ーーまずは、現在担当されている業務の内容について教えて下さい。
部署としてはカテゴリーマネージメントに所属しておりまして、その中でも「ファッション」をメインに「ヘルス&ビューティ」「スポーティンググッズ」の3つのカテゴリーを担当しています。主な仕事としては海外のトレンドであったり、需給ギャップをつかんで分析を行い、マーケティングのメソッドをセラーさんにお伝えしてアドバイスやコンサルティングを行うことでセラーさんの越境ECを支援しています。マーケティングといってもeBayサイト内での広告だけでなく、外部の広告やインフルエンサーを使った認知拡大によるセラーさんのページへの送客などがあります。
ーー担当されているカテゴリーそれぞれの状況はいかがでしょうか。
やはり、ファッションが一番規模としても大きいので、そこをメインにアピールしていきたいところではあります。まず、日本のセラーさんの取扱高伸び率について2018年の結果を見ると一番高かったのがアメリカ向けで、その内、ファッションを見ると前年比23%増となっています。中身としてはストリート系のラグジュアリーブランド、原宿系のブランドなどが好調でした。ヘルス&ビューティも同25%増で、具体的には日本のドラッグストアで扱っているような日焼け止めや美白化粧水といった商材が伸びました。スポーティンググッズでは最近は特にゴルフカテゴリーが良かったです。
ーー特に規模が大きいというファッションですが、なぜ伸びているのでしょうか。
アメリカの中古市場が伸びていまして、それを押し上げているのが「ミレニアル世代」とさらにその下の「Z世代」(1990年代後半~2000年生まれ)と呼ばれる存在です。彼らが現在の中古ファッション市場を盛り上げていて、Z世代では3人に1人が中古アパレルを購入しているとも言われています。日本国内のアパレル市場は人口減少の影響もあって、今後の落ち込みが予想される中、海外の中古ファッション市場の伸びは魅力的に映っております。アメリカで消費力を持った若者たちは中古商材に対して何の抵抗もなくショッピングを楽しむ習慣があるので、日本のセラーさんたちにとってはチャンスが広がっている状況です。
ーー特にどういった商材が人気でしょうか。
金額や件数で言いますと、日本から一番売れているものはハンドバッグや小物などハイブランドの中古品です。最近は「グッチ」の人気が高まっていますが、それ以外にも「ルイ・ヴィトン」「エルメス」などは継続的に売れているものです。また、腕時計では「オメガ」「ロレックス」など。日本のセラーさんが特に強いのは90年代やそれ以前のヴィンテージモデルです。セラーさんからは日本国内よりもeBay で売る方が高い価格がつくという話も聞きました。商品の状態や型にもよりますが、価格としては500 ドル~ 3000 ドルのレンジです。ハンドバッグなどについては平均単価として400ドル前後です。ブランドによっては当然もっと高くなります。eBayの中ではハイエンドの商材の部類に入るかと思います。ちなみにヘルス&ビューティなどは10ドルもしない価格の物が数多く出ています。
“ユーチューバー”の活用でブランド認知を図る
ーーファッションに関しては日本発ブランドの商品も人気があるのでしょうか。
日本人デザイナーのブランド「コムデギャルソン」「ヨウジヤマモト」や、原宿発祥のブランドでは「アベイシングエイプ」「ビズビム」「ネイバーフッド」などはアジアだけでなくアメリカでも非常に人気です。海外では中々手に入らないので、eBayを使って購入しているようです。これらのブランドさんについては、自身が直接販売しているというわけではないのですが、例えば原宿系ブランドの「リズリサ」さんではeBayでストアを持っていてご自身で展開しています。
原宿系のブランドはアメリカでもよく検索されていて非常に認知があり、eBay の中でも「harajuku(ハラジュク)」「kawaii(カワイイ)」といったキーワードで非常に高い検索数があります。インバウンドが非常に多いということや、SNS でも「インスタグラム」を見ると、「kawaii」のハッシュタグを使ってそのブランドの服を着た写真を投稿されているのでそこから広まっているようです。リズリサさんもSNSを上手く活用して、eBayのストアや自社通販サイトに送客しているようです。一つの成功例だと思います。
ーーそうした販促の仕方についても、eBayで出店者に指導されているのですか。
