高島屋との一体運営で差別化へ 木村 優● セレクトスクエア 代表取締役社長

セレクトスクエアは、2012年に高島屋と資本業務提携を結んで高島屋グループの一員となったが、17 年5月末に同社の完全子会社に移行して百貨店との一体運営体制を強め、9月にはファッション通販サイト「セレクトスクエア」を「タカシマヤファッションスクエア」にリニューアルした。17年4月にセレクトスクエア社長に就任した木村優社長が語るファッションECの成長戦略とは。
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規模拡大よりも付加価値の提供がモール各社の命題

サイト刷新でデメリット解消─木村社長は高島屋の出身ですが、セレクトスクエアに出向されたのはいつからでしょうか。 高島屋がセレクトスクエアに66%強を出資した2012年6月に管理側の責任者として出向してきました。2017年はセレクトスクエア設立10年の節目の年で、高島屋グループ一体化戦略に舵を切る動きの中で社長に就任しました。当社では総務や人事、企画など営業面以外はすべて見ていましたが、取引先とのかかわりは少なく、社長に就任した4月から急ピッチで取り組んでいます。

─ファッションECの事業環境をどのように見ていますか。

寡占化が進むファッションEC市場において、ファッションEC単体で勝負するのは難しいと考えています。「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイさんは2018年3月期の商品取扱高で2700億円を目指すなど、高島屋グループのファッション取扱高を超えるくらいの水準になってきています。ファッションECで2番手の取扱高は200億円強ですので大きな差があり、規模よりも付加価値の提供がファッションECモール運営各社の色の出しどころになります。さらに、この1~2年でアパレル各社の自社EC強化も進んで競合が増え、ネットとリアルを併用する消費者が増えていることからも、リアルを含めた競合関係が激化しています。一方で、EC化率を見るとファッション商材はまだ伸びる余地が大きく、各サイトがいかに価値を提供できるかが命題と言えるでしょう。

――配送費の上昇もあってファッションECは従来の“完全送料無料”を見直す動きが増えています。

いまは、実質的な値引きに近いクーポン競争が激化し、体力勝負になっていますが、これは本質としては避けていきたいと考えています。消費者にはサービスや価値で選ばれるようにしていきたいですね。ただ、ナショナルブランドを品ぞろえの中心にしている通販サイトが多いため商品面での差別化が図りにくく、送料無料やクーポン、ポイントといったインセンティブの付与に流れがちなのが現状だと認識しています。

─高島屋と資本業務提携を結んだ後も、なかなか売り上げが伸びませんでしたが、何かボトルネックがあったのでしょうか。

まず、当社にとって高島屋との提携は、百貨店の店頭顧客にECを使ってもらうことがメリットとして当然ありましたが、実際には店頭顧客のEC利用が大きく進展しませんでした。理由のひとつは、実店舗の価値がまだ大きいことです。消費者がわざわざ店舗に行って買い物をするのは単に商品が欲しいからだけではなく、店ならではの購入体験として試着したいとか、販売スタッフの意見が聞きたい、商品の色味や素材をしっかり確認したいといったことが挙げられますが、そうしたリアルの価値が高島屋はとくに高く、ECとのサービス水準にまだ差があることが要因だと思っています。サービス水準がECと近い企業であればシームレスにECとリアル店舗の併用が進むはずです。

――高島屋の店頭とは顧客層も違いますね。

そうですね。高島屋の店頭顧客は50~60代が主力で、当社セレクトスクエアは30代後半~40代前半がメインという年齢構成の違いも少なからず影響しています。また、高島屋のグループ入り後も屋号が「セレクトスクエア」のままだったこともあり、“高島屋グループのファッション通販サイト”と屋号の前に表記はしていましたが、百貨店顧客からすると高島屋との関係性が分かりにくかったと思います。あとは、タカシマヤカード利用時のポイント付与率が百貨店店頭の8%に比べ、当社サイトでは3%と低い状態でした。高島屋の場合はカード利用の組織顧客が売り上げの6割程度を占めていて、カード保有者からするとポイント付与率の差があるとECにスイッチしづらいこともEC利用が進まなかった理由のひとつだと考えています。

