「健康睡眠」の啓蒙で“コト”に訴求する 宮崎誠司●ライズTOKYO 代表取締役

寝具の製造販売を手掛けるライズTOKYO が、ネット販売を好調に拡大している。質の良い睡眠を独自に「健康睡眠」として提案する“コト”による訴求と、1万円未満から選べる“適正な価格帯”が奏功。機能性寝具メーカーとしては後発ながらも、今期のEC売上高は2倍の伸びとなる見通しだ。今夏からは、テレビCMを始めるなど新規客獲得に注力しており、事業の拡大に乗り出している。宮崎誠司社長が語る、ライズTOKYO の強みと、ネット販売の戦略とは。

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機能性寝具を買いやすい価格で

アスリート向けという常識を変えたい

――創業の経緯を教えてください。

ライズTOKYOの創業は、2011年11月です。もともと、父親が経営する枕などの軽寝具の製造販売会社で、製造から営業までを担当していました。その後、前身のライズを創業しました。当時、スポーツ選手が使用したことをきっかけに、機能性寝具ブームが到来し、取引先からも機能性寝具を販売したいという相談が多くありました。ちょうど、協力工場で機能性寝具の製造ができるところが出ており、寝具に使用する素材の種類も増えていました。

コストについて調べると、価格を抑えて販売できることもわかりました。従来から機能性寝具は富裕層やトップアスリート向けのものという印象がありましたが、そうした“常識”を変えられると思いました。機能性寝具ブランド「RISE」を立ち上げて、16年1月にネット販売を開始しました。

僕自身は、30歳で胃がんを経験し、克服しました。一度健康を失ったからこそ、寝具で多くのお客様の健康をサポートしていくことが、自分の生かされている意味でもあると考えています。

新規顧客向けのエントリーモデルを提案

――品ぞろえは。

中心価格帯は2万~3万円で、機能性寝具ブランド「RISE」の「スリープオアシス」と、「スリープマジック」を扱っています。また最高位ラインとして「K18(ケイティーン)」シリーズのほか、初めて購入する人向けには税抜価格で1万円未満の「スリープオアシスエントリー」を用意しています。ネット販売を中心に、「スリープオアシスエントリー」が売れ筋となっています。

――やはり価格が強みになっているのでしょうか。

人によって価格の捉え方が違いますので、数千円の一般的な寝具と比較すれば、1万円でも高いと感じる消費者はいるかもしれません。ですが、機能性があって1万円ならだれもが購入できる価格と言えるのではないでしょうか。

――1万円未満という価格帯にこだわったのでしょうか。

機能性寝具といえば高額な商品が多く、せっかく興味を持っても価格を見て購入を諦めてしまう場合があると思います。効果実感のある機能性に対してだれもが購入できる価格であることを、当社では適正価格と考えています。

――それを実現できた理由は。

これまで大手小売店向けのOEMなど、卸販売を中心に展開していたノウハウを活用して、ローコストオペレーションを実現しています。生産数量や取引数量が大きい軽寝具と側地を共有するなど、スケールメリットを生かした生産管理を行っています。
ただ、機能性寝具の多くが高額となってしまうには理由があります。工賃が下がらず低価格化が難しいことや、寝具は買い替えサイクルが長いため、企業が成長するにはそうした消費サイクルを組み込んだ価格戦略にしなければなりません。当社の場合、軽寝具を製造し卸販売するノウハウを活用することで、工賃を抑えたオペレーションを組むことができました。

モノの機能より“コト”に訴求する

――後発であっても競争力があります。

健康寝具を扱うメーカーは多く、当社よりも安い価格で販売している通販サイトはあります。当社では、多くの方に質の良い睡眠を届けることに重きを置いているため、価格競争をしようとは考えていません。それよりも、質の良い睡眠を提案する「健康睡眠」を啓蒙することを大事にしています。健康になりたいというニーズはすべての消費者が持つものです。“モノ”の機能性よりも、健康という“コト”を打ち出すことで他社との差別化につなげたいと考えています。

