スマートフォンで無料通話ができるアプリ、「LINE」を展開するNHN Japan。同社は9月末、LINE上で通販ができる「LINEシークレットセール」を開始。第1弾は自社オリジナル商品を販売し、開始2分で完売するなど予想以上の売れ行きをみせた。国内ユーザー数が1年半で3000万人規模に達するなど、急成長を遂げている「LINE」が今、通販サービスを始める目的とは何か。舛田淳執行役員に話を聞いた。 (聞き手は本誌・河鰭悠太郎)
「LINE」は電話帳でつながる“強いきずな”だ
ユーザーに意味ある商品かどうかが重要
――「LINE」で通販ができる「LINEシークレットセール」を開始しましたが、狙いは。
「LINE」は国内に約3000万人のユーザーがいて、月間アクティブユーザーは86%、イリーでも55%で推移しています。こうしたアクティブなサービスをどのように活かすかを考えていて、今年7月に「LINEプラットフォーム構想」を出しました。今は「LINE」の基本的な価値に何を足したらユーザーが喜び、パートナーが喜ぶか、それを模索している段階です。
たとえば、そのひとつが「LINEクーポン」。どうリアル店舗に送客できるかを考えたものです。このように、今までのいろいろなPCのサービスを「LINE」にくっつけられると考えており、どのような価値を足すか試行錯誤する中でコマースが浮上したわけです。「LINE」のプッシュ性やリアルタイム性を活かした形でコマースができると考えました。「LINE」上で物が売れるのか、どういう属性のユーザーが買っているのか、どういうパートナーに興味を持ってもらえるのか、それをみることが目的です。
―結果は。
第1弾は「LINE」オリジナルのぬいぐるみを数量限定で販売しましたが、2分経たずに終わってしまいました。だから第3弾のオリジナルキャラクターのぬいぐるみでは、反省を踏まえて前回の約5倍の4200個を揃えました。今はどのぐらいのロットが適当か試行錯誤している段階です。
―相性のいい商品は。
「LINE」はもともと女性向けで、F1層がコアなので、女性向け商品が向いているでしょう。これから展開するのは雑貨やアパレル。M1層も当然コマースのニーズはあると思いますが、シークレットセールでいろいろ扱うと、どういう場か分からなくなってしまいま
す。マネタイズが優先ではないので、まずテストの場としては女性向け、というイメージでいてもらえればいいと思います。
ここでは、商品が魅力的で「LINE」ユーザーに意味があるものかどうかが一番大事。安さは売りにしていません。プライスダウンだけを売りにするのは最初からやりたくありませんでした。どこよりも安い、ということがパートナーさんにとって良いビジネスかというと、そうではないと思います。
「タイムライン」と連携
―「LINE」の他のサービスとの連携は。
「タイムライン」機能と連携する可能性はあるでしょう。タイムラインはもともと、クーポン
などのチャネルサービスと呼ばれるものと連携する目的で作っているので。まだ連携していませんが、今後つなげていく予定です。ただ、Facebookとは異なり、シェアするとはいっても、「LINE」では「拡散の拡散」はしません。あくまで友達の中で、親しい人の情報が流れる、という形です。それはコマースでも同様で、その先には、共同購入のようなモデルもあるかもしれませんね。いかに「LINE」のソーシャル性をいろいろなものに活かせるか、仮説を立てながら研究していきます。
―タイムラインとの連携が完了すれば、他のユーザーの購買情報などが分かるようになるのですか。
そう。タイムラインとの連携は、検討してどんどん拡張していきたいですね。これによるコマースの可能性で分かりやすいのは共同購入でしょう。グループ割引のようなものが効くようになれば、より魅力的になります。
―FacebookやTwitterをコマースに活用する動きが活発ですが、そうしたサービスと「LINE」の違いとは。
クローズドでプライベートなことですね。たとえばFacebookはパブリックですが、パブリックな場所には探せる情報と探せない情報があります。パブリックであればあるほど、「ちゃんとしなければいけない」というプレッシャーがかかり、「こんなに私は充実してい
る」という投稿ばかり出てきてしまうわけですね。それは必ずしも見ている人にとって有益ではないはずです。企業のマーケティングで使いやすいかというと、拡散はするが次のアクションは起こりません。Facebookページを使っても人が動かないのです。たとえば「いいね!」を貰っても、そのサイトへは行かないので、物が動かない。もともとはコンバージョンのためにエンゲージメントを深めるという目的だったのに、エンゲージメントを深めることが目的になってしまったため「表面的なエンゲージメントで終わる」という
問題が起こっているのではないでしょうか。「弱いきずな」は、いくらあっても弱いまま。「弱いきずな」でモノが動くかというと、やはり動きづらいのです。
一方、我々がイメージしているのは、電話帳でつながる「強いきずな」。この「強いきずな」の中は、それぞれがそれぞれにとってのインフルエンサー、実生活に影響を与える人たちです。この中で、コマースやO2Oなどにチャレンジしていこうと考えています。理論上は、この形の方が人の行動に影響を与えられると思います。たとえばユーザーは、「LINE」で人気の「スタンプ」のようなものはFacebookでは使わないでしょう。あれは閉じているからこそ成立するコミュニケーションなので。友達がやっているから自分も応戦する、など、閉じているからこその雑談です。もしFacebookで「LINE」の変なスタンプを使っているところを取引先に見られたら、馬鹿じゃないか、と思われてしまうのではないでしょうか(笑)。
―フェイスブックよりも強固なクローズドな関係が「LINE」だと。
Facebookは実名性を持ち込んでいるので、リアルに近い関係性を最初は構築できますが、そのあとはいろいろな情報を紐づけてレコメンドされ、友達ではない人まで広がってしまいます。その中で新たな関係性を作ることになるわけですね。Facebookの最終的な思想は「世界中の人々がつながればいいな」というものですが、「LINE」は「親
しい人とつながればいいな」というもの。近しい人とのコミュニケーションがより豊かになればいいという考え方です。
グローバルに展開していますが、とても小さいローカルなもので出来上がっています。「LINE」は、まず電話番号でつながってフレンドリストを出すのが第一段階。次にその中でグループを作っていく。これが近しいグループ、つまり本当の「強いきずな」になるわけです。
まずはメンタリティの醸成が不可欠
「LINEモール」構想は?
