国内最大の仮想モールである「楽天市場」。運営する楽天では、出店する4万5000もの店舗に対し、手厚いサポートを提供している。店舗がこうした有形無形のサポートを有効活用するにはどうすればいいのか。楽天市場で売り上げを伸ばすための効果的な施策について、連載でお届けする。
「EC コンサルタントは、店舗様と一緒に未来を創る、“共創”パートナーになる役割です」
楽天市場の出店店舗をサポートする「ECコンサルタント(ECC)」。「ファッション」「フード&ドリンク」「ホーム&ライフ」「リテール」という4ジャンルに組織を特化、楽天の保有する膨大なデータを元に日々店舗へアドバイスしている。さらには、データを活かした商品開発の提案や、売上拡大につながるプロモーション提案もECCの役割だ。「ECCと二人三脚で歩んできた」と話す、楽天市場ファッションジャンルのトップ店舗である「リエディ」を運営する、ネオグラフィックの工藤正樹社長と、歴代の担当ECCである、ECカンパニーファッション事業部ファッション西日本事業課の米田陽介シニアマネージャー、高橋健マネージャー、六本木良介アシスタントマネージャーの4人に話を聞いた。
一大決意で広告出稿在庫がすべて売れた
―― ECCのお3方はファッションジャンルを主に担当しています。競争の激しいジャンルですが、ECC としてどんなことを意識して店舗をサポートしていますか。
米田陽介シニアマネージャー(以下、米田):パソコンからスマートフォンに顧客が利用するデバイスが変化しています。いつでもネットに接する環境となったことで、ユーザー側が情報を選ぶ時代になってきました。これまでのように、お得感を出すため、フラッシュセールを全面に押し出すという定番の売り方から、コーディネート提案など魅力的なコンテンツを作って、ユーザーにどう選んでもらうかが重要です。莫大な量のデータを保有する楽天にしかない情報をもとに、商品政策からプロモーションまで、ありとあらゆるマーケティング施策を立てられるのがECC の強みです。
高橋健マネージャー(以下、高橋):5年前は多くの店舗様が楽天市場中心に動いており、店舗様とECCが共に成長していくというフェイズでした。しかし、今は競合モールが増えており、さまざまな選択肢がある中で、その一つである楽天市場の売り上げをどう伸ばしていくか、という提案に変えていく必要があると思っています」
六本木良介アシスタントマネージャー(以下、六本木):店舗様の会社全体に対して、どんな価値を生み出せるかということを意識しています。店舗力を強化しようという話は良くしていて、例えばブランド品を扱う店舗様に対し、利益率改善を目的としてオリジナル商品を提案しました。楽天市場に店を出しているからこそできることを提供できればいいと思い、日々サポートしています。
─4万5000も店があると、ECC を効果的に活用する店もあれば、没交渉の店舗もありますよね。良好な関係を築くのに苦労することもあるのでは。
米田:全ての店舗様が当社のビジョンやミッションを理解し、共感して出店しているわけではないのは確かでしょう。ビジネスツールとして選んでいるという店舗様もあるでしょうし、それが悪いわけではありません。ただ、「単なる物売り」に収まらないのが楽天市場です。商品にかける思いや、なぜネットビジネスに参入したのか、そもそもなぜこの会社を運営しているのかなど、「未来を共有する」ことについてコミュニケーションできれば、店舗様とECCの間に相互理解が生まれます。そうなれば一緒に未来を創る“共創”パートナーになれると思っています。1店でも多くそういう店舗様を増やせるようにしたいですね。
六本木:月商100万円に満たなかった担当店舗様が、月商4000万円を超えるまで成長した経験があります。モチベーションや未来像を共有し、分かり合うことができたのも大きかったと思っています。
米田:ノウハウを伝えるだけでは人は動きません。単に「ページを作りましょう」と提案して作ってもらえるかというと、なかなか難しい。店舗様の夢や目標を踏まえて、そのためにページを作りましょう、という提案が大事です。売り上げを増やすのは大切ですが、前提として目的があるわけで、それを達成するためにページを作らないといけない。そこまで腹を割って話し合える関係性が、当社が掲げる「エンパワーメント(人々と社会を盛り上げる)」の真髄ではないでしょうか。
――工藤社長に伺います。ネオグラフィックが楽天市場に出店してから10周年とのことですが、きっかけは。
工藤正樹社長(以下、工藤):通販サイトを立ち上げたのはいいものの、集客が厳しく、「ギャルスター」を楽天市場に出店することにしました。会社立ち上げ当初は通販サイト制作事業を手がけており、自分たちが実際にサイトを運営してみて、ユーザーの反応を見てみたいという目的がありました。商材は最初からアパレルです。ただ、サイトは作れるものの、“物を売る”ということがまったく分からない状態でした。
―― ECCについてどんな印象をお持ちでしたか。
工藤:いろいろと総合的なアドバイスをくれる人、という理解はありました。ただ、どこまで親身になってくれるのかは分かりませんでした。
――最初の担当である米田さんには何を聞きましたか。
