楽天は1月26日、東京都港区のグランドプリンスホテル新高輪で「楽天新春カンファレンス2017」を開催した。恒例の三木谷浩史社長による基調講演では、人工知能(AI)やドローン配送、ビッグデータ、さらには拡張現実(AR)、仮想現実(VR)の活用について説明。また、16年から進めているポントアッププログラム(SPU)や店舗の質向上に向けた施策にも成果が出ていると語った。
音声入力で商品おすすめ
AIのショッピングにおける活用例については「今までのように検索経由ではなく、音声によるAIとの対話で買い物をする日がそこまで来ている」とした。例えば「来週の金曜日に渋谷で5歳の息子と誕生日パーティーがしたい」と入力すると、ケーキやプレゼント、レストランなどが瞬時におすすめされる。さらに、講演では「ファッションコンシェルジュ」のデモを行った。「もっと赤い」「もっとかわいい」などと音声で入力すると、AIが選定した商品が一覧で表示されるというものだ。
店舗向けのAIサービスとしては、チャットボット「相楽しんく」を開始。24時間365日対応するもので、過去の問い合わせ80%を網羅。会話形式のインターフェースを採用している。
三木谷社長は「楽天市場は楽天と店舗の共存共栄モデル。データやAIを皆さんに開放する。AIやオートメーションを導入することで効率化するとともに、より楽しい・より安心できる・よりスマートな店舗を作っていただきたい。AI導入で自動販売機化するのではなく、より人間らしいサービスを皆さんとともに実現する」と話した。
ジャンル戦略に成果
また、楽天市場では昨年から、商品ジャンルに特化した戦略を打ち出している。組織体制を変更し、各ジャンルの担当者がジャンルごとのナビゲーションや企画を手掛けている。
ファッションジャンルでは、ブランド力強化を目指しコンテンツを充実、ソーシャルメディアとの連携も行った。「画像をきれいに表示させて、検索などでニーズを拾っていくことを重視している」(河野奈保上級執行役員)。家具などのホーム&ライフジャンルでは、新生活需要などの企画を展開するとともに、色やサイズ、素材、「シンプル」「ポップ」といったテイストなど、ジャンルに特化した検索を可能とした。
フードジャンルでは高品質な商品を認定する制度を開始。「楽天で売る商品の安心感を生み出すとともに、店舗が新たなPRができるような認定制度を今後も手掛ける」(同)。さらに、限定商品にも注力。例えば2月のバレンタイン商戦においては、20店舗と限定商品を開発し、限定商品数を前年の7倍に拡大。特集ページ内では限定商品を露出しており、他の商品よりも閲覧数が多くなっている。
家電などのリテールジャンルでは、価格比較機能を強化するとともに、「不用品をリサイクルに出した上で新しいものを買うというフローをウェブ上で完結できるようにしたい」(同)。
ファッションジャンルでは近年、スタートトゥデイの「ゾゾタウン」のほか、クルーズの「ショップリスト」、さらにはメルカリに代表されるフリマアプリが台頭している。楽天でもファッション通販サイト「スタイライフ」と、楽天市場内の「楽天ブランドアベニュー」を統合するなど、テコ入れを進めている。河野上級執行役員は「スタイライフのブランドは認知度が高かったが、昨年スタイライフと楽天のID統合を行い、楽天スーパーポイントが貯まることなどのメリットが浸透したと判断した」とサイト統合の背景を説明。その上で「ゾゾタウンとは良く比較されるが、楽天ブランドアベニューも各ブランドとの提携は進んでいる」とした。
近年はアマゾンやヨドバシカメラ、ロハコなど、短時間配達を打ち出す通販サイトが増えている。河野上級執行役員は「当社でも『楽びん!』が拡大しており、今年はさらに進化させたい。自社配送についてもテストしており、今年は形になるのではないか。他社に遅れを取っているのは事実だが、方向性は見えてきた」と説明。また、コンビニエンスストア受け取りについても、複数店舗で注文した商品をまとめて受け取れるようなサービスを検討している。
2016年9月には、店舗がルール違反を犯した際に点数を付与し、累積点数で罰則を課したりする「違反点数制度」を開始した。「対象になったケースはあるがごく少数。ペナルティーも退店につながるというよりも、改善活動に活かしている」(河野上級執行役員)という。
上位3社は家電量販店
新春カンファレンスに先立ち、前日の25日に開催された、「楽天市場」出店店舗を対象にした「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2016」では、上新電機が初のグランプリを受賞した。2位は前回3位のエディオン、3位には前回4位のビックカメラ。上位3店舗は家電量販店が独占し、有店舗小売企業がネット販売でも躍進していることを見せつけた。なお、前回まで7年連続グランプリの爽快ドラッグはランク外だった。
家電量販店・上新電機の担当者は「総合3位以内は10年目だが、初めてグランプリを取ることができた。辛い時にお客様の声に助けてもらったことが印象に残っており、心の支えになっている。もっとお客様に幸せを提供できる会社として進んでいくために、顧客満足度を上げていきたい」などと話した。
2位となったエディオンの担当者は「2年連続3位だったので、2位になれるとは思っていなかった。グランプリを目指して『お客様のお役に立つ』ことを原点として取り組んでいきたい」などと語った。
3位はビックカメラ。担当部長の島野広伸氏は「まだまだできていないことはたくさんあり、3位に滑り込んだような感じ。『もっと商品を早く届けて欲しい』『コンビニエンスストア受け取りや受取ロッカーなど、受け取り手段を増やして欲しい』などの声をお客様からいただいており、課題だと思っている」と語った。同社では今夏にネット販売向けの新物流センターが稼働する予定で、配送に必要な日数も削減できる見通しだ。また、今年は顧客満足度向上に向けて、カスタマーサポートも強化する。
近年、国内における家電の市場規模は伸び悩んでいるが、同社では医薬品や工具類など家電以外のジャンルの取り扱いも強化しており、「売り上げや収益の多様性を意識している。スペースに限りのある店舗と違い、多様なジャンルが扱えるのがネットの強み」(同)。楽天への要望については「イーグルスに優勝してほしい。2013年の優勝セールは新規客が多かった。当社は受け入れるだけのキャパシティーはあるので、どんどん新規を呼び込んでほしい」とした。
4位はチャーム、5位は「soulberry」を運営するグァルダ、6位は爽快ドラッグの「ネットベビーワールド」、7位は九南サービスの「タマチャンショップ」、8位はタンスのゲン、9位は澤井珈琲、10位はズーティーの「イーザッカマニアストアーズ」だった。この中では、雑穀や味噌、豆・ナッツなどの食品を扱うタマチャンショップの躍進が目立つ。
昨年末に楽天子会社となった爽快ドラッグはランキングから外れたが、別店舗のネットベビーワールドは引き続きランクインしている。