マーケティングの力で日本を元気にしたい【西井敏恭 warmth代表取締役CEO】

化粧品を製造販売する「ドクターシーラボ」で長らくネット販売事業を統括し、次々に新たな試みを行い、在籍中の6年間で同社のEC売上高を飛躍的に伸ばしてきた功労者であった西井敏恭氏が昨年末に突然、退社。海外への旅に出た。そして今夏に帰国し、「warmth(ワームス)」なる会社を立ち上げ、起業した。西井氏曰く、「CMO(マーケティング責任者)のアウトソーシング事業」を行うのだという。そして、そこで自らの“野望”を実現したいと話す。それは「日本の企業をマーケティングの力で元気にすること」――。西井氏の想いとは。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

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「起業したい」という想いはずっとあった

ドクターシーラボで学んだ6年間

――ドクターシーラボの退社と長期の海外への旅。そして帰国後の起業と突然のことが続いて驚いています(笑)。

すいません(笑)。ただ、起業したいという想いは、それこそドクターシーラボに入社する前からずっとありました。海外の長旅に関しても実は2度目で、2001~2003年まで私は世界一周をしていました。その時にも一度、会社を辞めています。起業を考えたのはその世界一周の時ですね。帰国しても仕事のあてはないと。では、自分でやるしかないかなと(笑)。

そんなことを考えながら当初、1年間だった予定が2年に延び、ようやく27歳の時に帰国し、「さて起業しよう」と思いましたが、お金もないと。まずは起業のための資金を稼ごうとアルバイト感覚で出会ったのがWEBであり、eコマースでした。私は旅行中にブログで旅日記を書いており、それがそこそこの人気がありました。たまたまその日記を見て頂いていたeコマースを行っている会社の方に「よかったらうちの会社で働かないか」と声をかけて頂き、縁あってそこで仕事をさせて頂くことになりました。

偶然、WEB、eコマースに出会いましたが、ちょうどそのころからグーグルのアドワーズが日本でスタートしたり、アフィリエイトのマーケティング、SEO、アクセス解析などが本格化していく時期で、そういうものを一から自分で使い始めて、すごくWEBが面白くなりました。

ただ、その会社は他社から商品を仕入れて販売するスタイルでした。2年間、そこでECをやりましたが、仕入れでやっているとどうしても価格勝負になってしまい、ある種のしんどさを感じていました。価格でないところで勝負できるECとは何かなど色々と考え、自分で起業してやってみようと「次の道」を考え始めた時に出会ったのがドクターシーラボでした。

――その時はなぜ、起業はしなかったのでしょうか。

もちろん、起業したいとは思っていました。ただ、先ほどの「仕入れのEC」ではない「メーカーのEC」に私は非常に可能性を感じており、そのメーカーのECを体験しておくことは決して損はないだろうなと思いました。ありがたいことにお声掛け頂き、入社することになりました。

入社後もいつか起業したいと思っていましたし、トップや上司にもそのことは伝えていました。私自身も1年くらいで独立しようと思っていました(笑)。ただ、シーラボでの仕事はとても楽しかった。どんどん売り上げが伸びていったのも面白かったですし、また、成果をきちんと出し、予算内であれば好きなことをやっていいと言って頂け、前職よりもできる領域が広がったこともとても面白かったです。

色々なことを学ばせて頂き、飽きなかったですね。それもあり、結局、6年間もお仕事をさせて頂きました。自分のキャリアや成長を考えても、この6年間は重要で、ドクターシーラボには感謝しかありません。

10年後の南米の変化とは?

