「楽天市場」を100%活用する 6つの方法 case #4 楽天大学編

国内最大の仮想モールである「楽天市場」。運営する楽天では、出店する4万5000もの店舗に対し、手厚いサポートを提供している。店舗がこうした有形無形のサポートを有効活用するにはどうすればいいのか。楽天市場で売り上げを伸ばすための効果的な施策について、連載でお届けする。

スポンサードリンク

「膨大な成功事例の中から重要なポイントを洗い出して考え方を動画に落とし込みます」

楽天 ヴァイスマネージャー 森谷 美菜子 氏

今回のテーマは「楽天大学」。楽天市場やネット販売に関する基礎知識が学べる場としてつとに有名だが、近年はその授業形態が大きく変わっているようだ。以前は教室で授業を受ける「座学」がメインだったが、現在は出店店舗であれば誰でも無料で、ノウハウを紹介した動画がいつでもどこでも閲覧できるスタイルとなっている。以前よりも間口が広がった楽天大学だが、店舗の「学び」と「つながり」の場を提供するサービスであることには変わりはない。楽天大学グループでヴァイスマネージャーを務める、森谷美菜子氏に、楽天大学で提供しているノウハウの詳細と、売り上げ向上につなげるためのコツを聞いた。また、楽天大学の動画をテーマに、社内で勉強会を開いているという、スイムショップ・ヒカリスポーツのEC通販事業部部長柳原俊二氏にも話を聞いた。

オンライン動画で学び“自走”できる店舗へ

――楽天大学の歴史について教えてください。

森谷美菜子ヴァイスマネージャー(以下、森谷):楽天大学は、学びとつながりを提供するとともに、自走する店舗様を創り出すのを目的に設立されました。社長である三木谷浩史の発案で2000年1月に発足しました。彼がハーバードのビジネススクールでMBAを取得した際に、「考え方」というフレームワークの重要性に気付いたことがそもそもの発端です。楽天市場はマーケットプレイスモデルですから、サービス当初から「店舗がきちんと運営できるようになる」ことには特に気を配っていました。1998年には三木谷自身がサポートニュースの原型となるメールを書いていましたからね。「ネットで物なんか売れないよ」と言われていた時代に「こうすれば売れるんですよ」と説いていたのが三木谷です。それを「教育」という形でフレームに落とし込み、もっと楽天市場で商品が売れるような仕組みを作ろう、ということで三木谷が指示し、できたのが楽天大学です。

――設立当初の授業内容はどういったものだったのですか。

森谷:実は、「RMS(店舗管理システム)の使い方を教える」などといったワークショップ的なものはすでにあったので、それを発展させました。当時のECコンサルタント(ECC)は店舗様のサポートだけではなく、新規店舗の開拓もすれば店舗開設の事務的処理もするといった時代で、作業量は本当に多かったそうです。そのような中で、店舗様からのお問い合わせは、共通する内容も多かったことから、「良くある質問」をまとめて、新規の店舗様にコンテンツとして伝授するという仕組みが生まれました。店舗様から最も多く来る質問というのは、やはり「どうすれば売れますか」というものです。もちろん、一言で簡単に伝えられるようなものではありません。売るためには「アクセス人数」「購入転換率」「客単価」が重要であり、アクセス人数を増やすためにはどうすればいいか……など、ネット販売に関する基礎的な話を講座に盛り込み、カリキュラムを編成しました。

――ネット販売に関する情報がほとんどない時代ですから、店舗からの需要は高かったでしょうね。

森谷:ワークショップ時代も半数以上が参加していましたから、楽天大学が設立されて、何かしらの講座を受講したという店舗様は当初80%を超えていたのではないでしょうか。楽天から来るニュースレターやECCからの解答に頼っていた店舗様も多かったと思います。逆に、今は情報があふれていますから、情報を探しやすくしてあげたり、個別の店舗様にあった情報を取捨選択してあげたり、といったことが大事になっています。

――現在はRUx(アールユーエックス)という動画専門講座のページを開設しています。

教室での講座も開催している

森谷:2014年からスタートしました。店舗様向けに無料でさまざまな動画コンテンツを提供しています。以前にもeラーニングは実施していたのですが、有料で講座の数自体も少なかったのです。もっとたくさんの店舗様が利用できるような形にしたいと思い、無料の動画コンテンツとして刷新しました。海外のECモールにおける教育体制なども分析して生まれたのがRUxです。

――どんな内容の動画を公開しているのですか。


森谷
:現在、2600本近い動画をサイトで公開しています。内容は「インフォメーション」と「ノウハウ」に分かれます。インフォメーションは、楽天市場におけるガイドライン変更などを分かりやすく紹介したものです。ノウハウに関しては、売り上げを伸ばすためにはどうすればいいか、という観点からコンテンツとしてまとめたものです。

