「楽天市場」を100%活用する 6つの方法  case #6「Nations」編

楽天マネージャー 上杉 憲佑 氏

連載の最終回となる6回目は「Nations」関連企画です。約4万5000店舗が出店する楽天市場ですが、ベテランの店舗もあれば、ネットショップを始めたばかりでこれから成長を目指す店舗もあります。まだ売り上げ規模があまり大きくない店舗に対し、ベテランの店舗が講師となって、店舗運営のノウハウなどを伝授する、いうのがその趣旨となります。指導を受けた店舗の売り上げが大幅に向上したり、店舗同士に横のつながりが生まれたり、さまざまな成果が出はじめているようです。企画を担当する、市場事業店舗インキュベーション部店舗インキュベーション課楽天ネーションズグループの上杉憲佑マネージャーに聞きました。

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「『店舗同士のつながりできることが
どれほど心強いか痛感した』という声が
参加者からは多く出ています」

月商倍増が目標講座終了後も成長へ

――まず、企画の詳細を教えてください。

上杉憲佑マネージャー(以下上杉):「R‒Nations」と「Area‒Nations」と2つの企画があります。はじめに立ち上がったのはR‒Nations の方で、2016年にスタートしました。こちらはパートナー店舗様が他の店舗様をコンサルティングするというもので、月商100~300万円の店舗様を1年間サポートします。1店舗あたりの担当は5店舗です。言うなれば家庭教師型で、教える内容はパートナー店舗様に一任しています。一方、17年から始まったのがArea‒Nations で、塾形式を採用しています。全国各地に設けた拠点で、月1回勉強会を開催するというスタイルです。開催期間は半年で最大30店舗が受講します。R‒Nationsよりも多くの店舗が参加できるという特徴があります。対象となる店舗の月商は30~600万円です。カリキュラムについては当社が決めています。18 年はR‒Nationsは現在計画中ですが、Area‒Nationsの方は規模を拡大して実施する予定です。

――そもそも、こうした企画をなぜやろうと思ったのですか。

上杉:楽天市場は17年に20周年を迎えたわけですが、楽天市場を始めた頃はネット販売の黎明期でしたから、店舗様よりも当社の方がネット販売に関する知見はあったわけです。しかし、その当時からネット販売を取り巻く状況は大きく変わっており、店舗運営に関するノウハウも、ネットで検索すればある程度は得られるようになりました。とはいえ、そうした情報は玉石混交ですし、本当に売り上げ向上につながる役立つノウハウを得るのはなかなか難しいですよね。Area‒Nations で生徒を教えるリーダー店舗様は、月商100万円を超えるのが大変だった時代から、さまざまなステップを経て成長を遂げたベテランばかりです。こうしたノウハウを楽天市場の他の店舗にも伝える手段が必要ではないかと考えたわけです。

――そうした役割を担う存在としては、EC コンサルタント(ECC)もいます。

Area ─ Nations では楽天の拠点で講義を受ける

上杉:ECCの役割も時代に応じて変わってきています。昔は確かに「売り方を教える」という部分が強かったのですが、現在はデータに基づくコンサルティングという側面の方が役割として大きくなっています。当社が保有する膨大なデータの中から、運営に役立つデータをピックアップして伝えるのが重要な仕事です。具体的なノウハウについては、ECCよりもベテランの店舗様の方が豊富に持っているわけですから、それを活かすための企画がR‒Nations でありArea‒Nations です。

――Area‒Nationsの授業内容を教えてください。

上杉:講座は半年間で、月1回開催されます。午前10時から午後6時までみっちりスケジュールが組まれており、講座終了後には打ち上げもあります。参加する店舗様のスタッフの年齢層はかなり幅広いです。若い人もいれば、中には70代という参加者もいました。授業内容についてですが、まずは現状の自店舗の分析、次に、「楽天スーパーSALE」にフォーカスして、「イベントは大事である」ということを伝えます。講義ではアクションプラン(目標に対してどういうアクションを起こしていくかという予定表)を作成してもらいます。その次の回では、スーパーSALE で売りっぱなしにならないように、新規客にまた買ってもらうための施策を教えます。具体的にはメールマガジンの使い方ですね。さらには実際にスーパーSALEの近くに開催される講座では、どんな準備をすればいいのかを教えます。そして、最終回ではスーパーSALEの振り返りをしたり、長期的な目標を作ったりという内容となります。楽天のイベント開催時期やリーダー店舗様のご都合なども踏まえてずれることはありますが、おおまかに言うとこうした流れです。

――最終的な目標の月商はどんな設定ですか。

上杉:昨年同月対比月商2倍が目標です。これまでの延長線上で取り組んでいては達成できない高いノルマです。Area‒Nationsは講座に参加するだけで1日がかりですから、受講を決めた時点で以前よりも進歩した、ということができると思います。その日のオペレーションを前日までに済ませたり、他の人に割り振ったりという業務改善をしなければならないわけですから。

