楽天店舗のファン獲得を後押し 牛嶋信滋● 楽天 執行役員EC カンパニーファッション事業部

楽天のファッションECは、従来の検索型だけでなく、イメージサーチなどを実装することで新たな発見ができる売り場づくりに本腰を入れる。また、「楽天市場」の人気店舗とインフルエンサーをつなぐイベントを開催したり、海外ECモールを通じた販売でも店舗のブランディングを崩さない売り方に徹することで各店舗の新たなファン獲得への貢献度を高める。「楽天市場」のファッション事業を統括する牛嶋信滋執行役員が語るファッションECの現状と中期戦略とは。

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主力店舗のゾゾタウン出店は良いこと

ファッションECの認知拡大へ

─ファッション産業全体は右肩下がりですが、ECチャネルは伸びています。

国内のファッションEC市場は2016年に約1兆5000億円に拡大し、EC経由の販売、つまりEC化率は10%くらいになっています。EC化率は毎年2~3%ずつ伸びていますが、従来の半分くらいのスピード感で世の中が変わっていますので、2020年には20%近くまで高まると見ています。

――年代別のEC利用については。

若年層はまだ実店舗に行くことが多いと思います。時間に余裕があり、お店に行くこと自体を、映画を観たりライブに行ったりするのと同じようにエンターテイメントとしてとらえていて、ショッピングを楽しんでいると思います。もちろん、お財布の事情もありますので、10代~20代半ばくらいまではファストファッションに集まっていく傾向が強いのでしょう。20代後半からは少しお金に余裕がうまれ、働く女性、働くママになってくると、ファッションに興味は持っていても時間がなくてお店に行けなかったりするとEC利用が進みます。35歳くらいになるとネットでの購入にかなり慣れていて、実際に当社のコアユーザーの分布も35歳くらいに大きな山があります。

――若年層はクレジットカードを持っていないこともありますよね。

その通りで、顕著な例としてはゾゾさんが始めた「ツケ払い」がそうです。若い頃は今すぐ欲しいと思っても財布にお金がないことがありますよね。財布に現金がなくても買えるようにしたという決済面のソリューションは若年層の購買のフックになると思います。

─「楽天市場」の中でもファッションジャンルは主力のひとつです。

具体的な数字は公表していませんが、「楽天市場」のファッションジャンルは流通額の4分の1くらいを占めていて、マーケットプレイス型の「楽天市場」に約1万4000店が出店し、委託販売型の「楽天ブランドアベニュー(RBA)」では約1500ブランドを提案しています。商品数は合計約4400万点に上ります。20代半ばくらいまでは「楽天市場」の店舗で安くておしゃれな商品を求めていますし、働く女性は「RBA」で扱うカジュアルなファッションブランドを好みますので、どちらの売り場も同じように伸びています。

――ゾゾタウンやショップリストなども高成長を続けています。

「楽天市場」のファッションジャンルは、外部調査でもゾゾさんの取扱高の2倍以上と言われていますし、EC市場の貢献度では負けていません。ただ、ファッションECとしての認知となると、ゾゾさんはファッションに特化していますので、常に注目されていますよね。当社としても「楽天市場」のブランディングを見直していて、サイトの作り方やデザインを変えていくのと同時に、これまで以上に“楽天のファッションは面白い”ということを、SNSをはじめとしたさまざまなメディアを使って情報を発信していきます。ソーシャルマーケティングはもちろん、メディアとコラボするなどして新コンテンツで認知拡大を図っていきます。

――「楽天市場」の主力店舗がゾゾタウンなどのファッション専門モールに出始めていますが影響は。

主力の店舗さんがファッションECモールに出店するのは、ある意味、良いことだと思っています。ファッション専門モールで店舗さんのブランド力が高まり、同じ商品が「楽天市場」にもあるとなれば、楽天ユーザーであれば当社の売り場で購入してくれるでしょうし、「楽天市場」はファッション以外の品ぞろえも豊富ですし、お買い物マラソンやスーパーセールがありますので、これまでファッションアイテムをゾゾさんで買っていたユーザーが“楽天市場にもある”と再発見してもらえればいいですね。