─毎月どれくらいの店舗が動画を見ているのですか。

森谷:1万8000店ほどです。全店舗中40%程度になりますね。

――どのようなノウハウを動画としてまとめているのでしょう。

森谷:楽天市場には店舗様の成功事例がたくさんあります。膨大な成功事例の中からポイントを洗い出し、体系化して考え方を動画に落とし込むわけです。具体的には「店舗様が悩みがちなポイント」に対し、成功事例をもとにしてアドバイスをするというスタンスです。店舗様向けのコールセンターにはさまざまな問い合わせが来ますから、それを受けてアドバイスを伝えるという形です。

――どんな動画が良く見られているのでしょうか。

森谷:新規店舗向けにノウハウを紹介した動画は良く見られていますね。例えば、当社が提供する画像加工ツールである「スケッチページ」を使ってどのようにバナーを作るのかといったものです。他にも、CSS やjQuery の使い方を開設した動画も良く閲覧されています。

――楽天大学というと、教室で店舗が授業を受けるというイメージが強かったですが。

森谷:今でも新規店舗向けに教室での講座も開講しています。ただ、今は以前ほど積極的には行っていません。有名店舗が他の店舗をコンサルティングする企画「R‒Nations」や「Area‒Nations」や、ECCがコミュニティーを作ってサポートしていくというスキームがあります。以前はさまざまなレベルの店舗様向けに講座を作り、本社や各地の支社まで授業を受けに来ていていただいていたのですが、やはり実際に現地まで来て学べる人は限られてしまいますよね。ですから、「いつでもどこでも学べる環境」を提供するために、オンライン講座を強化しました。

――動画は毎月どれくらい投稿するのですか。

森谷:10 ~20 本程度です。

――動画の長さは。

森谷:5~10分程度で、あまり長くしないと決めています。以前の受講形式の場合「時間がなかなか取れない」という店舗様が多かったので、作業の合間に動画を観てもらうことを狙っています。

――店舗の成功事例を元にして動画を作っているとのことですが、ここ最近で面白い事例はありますか。

「Rux」では2600 本近い動画が無料で視聴できる

森谷:店舗様の声を集める取り組みを強化しているわけですが、その一環として「Nations」チームと共同で取り組んでいるものがあります。そこで分かったことですが、売り上げの大きい店舗は「アクションプランシート」を作っているのです。どういうものかというと、売り上げを因数分解して、目標に対してどういうアクションを起こしていくかという予定表です。売り上げが伸び悩んでいる店舗様の場合、アクションプランシートがうまく作れないんです。そこで、指導する側のベテランの店舗様とすり合わせながら、アクションプランシートの作り方をコンテンツにしています。「Nations」チームで教える内容はRUxで提供しており、「商品戦略」や「ページに関する考え方」など、始動を受ける側の店舗様には自習してきてもらっています。その一環としてアクションプランシートの作り方もコンテンツとして提供しているわけです。

─因数分解とは。

森谷:楽天市場には「売り上げの公式」があって、これはアクセス人数と購入転換率、客単価を分けて考えるというものです。例えば、アクセス人数が上がるアクションとは何か、客単価が上がるアクションとは何か、ということを知らない店舗様が多いので、具体的なアクションについてまとめた「アクションツリー」を参考に、自分の店舗で何をすればいいのかを考えてもらうという感じです。「客単価向上」だったら「まとめ買いをしてもらう」などが考えられますが、その施策を思いつかない店舗様も多い。当社にはECCもいますし、成功事例もたくさん見てきている。ですから、やるべき施策を一覧にして、動画と一緒にどの店舗様でも見られるようにすることで、アクションプランシートが作れるようになってもらいます。

――反響はありましたか。

森谷:「Nations」の参加店舗様にはかなり使っていただいており、「分かりやすい」とか「自分で打ち手を思いつかないので参考になる」などの声が出ていました。また、オリジナリティーを出すために、アクションプランシート作成用のツールをベースに進化させて、新しいツールを作った参加店舗様もありました。

――店舗からは動画に関してどんな感想が来ますか。

森谷:「Nations」の参加店舗様にアンケートを取ったところ、「クオリティーが高く知らないことも多数ありました」という感想など肯定的なものが多く、満足度は80 % を超えています。店舗様同士がRUxの動画を使って勉強会をしているというケースもあるようです。

――他にはどういった動画が人気ですか。

森谷:「商品写真の撮り方」などは人気動画ランキングに入っていますね。例えば「商品写真の背景のボカし方」などといったものです。写真撮影のコツを教える動画は他にもたくさんありますが、楽天市場で売れている店舗様の写真をもとに「楽天で売れるための写真とはどういうものか」を専門家に考えてもらい、必要な技術を伝授してもらうという趣旨です。他にも「法律にのっとった二重価格の付け方」なども、コールセンターに非常に問い合わせが多い質問なので、しっかりとポイントを動画で伝えています。例えば、「楽天スーパーSALE」開催前には、RMSから「スーパーSALEサーチ」への商品登録ができるわけですが、関連動画としてこの動画を見ることができるようにしています。