―シークレットセース以外のコマースの構想は。
たとえばソーシャルグラフを持っているので、それを活かしたコマースもあり得ると思います。ただ、すぐコマースに進出できるかというと、経験もなく、倉庫や物流を持っているわけでもないので難しい。提案はいろいろな企業からいただいていますが、ただ、
我々はスピードを重視する大胆な会社ですが、同時に、小刻みにテストをする会社でもあります。だからプラットフォームになる資格があるのかまず準備したいと考えています。まだユーザーには「LINE」で物を買う、というメンタリティーがないので、まずはそこを醸成しなければならない、と判断しています。
それがないのにプル型の商品を揃えて「LINEモールができました」と言っても、ユーザーはまったく動かないでしょう。ユーザーに使っていただくまでにはストーリーがあると思っており、今はそのプロローグをやっているというイメージです。―ということは、構想の先には「LINEモール」のような形があるのでしょうか。結論としてあるのか、実現可能性があるかはまだ分かりません。そもそもモールでいいのか、違う形があるのではないか、ロジは持つべきなのか……今はすべてを選択肢として持っている状態です。
よく言われるのは、「LINE」を店舗に開放してくれ、という要望。公式アカウントを店舗に開放して、そこでセールができるようにしてくれ、ということですが、それをやると、おそらく焼畑になるでしょう。なぜなら先ほど言ったように、マインドができておらず、ルール、ガイドラインもできていないからです。国内に3000万人、世界に6500万人いるユーザーが一番大事だと思っているので、ユーザーに「コレ何?」と思われるものをやることはできません。
―興味を持っている通販事業者はかなり多いと思いますが。
興味を持っていただいてありがたいと思っています。おそらく「LINE」がアクティブな場だからでしょう。今はまだ、多くの企業がフィーチャーフォンからスマートフォンへ移行できていません。一気に売り上げが落ちてしまった企業もたくさんあります。あと、よく聞くのが、もともとメールマーケティングをやっていたが、キャリアメールを開いてもらえないのでメールをいくら送っても関係性が止まってしまう、ということ。ではキャリアメールを開かない人は何をしているのかというと、「LINE」でコミュニケーションを取っているわけですね。キャリアメールは企業から「読まないメルマガ」がたくさん来る場所、という認識になってしまっています。そういう状況の中で、「LINE」のアクティブな場に露出できることが期待されているのだと思います。
年内に世界で1億ユーザー
―「LINE」はユーザーが一気に膨れ上がった印象があります。なぜここまで短期間で拡大できたのでしょう。
「LINE」は2011年6月にスタートしました。当時から目標として、世界No.1になることを掲げていましたが、実質的な目標は、「年内に100万ユーザーを超えればいいね」というものでした(笑)。それが10倍になってしまったわけです。日本だけではなく、世界で
数字が伸び始めたので、もともと持っていた時計がだいぶ早く進んでいますね。
その理由は、やはりスマートフォンに尽きると思います。我々は「スマートフォンネイティブ」と呼んでいますが、スマホのことだけを考えて、スマホに最適化され尽くしたものを出しています。そのタイミングで、スマホに切り替わるパラダイムシフトが日本だけではなく世界中で起こったことが大きかったですね。また、「LINE」が持っている「電話でしゃべりたい」というニーズは、グローバルで変わりません。そうしたニーズがあり、ではスマートフォンで最適なコミュニケーションツールは何ですか、と問われたとき、無料でレスポンススピードが速く、スタンプもある「LINE」がはまったのだと思います。
―「LINE」のユーザー数の目標は。
年内に世界で1億。国内ではスマホが多く販売されないといけないので、キャリアの方々のがんばり次第ですね(笑)。