「本当に欲しい商品」を提供し続ける 瀬戸健●R I Z A Pグループ代表取締役社長

RIZAPグループがアパレル事業を強化している。2012年のエンジェリーベ買収に始まり、17年2月にはジーンズメイトを子会社した。業績不振が続くアパレル企業を買っているのが特徴だ。人材面でも、スタイライフ創業の岩本眞二氏や、ファーストリテイリングで執行役員CIOを務めた岡田章二氏、同じくファーストリテイリング出身で、ソルトレイクシティー五輪とアテネ五輪で日本選手団公式ユニフォームの開発責任者を務めた宇山敦氏などがアパレル業界から相次いで入社している。ダイエットクッキーや美顔器のネット販売からスタートしたRIZAPグループだが、現在の主力事業はトレーニングジム。その同社が、市場の縮小が止まらないアパレル産業になぜ参入したのか。瀬戸健社長の考えるアパレル戦略は。

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SPAに乗り出すのは必然不振企業は「イケてる服」で再建

手段が目的化してはいけない

――アパレル事業に進出したのは2012年です。当時からSPAを考えていたのでしょうか。

そうです。「豆乳クッキーダイエット」は当初は私の実家のパン屋で作っていたし、美顔器はジャパンギャルズをグループ化して始めたものです。特にクッキーは原料集めから箱のデザイン、プロモーションまで、それこそゼロからスタートしました。仕入れた商品を販売するだけではなく、自分たちが思いを込めて商品を育てたいという思いが強いわけです。ですから、自社での製造を考えて事業に乗り出すのは、ある意味で必然といえます。

――ただ、アパレルはこれまで扱ってきた事業とは畑違いですよね。

お客様が何を目的として当社の商品を選んでいるのかということです。例えば戦後すぐの日本や貧困国の場合、この瞬間を生きることで精一杯という人が大半ですよね。そういった中で、だんだん豊かになってくると1年後、さらには10年後も生存しているという見通しが生まれてくると、「人生とは何か」を考えたり、あるいは「他人からどう見られているか」を気にする余裕が生まれてきて、それが悩みにつながったり、あるいは「自分の価値を追い求める」ことにつながります。日本が貧困国と比べて、相対的に幸福度数が低いという調査があるのは、「食べていけるだけで幸せ」というシンプルな時代から、無形の価値を追求する時代へと変わったからだと思います。服の場合を考えると、かつては生活必需品として「丈夫さ」が一番求められていたわけですが、今は「自分の価値を高めてくれる」ことが一番求められているのではないでしょうか。

――買収したアパレル企業は対象年齢層も商品のテイストも幅広い。

グループ化する際には、その会社の事業ドメインと強みを把握することが重要だと思っています。ジャパンギャルズ子会社化の際、当時の主力商品である豆乳クッキーダイエットと関係ない企業をなぜ買うのかとの意見もありましたが、そもそもお客様はクッキーが欲しいのではなく、痩せたりきれいになったりするのを目的として購入しています。美顔器も「きれいになりたい」「他人から認められたい」という目的を達成するために使うものですよね。それなのに、当時持ち込まれたM&A案件は「豆腐屋を買いませんか」というようなものばかりで、要は扱っている商品しか見ていないんですね。これは、トレーニングジム「ライザップ」もまったく同じです。お客様はトレーニングをしにきているのではなく、痩せたりきれいになったりすることを目的としているわけです。

――そこが宣伝文句の「結果にコミットする」につながると。

「本当の意味でお客様が求めているものを必ず提供します」ということを、短く置き換えたにすぎないわけです。「ライザップゴルフ」にしても、お客様はレッスンしにきているわけではなく、ゴルフのスコアを上げたいと思っている。重要なのは手段ではなく目的であり、お客様が本当の意味で何を求めているかを突き詰める必要があります。ほとんどの会社は手段が目的化してしまうというか、お客様視点に立てていないと思うんです。私は自分の価値を実感できる、人生に意味を見いだせる商品やサービスを扱いたいと思っています。これは創業以来変わっていない考え方です。

