日本通信販売協会(JADMA) 会長 宮島和美 氏

会員ニーズと捉え、変革へ 宮島和美 日本通信販売協会 会長

通販市場における唯一の業界団体である日本通信販売協会(JADMA)。まだ、通販が消費者にとって馴染みが薄く、認知を得られていなかった時代、「通販」の地位向上を目的に創設された。それから約30年。通販市場は4兆円超の市場を形成するに至った。最近では、ネット販売を軸とする新興企業の台頭や異業種からの通販参入も相次ぎ、そのすそ野は広がりをみせている。一方のJADMAは、会員社数が伸び悩みを見せ、その存在感が薄れている。こうした中、今年6月には化粧品通販大手ファンケルの会長を務める宮島和美氏を新会長に迎えた。宮島会長はJADMAの現状に危機感を募らせ、変革の必要性を説く。〝変革の時〟を迎えるJADMAの将来像を聞いた。(聞き手は本誌・佐藤真之)日本通信販売協会(JADMA) 会長 宮島和美 氏


事務局の意識改革が必要

――まず、今のJADMAに対する問題意識を教えて下さい。

設立から30年近くが経過し、協会自体〝金属疲労〟を起こしています。創設当初は業界を作り上げてきた創業者らが強い問題意識を持って協会運営に携わってきました。今は意識が変わってきており、各委員会に参加されている方も、先任者からただ単に役割を引き継いで出席するケースもあると思います。そうした現実の中で協会は会員にどのようなサービスを提供し、組織強化を図っていけるか一つずつ考えていかなければなりません。

――草創期は各社、危機意識を持っていたが、今はそうではなくなっている。

通販を専業とする大手が率先して業界をけん引していくようにならなければ業界自体も強くなりません。ただ、こうした〝マンネリ〟はどの協会も経験するものです。これを乗り越えていくためには事務局の力に拠るところが大きいと思います。

――事務局に対する問題意識というのはどのようなものでしょうか。

〝民僚(民間にも関わらず、一部の官僚のように硬直的な対応に終始すること)〟になってはいけないということです。事務局には、各スタッフの役割があり、日常の業務をそつなく大過なくこなしています。ただ、それだけではなくて、会員のニーズに応えるためもっと積極的に動いて欲しい。でなければ質の高いサービスの提供などできませんし、会員の興味を引くことはできません。事務局の意識改革を図っていくことも会員サービス強化の重要なポイントになります。

――今年6月に行われた総会では、会長、副会長(=化粧品通販大手オルビス・高谷成夫社長)が揃って会員ニーズに応えきれていないという問題意識を挙げられていました。

会員ニーズに応えられていないということは、今までのやり方に問題があった部分もあると言わざるを得ません。会員の方々に会費を出して頂いて運営している以上、これに見合うサービスを提供しなければなりません。

――リーマンショック以来の不況で、各社厳しい状況に置かれる今、なぜ会長を引き受けられたのですか。

やはり他の業界をみていても協会が新しいことを打ち出せない業界は発展も望めないし、行政に対する発言力も低下し、衰退してしまいます。そうした問題意識の中で協会改革の必要性を感じたからです。

――そのような問題意識の中で、協会の将来像をどのように描いておられるのでしょうか。

これまでの協会は敷居が高かった部分もあります。浸透に時間はかかると思いますが、頭の片隅に協会の存在を意識して頂き、何か困った時に〝ちょっと相談してみようか〟と思い起こしてもらえる協会にしていきたいと思っています。

広告表示に絡む問題をサポート

――その中でまず打ち出したのが「法律相談」の強化になります。
法務や財務など管理部門は企業にとって屋台骨となる部分ですが、中小の企業の方々がその部門に十分な人員を充てるのは難しいと思います。その手助けができればと考えています。これまでも相談対応は行ってきたがアピールの足りない面がありました。

――具体的に「法律相談」とはどのようなものを想定されているのでしょうか。

事業者が一番望んでいるのは、広告表示が法的に大丈夫かどうかという部分。こうした相談にどの程度協会としての見解を示せるかは事務局内でも議論になりましたが、知識不足やミスに起因する明らかな違反はアドバイスできると思います。グレーなものに関しては、微妙な内容もあり、協会が責任をとることはできませんが、アドバイスとして、一定の見解を示すことができます。景品表示法、特定商取引法は行政の取り締まりの現場責任者だった人材が対応するので、行政や司法の判断と大きな齟齬はないはずです。難しいケースでは、当然、行政に意見を聞いていきます。