――そのドクターシーラボを退社し、起業しました。

ずっと起業したいとは思っていましたが、事業内容は退社時にはまだ決めていませんでした。せっかくだから本当にゼロから考えてみようと。もちろん、今までやってきたWEBやマーケティングの経験は活かそうとは思ってはいましたが、水を売る会社でも、アプリを作る会社でもいいと(笑)。ただ、昨年の海外旅行で立ち寄った南米で思うところがありました。

実は南米には世界一周旅行の際にも立ち寄っていますので10年ぶりになりますが1つ、大きな変化がありました。10年前当時、家電製品は日本製しかなかったのに、10年後は日本製はすべてなくなり、別の国のものに変わっていました。広告もすべて日本製以外のものになっていました。そこで感じたのは確かによい商品というのも大切ですが、マーケティングのやり方もあるんだろうなと。日本よりも他国のメーカーはうまいのだと。そこでせっかく起業するなら、自分が儲けたいというのも大事ですが、これまで自分がやってきた、そして日本の企業に足りないと思う「マーケティング」で何かできないかと思いました。

友人の日本の企業の社長の皆様に聞いてみても、「マーケティングはこれからは重要。でも、特にデジタルは全然できていない。やってくれないか」という声が多く聞かれ、ニーズもありそうだと。そこでマーケティングのエージェンシーをやりたいと思いました。

外部からのコンサルみたいな形ではなく、「自分が中(=社員)の立場だったら、どうやるか」を基本に、そこでいい仕事をしていけば、将来、仕事も増えるだろうと(笑)。そこでwarmthを立ち上げて、まずはWEB周りのマーケティングの部分でご相談を受けて、今はスタートアップの会社から大手のメーカーなど複数社から色々なお仕事をやらせてもらっています。

CMOのアウトソーシング

――warmthでは具体的にどんなサービスを行っているのでしょうか。

warmthは私を含めて、3人で行っている会社です。当初は私、一人で起業しようと考えていましたが、以前からの知り合いだった大手広告代理店出身の塚本、レコメンデーションエンジンを提供する会社にいた小林がちょうどそれぞれ独立して事業を行っており、それぞれスキルがいい感じにずれていたこともあり、一緒に起業することになりました。それぞれ自分の得意分野があり、案件ごとに協力しながらやっています。

事業内容は一言で言えば「CMOのアウトソーシング事業」になります。これまでなかったことをやろうとしているので、業務内容が分かりにくいのですが…。よくコンサルでしょ、と言われるのですが、コンサルはこちらが提案をして、クライアントがそれをやらなければ、それからは知りません、という話だと思いますが、我々は通販のマーケティングの課題解決に特化したマーケティング支援サービスです。広告費とかアクセス解析など、とにかくすべての数値を頂き、「どこに手を打てば、一番、売り上げの拡大につながっていくのか」を見ていきます。

例えばですが、ある通販サイトがポイントのシステムを作りたいと。ではどういうポイントシステムを作るかという話をすると、競合を見て同じようにすればいいのでは、と。そうではなく、例えば新規顧客の継続率のデータを見て、継続率が1年間で例えば50%くらいになっているのであれば、ポイントの有効期限は1年に切った方がよいとか、論理的にシステムを構築して意味のあるサービスにしていかねければなりません。狙いが違えば競合のサービスの真似をしてもワークするわけでありません。

またWEB広告で「ABテスト」というものがあります。じゃあ、広告代理店の人を使って「ABテストをやろう」という際に、そもそもこれでは「A」「B」になっていないから、テスト自体の意味がないと僕らは分かるわけです。さんざんやってきたので。ただ、それは広告代理店さんが悪いのではなく、クライアント側が「オリエンシート」をぶれないように作って依頼できていないためです。そうすれば、それにあわせて、代理店はコピーを考えてくるはずなのに、大本がぶれてしまっているわけです。ではその“大本”をまずはきちんと作るところからやっていかなければいけません。

そういうことは「分からない」と思うんですよ。特に通販をあまりやっていなかったり、逆にWEBしかやってなかった企業は。それは仕方ないと思うわけです。ネットマーケティングがきちんとワークするための土壌を作っていくことが僕らの会社の使命だと思っており、そのために、中の人としてそこにいたら、どう動くかを考えながら、仕事しています。

