ECを強化する組織の作り方

 講習会の冒頭で毎回、パソコンを勉強する理由や活用法、苦手意識の克服などについて説明する

ECビジネスでの成功の条件は様々あるが、中でも必須と言えるのが“組織力”だ。知名度もあり、資金もあるはずの有店舗小売業者やメーカーが行うEC事業がなかなか軌道に乗ってこないケースが多いのも、このあたりに理由がありそうだ。優秀な人材を引き抜いたり、優れた通販システムやツールを導入しても、それだけではEC事業はうまく行かない。売り上げ拡大なり、新規顧客の獲得なり、ある目標に向かって社員ひとりひとりがなすべきことを行い、それらが有機的に機能することで初めて“成功”が見えてくるはずだからだ。では、EC事業を強化するための組織作りとはどのようなものなのか。各社の取り組みを見ていく。

事例①メガネスーパー
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ネット担当者が実店舗スタッフにパソコンの講習会

全国に眼鏡チェーンを展開しているメガネスーパーでは、社内でECやネットまわりを担当する部署の担当者が実店舗のスタッフに対して、パソコンの講習会を開いている。同社ではオムニチャネル化を進めており、リアルとネットの部隊が相互にコミュニケーションを図っているが、その中で店舗スタッフからエクセルなどパソコン操作を「教えてほしい」という声があがり、講習会の実施に至った。取り組みを始めて数カ月が経過、徐々にではあるが成果も出ているようだ。
店とネットで理解を深める

メガネスーパーは週に2回程度、星﨑尚彦社長の指揮のもと、店舗でミーティングを開催。加えて週末には星﨑社長のほか有志30~40人が集まり、車に乗って全国の店舗を回るキャラバン隊を実施。こうした店舗向けの取り組みには同社EC・WEBグループのスタッフも参加している。
EC・WEBグループシニアマネジャーの彦坂祐次氏は参加理由について「通販は社内的に“お客さんをとる”というイメージがあり、それを払しょくするには、EC・WEBグループのことを分かってもらい、双方で理解を深めることが重要と思いました」と説明する。ミーティングやキャラバンに積極的に参加し、“リアルとネットの垣根”を取り払おうとした。
他方、同社は昨年からオムニチャネルに舵を切っていた。ところが「結局、IT面は投資ができますが、それを広めるのは現場の人たちです。我々のウェブは実店舗の接点に比べてまだ少ない。そういう意味でお店の人が(オムニチャネルやITについて)分かっていないと、結果的にはお客さんに広まっていきません」(彦坂氏)という危機感もあった。そうした時に、店舗のメンバーからパソコン操作を「教えてほしい」と依頼があった。こうして今年の3月から有志による講習会が始まった。
冒頭で習う理由について説明

講習会はミーティングの後や夜間の人が集まりやすい時間帯に行う。1回あたり大体1時間半から2時間程度。毎回20~30人程度が参加する。講習を受けるのは、比較的上のポジションの従業員が多い。仕事でパソコンを使わなければいけない場面が多いことが理由のようだ。
講習会では毎回、最初にパソコンを習う理由についてオムニチャネルの説明などを交えて話をする。オムニチャネルが普及していない理由として、パソコンを使っての接客が難しいことを説明し、それを克服するために“身近なもの”にしましょうと提案する。続いて、活用できるようになるためにステップを踏んで勉強することを訴える。
さらにパソコンに対する苦手意識を克服するためのアドバイスとして、①ググる=分からないことはすぐに調べましょう②怖がらない=パソコンは壊れないので使ってください③押してみる=アクションしましょう、押さないと始まらない─といったことを伝え、まずは苦手意識をなくそうというところから始める。こうした説明を行ってから本題に入る。
基本的なことに特化

講習会の内容は、パソコンの操作やエクセルの基礎のほか、マネジメント層向けにパワーポイントの使い方、プレゼンの講習、加えてメールの打ち方、iPhoneの操作方法、ウェブサービスの使い方を説明している。
このように講習会では基本的なことに特化して教えているが、彦坂氏は「まずは自分の得意なところで何か用できたり、アイデアが浮かぶくらいまで使う。そして仕事で使えるという具合いにステップを踏むべきだと考えています。いきなり販促ツールとして使うというのは難しい」と指摘する。
講習会では、受講するメンバーに何を知りたいか尋ねるのだが、受講者は“何を知りたいか分からない”というような状態。つまり、何が分からないかが分からないのだ。そこで教える側は、各自の“感動具合い”を見る。例えば、エリアのリーダーにパソコンで集計の仕方を教えて、感動具合いが大きければ、「他のメンバーも同じことで悩んでいるはずだ」と推測する。あるいはミーティングやキャラバン隊の際に観察し、悩んでいるであろうポイントを見つけて、講習会で教える。例を挙げると、単語登録機能やウィンドウズでコピーする際の「コントロール+C」ボタンの使い方など。
講習では場合によって、同じ内容にすることもある。参加者によっては2回受けることになる人もいるが、その場合は周りにいる初めての参加者に教える役をしてもらう。自分が教えることによって、その人自身の実になるという考えからだ。
徐々に問題意識が芽生える

EC・WEBグループジェネラルマネジャーの川添隆氏は講習会を行う上での心構えとして「優先順位として、(教える側である)我々が焦ってはいけないと考えています。オムニチャネルの推進を理由に習会で『メルマガの登録を進めましょう』と言っても難しいわけです」と説明する。
川添氏は続けて「今、会社としてやらないといけないのは、まずしっかりと接客をして眼鏡であれば有料の補償プラン、コンタクトであれば定期購入などについてきちんと提案する。店舗で最優先すべきはそこです。そういうことができてくれば、そこで初めて『メルマガをとろう』という段階になります。その時に一から教えるのは大変です。今から準備をしておけば戦略的に号令をかけた時に、少なくともブロック長やエリアのリーダーは率先して、動いてくれるはずです。そしてそこから店全体に行きわたると考えています」とイメージを思い描く。
こうした考えのもと実施している講習会。数カ月が経過して、少しずつ手応えを感じているようだ。彦坂氏によると、「何回も受けている人の中には問題意識が芽生え、『こういう風にしたい』『こういうのを作りたい』など具体的な質問が増えました」という。
メガネスーパーEC・WEBグループの川添隆氏(左)と彦坂祐次氏が語る

パソコン講習会の狙いについて

川添氏:パソコンの講習会では毎回、最初にする話があります。なぜEC担当者が講習会を行うのか、その理由を説明します。当社の場合、店舗の周辺の人々がECで買っており、新店を出店するとECでも売り上げがついています。つまり店があってのECなわけです。加えて、お客様側としては今、オムニチャネルを求めていますので、当社でもそれをやりましょうと、毎回これを前段で話します。
彦坂氏:エリアマネージャーやリーダーがオムニチャネルについての考えをしっかり持つと、店舗や周りの従業員に対して説明してもらえます。どうしても通販にお客さんを取られているというようなイメージになりかねませんが、上のポジションの人がそういう考えになると、会社全体のこととして考えてもらえます。実際、個人の能力が上がれば、会社全体としての力も伸びます。各自に頑張ってもらわないといけませんし、パソコンのスキルというのはその人の価値を高めます。

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