――アパレルは市場が縮小しています。大量生産が前提となるSPAにはリスクもあるのではないですか。

SPAが目的化してはいけないと思っています。商品の自社開発という点でいうと、例えば他社のプライベートブランド商品の場合、お客様にとって「買いたいブランド」と「あまり買いたくないブランド」があるはずですよね。重要なのはお客様が欲しい商品があるかどうかであり、それを作れるのであれば内製化するべきです。そうでないのならアウトソーシングする、つまり仕入れるわけですが、お客様が欲しい商品を作れないのに無理やり内製化すると、訳が分からなくなる危険性があります。大手コンビニエンスストアなどブランド力のある企業が、グループ会社の消費者の反応が鈍い商品をたくさんコンビニエンスストアに置くとしますよね。最初はブランド力である程度売れるでしょうが、お客様から見たら不要な商品が店にたくさん並んでいることになり、売り上げはだんだん下がっていくことでしょう。つまり、内製化であるとか、グループ会社とのシナジーとか、そういったものを目的とするのは非常に危険です。

――業績不振の会社を買収するのは、MDが改善できれば十分に立て直せると判断してのことですか。

まず、お客様が必要としている商品を提供できていないということを認識することが大事です。「ライザップ」にしても、以前にもパーソナルトレーニングジムは存在しましたが、市場は広がりませんでした。料金も「ライザップ」と比較するとはるかに安かったのに流行しなかったわけです。それは、お客様が求めているのがトレーニングであると勘違いしていたから。お客様が求めているのは結果です。つまり、『やせたい』『きれいになりたい』というニーズを読み取れていなかったからだと思います。お客様が商品やサービスを通じて、本当の意味で何を求めているかであり、それを追求し続けて、お客様の欲しい商品を提供できるようになれば、世の中の変化にも対応できます。それができない会社は「なんかピントがずれてるよね」ということになり、業績も下降します。

――2017年2月に買収したジーンズメイトも、近年は売り上げが大幅に減り、赤字が続いています。

ジーンズメイトが不調に陥った理由は明確で、これまでのジーンズメイトの商品では自分の価値を高めてくれたり、服を着ることで他人から憧れてもらえたりするまでには十分でなかったからです。つまり、「イケてる服」を作らないといけない。そういった観点から、高品質な商品とは何かを再定義する必要があります。品質というのは、例えば「丈夫である」というだけではなく、お客様が求めていることを叶えられるかどうかです。イケてる服を作る、つまり着用することで他人から羨ましがられる世界観・ブランドを作れるかどうか。そのためにも、デザイナーなどとの連携を進めていますし、ファーストリテイリングで活躍した宇山敦も在籍しています。

難しいことに取り組みたい実現できればリターンは最大化

もう一度通販を強化

――夢展望やマルコなどは短期間で業績が回復しています。これは瀬戸社長の考えが浸透しているからですか。

そうですね。例えば、ライザップゴルフであれば「スコアが上がらなかったら全額返金」を打ち出したところ、トレーナーから大反対されました。しかし、お客様はゴルフが上手くなるためにレッスンするのであり、トレーナーはお客様のスコア上昇をサポートすることを期待されて給料をもらっているわけです。こう説明したところ、トレーナーたちも返金保証に承知し、サービスがスタートしました。こうなると、トレーナーのレッスンへの向き合い方も変わってきます。レッスンにも緊張感が出てきますし、スコアが上がるとお客様から「ありがとう」と言ってもらえるようになり、仕事に対する誇りが出てきます。そうなると使命感のようなものが生まれ、営業力も最強になってきます。つまり、まずわれわれがお客様に対して何をギブできるか、それがあってこそのテイクなのです。この順番を間違えるとお客様が減ってしまう。テイクを最大化するには、まず「誰かの役に立つ」「他人に喜んでもらえることをする」必要があるわけで、ギブを中心に考えるとテイクも大きくなるというのは、会社だけではなく、人間関係でも同じですよね。