――リーダー店舗における実際のオペレーションを見学する機会などはあるのですか。

上杉:リーダー店舗様のバックヤードを見学に行くこともあります。生徒となるチャレンジ店舗様からすると、想像できないような数の商品を1日でさばいているわけです。どんなシステムを入れているのか、何人で回しているのかなど、実際に見てみる方が分かりやすいですからね。必ず開催されるわけではないですが、オフィシャルなカリキュラムとは別に予定を組んでもらっています。

――最終回で立てる長期的な目標とはどんなものでしょうか。

上杉:リーダー店舗様が講義をするのは半年間だけです。授業を受ける店舗様はArea‒Nationsが終わった後も継続的に成長していただきたいので、毎月の店舗運営に関して、具体的なアクションプランを立ててもらい、各店舗様に皆の前で発表してもらいます。リーダー店舗様からは「うちが月商100万円だった頃はこんなことに気をつけていた」などといった具体的なアドバイスがありますから、ジャンルを問わず参考になるのではないかと思います。

――単に目標を達成するだけではなく、継続的な成長をするためのArea‒Nations ということですね。

上杉:はい。全講座終了後に、参加していた店舗様同士で集まって会合を開き、リーダー店舗様を招くといった取り組みも始まっているようです。こうした店舗様主導のコミュニティーを生み出し、発展させていくのがArea‒Nationsを開催する目的でもあります。

「自走してもらうことで100 年続く店舗様を
創出するのが最終的な目標です」

経験やノウハウ、出店者同士の“つながり”を紡いでいく

――参加店舗の声は。

参加者が自店の目標を発表する「所信表明」などの取り組みも

上杉:さまざまな声がありますが、一番多いのは「生徒同士で悩みやノウハウが共有できる」「横のつながりできることがどれほど心強いかを感じた」などといったものですね。ネットショップというのは店長さんが1人で孤独に運営しているケースが多く、さまざまな不安や悩みで悶々としているわけです。北部九州のArea‒Nations に参加したある店舗様は「価格競争に対抗できなくなって、このまま店がなくなってしまうんじゃないか」という不安な思いから受講を決めたそうですが、生徒の店舗様同士で助け合いながら課題に取り組むことで自信をつけて、最終的には目標の月商を達成しました。その店舗様は、参加して一番良かったことは「他の店舗とのつながりができたこと。1人で悩んでいる人は絶対に参加したほうがいい」と語っています。

――逆に、リーダー店舗側はどんな思いで参加しているのでしょうか。

上杉:講師役を引き受けていただいた店舗様には本当に感謝しています。人の想いで成り立っているサービスなので、私も全国を回って直接お願いしています。皆さんにお話を聞いて共通しているのは、自分たちが成長してきた過程を振り返ったときに「店舗同士の横のつながりがとても心強かった」ということです。楽天市場では、今でもショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)を受賞した店舗様が参加できる研修流行「SOYトリップ」がありますが、昔は今よりも店舗様同士が共に高めあう機会が多かったんです。10年以上前の話ですが、伝説の店舗様合宿「虎の穴」が開催されたことがあって、大きな成果を挙げたんだそうです。

――楽天市場をきっかけにコミュニケーションが生まれ、共に成長していった。

上杉:ただ、楽天市場も大きくなりましたし、昔に比べるとそうした機会が減ったことは否めません。ですから、つながりを生み出すArea‒Nations を「素晴らしい取り組みだ」と感じていただけるリーダー店舗様がとても多いようです。

――ただ、リーダー店舗にとっては負担もかなりあるのでは。

上杉:あるリーダー店舗様がおっしゃっていたのですが、始めたばかりのネットショップに自分たちのノウハウや経験を伝える、言うなれば「恩送り」という考えで取り組んでいるそうです。「恩返し」という言葉はありますが、これは恩を受けた人たちに感謝するものですよね。商売を始めたばかりの人たちに教えることは、恩を返すわけではありませんが、恩を受けた側であるチャレンジ店舗様が成長し、経験やノウハウをさらに別の店舗様に伝えていく。いわば恩を順繰りに送っていくから「恩送り」というわけですね。最終的には、チャレンジ店舗様の中から、リーダー店舗になれるようなところが出てくれば良いと思っています。そうなれば、新たな雇用がその土地で生まれるわけですし、それが当社の掲げる「地域をエンパワーメントする」という理想にもつながる。そうなれば指導したリーダー店舗様にも「Area‒Nationsで講師をして本当に良かった」と思ってもらえるのではないでしょうか。

――自分の知識を伝えることで、楽天市場内に良い流れが生まれるわけですね。

上杉:昔から良く言われることですが、「教える側が教えられる」という側面もあるようです。社内でレクチャーするだけなら、共通認識となる部分がありますから、比較的教えやすいですよね。しかし、まったく違う立場の会社の人に教えるとなると、自分がきちんと理解して、いわば「腹落ち」した状態でないと伝えるのは難しいわけです。あるリーダー店舗様では、いつもの授業では代表が講義していたそうですが、ある授業では楽天市場店の実務を担当している、右腕と呼ぶべき部下や、「今後育てたい」と思っている部下に講義をさせたそうです。その人たちは、これまで会議でも自分の担当する楽天市場店の立場からでしか発言していなかったそうですが、講義が終わった後には会社全体を俯瞰した視点から発言するようになったそうで、いわばArea‒Nationsが人材育成に役立ったわけです。こういう効果はサービス開始当初には想定していなかったことですね。