─通販サイトのリニューアルでそうしたデメリットの部分を修正されました。

2017年9月に実施したサイト刷新時にサイト名をこれまでの「セレクトスクエア」から「タカシマヤファッションスクエア」に変更し、タカシマヤカード利用時のポイント付与率も店頭と同じ8%に引き上げたことで、屋号とポイントの問題は解消しました。

AIレコメンドを導入

─百貨店店頭とのMD共通化の取り組み状況はいかがでしょうか。

ECのMDは、提携後の5年間で百貨店店頭との品ぞろえの差がだいぶ埋まってきていました。従来はセレクトショップ系が中心でしたが、百貨店アパレルではオンワード樫山さんやワールドさん、TSIホールディングスさん、三陽商会さんなどとの大手各社との取り引きに加えて、今年からはレリアンさんやフランドルさん、ファイブフォックスさんなどの商品も取り扱いを始めました。サイトリニューアル時は約200ブランドでしたが、2018年2月末までにさらに50ブランド程度の新規取り扱いを始めることで、店頭とのMD共通化が一定水準まで高まります。

─百貨店アパレルの取り扱いが増えたのは、在庫のデータ連携が進んだからでしょうか。

データ連携の部分もありますが、やはり3~4年前と比べてアパレル各社のECに対する考え方が変わったことが一番大きな理由だと思います。アパレル各社の自社ECも拡大し、ECに関するノウハウも貯まってきたことでモール各社への横展開にも力を入れています。

――元々はセレクトショップ系がメインの通販サイトでしたが、MDが変化することに既存顧客の離脱はないのでしょうか。

顧客は「セレクトスクエア」で買っているというよりは、例えば人気セレクトショップ「トゥモローランド」の商品を買っているという感覚の顧客が圧倒的に多いのだと思います。MDの変化に伴って取り扱い商品が減ったりすれば別でしょうが、屋号や資本関係の変化などは、よほどのデメリットがなければ影響は少なく、実際に既存顧客の離脱はありませんでした。

――9月のサイト刷新ではサイトデザインも変更しました。

「タカシマヤファッションスクエア」では、セレクトショップで買い物をするキャリア女性よりも、百貨店を利用する30~40代女性をペルソナに設定してデザイン設計を行いました。従来は文字情報で伝えてきた部分が多かったのですが、画像サイズを大きくするなどビジュアルでの表現力を強めて、ウインドーショッピングを楽しむ感覚で買い物ができるようにしました。また、パソコンファーストを見直してスマホやタブレットでも閲覧しやすく、使いやすくなりました。

機能面についてはいかがでしょうか。

当社は30~40代女性のユーザーが中心で、サイズや商品のディテールを気にするといった声が結構多いですので、お気に入りページ内で登録アイテムのサイズや色、素材などの比較ができるように利便性を高めました。また、お気に入りショップのアイテムをワンクリックで検索できるようにもしています。

――サイト刷新に合わせてレコメンド機能にAIを実装しました。

AIレコメンドの特徴はリアルタイム性です。通常のレコメンドは売れ筋や人気アイテムなどを表示することが多いと思いますが、商品を閲覧するたびにレコメンド内容が変わっていく設計にしました。今後、ディープラーニングと呼ばれる深層学習機能を活用して、顧客それぞれへの商品提案の精度を高めていきます。

店頭とのMD共通化が一定水準まで高まった

百貨店店頭との連携強化

――高島屋との一体化戦略に舵を切られましたが、足もとの課題はどうでしょうか。

屋号を「セレクトスクエア」から「タカシマヤファッションスクエア」に変更したこともありますが、サイトの認知度がまだまだ低いのが課題ですね。高島屋と一体となり、広告宣伝も含めて認知度を高めていき、消費者がファッションアイテムを買うときに選択肢のひとつに入るようにしたいと思っています。

