この3年以上の成長をしないと意味がない 光本勇介●ブラケット 取締役会長 

誰でも簡単に通販サイトを作成できるサービス「STORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)」を展開するブラケットが9月30日にMBO(経営陣などによる企業買収)を実施し、「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイか独立した。2013年8月に完全子会社となって約3年でのサプライズだった。なぜ独立したのか、今後はどのような事業展を行うのか。創業者の光本勇介会長が考える狙いとは──。

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すごく円満に卒業できました


単独で動くほうがエッジが立つ

――スタートトゥデイ傘下から独立を決めた理由は何だったんでしょうか。

スタートトゥデイのグループに入って、協業による施策も行いましたが、結果的には協業よりも自社でオーガニックに伸ばしていくことのほうがうまくいっていました。傘下に入ってちょうど3年が経ったタイミングで、「これからどういう展開をしていこうか」という話になった時に、引き続き独自に伸ばしていったほうがいいだろうとなり、単独で仕掛けられることも多いと判断しました。なおかつ、これは決してネガティブな意味ではなく上場企業にはそれなりの責任があり、決定までに相応のプロセスを踏む必要があります。しかし、様々な展開をしていくとなると、上場企業のグループにいるよりも単独で動くほうが、よりエッジが立ったことをスピード感を持って実行できるんじゃないかと考えたのです。事業のためにはそういう体制になったほうがいいはずで、その時にMBOという選択肢が出ました。スタートトゥデイ側からも共感していただき、気持ちよく見送っていただきました。すごく円満でした。本当に応援していただきながら卒業することができました。

――決めたことを誰に気兼ねなくすぐに開始できるほうが御社のビジネスモデルに合っているのかもしれません。

会社としては今利益が出ていますので、このタイミングでMBOすることで外部の資本に頼らずに運営することができます。「ストアーズ」もお陰様でそれなりの規模になっていますが、現在の規模まで拡大したタイミングで、完全に内部資本の会社になるというのも珍しいのではないでしょうか。外部の株主に気兼ねすることなくいろいろなチャレンジができますので、一層エッジのある動きができます。今までは相当な後ろ盾がありましたが、自分たちで稼がないといけないので、いい緊張感があります。

――ゾゾとの協業では「ゾゾマーケット」と「ゾゾフリマ」があります。「ゾゾマーケット」は途中からあまり話題にのぼらなくなりましたが、苦戦していたのでしょうか。

思っていたよりは“普通”で、こちらの期待を上回るということはありません
でした。

――「ストアーズ」で開設されたサイトの商品が、ゾゾ内の新たな売り場である「ゾゾマーケット」でも露出されるという仕組みでした。「ストアーズ」のストアからすると、喜ばれるはずではないでしょうか。

しかし、大喜びになるのは売れた時であって、期待以上に売れなかったということは、結果的に喜びをユーザーさんに提供できなかったということです。その存在があるから喜ばれるというわけではないので、各ストアさんに流通を作れないのであれば、存在させていても意味がないかなという判断です。とはいえ、ずっと続いていてクローズしたのはこの独立のタイミングです。

――「ゾゾフリマ」は4月1日付で親会社に事業を移管しています。

その理由も明確で、フリマというCtoCの領域でこれからもっと拡大していくにあたって、いろいろな投資が必要でした。今後大々的なプロモーションを打っていこうという話になった際、事業が当社に紐づいていると、すべての投資を当社がやることになります。当社はどこで利益をだしているかと言うと「ストアーズ」です。「ゾゾフリマ」では(2016年3月から)手数料を無料にしており、決済の手数料は発生するわけですから、取引があるたびに赤字になります。そこで投資や負担を当社がやるとなると借り入れる必要があり、あまり健全とは言えません。であるならば、大きな投資については体力があるスタートトゥデイが行ったほうがもちろんいいわけです。ゾゾ本体として投資をするほうがやりやすいということで事業譲渡しました。今後はさらに独特なCtoCの形に進化するのではないでしょうか。

