クーポン共同購入サービスの勢いが止まらない。飲食店やエステなどで使える半額以下の割引クーポンをフラッシュマーケティングの手法を使って販売するという仕組みだが、年明けには同手法で販売されたおせち料理を巡るトラブルが生じるなど問題も起こっている。まだ1年未満の新しいビジネスだけに、そのポテンシャルは未知数と言える。リクルートが運営するクーポン共同購入サイト「ポンパレ」の前澤編集長に同サービスの可能性を聞いた(聞き手は本誌・比木暁)
実情は“開店休業”
のところが大半
参入障壁は低いが継続は難しい
――現状、クーポン共同購入サービスの市場は伸びていますか?
「ポンパレ」に関して言うと伸びています。今年に入り1日の取り扱いで過去最高を更新している状況です。マーケットの8~9割にあたるクーポンを我々の「ポンパレ」とグルーポン・ジャパンさんの「グルーポン」が販売しているというデータが出ていますので、我々が伸びているということは、それだけマーケットも大きくなっていると思います。
――サイト数もまだ増えているようですね。
参入障壁が非常に低いビジネスモデルであり、そんなに複雑なシステムも必要ありません。ただ、ビジネスを継続させるのは難しいです。特に営業が続かないのと、カスタマーサポートを行うのが厳しくて事業を継続できないという企業が多いです。現在、200サイトほどある中で販売が続いていないところが相当あるのではないでしょうか。ですから、サイト数は増えているのですが、実情は“開店休業”になっているところが大半だと思います。また、規模が小さい企業は営業力も限られてくるため、クーポンの掲載期間が延びたり、同じ掲載企業が頻繁に登場するという状況が生じています。
――多くのサイトがある中で「ポンパレ」の強みは何ですか?
1つはカスタマーの集客面です。例えば自社で「じゃらんnet」や「ホットペッパー」など国内でも上位のトラフィックを集めているサイトに「ポンパレ」の誘導リンクを設置しているため、そういったところからの送客は期待できます。一方で、(クーポン商品を提供する)クライアントに対してはもともと営業の接点を持っていました。通常、フラッシュマーケティングのような新しいビジネスモデルを説明しに行くと怪しまれることが多いのですが、我々の場合はちゃんと説明できる土台を以前から持っているのが強みです。
また、ほとんどのサイトがフラッシュマーケティング専業のサイトです。我々の場合は自社内でいろいろな媒体を扱っており、以前から営業接点やカスタマー接点のほか、審査の体制も持っています。新規でこのビジネスを始めた企業は、まずそうした機能を持っていません。これを1から構築するには資金だけでなく営業マンなどの人材が必要になり難しいのだと思います。そこが確実に差別化のポイントになっていると思います。
――グルーポン・ジャパンの「おせち問題」のようなトラブルがあり、クーポンを扱う際の審査方法が問題視されていますが、具体的な審査体制は?
営業の人間が商品の提供を希望される企業様とお話してからサイトに掲載するまで、最低で2週間とっています。その期間に、取引先企業様の与信など財務状況をチェックし、その商品が法的な観点からネット上で販売できるものか掲載の是非を調べます。そして一番重要な側面として、景表法の観点から価格を審査します。価格については販売実績があるものでないと「定価」とは名乗れないので、実績があるのかどうかを確かめるという作業を行っています。また、誇大広告にならないようサイトで使う表現のチェックも行っています。こうした「掲載」「価格」「表現」といった3重のチェックを行うのですが、それぞれ違う部署が受け持っています。営業を含め我々の部署と組織を切り離すことで、審査をより厳密にしています。
――「おせち問題」を受け各社の取り組みも変わるのでしょうか?
あの一件で審査体制について大きくフォーカスされましたが、我々としてはあの件を受けて特別新しいことを始めたわけではなく、当たり前のこととして以前から取り組んでいました。あれを契機に、参入している企業さんも法律の中で許されているものを取引するという風にやっていかないと、“ズルしたものが勝ち”となってしまい、その結果カスタマーにも“変なものをつかまされる”という不安感が芽生え業界として伸びなくなるのではないかと思います。
強力な新規会員獲得ツールになる
――取引先との契約関係はどうなっていますか?
このビジネスの場合、販売価格と販売枚数の設定が大切になります。我々サイト側とクライアント企業様とできちんと相談する必要があります。我々の場合ですと、販売価格については50%オフをベースに考えていますので、通常の販売価格に対して半額以下でご提供いただけないかとお願いしています。半額からさらに割り引くかはクライアントに決めていただいています。販売枚数については、何枚まで売っていいのかという“上限”と、何枚売ったら取引が成立するのかという“下限”があります。特に上限については席数、室数、サービスを提供できるキャパシティーといった要素を踏まえて我々のほうでアドバイスをさせていただいた上で決定しています。例えば3席しかない美容室で2000枚販売するということは有り得ません。
ただ、サイトのほうで“スケベ心”を出すと、売った分だけ手数料が入るのでサイト側がより多くの枚数を売りたがる。契約書によっては上限値の設定をサイト側が決定するという風になっていて、その場合はむちゃくちゃになります。結果、3席の美容室で2000枚のチケットが販売されるという事態が発生するわけです。我々としては、新規の集客やプロモーションの広告効果がちゃんと出せる範囲であれば、100枚であっても構わないと思っています。そのためクライアント企業様と相談して無理のない枚数を設定しています。
――クーポンを利用できる有効期間はどう決めていますか?