――どのような人員体制で臨まれるのでしょうか。

現状では景表法や特商法を専門とするスタッフを置いていますが、将来的には薬事法など各関連法令に精通する方を招聘することも必要です。協会内にスペシャリストを養成することも求められます。これまでも法律相談は行ってきましたが、体制を一変させるのではなく、まず活用されるよう会員に告知する必要があります。

ネット企業の取り込みは今後の課題

――通販市場の拡大に反して会員数の横ばいが続く中、今後、ネット専売企業の取り込みも課題であると思います。
受け皿としては協会内に『WEB・TV委員会』を設けています。ネットは販売チャネルとして重要なものと捉えていますし、当然、取り込んでいくことは必要だと考えています。ただ、今のネット市場は、個人商店のような企業が集まって大きな市場を形成しているのが実態で、多くの企業は〝通販〟という意識を持っていません。

――今後、ネット専売の企業に対してはどのようなスタンスで臨まれるのでしょうか。

インターネット市場の淘汰が進み、社会的な必要性が認知されてくるのはこれからだと思います。技術の進歩が早く、勢力図が掴みづらい部分もありますが情報収集し、いずれは一定のレベルで組織化された企業に個別にアプローチしていくことになります。

――現状では楽天やヤフーといった大手の入会もまだ進んでいません。今年2月には楽天やヤフーなどネット企業が中心となり、「eビジネス連合会」(会長=楽天・三木谷浩史社長)も立ち上げていますが。

仮にネット市場をけん引する大手が別の協会を立ち上げるのであっても、横の連携は図らなければいけないと考えています。

健康食品の表示規制に注目

――今の通販業界全体が抱える課題としてどういったものを捉えていますか。
健康食品のあいまいな位置づけを巡っては長年、議論の対象となっています。加盟企業には健食の取扱い企業が多く、昨年、民主党のマニフェストで初めて触れられ、ようやく遡上にあがってきたと感じています。そのほか(通販サイトへの不正アクセスに伴う)個人情報漏えいなど、ネット上におけるセキュリティの問題への対応が課題として挙げられます。

――健食の問題に協会としてどう取り組まれていきますか。

協会内の『サプリメント部会』では、昨年、広告表示等に関するガイドラインを制定しました。今は細則を検討しています。

――消費者庁では健食表示の問題を討議する検討会が設置されています。協会としての対応は。

健食表示を巡る議論については期待と同時に協会として大きな責任感を感じています。健食市場は1兆円超に達していますが、未だに消費者の選択基準となる表示は行えません。消費者の『知る権利』は非常に重要なものと考えており、誤解を与えない表示はさせてもらいたい。そろそろ明確な位置づけを与える時期が来ているのではないでしょうか。すぐに結論が出るとは思いませんが(行政サイド)には検討課題として継続的に取り上げてもらいたいと思っています。

――消費者サイドからは新たな法規制の枠組みを求める意見も聞かれます。

現行法の運用を充実させるだけで十分対応できると考えます。健食の表示は薬事法や健康増進法、景表法、特商法など複数の法規制を受けています。複雑に絡む法規制にこれまで各企業は事前相談を行うなどして対応してきました。ただ、行政サイドの担当者は数年ごとに異動となり、判断基準もその都度変わります。大変な労力を負う中で、さらに新しい規制の枠組みをつくるということになれば、市場は停滞してしまいます。

――行政による規制では、医薬品ネット販売規制もある。これを巡る行政訴訟では、対面販売と通販の差異について見解が示されました。この結果をどう思われますか。

ネット販売を利用せざるを得ず、その必要性を感じている消費者も存在します。一律に規制するのではなく、適切な販売環境を整えた上で医薬品のネット販売を認めていく方向性があっても良いのではないでしょうか。海外からもネットを通じて購入できる状況にあり、国内の規制だけを捉えて済む問題ではないと考えています。

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