントキャンペーンの情報の通知などを行うことが可能。PC版の店舗で設定した条件をアプリでも適用させることができるわけで、キャンペーンの回数やポイント付与率の上限はあるものの、「独自の販促」を行いたい店舗にとっては効果的な仕組みといえそうだ。
なお、アプリへの集客はPC店舗での告知や、メルマガの配信などが現状では基本となっている。
「特徴のある店舗」が有利?
気になるのは同アプリによる効果だが、具体的な数値は、非公表につき不明。ただ傾向としては、自社でオリジナルのブランドや商品を持っているような「特徴的な強みがある店舗」が好調に取扱高を伸ばしているという。ユーザーがアプリを利用するには「ダウンロード」という手順を踏む必要があるため、価格比較に左右されない「その店にしかない強いウリ」がある店舗が相対的に利用されやすいようだ。アプリでユーザーの流入を拡大するためには、そうした“他店にはない強み”を持つことがひとつのポイントといえそうだ。
今後は利便性の向上に注力
当面の目標は利用店舗の拡大だが、他には、アプリ運営にあたって店舗側の負荷を軽減するための施策なども視野に入れているという。まだ構想段階だが、今使われているアプリのツールをPCのツールと統合したり、アプリ経由の売り上げの分析を通常の分析機能で対応できるようにするなどが一例。「アプリのみのオペレーションをなるべく減らしていきたい」(同)とし、店舗サイドが今より楽にアプリ運営できる仕組みに改善していく方針だ。
スマートフォンは近いうちに従来のフィーチャーフォンの販売台数を追い抜くことが確実視されており、今後、ネット販売市場で勝ち抜くためには欠かせない部分だとみられている。まだ利用店舗も限定的なものであり、テスト的な要素が強いため同社の取り組みの効果を云々する段階ではないが、スマートフォン対応の一環として、“アプリ”が有効なものであることは確か。まずは注目しておくべきだろう。