――ダイエットクッキーで上場を果たしたあと、他社との競争が激化し業績が急降下した時期がありました。その反省が生きているのですか。

お客様の方をきちんと向いていなかったのが反省点です。「お客様にどうすれば喜んでもらえるか」を突き詰めれば、他の会社との差は出てきます。

――今度子会社化する堀田丸正は素材メーカーです。SPAの準備が整ったということですか。

ここからブラッシュアップしていく必要がありますから、形式だけ整ったという感じですかね。私はいつも難しい選択肢を選ぼうと思っています。商品をメーカーから仕入れて販売する場合、品質は保証されていますし、手間もかかりませんが、相応のプレミアムが乗っています。内製化する場合、コントロールは難しくなりますが、それが実現できればリターンは最大化されるわけです。

――昨年には伊藤忠商事とライセンス契約を結び、「ライザップ」ブランドのスポーツウエアなどを販売していますね。

非常に好調です。今後も一般向け、会員向け問わず販売していく予定です。衣料品以外でもファミリーマートでのコラボレーション商品は非常に好調ですし、ライザップブランドのアパレルも百貨店などで販売していく予定です。

――宇山氏をはじめ、子会社には多様な人材が集まっています。

さまざまな人材を採用することで、多種多様な文化を導入しています。自分に自信がある分野もあれば自信のない分野もあるので、自信のない分野については任せています。彼らの良さをどこまで引き出せるかが腕の見せどころですね。海外生産でコストが下がるような場合でも、こちらから提案はしますが、実際に採用するかどうかは子会社の社長に任せています。権限を奪って結果を求めるということはあり得ませんからね。

――もっと大規模な買収は考えていますか。

知見は貯まっているので、十分あり得ます。これまでの買収案件は当社が出資する形が多く、オーナーは株を手放さないので再建は二人三脚。これまでは例外なく株価が上がっているので、オーナーから感謝されていますよ。

エンジェリーベやマルコなど、子会社商品の「ライザップ」会員へのクロスセルは進んでいますか。

それを目的とはしてはいません。まずはイケてる商品を作るのが先ですし、イケてない商品を薦めたらトレーナーの信頼が落ちるわけです。マルコにしても、店舗のサービスレベルをもっと上げていく必要があります。

――化粧品や健康食品を中心とした通販事業について、今後のグループにおける役割は。

通販はアウトソースする部分が減りますので、広告宣伝にコストをかけられるのが強みになります。通販で得たノウハウは他の事業に活かすことができます。例えば、エンジェリーベではインフォマーシャルを始めましたが、これまで通販で得たノウハウを活かすことができます。そのため、もう一度通販を強化したいと思っています。

◇プロフィール

瀬戸 健(せと・たけし)氏 1978年福岡県出身。2003年に健康食品の通信販売を目的として、資本金900万円をもって健康コーポレーション株式会社を設立。「豆乳クッキーダイエット」やどろ豆乳石けん「どろあわわ」などのヒット商品を開発・販売してビジネスを成長させ、2006年に札幌証券取引所アンビシャスに株式を上場。2012年にボディメイク事業RIZAPを創業し、3年で売上高100億円を突破。2016年7月にRIZAPグループ株式会社へ商号を変更。2021年3月期連結売上高3000億円、営業利益350億円を目指す。

◇取材後メモ

「ライザップ」で一躍寵児となった瀬戸社長ですが、会社のスタートはネット販売です。販売形態によらず、創業当初から貫いているのは「消費者が求める商品を売ること」と語り口は非常に明快です。アパレルでも同様の戦略を進める同社。エンジェリーベや夢展望といった通販企業にも復活の兆しが見えています。しかし、他社で成功した実績のある人物が移籍して同様に成功するとは限らないのがこの業界。市場が低迷する中でどんなヒット商品を投入できるか。世間、そして市場からの注目度は高まる一方でしょう。

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