――「健康睡眠」について教えてください。

睡眠は大事だといわれていますが、まだまだ気が付いていない人がたくさんいると思います。そうした人に、質の良い睡眠を「健康睡眠」と定義して、睡眠の重要性を伝える活動をしています。学校の部活を通じて保護者の方に、セミナーやイベントなどを通じて働く方に紹介しています。自社サイトでは睡眠に悩む人のためのコンテンツ「健康睡眠プロジェクト」などを展開しています。

中でも保護者の反応は良く、部活や勉強などで忙しい子どもの疲労回復に購入を検討するケースが多いです。そうしたときに、1万円未満の価格であれば、子どものために買うことができます。

――適正価格であることをどう伝えるのでしょうか。

ターゲットは睡眠に悩む人なので、年齢では区切ってはいませんが、中心顧客層は30代後半以降と考えています。1万円であっても、機能性寝具のスペックなどが他社と比べても変わらないことをしっかりと説明しています。

ネット販売売上高は2倍を見込む

――ネット販売の現状は。

16年1月にスタートしたのでまだ3年目ですが、17年10月期(前期)は前期比3~4倍に伸びています。今期は2倍の伸びを予定しています。機能性寝具ブランドの売上シェアまだ2割となりますが、自社通販以外にも、大手小売店への供給が進むなど販路が順調に拡大しています。

――新規客獲得の施策はどのように進めていますか。

健康に悩む人に「健康睡眠」を届けることを目指しています。ネット販売では、明らかに悩んでいる人が検索を経由して流入します。質の良い睡眠を提案する「健康睡眠プロジェクト」としてイベントや専門家による情報発信などを行っています。自社通販サイト内でも、健康な睡眠に関する情報発信サイト「脳活すいみん」を展開し、潜在的なニーズに訴求しています。

「健康睡眠プロジェクト」は、悩みが明確なターゲットが多いと思います。睡眠時の腰痛の悩みなどのコンテンツや、季節に応じて「花粉症にしっかり睡眠がとれる方法」なども読まれています。悩みを抱えた方が解決策として機能性寝具ブランド「RISE」を知ってもらいたいです。

「脳活すいみん」では脳までしっかり休めてほしいというメッセージを込めてコンテンツを作成しています。「スリープオアシスエントリー」のリンクを貼っていますが、あくまでも啓蒙することを目的としているため、強く商品に誘導しているわけではありません。

機能性寝具を初めて使う人を増やし市場を広げる

返品保証は機能性寝具ECのスタンダード

――通販サイトでは返品保証サービスもやっていますね。

さまざまな調査データを見ていくと、寝具は通販で買わないという人が半数を占めていることがわかりました。実際に寝るなどして、試して買いたいニーズが高いわけです。ですが、寝具店で数分間横になるだけではその効果はわかりません。加えて、気に入って購入したとしても、その効果が実感できるまでの期間は人によって違います。1週間で感じる人もいれば30日間使ってもわからない人もいます。当社は、返品保証期間は60日間と長くし、より多くの方に効果を実感していただけるようにしました。

寝具の返品保証サービスは、導入するメーカーや小売店は増えているとは思いますが、まだまだ一般化していません。今後、新しい購入方法としてスタンダードになっていくのではないでしょうか。服のように試着して納得して購入できればいいですが、マットレスや枕など体を支えるものはそうはいきません。納得して購入するまでに時間がかかるのは寝具の特徴なので、納得してもらうためには必要なサービスです。

――返品保証サービスの期間とコストはどう考えますか。

誰もが購入しやすい適正な価格で販売していますので、利益は当然薄いです。ですが、それでも返品保証サービスを導入することは可能です。

実際に使っていただければ、価格と効果実感で満足してもらえる自信があります。現状、一定期間における期間限定サービスとしておりますが、キャンペーンを恒常化することも検討しています。