――「RBA」はゾゾタウンやアマゾンとどうのように戦いますか。

RBAは「楽天市場」の中のひとつの売り場ですので、RBA単体で戦うことは考えていません。元々、「スタイライフ」という別サイトをRBAの中に取り込むことで、ひとつのお店として展開してきました。ボリュームに沿って投資はしていきますが、新しいコンテンツや機能は常に「楽天市場」と同時に展開していきます。ユーザーも「楽天市場」とRBAを買い回りしていますので敷居は設けません。

イメージサーチの運用開始

――ファッションの中期戦略は。

当社では“インフルエンサーマーケティング”と“外部コンテンツの拡充”“ナビゲーションの進化”“海外販売の強化”の4つに取り組みます。インフルエンサーマーケティングについては、楽天のファッションをPRするインスタグラマーさんと「楽天市場」の店舗さんとをマッチングするリアルイベントを開催しています。レディースとメンズ、キッズの店舗さんに商品を持って来てもらい、インスタグラマーさんは気に入ったものを持ち帰って着用画像をインスタに投稿してもらいます。店舗さんは商品を提供することで店舗の認知向上とインスタグラムのフォロワー数増加につながります。インスタグラマーさんにとってはコストをかけずに自身のコンテンツを充実させることができます。インスタグラマーさんは投稿画像のクオリティーや投稿内容などをチェックした上でイベントに招待しています。

――イベントに参加する店舗数やインスタグラマーの人数は。

現状は、場所を確保する問題があって店舗さんが70店舗、インスタグラマーさんは255人です。今後、広い会場を確保したり、開催回数を増やすことで、対象店舗をもっと広げていきます。インスタグラマーさんの総フォロワー数は480万人で、商品を露出するチャネルとして機能していますが、総フォロワー数が1000万人を超えればかなり大きなパワーになりますので、まずはそこを目指します。

─外部コンテンツの拡充は。

自社以外でもメディアさんとタイアップして「楽天市場」限定のファッションコンテンツを発信することで付加価値を高めています。例えば、幻冬舎さんと共同でスマホ向けのウェブ雑誌「ジンジャーミラー」を展開していたり、他の出版社さんともコンテンツコラボをしています。ウェブ雑誌は紙の雑誌と同様に記事コンテンツがあり、広告タイアップのコンテンツもあります。ウェブ上で流通させることでよりファッションを楽しんでもらい、購買喚起につなげます。足もとでは10月23日に講談社さんの雑誌「ヴィヴィ」とタイアップしたスマホファッションマガジン「ビーヴィヴィ」をスタートしました。「ヴィヴィ」本誌と同じクオリティーのコンテンツがスマホで読めて、「ヴィヴィ」の人気モデルが着用した商品、紹介した商品がそのまま「楽天市場」で購入できます。

――ナビゲーションの強化にも取り組んでいます。

これまで「楽天市場」で取り組んできた検索型ECだけでなく、ファッションアイテムの買い方に合わせた商品の見せ方や、新しい検索機能の開発を進めています。ファッションはTPOに合わせて商品を選びますので、「楽天市場」という大型ショッピングセンターのような売り場構成だけでは不十分で、そこからセグメントされた商品を切り出して専門店のような見せ方、売り方を強化します。すでに、「パーティースタイル」や「ビジネススタイル」「韓国ファッション」「古着」といった具合にテーマ別にフォーカスした売り場を設けていますが、今後は若年層向けファッションや大きいサイズの専門コーナーも展開していく予定です。

