楽天グループは7月22日、仮想モール「楽天市場」出店者向けのイベント「楽天EXPO2022」を開催した。今年は都内ホテルでのイベントとオンラインでの配信というハイブリッドでの開催となった。会場には約1500人が来場したほか、オンラインでは約2万5000店舗が視聴。冒頭では三木谷浩史社長(=写真)による講演が行われたほか、楽天市場における下期事業戦略が公開された。
モバイルが楽天市場に好影響
今後のさらなるユーザー拡大に向けてカギとなるのが「楽天モバイル」だ。楽天モバイル契約者における新規楽天ユーザーの比率は、22年6月の段階で21.5%。楽天エコシステムにおける楽天モバイル契約率は11.3%(22年3月時点)。楽天モバイルユーザーの楽天市場利用率は、今年6月時点で約80%となっている。
22年5月の楽天市場購入者が6月に購入した割合をMNO契約の有無で比較したところ、楽天モバイルユーザーは7.8ポイント高かった。さらに、楽天モバイルを1年以上利用したユーザーの場合、MNO契約後の年間流通総額は契約前より54%増えている。「現在の契約者は600万人弱だが、2000万人になるだけで楽天市場の流通額は30~40%伸びる。楽天モバイルの成長が楽天市場の成長に密接に関係している。アマゾンのアマゾンプライムに該当するのが楽天モバイルだ」。
商品管理方法を変更
楽天市場おける新たな施策としては、23年4月にSKU対応による商品管理を導入する。これまでは「1ページ・1種類商品・1価格」で管理していたが、例えば飲料の12本・24本、パソコンのメモリーサイズ8ギガ・16ギガ、さらには訳あり品のように、価格の異なる同一商品を1つの商品ページで販売できるようになる。また、各商品ページでの定期購入が可能となるほか、数量ごとの価格設定によるボリュームディスカウントにも対応する。
同社上級執行役員の松村亮コマースカンパニーヴァイスプレジデントは「楽天市場は非型番商品が強い売り場だが、型番商品を扱う店舗から『もっと商品を探しやすくしてほしい』という声が以前からあった。統一性を高めることで、JANコードが付いているような商品は探しやすくなるし、オリジナル商品でも1つの商材で複数種類があるようなものは表現しやすくなる」と話す。
物流関連では、出店者の物流業務を請け負う「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」の利用店舗数が5000店舗を突破。楽天フルフィルメントセンター(RFC)からの出荷量は、楽天市場における注文の約20%に達した。
また、日本郵便との提携の成果として、RFCから配達郵便局への直送を開始。RFC流山で実施しており、今後はRFC枚方でも実施する予定だ。
「安く早く届けられるようになっており、まもなく(翌日配送の)『あす楽』を通り越して(当日配送の)『きょう楽』が実現する」(三木谷社長)。
サステナブル関連の施策としては、環境省の「グリーンライフ・ポイント事業」に採択されたことから、配送資材の省資源化商品の購入、ラベルレス商品の購入、省エネ家電の購入、サステナブルファッション・リユース衣類の購入などに「楽天ポイント」が付与される(10月予定)。
「店舗にとっては売り方の幅が広がる」
「楽天EXPO2022」で説明のあった、楽天市場の今後の取り組みについて、上級執行役員の松村亮コマースカンパニーヴァイスプレジデント(=写真)に詳しく聞いた。
─2023年4月にSKU対応による商品管理を導入する。狙いは。
これまではアパレルなら色やサイズではなく、アイテムというざっくりした単位で管理していた。色やサイズで分ける場合でも、データベース上は同一アイテムとして管理しており、項目別の選択肢を設けることで商品ページ上での変化を持たせていた。来年以降は、アパレルでいえば色やサイズまで分解した形で管理できるようになる。
また、楽天市場は非型番商品が強い売り場だが、型番商品を扱う店舗から『もっと商品を探しやすくしてほしい』という声が以前からあった。統一性を高めることで、JANコードが付いているような商品は探しやすくなるし、オリジナル商品でも1つの商材で複数種類があるようなものは表現しやすくなる。
─価格の異なる同一商品を1つの商品ページで販売できるようになる。
消費者にとっては、楽天市場内商品ページのユーザーインターフェースが改善し、探しやすくなる。また、店舗にとっては売り方の幅が大きくなる。定期購入に関しても、各商品ページでの対応が可能となる。これまでは商品管理がSKU別ではないので、通常購入と定期購入で別商品として登録する必要があった。数量ごとの価格設定により、5個売るより10個まとめて売る方が安くできるというような、ボリュームディスカウントも可能になる。さらに、送付先エリアに基づく、より詳しい日付計算が可能になるため、最短指定可能日を検索・商品ページへ分かりやすく表示される。
SKU対応でできることはたくさんあるが、今回の変更はフェーズ1にあたる。他にもさまざまな変更を予定しており、今よりも格段に売りやすく買いやすい売り場になるはずだ。
─物流関連の取り組みは。
RSLの利用店舗数が5000店舗を超えた。利用店舗をもっと増やそうとすると、物量をさばかなければいけないので、福岡、多摩、八尾に自動化・省人化された物流施設を、2023年までに開設する予定だ。もう1つ、再配達をいかに減らすかが社会的な課題となっている中で、楽天市場の複数店舗で購入した荷物をまとめて配送する『おまとめアプリ』をリリースした。アプリ利用者の不在再配達率は、全体ユーザーより8.1ポイント低くなるなど、成果が出ている。
また、RFCから配達局までは、引き受け局や配達区分局への輸送、つまり横持ちが複数回必要になる。そうなると、どうしてもコストや時間がかかってしまう。これをパイパスして、RFCから目的地である配達局に直送できるようになれば、効率が上がりコストも削減できる。すでに千葉県流山市の「RFC流山」で配達局への直送を実施しており、22年の第3四半期からは大阪府枚方市の「RFC枚方」でも実施する予定だ。さらに、楽天市場の注文ボリュームの情報を日本郵便(JP)と共有しながら、JP側のオペレーションを最適化することで、物流の効率を向上させていく。
─三木谷浩史社長は「きょう楽」として、当日配送サービスへの意欲を示している。
いくつか課題はあるが、検討はスタートしている。当日配送へのニーズはカテゴリーにもよると思う。アパレルなどはあまり必要ないだろうが、日用品などではニーズがあるのではないか。
─どのようにRSL利用店舗を伸ばしていくのか。
配送することだけを考えれば、RSLを利用することでコスト削減につながる店舗は少なくないと思う。ただ、すでに自前で倉庫を構えている店舗もあるので、そういう店舗はすぐにRSLへ乗り換えるという話にはならない。倉庫が狭くなり、刷新するタイミングなどで乗り換えてもらうとしても、話を持ちかけてから数年かかるわけだ。地道な営業で少しずつ店舗を積み上げていきたい。