代表権譲り、新事業に集中

――「ストアーズ」事業を見ますと、営業損益がずっと赤字だったのが、2015年10月から黒字になっています。

今までは意識的に事業拡大のために投資をしていましたが、昨年の9月頃から利益を出していこうというモードに切り替えました。「ストアーズ」は4年程やっている事業で、最初の3年間は投資をして赤字でしたが、これからは回収していこうと黒字化に舵を切りました。

――ゾゾの傘下に入った際は、「ストアーズ」経由で4万ストアが立ち上がっていましたが、今では70万店以上が作られています。

今では「ストアーズ」で立ち上がったオンラインストアでモノを買った購入者が、「ストアーズ」でストアを開くというケースが増えています。規模が大きくなると、我々のプラットフォーム上で購入してくださる人が多くなります。そうなるとお金を掛けなくても自然成長していくようになります。そういう基盤ができたということかもしれません。そしてストアが増えるとトータルの流通額も増えていきます。

――10月1日付で代表取締役兼CEOのポジションを、取締役の塚原文奈氏に引き継がれました。ご自身は代表権のない取締役会長というポジションです。この後、顧問になり、さらに個人投資家にでもなるのかと勘ぐってしまいましたが。

そういうことは、M&Aで会社を売却して雇われ社長のような状態になるのであれば起業家として新しいチャレンジをしようという場合に起こります。しかし今回はあくまで私の資本の会社ですし、離れる必要がありません。

――役割分担としては「ストアーズ」事業は塚原氏が担当されると。

そうです。しかしそれも今までとは大きく変わりません。彼女は経営面も含め以前から一緒にやってきています。「ストアーズ」はすでに事業の骨格ができています。ゼロから1を作りだすというわけではなく、1のものをどれだけ100まで伸ばすかという勝負になりますが、彼女はそこが非常に得意です。「ストアーズ」を1から100に持っていくチャレンジをしながら、会社としてはベンチャーである以上、いろいろなチャレンジを行ってビジネスの柱を作る必要があります。私はそちらにフォーカスして、新しい仕掛けをしていきます。

――会長になりましたが、代表権も譲ったのはなぜでしょうか?

新しくやる予定の事業については、何をやるのかまったく決まっていません。私は新規事業にフォーカスしていきますが、ゾゾから独立したブラケット今の段階では「ストアーズ」というサービスの会社です。「ストアーズ」のトップを塚原に任せるということは、会社を任せるようなものです。また、私が代表権を持っていれば会社の舵取りをする必要があります。そうすると新しい事業に100%コミットできなくなります。会社の舵取りは結局「ストアーズ」の舵取りであり、そこは塚原にまかせて私は新しい事業にフォーカスするほうがやりやすい。会社としてチャレンジをしていくための体制を考えた結果こうなりました。

ゾゾでの 3年間はメチャクチャ大きい

前澤氏からは「びっくりさせて」

――今までの歴史を振り返りますと、「ストアーズ」以外にも、カーシェアリングサービスの「カフォレ」、オンラインでの靴のオーダーメイド「シューズ・オブ・プレイ」、モデルのマッチングサービス「モデルタウン」などユニークなサービスを手がけてきました。現在、検討中の新たなサービスはありますか。

もちろん興味を持っている領域はありますが、特にまだ絞っていないです。た
だ、チャレンジをるからには新しい市場や、もっと大きな規模のビジネスを作らないと意味がないと思っています。こう思うようになったのは、ゾゾで3年間過ごさせてもらってあれだけの規模の事業や組織、利益を生むビジネスを真横で見させていただいて、自分の目線がより上がったのは大きいです。あれだけの規模のビジネスを自分の手でも作ってみたいという気持ちが強まりました。

