セブン&アイ、アスクルと新たな生鮮品ECをスタートへ ―1時間指定配送でまずは都内2区から実施

11月にも始動する生鮮品ECサイト「IYフレッシ ュ」(画像はサイトイメージ=発表資料から抜粋)

セブン&アイ・ホールディングスは11月をメドに新たな生鮮品のネット販売事業をスタートさせる。すでに展開中だが伸び悩みを見せるネットスーパー事業の“弱点”を意識した商品展開やサービス設計とし生鮮品ECの拡大の1つの起爆剤としたい考えのようだ。この新EC事業のパートナーとして協働するアスクルとともに「欲しい商品が欲しい時間に100%購入できる新しいサービスの形を作りたい」と井阪隆一セブン&アイ社長は意気込む。果たして勝算とは。

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サービス名は「IY フレッシュ」

セブン&アイは11月末をメドに30~40代の有職女性や子育て中の女性などをメインターゲットとして、野菜や精肉、鮮魚などの生鮮品のほか、同社が展開中のプライベートブランド(PB)食品である「セブンプレミアム」といった冷凍食品や惣菜などを販売する新たな生鮮品EC事業「IYフレッシュ(仮称)」をスタートする。

これまでも傘下のイトーヨーカ堂が展開する「イトーヨーカドーのネットスーパー」で生鮮品のECを展開してきたが、各店舗から商品をピッキングして配送する仕組みが主流で、例えば雨が降った日には注文が増えるが店舗ごとに庸車しているため、そうした場合には車が足りなくなり、顧客が希望する時間帯に配送ができないなど販売機会の損失を起こすこともあったようだ。
また、ネットスーパーでは実店舗で購入できる商品をすべてネットで購入できるということをコンセプトに約3万SKUを販売しているが、「販売商品を広げ過ぎた結果、お客様がサイトに訪問され、購入しようとした際に在庫がなかったなどの失望感を感じさせてしまったこともあった」(井阪社長)という。こうした弱点がネックとなり、ネットスーパー事業の売上自体は伸び悩んでいたようだ。

生鮮品ECの拡大のために既存のネットスーパーが抱えていた弱点を踏まえ、品ぞろえやサービス設計を一新してしかも、そのためにこれまで守ってきた自前での展開をやめ、外のパートナーに協力を求めることで課題の打破を図ることにした。パートナーとはアスクルだ。

新たに立ち上げる「IYフレッシュ」の商品はイトーヨーカ堂の実店舗で販売するすべての生鮮品ではなく、加工肉やカット野菜、魚の切り身など「検討中だがネットスーパーに比べて3分の1程度(約1万点)」(井坂社長)とニーズの高い売れ筋に絞り込むことで欠品のないよう十分な在庫を持ちつつ、配送は注文日翌日以降、1時間刻みで配送時間を指定できるようにする。また、「働く女性の悩み事である日々の献立を考えるお手伝いができれば」(同)とし、当該料理に必要な食材一式をセットにした簡便キットやPBの冷凍食品や惣菜などを活用して作ることができる料理のレシピを動画を用いて提案するなどの試みも行っていく。

「ロハコ」に特別待遇で出店

「IYフレッシュ」のサービスの中でも特に特徴的な1時間刻みの時間指定配送は「自前にこだわって時間を掛けて作っていたのではお客様は離れてしまう。スピードが大事」(同)とし、日用品の通販サイト「LOHACO(ロハコ)」を運営し、また、都内や大阪など一部地域限定ながら自社配送で1時間刻みの時間指定が可能な配送サービス「ハッピー・オン・タイム」を展開し、ECサイトの運営ノウハウを持ち、EC配送力にも長けたアスクルが担う。

「IYフレッシュ」はアスクルが運営する「ロハコ」が昨秋から開始した他の事業者が出店して商品を販売できる「マーケットプレイス」に出店する形を採る。ただし、今回のケースはセブン&アイの井阪社長とアスクルの岩田社長によるトップ同士の話し合いによる肝煎りの試みであることから他の出店者にはいまだ提供しておらず、当面はその予定もない模様の出店者向けフルフィルメントサービスを初めて提供するなど“特別待遇”としており、「ハッピー・オン・タイム」で「IYフレッシュ」の商品の配送を代行。「ハッピー・オン・タイム」の配送員がイトーヨーカ堂が東京・荒川区内に構えるネットスーパー専用店舗「ネットスーパー西日暮里店」に受注商品を取りに行き、保冷剤などを使いながら鮮度を保ちつつ、他の同社の直販商品と一緒に配送する流れとなるようだ。
また、「ショッピングカート」についても通常、「ロハコ」に出店する事業者の商品はアスクルの直販商品とは別のショッピングカートとなり、配送も別としているが、「IYフレッシュ」ではショッピングカートはアスクル直販商品と共有。それゆえ、「ロハコ」の顧客にとっては、よりスムーズに買い物が可能になるほか、日々、使う日用品が多いアスクル直販商品と注文額が合算されるため、送料が無料となる「送料無料ライン」(※ 現状、「ハッピー・オン・タイム」では1回注文3000円以上で送料・手数料無料=1時間枠指定配送の場合)を越えやすくなり、そのために注文時のハードルが下がるという利点も出てくるようだ。
「IYフレッシュ」の大きな“売り”とも言える調理手順を示したレシピ動画の制作などを含めたサイトの運営も出店者であるセブン&アイではなく「動画制作も含め、サイト全般は当社担当する」(アスクル)という。
「IY フレッシュ」はまず11 月末から都内の新宿区と文京区の2区に絞り、テスト展開を始める。その結果を踏まえて、来年5月ころをメドに東京23区の西部および北部に拡大。来年中には23 区全域、2020年には首都圏に拡大させたい考えだ。
日本を代表するGMS大手であるセブン&アイとECや物流に高いノウハウを持つアスクルのタッグがどのような結果を生むのか。注視したい。