リズリサさんに関しては、こちらから何か指導をしたということはないのですが、それ以外の一部のセラーさんにはそういったアドバイスもしています。例えば昨年ごろからは「ユーチューバー」の活用も勧めています。当社がユーチューバーを紹介するというサービスは行っておらず、あくまでもセラーさんご自身で探して交渉してもらうものです。
昨年には当社自身が行ったユーチューバーを使った企画もありました。狙いとしては、北米の人達に日本の中古ブランドの市場を認知してもらうためのものでした。(ブランドリサイクルを行う)ブランドオフさんなどの協力で実施した内容ですが、実店舗の中や商品の出品販売の様子、真贋判定の作業など裏側の情報について、北米で人気のユーチューバーに来てもらい、そこで取材してもらった内容の動画を公開しました。ユーチューブだけでなく、インスタグラムでも同時に出したところ、すごくニッチな業界の話であるにも関わらず、ユーチューブで11万回の再生を記録しました。コメントも沢山いただき、中には「これを見て安心したのでeBay で買います」といった内容のものも見られました。
動画の中でもスマホを使ってeBay の中で実際にブランドオフさんを検索して商品を購入している様子を映したり、ユーチューバーの国での価格と比較しても安いところなども見せていきました。eBayでの販売ページにリンクを貼ったことで、流入にも大きくつながりました。
ーー動画というような作り込みなのでしょうか。
これに関しては、動画のタイトルを「中古ラグジュアリーブランドストアの秘密」のような文言にしていました。元々、中古ブランドが大好きで有名なユーチューバーに企画して作ってもらったものです。
北米の視聴者も、このユーチューバー自身も日本がこれほど品質の高い中古品を取り扱っていることは知らなかったようで、日本は古物商の免許がないと中古品を扱えないことや、真贋判定の団体もあって偽造品を除外する仕組みがあるということも、この動画を通じて初めて知ったようです。
ーー繰り返しになりますが、eBayでユーチューバーを使った販促のメニューを用意しているということではないのですね。
はい。この動画については特定のセラーさんをバイヤーに向けて紹介することが目的ではなく、日本の中古市場全般の安全性や質の高さを積極的にアピールするためにイーベイ・ジャパンが企画してイレギュラーな形で特別に行ったものです。
そのため、もしもユーチューバーの活用を希望するのであれば、セラーさんご自身でユーチューブを見てフォローワー数の多いところにご自身で直接コンタクトをとって交渉していただく作業が必要です。もちろん、取り扱っている商品のカテゴリーによっての探し方のアドバイスなどは行います。
ーー動画はどういった内容で作ることをお勧めしていますか。
コンテンツの中身については、セラーさんが何を目的にするのかによって変わってくるかと思うので、それに合わせた提案になるかと思います。そもそもユーチューブやSNSを使うことは、基本的には商品を販売することが目的です。よく見るパターンとしては、商品を海外のユーチューバーにレビューしてもらって、最後にセラーさんのIDを出すというパターンです。
ーー海外のユーチューバーを起用する際の料金相場なども分からない部分がありますが、資金力に乏しいような中小の事業者さんでも取り組めるような手段なのでしょうか。
必ずしも数百万人規模のフォローワーを抱えているようなユーチューバーを起用しなくても良いと思いますし、小規模なフォローワー数のところから広げていくやり方もあるでしょう。また、中にはお金を支払わなくても商品を支給する代わりにモニターをしてレビューしてくれるケースもあるので、これは日本のインフルエンサーを使ったマーケティングとも同じ側面があると思います。
ーーマーケティングの観点からSNSの活用以外に出店者にお勧めしていることはありますか。
eBay自体に1億8000万人のバイヤーがいますので、優先順位としてまずは商品を出品していただくことです。そこからさらに売り上げや集客を上げたいというセラーさんにはSNSの活用を紹介していますが、eBayの中にも広告の機能があるのでそこを使ってもらってもいいでしょう。いずれにしても、何をどれだけ売るべきなのかといった商品選定などまずはeBayの中でやるべきことを優先してやっていただければと思います。
海外の繁忙期に備えて、早めの商品投入を