――R‒NationsとArea‒Nationsの棲み分けはどのようにしているのですか。

上杉:17年は両方開催したわけですが、両社の棲み分けをきちんとしようと考えて、18年はArea‒Nationsに絞りました。企画の詳細を良く知らない店舗様からすると、どちらに参加した方が良いのか分からない部分があったと思います。なので、R‒Nations については現在、再設計をしている段階です。

――スタイルの違いもありますが、Area‒Nationsの方がより多くの店舗が参加できるのは大きいですね。

上杉:チャレンジ店舗の数を増やしたいという思いがあるのは確かです。17年については全国33都道府県でArea‒Nationsを開催してきたわけですが、関東地方や東海地方という地域レベルでの講座を開くことができませんでした。18年はこれらの地方でも大規模な講座を開催することができます。

――18 年のArea‒Nationsはどの程度の規模で開催するのですか。

上杉:上期だけで全国18グループのカリキュラムがスタートしました。18年は合計1000 ~ 1500店舗の参加を見込んでいます。17 年は約350店舗が参加しましたが、かなり拡大します。

――どんな店舗が応募してくるのですか。

上杉:店舗運営の打開策を求めている店舗様が多いですね。「ウルトラCが聞けるのでは」という思いで参加する店舗様も結構多いのですが、「そういう手段はありません」ということを初回に説明しています。

――そうした手段で瞬間的に売り上げが増えたとしても続きませんよね。

Area ─ Nations には多くの店舗が参加している

上杉:仮にそういうものがあったとしても、永続的に成長することは不可能ですからね。当社のNations企画に込めた想いは「共創→共走→自走」です。つまり、リーダー店舗様と楽天が「共」に成長の機会を「創」り、リーダー店舗様とチャレンジ店舗様と楽天で「共」に「走」り、そしてチャレンジ店舗様に「自走」していただく。「100年続く店舗様を創出する」のが最終目標で、これに賛同していただける店舗様に受講してもらいたいと思っています。目標として「売り上げ2倍」を掲げてはいますが、無理な形で達成すると、キャッシュフローが回らなくなって会社が潰れてしまう恐れもあるわけで、それならそんな企画はやらない方がいいですよね。「100 年続く」というのはとても難しい目標ではありますが、この想いを大事にしていただける店舗様と一緒に歩んでいきたいと思っています。

――永続的な成長」を達成するためにどんなことを教えているのですか。

上杉:「店としてのコンセプトをきちんと設定しよう」というのが最初に教えることです。ペルソナに関する講座もあり、「どんな人がお店のお客様なのか」「どんな人に買ってもらいたいか」をきちんと考えましょう、と説明しています。ネットショップはそんなに大人数では運営していませんから、こうしたペルソナを考える時間はあまり作れないんですよね。その後は「具体的に店舗運営では何をするべきか」を列挙してもらいます。そして次の回には、実際にやってみてどうだったか、そしてそれを踏まえたプランを練る。さらに次の回には、また振り返りをして、次のプランを考える。少人数運営だと日々の業務に追われて、なかなか「振り返り」ができません。毎日15分でも振り返りをすれば、あまり効果が出ていない施策をやめたり、追加の施策を行ったり、アクションを起こすことができます。単に月1回の講座を受講するだけでは売り上げは上がりません。講座と講座の間に何をやってきたのかが大事で、カリキュラムが進むにつれてそのことが理解できるようになっています。最終的には、アドバイスしてくれるリーダー店舗様がいなくなっても、自走できるようになれば永続的な成長が可能になるわけです。

――授業内容はこれまで楽天大学で培ってきたノウハウも活かしているのですか。

上杉:そうです。楽天大学には現在、RUx(アールユーエックス)という動画専門講座のページがありますが、RUxの動画を見ないと書けないレポートを課題にすることもあります。楽天大学の場合はインプットが中心でしたが、自走にはアウトプットも重要です。Area‒Nationsの方では、自らが考えて行動してもらうことに重きをおいた内容にしています。

――目標を達成できる店舗もあれば達成できなかった店舗もあります。昨年の北部九州の講座の場合、24 店舗中16店舗が目標を達成できたとのことですが、両者の違いはどこにあるのでしょう。

上杉:課題に取り組む姿勢というよりは、決裁権を持った人が参加したかどうかが大きいように思います。受講者の中には経営者もいれば雇われの人もいるわけで、前者であれば即決できますが、後者はそうもいきません。ようやく決裁が取れて、半年を過ぎてから成長したという店舗様もあります。ただ、熱意は雇われの場合でも同じです。中には、決裁権を持つ上長を講座に連れてきて、納得させたというケースもありました。

――今後の課題はありますか。

上杉:現在のカリキュラムが100%だとは思っていませんから、リーダー店舗様やチャレンジ店舗様から意見をいただき、講座をアップデートしていきます。

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