効果実感で興味を持ってもらう

――寝具はリピート購入が難しいといわれています。

寝具は永久的に使えるものではなく、買い替えは3~5年。長い場合で8年とされています。そのときに、「スリープオアシスエントリー」を購入していただいてもいいし、上位の「スリープオアシス」や、最上位の桑田真澄さんと共同開発した「ケイティーン」にも関心を持ってほしいです。機能性寝具は、朝起きたときに違いを実感します。違いを実感できれば、寝具への興味をもっと持ってもらえると考えています。

3年や5年が経過すると、既存客のライフステージも変わります。そうしたときに、また「RISE」を選んでもらうようにすることが、ブランドとして重要になっています。機能性寝具は他社と比較されやすい商品で、そのときに、お客様がもしも他に勢いのあるブランドがあればそちらを選択する可能性がありますので、しっかりメッセージを発信していかなければならないと考えています。

リピーター育成のための会員向けの施策は今後の課題の1つですが、まだ3年目のブランドなので、まずは新規顧客に向けて、体験して効果を実感してもらう機会を多く作ることを重視しています。

テレビCMで間口を広げる

――現状進めている施策はありますか。

今年6月からテレビCMを開始しました。関東1都3県で、ビジネスマンをターゲットに9月まで放送しました。「RISE」ブランドにとって初めての試みで、認知度の拡大を目指しました。

CMは15秒を2本つなげて30秒間放送しています。元トップアスリートで商品開発に関わっている桑田真澄さんと高橋尚子さんが登場し、「健康睡眠」を提案し、「スリープオアシスエントリー」を紹介します。

9月4日から、放送エリアを福岡に絞って新しいCMの放送を開始しました。高橋尚子さんを起用して新しく制作しました。CMは、「ぐっすり眠れましたね」という高橋さんの言葉から始まり、働いている人の幸せや充足感に光を当てたストーリーを展開しています。CMと連動して、高橋尚子さんを起用した折込チラシを配布します。同時に数カ所のポップアップストアの展開を検討するほか、企業や学校でのセミナーを積極的に開催していきます。

さらに9月からは、新たに「スイミン・スイッチプロジェクト」を本格化しました。企業向けにセミナーを開催し、従業員の睡眠の質の評価やアドバイス、機能性寝具の体験を行います。睡眠の意識改革を提案し、働き方改革につながる休息として1つの解決策になることを目指しています。

――テレビCMやイベントで期待する効果は。

できるだけハードルを下げて、トライアルしたくなるような“間口”を広げることが重要です。これまでに、大手の寝具メーカーには高額で手が出なかった人や、今まで睡眠の悩みに気が付かなかった人に使ってもらいたいと考えています。今の市場の中で他社と顧客を取り合うのではなく、新しい顧客層に「RISE」を使ってもらうことで市場そのものを大きくしていきたいと考えています。

プロフィール

宮崎誠司(みやざき・せいじ)氏 1969年9月生まれ。岐阜県岐阜市出身。東京の専門学校卒業後、父親が経営する寝具製造販売会社に入社。1996年、前身となる有限会社ライズを創業し、繊維業界でいち早く中国との本格貿易を始める。2011年、ライズTOKYO 株式会社を設立した。

取材後メモ

機能性寝具市場には、すでにプロスポーツ選手がプロモーションする有名ブランドがいくつかあり、中でもライズTOKYOは後発ブランドとなります。そのためライズTOKYOは、睡眠の質に訴える「健康睡眠」の啓蒙と購入しやすい価格帯で、新規顧客層の開拓を進めています。これまでに機能性寝具を使用したことがないユーザーを取り込むことで売り上げを拡大し、今ある市場そのものを広げようとしています。

新規参入企業であっても、新しい市場を開拓して成功した事例は少なくありません。例えば、メガネ販売の「JINS」が提案する「PCメガネ」は、これまでメガネをかけていなかった消費者をメガネ市場に取り込んだといわれています。ライズTOKYOが提案する「健康睡眠」が今後、新規参入するネット販売事業者にとって新しい市場を作って成功したモデルケースの1つになることを期待しています。

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