ーーアメリカでの繁忙期などは日本と違いがありますか。
年末商戦については日本と同じなのですが、アメリカの場合は3月に「タックスリターン」という確定申告の時期があって、お金が戻ってくるということで買い物のピークシーズンを迎えます。eBayの日本からの販売額で言いますと、年末商戦と変わらないくらいの規模になります。日本では1月の年始セールが終わった時期なので、例えばその時に売れ残った商材をアメリカでのピークに合わせて売りさばくことも考えられます。
また、越境ECならではの特徴として、7月、8月は南半球が冬になるのでその時に旧シーズンの秋冬物を売りに出すチャンスも生まれます。
ーー海外の繁忙期に対応するために重要なポイントはありますか。
例えば、年末商戦で言うと配送期間もあるので日本からの注文がピークに入るのは10月ごろからとなります。クリスマスに間に合うように注文が入り始めるのです。そのため、このタイミングに合わせて商品を仕入れる作業は欠かせません。セラーさんには9、10 月までには商品を仕入れて出品をどんどん増やしてくださいとは伝えています。それ以降になるともう手遅れになってしまうことにもなります。特に高級ブランド品であれば、購入ページに流入してすぐに買うというバイヤーさんは少なく、何度かアクセスして検討してから数日後に購入するという時間をかけるケースが多いので、早めに掲載することが大事になります。
ーーそのほかに、成長が続いているアメリカ市場ならではの特徴などはありますか。
中国やヨーロッパと違って、現状では800ドル以下の価格の商品については関税がかかりません。それだけ商品の価格競争力にもつながります。
ーー成功する出店者と失敗する出店者、それぞれの傾向について教えて下さい。
成功しているセラーさんでは、(ファッションECの)プレイフルという会社さんの事例があります。eBay で販売を検討する時にみなさんが一番心配されるのは英語ができないということですが、プレイフルさんでは実は英語を話すことができるスタッフは1人もいませんでした。それでも成果を出すことができるのです。プレイフルさんの場合は、なるべく商品の写真をいっぱい載せることであったり、「グーグル翻訳」や我々イーベイ・ジャパンのサポートを活用することでうまく運用されています。
また、以前のお話でもありましたが、eBayでは海外向けに専用の在庫を持つようなことは不要です。国内向けの自社通販サイトがあれば、そことeBayとの在庫情報を共有するだけでいいので、プレイフルさんもそのように自社通販サイトに商品を出品するとeBay にも自動的に出品される仕組みを使っていたことで成功した部分があるかと思います。元々、そこまで大きく売れるという期待を持って始められたのではなく、「まずはやってみよう」というスタンスでの参加だったので、このようにまず一歩踏み出すことが大事かと思います。
ーー失敗したようなケースとしては。
1つの例として、アパレルのセラーさんで特にブランド認知がない状態でTシャツを販売したとします。
eBayではバイヤーさんが検索から入ってくるので、例えば「Tシャツ」で検索されるとなるとかなりの数の競がいます。そうすると価格競争に陥ってしまい、価格の低い中国のセラーさんなどに勝つことは中々難しくなります。そうしたことにならないように、日本の商品の強みを活かした形での出品やマーケティングの仕方が必要です。
例えば、ブランド自体はまだアメリカで認知がないとしても、原宿に実店舗があるということであれば先ほどの事例のように「harajuku」というキーワードを入れて販売したりすることが有効だと考えられます。さらに、商品ページのデザインに関してもHTMLを使って自由にテンプレートを作れるので、中には実店舗の写真を使いながら“原宿感”を演出したりブランドを表現できるので、そうした工夫から検索に掛かりやすしていくようなケースもあります。
いずれにしても、eBayで結果につながるまではある程度の期間が必要です。それまでじっくりと試行錯誤しながら、セラーさんとして販売実績を作って運用することが大事なので、少しやってみて早期に撤退してしまうのではなく、継続することが大事かと思います。出店してみると、意外なところから注文が入ることもあります。当初はアメリカ向けを意識していたものの、ロシアや南米から注文が入るといったケースもあります。自社の商品がどこに需要があるのかを把握しながらビジネスを展開していくことが必要でしょう。