生鮮品ECやサイトでの相互送客なども行っていくセブン&アイとアスクル (井阪社長㊨と岩田社長= 7 月6 日に都内で開催した記者会見にて)

【両社のトップに聞く業務提携の狙いと今後は?】

領域狭めずBtoBの提携も視野

セブン&アイ・ホールディングスとアスクルが業務提携を結び、生鮮品ECや互いのECサイトの相互送客に乗り出す。7&iの井阪社長、アスクルの岩田社長に今回の提携の狙いや内容、今後の方向性について聞いた。(7月6日開催の記者会見での本紙を含む報道陣との一問一答を要約・抜粋)

Q:両社が提携したきっかけは。


井阪
:アスクルの物流倉庫の火災が発生した際に、会合や会食で何度もご一緒した岩田社長にお見舞いさせて頂いたが、岩田社長からお礼に伺いたいという申し出があり、そこで何か互いにできることはないかとお話させて頂くようになったのがきっかけだ。5月12日の3度目のミーティングで「一緒にやるならどうせなら、今までない商品・サービスをお届けできたらいいね」ということで、当社が得意とする食品でちょうど話題となっていた食材キットのようなものを作ってお届けできたらどうかという話になり、品質管理の問題もあり、新しい食材キットを作るには数カ月かかるという話に対して、岩田社長から「セブンプレミアム」といったPB商品を組み合わせてメニューを提案できたら、働く女性の悩みである「日々のメニューを考える」ということのお手伝いができるのではないかということになった。その後すぐアスクルさんは主婦の方へのグループインタビューやPBを使ったメニューのアイデアなどを盛り込んだレシピ動画を作って見せて頂いた。私はこのスピード感に感銘を受けて一緒にやりましょうということになり、前のめりになってお話を進めてきた。

Q:例えばECで言えば楽天などモール運営者もいるが、他社と連携しようとは考えなかったのか。

井阪:一番シナジーが発揮できるところはどこかと考えるとアスクルだった。機能や商品がオーバーラップせず、お互いの良さを補完し合えるこういう点でベストパートナーだと考えた。

Q:7&Iではこれまで単独でオムニチャネル戦略を進めてきたわけだが、何が弱かったのか。また今回の提携でそれをどう克服できるのか。

井阪:今までどちらかというと、Eコマースサイトを充実させる方向だったが、ふと立ち止まって考えると、私どもの強みはやはり2200万人のお客様のリアルでの買い物だと気がついた。そういう意味でもう一度、オムニチャネルの再定義をしたいと考えていたところ、今回の話を頂き、まず「食」が、私どもの強みをダイレクトにお客様に感じて頂ける点ではないかと考えた。また、スピードも大事だ。自前にこだわって時間をかけていてはお客様は離れてしまうという思いがあり提携させて頂いた。

Q:倉庫の火災の影響で物流は立て直しの最中だが、「IYフレッシュ」で増す物量に対応できるのか。

岩田:現在はまさに物流の立て直しの最中だが、9月には回復する。最初はスモールスタートで流通をコントロールしながらPDCAを回しノウハウを蓄積してその後はできれば一気に拡大していきたい。

Q:「IYフレッシュ」の売上目標は。


井阪
:実は設定していない。それよりもまず我々がやってきたネットスーパーの不便点を徹底的に解決したモデルを岩田さんと一緒に作りたい。

Q:今後の提携の方向性は。

井阪:色々な広がりや拡張性があると思っている。最初はBtoCだがBtoBのビジネスについても連携の可能性があると思っている。例えば我々のセブンミールサービスの弁当をオフィスに販売していくなどだ。様々なアイデアがあるので岩田社長とキャッチボールをしながら膨らませていきたい。領域を狭めず、可能性をすべて考えていきたい。

Q:現在、ECはアマゾンが席巻している。今回の提携は対アマゾンの日本連合と言えるが、意気込みは。


岩田
:アマゾンは本当に素晴らしい企業だが、世の中にアマゾンしかないという状況は生活者にとってよくない。きちんとした選択肢をセブンさんと力を合わせて提供していきたい。

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