工藤:右も左も分からない状態ですから、どんな店作りをすればいいのか、どうすれば売れるようになるのか、それこそ毎日電話で話していました。毎朝、毎晩ですから、それこそ米田さんに当社のオフィスに常駐してほしいくらいでした(笑)。
――米田さんはギャルスターのページを見てどんな印象を持ちましたか。
米田:もともとページ制作をされていたということもあり、リテラシーが高く、とてもきれいなページを作っていた記憶があります。店構えだけを見ると「すごく売れてそう」という感じですね。
――しかし、実際にはあまり売れていなかった。そこからどう立て直していったのですか。
米田:楽天が一番大切にしている「エンパワーメント」を考えた際に、まずは店舗様の目的や目標、夢を聞くことが大事だと思いました。
工藤:当社のことを知ろうとしてくれているのが良く分かりました。実は、戦略の細かい部分についてはそんなに話していなくて、夢を語ったり、今後どんなことをしたいのかについて語り合っていたのは覚えています。
米田:目標を最初に共有できたと思ったのは、居酒屋で語り合ったときです。工藤社長から「ネット販売を伸ばしていきたい」という話があり、「どこまで本気なんですか?」「売り上げの目標は?」という話になりました。その時、工藤社長は「月商1億円って凄いんですか?」「凄いです」「ではそこを目指します」となり、「じゃあやりましょう!」と意思統一ができたんです。
工藤:良くそんな大きなことを言ったもんだと(笑)。最初の売り上げが月間で200 ~ 300 万円程度でしたから。
――目標を決めてから何をアドバイスしましたか。
米田:本当にいろいろなことですね。楽天市場ができてからすでに10年経過していた頃ですから、すでに成功している店舗も多く、後発という思いがありました。資金にも限りがあります。ただ、早期に月商1億円という目標がある以上、成長のスピードを上げるためにもプロモーションは必要です。型番商品ではなく、プライベートブランド(PB)ですから、検索から見つけてもらうのは難しく、やはり広告は出すべきだとお話しました。
工藤:通販事業は会社の1事業でしたし、投入できる資金にも限りがありました。予算は仕入れにほぼ回るわけですから、余裕がありません。米田さんからは「プロモーションをして新規のお客様に知ってもらうことが大事です」と言われていて、理解もしてはいたのですが、広告を出して数を売るためには在庫が必要。なので、広告の提案は受けていても応えられない状況が続きました。ようやく土台ができた段階で「コメちゃん、アクセルを踏む時期が来た」と。そこで出した最初の広告から売り上げが跳ねましたね。
――それはいつ頃ですか。
工藤:出店から1年が経過した2008年7月で、商材はマキシワンピースです。仕入れ以外の資金を広告にあて、コケたらまた1からスタートしないといけない状況でしたね。外すわけにはいかないので、米田さんも実際に商品や在庫の量を見に来てくれて「これなら大丈夫でしょう」と。
─在庫はどれくらい用意しましたか。
工藤:200~300枚です。当時のわれわれからしてみたら凄い量の在庫です。売れなかったら本当にどうしようと思いましたね。
――広告の詳細は。
米田:ガラケー向けのメールマガジンです。対象である10代~20代前半の女性が一番接触頻度が多いデバイスであり、当時の資金状態を考えると、出したらすぐに予算を回収できる形の広告を提案しました。
工藤:すぐに全部売れたので本当にびっくりしました。米田さんからは「ポテンシャルがあります」「商品はターゲットにあっているし、ページも他店に遜色ないので、不安がらずにアクセルを踏んでください」と励ましてもらっていましたが、そこまで自信はなかったんです。一度広告を出したらうまくいったので、味をしめて広告を出し続けました(笑)。とはいえ、資金繰りはまだ余裕がなかったので、月末の支払いを加味した上で、攻めの一手に出ました。米田さん「今月は100万円出せるので、これでお願いします」という感じですね。
米田:常に当社の状況をお伝えできる範囲で共有していましたし、逆に会社の状況も教えていただいていました。社長として何を考えていて、楽天市場店を今後どうしていきたい、といった話もしていただきました。
――楽天の状況というのは。
米田:セールの話や、RMS(店舗管理ツール)の仕様が変わったらすぐにお伝えしていました。お互いの状況をリアルタイム共有するだけでなく、ネオグラフィックさんとして未来をこう考えていて、私の方は楽天市場のファッションジャンルとして、どういう未来を考えているかを話し合ったわけです。その上で「こんな戦略を進めよう」「こういう売り場にしよう」となりました。
――ネオグラフィックのポテンシャルというのはどこで判断したのですか。
米田:ちょっとエモーショナルな話になりますが、本気でネットビジネスに取り組む、つまり「ここで売るんだ」という強い意志が店舗様にあるかどうかが重要だと思っています。この部分でポテンシャルを感じることが多い。今の店舗を進化させていく上で、そのスピードは経営者の思いの強さでまったく違ってくるものです。当時、ECCとしてさまざまな店舗様とお話しましたが、事業を成長させる店舗様に共通しているのは「経営者の事業に対する強いコミットメント」です。どんなに人・物・金があっても、そこへのコミットメントが弱いと進化するスピードが遅いですし、競争に負けていく姿もよく見ました。