――動画の企画はどのように立てているのですか。

森谷:実は、ノウハウのコンテンツに関してはすでに1年間の動きは決まっています。楽天市場にはいろいろなフェーズの店舗様がありますが、まず2018年は新規店舗向けの企画を強化していく計画です。一貫したサポート体制を作っていきたいと思っています。店舗様からの声を集めているところで、「今足りないもの」と「これから作っていくべきもの」のイメージはできているので、それを形にしていきます。

――具体的には。

森谷:「売れる商品を作る」ことがとても大事だと痛感しています。楽天市場にはベテランの店舗様が蓄えてきたノウハウがあり、それを集約して伝えていくのがスタートですね。

――出店して期間が経過しているのに、思うように売り上げが増えない店舗も少なくないと思いますが、そういった店舗へのサポートは。

森谷:実は、「売り上げをあげるために何をすれば良いのかが分からない」という状況の店舗様が多いと感じています。なので、店舗様のフェーズにあわせて動画を提供できるスキームを作らなければいけないと思っています。そこが「新規店舗向けコンテンツ強化」の次のステージです。

--2600本も動画があると、自分に役立つコンテンツを見つけるのもなかなか難しいですよね。

森谷:中長期的には、店舗様の売り上げデータなどに基いて「必要な動画」をレコメンドできる体制にしていきたいですね。コンテンツは揃っているのですが、マッチングがきちんとできてないのが課題なので改善していきたいです。そうなれば、店舗様がRUxを通じて自分で成長できるスキームが完成します。現在は、例えば店舗開設までであれば、専門の担当がいますし、新規店舗であれば担当のECCがいますから、それぞれの担当がおすすめ動画を電話やメールで伝える体制を作っています。

――動画以外のコンテンツはあるのですか。

森谷:パワーポイントなどのプレゼンテーション資料を共有し、音がなくてもコンテンツが見られるようにしています。職場によっては音が出せない環境もありますから、店舗様から「文字と画像だけで内容を見たい」という要望がありました。

終業後に動画を閲覧社内でディスカッション

――ヒカリスポーツではRUxの動画をどのように活用しているのですか。

ヒカリスポーツの柳原俊二通販事業部部長(以下、柳原):当社は午後6時が終業なのですが、時間に余裕がある日の6時から6時30分まで、皆で動画を見て簡単なディスカッションをし、当番がフェイスブックに「その日の振り返り」としてその内容を書くというものです。

――どんな動画を見ているのですか。

柳原:楽天市場でガイドライン変更があった場合は、それについて紹介した動画を優先的に閲覧しますが、それ以外は社員の要望に応じて選んでいます。

「『RUx』の動画を社員全員で見ることで社内の共通言語を増やしています」

――ディスカッションの内容は。

スイムショップ・ヒカリスポーツの楽天市場店

柳原:ディスカッションといっても「どう感じたか」を話し合うというものです。要は、ネット販売に関する面白いテレビ番組をみんなでワイワイ見るというスタンスですね。深い部分まで語るというよりは、スタッフ間で共通の言語を増やすのが目的です。ですから、いろいろなテーマを取り上げています。例えば「購入転換率」という言葉は、スタッフ全員が普段から使う言葉ではありませんが、動画を皆で見ることで、新入社員が「このページはアクセスは多いのに転換率は悪いですね」などと指摘するようになったりします。実は、毎週火曜日に短期的な目標を決めて、皆で発表するという取り組みをしているのですが、市場や自社の分析をして「今なにをすべきか」という課題を全社員が見つけられるようになったのは、RUx のおかげだと思っています。

――社内教育に使っているわけですね。

柳原:そうです。もう始めてから2年ほどになりますね。

――特に反響があった動画は。

柳原:ドラマ仕立ての動画は非常に人気がありました。最近であれば、楽天市場の制度変更関連として、店舗向け決済代行サービス「楽天ペイ(楽天市場決済)」や「HTTPS 化( 編注: すべてのウェブページを「HTTPS」にする「常時SSL」対応のこと)」の動画を見ましたが、こういったことを全社員に周知するのはとても重要なことです。「HTTPのページをHTTPSに変えるので協力してください」と専門の社員が話しても、それはお願いされただけのことであり「この人の仕事を手伝っている」という気持ちにしかならないと思うんです。ただ、動画を見ながら話し合っておけば、作業の必要性が皆に分かってもらえますし、「ミスしないように気をつけよう」などと連帯感も生まれます。

――確かに「HTTPS化」といきなり言われても、担当者以外はピンと来ないですよね。

柳原:そうなんです。ただ、コンテンツがあるおかげで「こういうことをしないといけないんだ」と分かってもらえます。あと、集客方法の動画は基本的で大切な内容なので、定期的に閲覧しています。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG