“面白くて買ってもらえるEC”の答えを見つけたい 【伊達 学● 買えるAbemaTV 社 取締役】

大手ネット広告代理店、サイバーエージェントの通販子会社の買えるAbemaTV 社が2月からネットテレビ局「Abema(アベマ)
TV」で配信を始めた通販番組が注目を集めている。番組の今後を決めるリアルな会議の様子などを追ったドキュメンタリー要素と
ホストや芸人といった一風変わった出演者がそれぞれ愛用品などを紹介する通販パートからなる従来の通販番組とは一線を画したスタイルでその面白さから視聴数も伸びてきているようだ。当該事業を統括し、番組にも出演、自ら商品の紹介もこなす伊達取締
役が描く勝算と今後の戦略とは。

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まずは売り上げよりも面白い番組作りが優先

売上はまだ1回、数百万円

――2017年12月1日付でサイバーエージェントが55%、テレビ朝日が40%、テレビ朝日HDの通販子会社であるロッピングライフが5%をそれぞれ出資して、売れるAbemaTV社(現・買えるAbemaTV社)を立ち上げ、2月から「AbemaTV」で通販番組を開始しました。そもそも通販ビジネスを行う狙いとは何なのでしょうか。

サイバーエージェントの事業ポートフォリオは大きく言えば広告代理事業とゲーム事業、そしてメディア事業です。そのメディア事業の中で今、年間で数百億円規模の投資を行い、最も力を入れているのがテレビ朝日と共同で行うネット放送局「AbemaTV」です。ようやくアプリケーションのダウンロード数や視聴数が一定の規模まで増え、これからさらにAbemaTVの売り上げ拡大を進めていきたい。現状、AbemaTVの収益の柱は広告事業で、これに加えて、課金ビジネスも試みていますが、収益の1つとして映像の事業と親和性も高い通販にチャレンジしたいという思いがありました。過去、サイバーエージェントとしても通販、EC事業には色々とチャレンジはしてきましたが、今回は特にAbemaTVという集客装置があるわけでそうした機会をしっかりと活かしていこうと考えました。

――2月1日からAbemaTVで通販番組「マジでヤバいモノが手に入る!買えるAbemaTV社」(毎週木曜日の午後11時から1時間枠)がスタートしました。初回は通販は行わなかったですが会社の立ち上げまでを追ったドキュメンタリー番組として非常にリアリティがあり、ユニークでした。翌週の2月8日からは番組内で商品を選定・紹介する役割である「ハンバイヤー」としてダンスチーム「サイバージャパンダンサーズ」に所属する渡辺加苗・渡辺加和姉妹や新宿・歌舞伎町のホストクラブの人気ホストの一条ヒカルさん、実演販売士のサクセス木原さん、キャンプ大好き芸人の大和一孝さん、「うどんマニア」の井上こんさんらが自らが愛用する商品などを紹介するスタイルの通販をスタートしました。手ごたえはいかがですか。

ようやく第1歩を踏み出せたという意味の手ごたえはあります。視聴数については詳しくは言えませんがAbemaTVで放送しているバラエティのカテゴリーの番組の中でもまずまずの位置にいます。ただ、売り上げ自体はまだまだです。1回の番組で数百万円の製作費をかけていることもあり、全然、ペイできていないわけでこれからでしょう。

――これまで紹介した商品の中での売れ筋は何ですか。

売上金額でいうと2回目の放送で紹介した俳優の山田孝之さんらがプロデュースしたグラスが一番ですね。当初、在庫があった分は売り切れて現在は受注を受けた分を作って頂いている状況です。販売数で言えば、私が“ハンバイヤー”として初めて3回目(2月15日放送)の番組で紹介したタオルは150セット、4回目(2月22日放送)の番組で紹介した歯ブラシも200セット以上を販売しています。初めて商品を紹介した“ど素人”の私がこの結果を出せたのはすごいと思っています(笑)。

――売り上げとしてはどの程度なのでしょうか。

正確には言えませんが、1放送で毎回、数百万円というところです。

――それは計画と比べてどうですか。

3カ年の事業計画を立てていますが、初年度の特にこの1~3月の計画からすると現時点では予想の30%程度しか(売り上げが)いっていません。もちろん、まだ数回しか番組が放送されていないし、放送のたびに売り上げは伸びてくると思うのでこれからでしょうが、やはり、1放送あたりで800~1000万円程度の売り上げは欲しいとは考えていました。

面白ければ観られるし、いずれ売れる

――番組の中では前回の番組内容を踏まえた会議の様子など通販以外の要素が多かったり、商品も面白さに寄せたモノを紹介するなど必ずしも売り上げを追っているようには見えません。

当初はもっとしっかりとした売り上げ計画を立てていましたが、(サイバーエージェント社長の)藤田から「いや違う。そんな、普通なものを売って売り上げを始めから狙いに行って、小さくまとまるな」という話が、初回の番組で放送したようにあって方針を直前に変えたこともあります。もともと「ハンバイヤー」として、特徴のある素人を集めてやっていくという方向性はありましたが今の番組の形とは少し違っていました。当初はハンバイヤー達が自分たちでものを仕入れ、自分たちが売りたいモノを売り、その売り上げを競うというような構図でした。ハンバイヤーも月給を支払う本当の社員にして私は“熱血販売部長”としてハンバイヤーをサポートしたり、叱咤激励したり、例えば月ごとに営業成績がトップだった人を表彰したり、成果が出なかった人や2カ月連続で最下位だったら卒業してもらうとか、そうした模様を追うドキュメンタリーをもともとはもっとやろうと思っていました。
はじめ藤田からは番組のコンセプトや構成、出演者など番組内容についてや、番組での売り上げ目標などについては具体的な話はまったくありませんでした。何となくドキュメンタリーと通販の掛け合わせ、とにかく番組がまずは面白ければいいよね、程度の話でした。とはいえ、会社を任される私としては番組の制作費を結構かけているし、そのコストを回収するにはこれくらいは売らなくてはいけないだろうということで色々と販売する商品を計画していたのですが、(藤田社長から)「普通のモノを売って、普通の通販番組やってどうするんだ。それではここでやる意味がない。つまらなければ観られないし売れない。面白ければ観られるし、いずれ売れるようにある」という話があったわけです。ただ、ある程度は普通のものを売らないと売れないわけでそこをどうするかですね(笑)。

――“面白さ”と“売り上げ”のバランスをどうとっていくのでしょうか。

まずは観て頂ける番組作りが優先でしょう。今、AbemaTVで視聴数が多い人気番組の1つに恋愛リアリティーショーがありますが、内容が面白いのはもちろんですが、番組が1話完結ではなく、毎回毎回つながっていく流れなので初回を見たら続けて見て頂けます。同じように我々の番組も通販会社のドキュメンタリー、リアリティーショーとして毎回、継続して見て頂けるような番組作りを目指したいです。「あの番組、ふざけたものを必死に集めて売ってて面白いよね」とか「サイバージャパンの子、かわいいから見る」とか、とにかく番組のファンを増やしていくことが第1フェーズだと思っています。できれば最初のクールが閉まる3月までに番組の方向性や形を色々と変えてみて、「この形だったら、面白いし、売れるね」という状態なりヒントを得た上で4月以降につなげたいです。

インフォマーシャル放送や通販専門チャンネルを構想

ドキュメント要素もっと盛り込む

――現状の課題は何ですか。

いくつもありますが、やはり商品の掘り下げが弱いことでしょう。初めて通販をやった2回目の番組では尺が足りなくなり、6商品を紹介する予定が5商品の紹介で終わってしまいました。しかもあれだけ詰め込みすぎてしまうと、1つ1つの商品の説明が浅くなってしまい、モノを買いたいという感じにはなっていなかったと思います。3回目からは紹介する商品を5個で決め、紹介商品をハンバイヤーが実際に使っている様子やこの商品を紹介する理由などについての映像を強めに入れました。3月1日の5回目の放送では2商品のみに絞って、その商品の特徴や他商品よりもなぜこれがいいのかということを説明した映像をふんだんに入れました。

――これから番組をどのような形にしていくのでしょうか。

当初のコンセプトにもあったハンバイヤー同士を“競わせる”という要素や“買う理由”になるようなドキュメント要素をもっと盛り込んでいきたいですね。ただ、もちろん、単に売り上げを競うという風にしてしまうと、例えば、広く販売されているような売れ筋の掃除機などを仕入れてきたりなど、商品が普通になってしまうかもしれないので、そこは何らかのルールが必要になると思いますが。本気で競うために真剣に売り上げのコミットメントする人を描きながらも、それでいて面白いものを売るという相反するところに挑戦していきたいです。

――3月1日放送の5回目の番組では、これまでの番組で売り上げが悪かった「サイバージャパン」の2人がハンバイヤーの“卒業”をかけて2商品で売上200万円を目指す特番を1カ月後に放送すると告知したり、3月8日の6回目の番組ではキャンプ大好き芸人の大和さんがほかのキャンプに詳しい人とキャンプ用品で対決する企画を行うなど新たな方向性が見えてきました。

3回目の放送で藤田が「(この番組は)プラットフォームになった方がよい」と言っていたように番組で毎週、希少性の高いユニークなモノを探すのは限界が来ますから、売る人が自然にがんばるような仕組みを作っていかなければならないと思っています。その人がその商品を売る理由について、プライドとか、賞金とか、何かをかけた戦いを様々な切り口で展開し、視聴者に納得して頂けるような構成にしていきたいですね。

いずれは年商1000億円

――今後の事業の方向性は。

新しい試みとしてAbemaTVの人気番組に紐づいたインフォマーシャルなども放送していきたいです。例えば恋愛リアリティーショーが終わった直後に、当該番組の出演者を紹介者とした3分のインフォマーシャルを放送するとか。番組を観ている人にそのままの流れで、その番組のテイストに合わせたインフォマを作り、商品を売っていくという試みをやっていきたいです。また、今は我々の番組はAbemaTV内のバラエティー番組のチャンネルで放送していますが、半年や1年で番組がうまく行き始めれば、通販専門チャンネルをAbemaTV内に設けたいという構想もあります。

─既存のテレビ通販企業もAbemaTV内で通販番組をやりたいという要望も出てくるのではないでしょうか。

実際に、すでにそうした要望はあります。我々が成功パターンをまずは我々が見つけることができれば、他の企業の利用にもつながっていく新たなビジネスにもなってきます。しっかりとやっていきたいです。

――これからの目標は。

この事業を開始するにあたってテレビ通販ビジネスをかなり研究しましたが、どのテレビ通販企業もだいたい7、8割はすでに実績のあるベストセラーを売って、残りの2~3割で新規商品や一度、販売して及第点レベルだった商品を一度、訴求軸を替えて挑戦するという商品構成を採っています。売り上げを維持しながら、新しいヒットを生むためチャレンジだと思います。我々はその2~3割のチャレンジを常にやっているようなもので、しかも、番組も商品も「面白くなければダメ」と言われているので今のところ、打率はかなり低いです(笑)。でも絶対に“何かしらある”と思っています。私は(テレビ通販最大手の)ジュピターショップチャンネルの年商が現在、1500億円超となっているように、10年後か15年後かはわかりませんが、ゆくゆくは当社でも1000億円の売り上げを狙えると思っていますし、絶対にそうなりたいです。既存のテレビショッピング、つまり、50代以上の女性のマーケットをターゲットとして成功する番組と20~40代の若者向けに行うエンターテイメントショッピングみたいな領域は似ているようでまったく似ていません。その人たちに面白く観てもらいながら、買ってもらえる番組や商品が何なのか。その答えを見つけたい。また、それによってインターネットショッピングをもっと面白くしたいです。今、ネットショッピングで買い物する際、一番安いとか、便利さが追求されていますが、買い物をしていて「面白いな」と感じることは私は正直ありません。街中のセレクトショップに入って、「こんな面白いブランドがあるんだ」とか、「このブランドからこんな商品が出ているんだ」とかリアルでの買い物であるような発見がネットショッピングではあまりありません。それを再現できればと思います。この番組の商品、面白いなからちょっと1つ買ってあげようかなという衝動を引き出せるようなモノを買うのが楽しいと思ってもらえるサービスにしたいです。

◇プロフィール

伊達 学(だて・まなぶ)氏 1979年9月25日生まれ。法政大学卒業後、2002年にサイバーエージェントに新卒入社。入社以来、インターネット広告事業に従事し、インターネット広告事業本部の統括を務める。2014 年に執行役員に就任。現在は「買えるAbemaTV社」の取締役兼販売部長を務める。

◇取材後メモ

インターネットテレビ局のAbemaTVで新しい形のテレビショッピングを模索し始めた「買えるAbemaTV社」。これまでのテレビ通販はある意味では見ることが習慣化した“受け身”の視聴者も相手にできましたが、自ら能動的に面白い番組を探しに来た視聴者を相手に通販番組を観てもらい、かつ商品を買ってもらうという伊達取締役が目指す「面白くて観ちゃうし、買ってしまう番組」とい
うのは実はとても難しいミッションと言えそうです。伊達取締役が言う“何かしらあるはず”というその答えはどのような姿になるのか。動画でのECの可能性という意味でも注目したいです。

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