“番頭”として成長企業を切り盛り 栁澤孝旨● スタートトゥデイ 取締役副社長兼CFO

スタートトゥデイは好業績が続いている。2016年11 月には「ツケ払い」と「買い替え割」の新サービスを開始し、成長を後押ししている。今期の出だし(4~6月期)も計画を上振れするなど引き続き高いポテンシャルを示したこともあり、8月1日には時価総額が1兆円を突破して話題になった。4月1日に新設した副社長職を兼務する栁澤孝旨CFOが語るファッションECの事業環境や業績好調の要因とは。

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「ツケ払い」はホームランの施策

ECの成長はとめられない

――2017年4月1日に副社長に就任されました。

当社はいま、初のプライベートブランド(PB)を作ろうと社長の前澤がかなり力を注いでいます。会社を不在にすることも多く、前澤が不在時のフォローをするために副社長というポストを新設しました。事業規模が大きくなってきたことも理由のひとつです。立場的にはプレッシャーを感じなくもないですが、実際にやることはそんなに変わりません。CFOは以前から務めていますし、あくまで「番頭」という認識でいます。創業者である前澤の事業意欲は引き続き高く、会社に対する愛は誰よりも強いです。当社は商品取扱高5000億円という中長期目標を立てていますが、前澤はその先を見据えた上でPB展開を考えています。

――番頭ということで、かなり細かい部分まで気になる性格でしょうか。

そうでもないです。血液型もO型で、割と細かいことは気にしませんが、大局の中で要点だけはきっちりと取り組むタイプだと思っています。

――ファッションEC市場での立ち位置をどのようにとらえていますか。

当社の立ち位置はECのプラットフォームで、ブランドさんあってのサービスです。ファッション市場が横ばい、もしくは縮小している中でブランドさんは厳しい環境に置かれていますが、当社がブランドさんの売り上げを伸ばすための場として手助けしたいという立場は変わっていません。

――事業環境については、どのように見ていますか。

実店舗とEC、もしくはカタログとECという比較で言うと、デバイスのイノベーションもあって、世界的な流れとしてECの成長はとめられません。その中で成長を続けることで、各ブランドさんをサポートしたいと思っています。

――5年ほど前に事業計画の未達を経験しましたが、この数年は力強さが戻っています。

5年くらい前に計画値に対して未達となった時期は、いまほど各ブランドさんがECチャネルに積極的とは言えない環境でした。前澤を含め、当社はアクセルの加減をよくコントロールできていると思います。我慢が必要なときは無理にアクセルを踏み込みません。当時、マーケットからは“成長鈍化”と言われましたが、いずれ時流がくるのは分かっていました。とくにこの2~3年はその時流に乗っているため、アクセルを踏んでいます。ブランドさんがEC強化に本腰を入れていることを加味しながらアグレッシブな事業計画を立てて、それを達成してきています。

――規模の差こそありますが、競合のファッションECモールも成長しています。

そうした環境は当社にとっても好ましいことだと思っています。ファッションのEC化率を高めていくことが喫緊の課題で、当社だけでなく、他社のモールも成長することでECに慣れた消費者が増えれば、ファッションEC全体がもっと盛り上がります。ブランドさんが自社でECを強化している現状も良いことだと思っています。当社のやるべきことに愚直に取り組むことが最優先で、競合のモールに対してはあまり危機感をもっていません。競合するかしないかは取引先のブランドが重なるかどうかだと思いますが、現状はそこまで重なっていないと思います。

――商品単価の下落傾向をどう見ていますか。

お客様のニーズに合ったブランドをそろえていくことが基本ポリシーです。最近ではネットSPAブランドの需要が高いこともあって誘致しています。価格コントロールの部分はブランドさんの戦略や問題で、当社としてはブランドさんがやりたいことを実現していきます。それがセールや値引き販売であれば当社としても対応せざるを得ません。一方で、値引きにはなりますが、ブランドクーポンをサービスとして提供し、極力セール前に商品を購入してもらえるように努めています。

――常連のブランドの中には成長率が鈍化している企業もあるようです。

個別の取引先ブランドさんで言えばもちろん浮き沈みはあります。数多くのブランドさんに出店してもらっていることによる埋没感は常に気にしています。そのための対応策としては、例えば、ユーザーに対するパーソナライズ対応を強化することで、お気に入りのブランドなどがなるべく埋没しないようにしていきたいです。ただ、直近の売り上げを見ると、「ゾゾタウン」の売上高トップ10を占めるブランドさんは古くからの取引先が多く、あまり顔ぶれも変わっていませんし、引き続き売り上げを伸ばしているのが分かります。

クーポン施策の需要は旺盛

――2017年3月期は商品取扱高が2120億円まで拡大しました。

前期は新規ショップの誘致や、最大2カ月後の支払いが可能な「ツケ払い」、対象ブランドの商品が割引になる「ブランドクーポン」が主な成長要因です。16年11月からは成長を支える3本柱に「ツケ払い」が入ってきました。

――「ツケ払い」が若者層獲得の原動力になっているようですね。

「ツケ払い」は想定以上に業績に貢献していて、サービスとしては“ホームラン”と言えます。若年層向けに良いと思って始めたサービスで、実際に若年層はサービス開始以前と比べて増えています。ただ、「ツケ払い」の利用が若年層だけかというとそうでもないですね。大学生の利用を想定していましたが、20代くらいまでが主に利用しています。恐らく、それまで代引きを利用していた層が「ツケ払い」に置き換わっている部分があるのだと思います。

――ブランドクーポンは一巡し、成長をさらに後押しする要素になり得るのでしょうか。

ブランドクーポンは1日限定で取り組んでいるため、数に限りがあります。そこで、1回(1日)当たりの取扱高を伸ばすために複数ショップ合同のクーポンを展開しています。1ブランドでは取扱高に限りがあるブランドさんにも参加できるようにしたことで、喜んでもらえています。引き続き、ブランドクーポンに対する需要は比較的旺盛と言えます。

――競合モールにもクーポン施策が広がっています。前年実績を考慮するとやめられませんね。

現状ではやめられないですね。ただ、クーポン施策を行うサイトを選ぶのはブランドさんで、効果の出ない売り場では実施しなくなるのではないでしょうか。

--16年11月には「買い替え割」もスタートしました。

「ゾゾタウン」で新品を購入する際に不用な服を下取りに出すことで新品を割り引く「買い替え割」を始めました。新品が割り引かれて買いやすくなるということで、購入単価の上昇や買い回りにつながるケースもあります。古着を扱う「ゾゾユーズド」の仕入れが強化できる面もありますが、当社にとっては新品の販売促進という付加価値サービスで、セール前に定価で購入するきっかけにもなります。

――18年3月期は2700億円の商品取扱高を掲げていますが、出だしは絶好調ですね。

「第1四半期(4~6月)は会社計画に対して上振れしましたが、前期の成長軌道に乗れば上期の計画達成は手堅いと見ています。下期は、前期の「ツケ払い」効果が一巡するため、何か仕掛けていかないと簡単には達成できません。そういう意味では第1四半期に大した貯金はできていないのが実情です。下期はプロモーションコストをかけていくことを発表していて、すでにテストを行っています。

取引先のブランドとケンカしないPB展開

倉庫を2倍に増床へ

─PBも今期中の始動を目指しています。

PBは既存の出店ブランドとタッグを組むわけではないため、素材から開拓する必要があります。「ゾゾタウン」がPBの売り場になると思いますが、出店ブランドさんとの兼ね合いもでてきますので、ちゃんと考えていく必要があります。

プラットフォームとしての「ゾゾタウン」とPB展開は相反しないのでしょうか。

あくまで当社の中核事業はゾゾタウン事業で、当該事業を極力、邪魔しない形でのPBになると思います。したがって、既存の取引先ブランドさんとはケンカしないビジネス展開を考えています。

以前、(欠品商品に対する)再入荷リクエストの合計が300億円に上ったと公表しましたが、欠品対策は進んでいるのでしょうか。

この2年くらいで欠品についてはだいぶ改善してきていますが、機会損失の額としては大きく変わっていません。ただ、取扱高が増えているため、割合としては少なくなっています。「ゾゾタウン」には商品欠品時にブランドさんの倉庫や実店舗にある在庫を引き当ててもらう取り寄せ機能がありますが、お客様が希望しても確実に取り寄せられるわけではありません。まだ、すべてのブランドさんが取り寄せ機能に対応しているわけでないため、対象ブランド数を増やしていく努力も必要になります。現実的な問題として、規模感の小さなブランドさんなかなか対応できませんし、店頭でのオペレーションも発生します。

――物流拠点の拡大計画も発表しました。

物流センターは千葉県習志野市の「プロロジスパーク習志野4」に加え、千葉県印西市の「プロロジスパーク千葉ニュータウン」の一部を7月から新たに賃借し、また、18年秋に稼働する茨城県つくば市の「プロロジスパークつくば1」の全棟を利用することで、現状の2倍程度に増床します。千葉ニュータウンはすぐに利用しないといけない状況ではありませんが、秋冬シーズンの本格化と年末に向けて手当しました。

――すべて関東の拠点ですね。

物流に関しては将来を見据えてどういう拠点配置にしていくかというシミュレーションをしてきましたが、現状では費用対効果も含めて関東圏に持っていた方が良いと判断しました。ユーザー分布やブランドさんの倉庫配置などさまざまなことを考慮した上で新拠点を決めました。両拠点が加われば、商品取扱高で中長期目標の5000億円くらいまで対応できると思います。

――各物流拠点の役割は。

基本的には千葉ニュータウンは出荷機能を持たずに保管がメインで、出荷は既存拠点からということになります。品ぞろえが増えて商品の置き場所が足りません。18年秋には、つくばのセンターが稼働しますが、その頃には出荷も既存拠点だけでは耐えられなくなり、出荷機能が必要になってくると思います。

――配送会社の人手不足は懸念材料になりそうです。

基本スタンスとしてはヤマト運輸さんを使い続けたいと思っています。複数の運送業者さんを活用することなどはあまり考えていません。

――最後に、栁澤さんの趣味や休日の過ごし方を教えてください。

子供が中学3年生で手がかからないので、週末は夫婦でご飯を食べに行くか、体を動かしていることが多いですね。趣味は車とマラソンです。東京マラソンにも出場してタイムは4時間2分でした。休日はゴルフもします。

◇プロフィール

栁澤孝旨(やなぎさわ・こうじ)氏 1971年5月19日東京都生まれ、46 歳。95年慶應義塾大学経済学部卒、同年富士銀行(現みずほ銀行)入行、99 年NTT データ経営研究所入社、05年みずほ証券入社、06年スタートトゥデイ常勤監査役、08年同社取締役兼経営管理本部長、09年同社取締役CFO、15年コロプラ社外取締役(現任)、16年アラタナ取締役(現任)、17 年スタートトゥデイ取締役副社長兼CFO 就任(現任)。

◇取材後メモ

同社はこれまで創業者の前澤社長が会社の顔として前面に出ていましたが、最近は同社初となるPBの開発に時間を割いているようで、メディアへの露出も限定的です。不在がちな前澤社長のフォローを目的に今年4月1日に副社長職を新設し、そのポストを栁澤CFOが兼務しています。SNSなどを通じて割と自由に発言し、サービス精神旺盛な前澤社長とは対照的に、決算会見などで接する栁澤副社長は慎重かつ丁寧な印象でした。今回のインタビューでは物腰の柔らかさはそのままに、自らを「あくまで番頭」と表現し、年々大きくなる会社の屋台骨を支え続ける覚悟もうかがえました。“アイデアマン”である前澤社長と“番頭”に徹する栁澤副社長の絶妙なバランスがあってこそ好業績を維持できているのかもしれません。

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