――目標の月商1億円はいつごろ達成しましたか。
工藤:2011 年9月です。
米田:目標を達成する直前に担当の変更があり、後輩に引き継ぎました。
「技術的なアドバイスだけでなく、二人三脚で歩める存在です」
「品質向上」に影響受けリブランディング決意
――高橋さんが担当になった14年には、ネオグラフィックはすでにトップ店舗になっていました。
高橋:正直、「自分に何がお手伝いできるんだろう」と思いましたし、ちょっとやりにくい部分はありました。商売の経験もネット販売の知識もノウハウも工藤社長には及びませんから、自分がネオグラフィックさんの社員になったつもりで工藤社長や社員の方々の間に入っていこうと思いました。普段から楽天市場店の店長さんなど現場の方々に電話していましたし、工藤社長とも機会があれば連絡していました。ですから、私は工藤社長と店長さんの間に入り、いかにお役に立てるかに腐心してきました。
工藤:高橋さんはとても熱い人で、人一倍の情熱を感じました。現場の人間に毎日連絡してくれるのはとてもありがたいと思っていました。
高橋:楽天市場のレディースファッションジャンルで最前線を走っている店舗様ですから、何か提案をする以上に、自分のすべてを込めてぶつかって、現場の方々と腹を割って話せる関係でないと駄目だと思ったんです。そうでないとECCと店舗様の関係が成り立たないと思っています。
――担当していた期間の思い出は。
高橋:ギャルスターというブランドから「リエディ」というブランドに変わる時期でした。
工藤:高橋さんのおかげで、当社から見た市場の動きと、楽天さんから見た市場の未来像というものをすり合わせることができました。それがなければ、ブランドを変えるという大きな判断をすることはできなかったと思います。
――ブランドを変更した理由は。
工藤:楽天市場では近年、品質向上を掲げていますが、そこに影響されました。「あり方」というのは会社の原点で、そこから「やり方」が出て来るわけですよね。「ネットは安い」ということがお客様に浸透して市場が拡大した一方で、「安かろう悪かろう」で失敗するお客様も出てきた。その中で「品質向上」を楽天さんが打ち出しましたが、低価格と高品質は相反する関係です。質を高めると原価が上がり、無理に安く売ると企業は疲弊する。ですから、最初はとても大胆な方針だと思いました。ただ、プライスリーダーとして歩んできた当社ですが、ビジネスに限界が来ている感じがあったんですね。「ひたすら安売りで高回転」ではなく「求めやすい価格帯かつ満足できる商品を常に提供」する企業でないと100年続かないと思い、ブランドを描き直すという意味を込めて、2015年に通販サイトの名称とブランド名を、すでに浸透していたギャルスターからリエディに変更、価格も引き上げました。
――リスクも大きかったですよね。
工藤:それをどう受け止めるかについては、米田さんとも相談しました。リブランディングではなく、別路線の商品を売る多店舗展開をする案もありましたが、最終的には今の方針に落ち着きましたね。
米田:変化にはリスクがつきものですから、それについて工藤社長の考えを聞きました。その上で、良く理解できたので「一緒に頑張りましょう」と言いました。
――リブランディングから約2年が経過しました。成果はいかがですか。
工藤:ようやく浸透してきました。お客様への提案内容がまったく違うわけですから、離脱するお客様もいればその逆もいます。今は前年同月比ではプラスが続いていて、お客様が付いてきてくれているな、という実感があります。
――六本木さんはブランド変更後となる2016年に担当となりました。トップ店舗を担当するわけですから、プレッシャーもあったのでは。
六本木:最初に工藤社長にお会いしたときには緊張して声が震えてしまいました。本格的に新ブランドが始動したタイミングですが、ネット販売に関する知識は、新卒の私と比較したら圧倒的に工藤社長の方があるわけです。ネット販売についてアドバイスすることは難しいので、当社が持っているデータや全国のECCのネットワークを通じた知見などをできる限り紹介して、ネオグラフィックさんのお力になれればと思い、サポートしてきました。
――具体的にはどんなことですか。
工藤:トレンドの動向をいろいろと教えてもらいました。例えば「そろそろレインシューズを仕込んでくださいね」といったものですね。
――出店から10年が経過しました。楽天市場の強みとは。
工藤:現在、20 店舗ほど仮想モールに出店していますが、楽天市場を一言で表すなら「当社の考えや思いを形にできるモール」です。さらには「お客様を理解しようとしているモール」でもあります。PB商品は当社の思いをお客様に訴えなければ売れませんから、楽天市場はそれをしっかり表現できるのでとてもありがたい。また、「お客様を理解」については、品質向上を掲げるという姿勢に表れていて、とても共感が持てます。ECCについては、テクニカルなアドバイスだけではなく、二人三脚で歩める存在です。担当者とは月末の電話1本で話が終わるモールもありますが、楽天市場は「もっとお店を良くするためにどうすればいいか」「お客様の喜びとは」といった話をECCとすることができます。お金儲けというよりは、商いを一緒にやっている感覚で、そこが他のモールと違うところですね。