――機能面については。

イメージサーチの運用を始めています。「楽天市場」ではブラウザベースのスマホサイトにレディースとメンズのファッションに実装してトライアルしています。検索部分にカメラのボタンがあり、それを押すとカメラが自動的に立ち上がって、例えば雑誌に掲載されているアイテムの写真を撮ると「楽天市場」で扱う4400万点のファッションアイテムの中から似た商品を、似ている順番で表示します。値段やカラーなどで絞り込みもできますので、似た商品が見つけやすくなります。イメージサーチはハロウィンなど大型シーズン特集や、ファッションジャンルの各特集、キュレーション記事など搭載ページを拡大し、スマホアプリやパソコンページといった対象デバイスも拡充します。また、現状ではトップスなどに反応して認識しますが、靴やバッグ、小物、腕時計、ジュエリー・アクセサリー、キッズ・ベビーなどにも順次広げていきます。ファッションの場合、コーディネート画像への対応も不可欠ですので、スタイリングに使われているすべてのアイテムを同時に検索できるようにします。

楽天らしい商品を中国の消費者に届ける

海外旗艦店事業を強化

――海外販売の状況は。

海外事業の流通額は2011年から16年までの5年間で7倍を超える規模になっていて、マーケットの伸び以上の成長を感じています。17年の1~9月期も力強く成長しています。販売先は中国が割合も成長率もナンバーワンです。自動翻訳で外国語版の「楽天市場」を展開するマーケットプレイス型に加えて、この2年間くらい力を入れているのが、現地のマーケットプレイスに出店する海外旗艦店型です。中国では「京東」や「Kaola」に当社がモールとして出店し、ファッションカテゴリーなどでトップ級の店舗さんの商品をセレクトショップのような形で販売しています。

――独自の海外戦略はありますか。

従来の中国向け越境ECはナショナルブランドなどの人気商品をドンと買って、少しでも安い価格で中国の消費者に届けるという“爆買いのオンライン版”のような取り組みだったと思います。当社はそこを目指すのではなく、楽天らしい商品を中国の消費者に届けることが使命だと考えています。「楽天市場」にはオリジナルの商品を作って販売している店舗さんがとくにファッション分野には多いです。日本のトレンドに敏感な20代~30代女性が実際に買って、インスタグラムなどで自慢している商品で、かつ「楽天市場」のランキング上位商品などは実際に中国でも売れますので、日本発のトレンドを作っていきたいです。

――「Kaola」が好調と聞きます。

ファッションジャンルでは約20店舗が参画しています。「Kaola」内の楽天店に主力店舗さんのミニ店舗を開設していて、日本の店舗のコンセプト、イメージ、商品写真の質を保ったまま展開できますので、3月から先行して参加する店舗さんから好評です。システムとしても「Kaola」に入った注文は当社のシステムにそのまま入ってきますので、店舗さんは国内の倉庫に商品を送るだけで面倒な作業はありません。先行店舗さんが成果を出しているので問い合わせも多く、「Kaola」では12月12日に大型セールが控えているため、さらに増やしたいと思います。

――売れやすい価格帯は

「楽天市場」と近いのですが、極端なプチプラではなく、高すぎず、4ケタ台後半くらいの商品が比較的よく売れています。中国でも中高所得者層が増えていますので、ちょっと良い物を買いたい消費者に響いているのだと思います。今後はインフルエンサーを活用した取り組みも強化したいですね。

◇プロフィール

牛嶋信滋(うしじま・しんじ)氏 2001年に株式会社QVCジャパン入社、08 年、QVCインターナショナルのシニア・バイスプレジ
デント、12 年、QVCジャパンCOOに就任。15年に楽天株式会社に参画し、16年1月から同社執行役員、同社のEC カンパニーファッション事業部を率いる。

◇取材後メモ

楽天の強みは、“楽天経済圏”と呼ばれる会員IDデータベースを軸にした各種サービスのネットワークです。中でも創業事業の仮想モール「楽天市場」は約4万5000店舗が出店する巨大モールへと成長しましたが、何でもそろう品ぞろえの多さもあって、売り上げ構成比は大きいながらも“ファッションの楽天”と見られることは少なかったように思います。ファッション特化型のゾゾタウンだけでなく、総合モールのアマゾンもファッション領域への投資を強める中、楽天も再度ブランディングを強化するとともに、新たな技術開発にも積極的です。出店店舗との二人三脚でファッションEC市場の底上げを図る楽天の取り組みにもっとスポットが当たってもいい気がします。

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