目的によると思います。例えばそのお店が3月は調子が悪いということであれば、3月の1カ月間有効にすればいいですし、あるいは半年間で平日は店が空いているのであれば、半年間有効で平日しか使えないという設定にすることができます。つまり目的に応じて有効期間は変わってくると思います。
――ただ、50%以上の割引率となると企業側の利益は出ないのではないでしょうか?
今の状況で言いますと、掲載企業様にアンケートをとると8割は広告を目的にやっているという回答です。採算については基本的にそんなに気にしていませんというお答えが非常に多いです。その後で採算がちゃんと取れるかということを考えるというケースが多いようです。
──商品を提供する企業側の1番の狙いは利益ではなく集客ということでしょうか?
そうですね。プロモーションという側面が大きいです。新規のお客さんにできるだけ知ってもらい、実際に買っていただけるのであればなお良いというのが企業様からいただいているお声です。今は、新規集客のための広告目的という企業が増えていますので、採算性の話は薄れてきています。
――ネット販売事業者などが自社通販サイトで使えるポイントを半額で販売するケースも出てきました。
ECサイトさんの場合、飲食店さんや美容室さんなどと異るところがあって、例えばリスティングやアフィリエイトなどネット広告を出して1人の会員を獲得するのにいくら掛かるかというCPAの概念では、1件集めるのに3000円や、下手すると5000円、1万円ぐらい掛かります。そこで我々のサービスを使って例えば5000円分のポイントを半額で販売すると、1人あたり2500円で新規会員を集めることができます。つまり従来の外部集客手段に比べ効率が良くなる計算です。私もネットの集客を担当していましたので分かるのですが、リスティングなどネット広告の単価が値上がりしていますので、フラッシュマーケティングのほうが割がいいですね。
――ネット販売事業者が提供する商品としては、通販サイトで使えるポイントという形態が多くなるのでしょうか?
そうだと思います。ポイントを付与することで、その後の行動にもつながります。つまり新規会員を獲得するだけでなく、ポイントを使ってそのサイトで買い物をしてくれることが確約できます。従来のマーケティング手法ですと新規会員を集めることはできますが、買い物を約束させるということが難しかったので、そこはポイントとセットで展開することでより強力な新規会員の獲得ツールになっていくと思います。
フラッシュマーケの魅力は
“意図しない出会い”
ECサイトさんと我々はパートナー
――逆に通販事業者やネット販売事業者が新たに参入することはあると思いますか?
あり得なくはないでしょうが、このビジネスは営業基盤がないとクーポンが仕入れられないです。結局、手持ちの商品を売りさばくことしかできないので、商品の幅が出しにくいだろうと思います。
フラッシュマーケティングの魅力は“意図しない出会い”のような側面が強いです。比較検討とは異なり、毎日どんな商品に出会えるかというところが魅力になります。我々は比較サイトではないので、グルメに限らず旅行や手品などの商品をごちゃごちゃに提案しています。ですので、いろいろな商材を扱っているか、あるいは仕入れ力がある企業のほうが展開しやすいと思います。むしろ、ECサイトさんと我々フラッシュマーケティングサイトはパートナーと思っていまして、ともに組むことでECサイトさんに貢献できると思っています。
――今後の課題は?
「ポンパレ」は全国に展開エリアを持っていますが、完全に網羅できているわけではありません。大都市圏は毎日様々な商品が出ますが、地方についてはバラつきがありますので、全国で同じクオリティーに持っていきたいです。もちろん東京と地方ではマーケットの規模は異なりますが、その地域にあった規模で毎日違う商品を各エリアで提供していきたいです。これは営業のリソースをどこに分配するかの問題ですので、全国ちゃんと網羅できるようやっていきたいです。
――クーポン共同購入サービスの可能性は?
まだまだ伸びる余地があると思います。というのも、今まで広告の出稿先がなくて困っていたクライアントさんがたくさんいます。我々が毎日扱う商品のうち20~30%程度が新規のクライアントさんです。カスタマーの側としても、知らなかったサービスを使ってみたいという欲求はあるはずなので、この両者のマッチングというのはこのビジネスをけん引する源泉になると思います。掲載されるクライアントさんが日本中でゼロになったらこのビジネスは終わりますが、そういうことはまずありませんので(笑)、そういう意味ではまだまだ駆け出した段階ですね。
――業界内でも淘汰が進むのでしょうか?
いくつかつぶれているサイトがあると聞いています。恐らくある程度の組織力があり、資本力がある企業でないと全国を網羅することはできないでしょう。今後はそうしたサイトに集約されてくると予想していますので、今はそれに備えて機能開発や組織の増強などを行っているところです。