――百貨店店頭と連動した品ぞろえや販促施策が次のフェーズになりそうですね。

品ぞろえの面では例えば、オリジナルの別注品を高島屋店頭と一緒に手がけることもあり得えます。販促面では、9月のサイトリニューアル時に高島屋のコーポレートサイトや「高島屋オンラインストア」のトップページで当社サイトの告知をしてもらったり、従来はできていなかった百貨店顧客向けの紙媒体や新聞折り込み、新聞広告の中でも紹介してもらうなど少しずつ露出が増えています。また、10月末までのトライアルになりますが、高島屋の新宿店や横浜店、大阪店のレシートにサイトリニューアルの告知を掲載してもらいました。少しずつでも露出が増えれば、当社サイトの認知につながると期待しています。

――高島屋が力を入れているオムニチャネル化の取り組みについてはいかがですか。

まずは、タカシマヤカード利用時のポイント付与率についてリアル店舗との差がなくなったことで、相互送客が進むことを期待しています。店頭との相互送客については、館単位ではなくショップ単位で当社会員が高島屋の店舗に来店したときに何らかのアクションを起こしたり、その逆にも取り組んでいきたいですね。オムニチャネル施策では「タカシマヤファッションスクエア」の取り扱い商品が高島屋のどの店舗に在庫があるかを確認できる機能についても下期中に対象ブランドを絞ってテストする計画です。こうした取り組みが顧客に支持されれば、対象ブランドを広げていくことになると思います。

――今後の数値目標などはございますか。

現状、当社売り上げの10%程度がタカシマヤカードでの支払いですが、高島屋のクロスメディア事業部はタカシマヤカードの支払いが約30%と高く、当社としてもまずは20%に高めることを目標としています。それくらいの水準まで達すれば、タカシマヤカード会員向けのプロモーションも実施しやすくなります。また、「高島屋オンラインストア」とのID統合も検討し、グループ顧客の利便性を高めていければと考えていますし、各ユーザーへの情報発信の面からも精度が高まると思います。

――売り上げの拡大についてはどのようにお考えですか。

EC売上高の拡大には品ぞろえだけでなく、アクティブの会員数を伸ばす必要があり、そのためにはショッピングセンターを含めた高島屋グループとの連携が不可欠です。決済面では、高島屋はNTTドコモさんとの協業を進めていて、当社サイトでも16年9月から「dポイント」を利用できるようにし、一定の集客効果を感じています。一方で、屋号を「タカシマヤファッションスクエア」に変更したらタカシマヤ友の会カードを利用できるのかという問い合わせが増えていまして、よりグループとしてのシームレス化を目指す中で、決済の共通化も検討課題となります。

◇プロフィール

木村 優(きむら・ゆう)氏 1980年2月23日生まれ、37歳。東京出身、立教大学卒、2002年4月株式会社高島屋入社、02 ~07 年高島屋日本橋店で販売・売場展開計画、取引先交渉などを担当、07 ~ 12年人事部に異動し新卒採用・人材育成などを担当、12 ~ 17年株式会社セレクトスクエア出向し経営管理(経営企画・人事・総務・財務)全般を担当、17年4月から現職。休日は5歳になる子供と一緒に過ごす。

◇取材後メモ

セレクトスクエアは2012年に高島屋のグループに入り、すでに5年が経ちますが、この間、大きく売り上げを伸ばすことはできませんでした。“ゾゾ1強”とも言われるブランドファッションのEC市場では、品ぞろえでの差別化が難しく、木村社長自身が話すように、どのような付加価値サービスを消費者に提供できるかが今後はさらに重要になってきそうです。百貨店という競合にはない武器をどのように活用して成長につなげられるか、高島屋の100%子会社となったセレクトスクエアの今後の取り組みに注目したいところです。

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