――ゾゾ傘下での経験はやはり大きかったと。

メチャクチャ大きいです。「ゾゾタウン」は立ち上がってからまだ10年ですが、10年でここまでのビジネスを作れるんだと思いました。あとは経営者という観点では前澤さん(スタートトゥデイ創業者兼社長の前澤友作氏)という独特な経営者と一緒に仕事をさせていただくことで、事業の作り方、経営の仕方、さらには上場企業のあり方も含めて、ブラケットとしても私個人としても非常に多くを学ばせてもらいました。何よりも自分の視野と目線を上げてもらいました。

──独立する際にスタートトゥデイの前澤社長から、はなむけの言葉はありましたか。

そうですね、「びっくりさせてよ」と。いい意味で期待を裏切ってほしいと言っていただきました。M&Aはいろいろな表現をされますが、その1つに“結婚”という表現があります。そういう意味で今回は“結婚解消”のようなものです。過去の事例などを見ると、円満にMBOしているケースは意外に少ないです。そんな中で、こんなに応援していただきながら円満に送り出してもらえたということは、非常に幸せですし、レアなのではないでしょうか。そうやって応援して送り出してもらえたからこそ、私たちも期待以上に成長して、何かしらの形でビジネスという面で、スタートトゥデイに貢献できるような機会が作れたらいいなと思います。恩返しと言うと、きれいごとに聞こえるかもしれませんが、もっと対等な立場で、「またブラケットとビジネスをしたい」と思われるような成長をしたいです。

買い物のあり方は変化するべき

――当分は別の会社からのM&Aなどはないのでしょうか?

今はまったく考えていません。ただ、可能性だけで言うと、DMM.comさんやピクシブさんのような個性のあるプライベートカンパニーもありますし、M&Aもあり、上場もあります。いろいろな可能性がある中で、すべてのカードを持てている状態はなかなかないと思います。会社にとって一番良い可能性を見ながら推移していければいいと考えています。いずれにせよスタートトゥデイという素晴らしい会社を卒業して、3年の間に学ばせてもらったことは相当あります。それを生かしながら、卒業した以上はこれまでの3年以上の成長をしないと意味がないと思います。より世の中の人がびっくりしてもられるような施策や展開をしていけるような組織になればいいなと意気込んでおります。

――最後に今のEコマース業界をどう見ていますか。

とても面白いと思います。スマホで簡単に決済したりモノを買える時代です。時間と場所にとらわれず、いろいろなものにアクセスできるこのタイミングだからこそ作れる買い物の機会や仕組み、プラットフォームのあり方があるはずです。ECやショッピングモールの形態はこの10年、15年でほとんど変わっていません。ただ、世の中はこれだけ変化しており、消費者の趣味・嗜好やライフスタイルも変わっています。それに合わせて買い物のあり方やプラットフォームのあり方も変化するべきでしょう。

◇プロフィール

光本勇介(みつもと・ゆうすけ)氏 1980年生まれ、神奈川県出身。幼少期から18歳までをデンマークおよびイギリスで過ごす。TASISEngland卒業後、青山学院大学国際政治経済学部入学。卒業後、外資系広告代理店を経て、2008年10月インターネットを使用した新しいビジネスの企画・開発・運営を行う株式会社ブラケットを設立、代表取締役に就任。2013年にスタートトゥデイに売却。2016年9月末にMBOを実施。10月1日付で取締会長に就任。

◇取材後メモ

初めてお会いしたのは2010年の6月。確か、靴のオーダーメイドサービス「シューズ・オブ・プレイ」の取材でした。その後ブラケットはいくつかのサービスをローンチし、何度か移転を行いました。光本氏はリラックスした佇まいの一方で、常に次の一手を模索しているという印象でした。2013年8月にスタートトゥデイの子会社となります。直後のインタビューではゾゾとの連携について興奮気味に語ってくれました。それから3年が経って今回のMBOです。ゾゾという「相当な後ろ盾」(光本氏)からの独立に驚きました。しかし、相変わらずリラックスして今後を語る光本氏を見ていると、次の展開が気になって仕方ないのです。

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