お陰様ですでに手一杯のお客様からご相談を受けており、新規のクライアントは今は受け付けておりませんが、我々と同じようなスキルをもった人をできれば、採用したいと考えておりまして、そうなればもっと多くの企業の皆様とお仕事ができると思っています。

――食品EC大手のオイシックスにもCMOとして参画されていますね。

そうですね。週2回の出社ですが社員です。ただ、これは少し、イレギュラーなケースになります。実際、多くの方々から「うちのマーケティングを(社員として)見てよ」とお話を頂きました。ただ、そうなってしまうと起業した意味がないので(笑)。オイシックスにもそういった話をさせて頂いたのですが、経営会議と週2回の出社でよいとおっしゃって頂いたことや、やはり外部からでは知り得ない、企業の内部にいるからこそ分かる情報などもあると思いますし、warmthの仕事にもプラスになると考え、こういう形になった次第です。

マーケ担当者にはコミュニケーション能力が必要

――通販におけるマーケティングの成功のポイントとは何ですか。

通販においてオンライン(ネット)とオフライン(紙・店など)は違うものです。これをまずはしっかり理解すべきだと思います。例えば、CRMの考え方ひとつとっても、オフラインのCRMでは、お客様とトライアルキッドなどで接触した後、「○日目にブランドのことを語ろう」というものあると思いますが、eメールでそのままやっても、情報が多すぎて見られません。オフラインとオンラインの違いをきちんと把握した上で戦略を作っていかないとうまくいきません。

また、「人」も大切です。大企業はジョブチェンジで部署を回ってしまうため、専門スキルが薄くなりがちですがWEB、マーケティングは専門スキルが必要ですので、特化した組織を作り、人も固定させるべきだと思います。また、そこに携わる人はできればコミュニケーション能力が高い人がいいですね。マーケティングは他の組織を横断して考える必要があります。

あまり、マーケティング戦略がワークしていない企業は大抵、担当者が偉そうです(笑)。「あいつはマーケティングを分かっていない」とか「社内理解がないんだよね」とか。うまくワークしている企業の担当者は他部署と非常にコミュニケーションが取れており信頼されています。そうでなければ、現場のオペレーションが煩雑になる「店舗で使えるアプリ」などをなかなか導入できないですよね。ですので、マーケティング担当者は第一にコミュニケーション能力、その次にスキルではないかと思っています。

きちんとマーケティングが機能している会社ももちろんありますが、まだまだそうでない企業もたくさんあります。我々は、マーケティングの力で日本企業を元気にしたい。情熱を持った企業の担当者の方に、きちんとマーケティングのメソッドを伝えていきたい。それで日本の企業のマーケティングが底上げされれば、日本は強くなると思うんです。そうなることが僕のちょっとした「野望」です。

◇プロフィール◇

西井敏恭(にしい・としやす)氏
1975年福井県生まれ。2001年から世界一周の旅に出た際のWEBの旅日記が人気。帰国後、旅の本を出版して、ECの世界へ。各社でEコマースを10年ほど経験して、2013年末、ドクターシーラボを退社。南極など旅行して、2014年6月帰国。warmth設立。現在はオイシックスのCMOとして働きながらwarmthではCMOをアウトソースする事業を展開。大手通販、スタートアップの企業など数社のマーケティングを支援している。

◇編集後メモ◇

マーケティング担当者にはコミュニケーション能力が求められるようです。マーケティングとは1つの部署でできるものではなく、社内全体で行っていくものです。要はどんなに優れた発想や能力があっても、それを実際に形にするためには、それぞれの部署の協力が不可欠で、「あいつはきらい」「そりが合わない」「えらそうだ」という人が旗振り役であれば、結局、成立しないわけです。西井氏はドクターシーラボ時代、まさにどの部署からも頼りにされるマーケ担当者でした。そんな西井氏がマーケティング支援の専門会社を起業しました。これで第2、第3の西井氏が様々な企業に現れ、西井氏の野望通り、日本のマーケティングを底上げできるのか、楽しみです。

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