本当に“バラ色”な有望市場なのか? 越境ECの“現実”とは

新たな顧客や商圏を求めて海外へとネット販売を展開するいわゆる越境ECに取り組むEC事業者が増えてきた。現地の仮想モール運営者などはしきりに「儲かる」と働きかけるなどし、日本企業の誘致を進めるが、いざ参戦すると「それほど甘いものではなかった」と口にする事業者も多い。魅力的に見える越境ECだが、現実はどうなのか。参入後に超えねばならない壁とは何か。すでに越境ECに取り組むネット販売実施企業の現状を中心に、その現実を見ていく。

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1998年に開設した「CD JAPAN」

【事例① ネオ・ウィング】

品質向上への継続的取り組みで
「SNSへの好意的な投稿」を誘発

早くから取り組んできたこともあり、すでに越境ECの売上高が20億円に達するネオ・ウィング。特徴的なのは、北米とヨーロッパで売り上げシェアの63%を占めること。J─POPやアニメといった、日本のポップカルチャー愛好家から支持を集めている。

梱包品質を重要視

同社が越境サイト「CD Japan」を開設したのは1998年で、ネット販売を開始した97年からわずかに1年後。同社の片桐文夫社長は「海外から『日本のCDを買いたい』という問い合わせがあり、需要があることを知った」と当時を振り返る。
なぜ海外ユーザーが日本からCDを買うのか。一つは商品品質の高さだ。例えば、日本でいう「洋楽」のCDをわざわざ欧米から購入するユーザーが多いのだという。これは、日本で販売しているCDの音質が良いから。日本国内のみ製造されている「SHM─CD」と呼ばれる新規格の高音質CDは海外でも人気となっている。また、海外でも売られているJ─POPについても、日本でしか扱われていない限定版や特典を目当てに買うユーザーもいるという。
北米とヨーロッパが中心で、東南アジアやオセアニア、南米など世界各国からの注文がある。中国についてはあまり大きなシェアを占めていない。これは「ソフトに関しては海賊版が出回っている」(片桐社長)ため。ただ、最近は限定版やフィギュア、書籍などの需要が増しているほか、インバウンド需要の増加もあってか、「正規版を買いたい」というユーザーも増えてきたという。
マーケティングに関してはくちコミ効果、特にSNSを重視している。自社でツイッターやフェイスブックを活用して情報を発信するのはもちろん、特に効果が大きいのはユーザーのSNSでの発信だという。「(CD JAPANの)サービスが良かった、あるいはこんな商品が手に入って良かったなど、自分の期待以上のサービスだったときにユーザーはSNSに投稿してくれる」(片桐社長)。例えば、商品が届いた後に、梱包がしっかりしていることを撮影し、ユーチューブやインスタグラムに投稿するユーザーがいるという。CD JAPANのサービス品質の高さが拡散されることになるわけだが、これは狙ってできるものではない。「ユーザーが感激したとき自然と発生するもの」(同)。
そのためにも、サービス品質の向上は欠かせない。特に梱包は重視している。最近はCDなどの特典として付与される、ポスターを配送する際の梱包を刷新。潰れないように、堅いロール芯で配送している。こうしたポスターは国外では手に入らないため、梱包にも細心の注意が必要となる。
同社ではユーザー向けにサービス品質改善のためのアンケートをとっている。例えば「ダンボール箱が壊れていた」というクレームがあった場合、なぜ壊れたかを徹底的にリサーチ。梱包の改善につなげている。ダンボール箱は大きすぎても小さすぎてもいけないため、国内用・海外用・共通あわせて30パターンほど用意しているという。

海外用のダンボールに関しては、耐久性が要求されるため、コスト面での負担は大きい。片桐社長は「きちんとした状態でユーザーに届かないとリピート購入につながらない。コストよりも信頼性を高めることを最重要視している」と話す。

「GetAroundJapan」は訪日外国人向け情報サイト

関税の支払い方法を変更

また、専用のアプリを4月に提供開
始した。国内ではスマートフォン経由が半数以上を占めている同社だが、海外向けのモバイル比率はまだ20%程度。ただ、東南アジアなどを中心にスマホからの注文が増えており、アプリのリリースで「使いやすくなった」という声が届いているという。
配送関連ではヨーロッパ向けと東南アジア向けについては、EMSを利用した場合よりも、安くて速く届くサービスに変更する。配送料や配送日数に関しては、越境EC利用の際の大きな壁となっている。同社では5月に倉庫を移転。これまでよりも多様な配送サービスに対応可能な形としたことで、別の配送サービスが使えるようになった。
新規ユーザーの来訪は、40%弱が検索エンジン経由、30%程度がSNSや海外の掲示板。アーティストのファンサイトの掲示板などに書き込まれた利用報告を見てCD JAPANを利用するユーザーもいるという。また、日本のCDやDVDなどが買える通販サイトを比較したウェブサイトもあり、そこからの来訪もある。評判を高めるために重要なのは、やはり信頼性を保つことだ。知らないサイトの利用を検討する際、ユーザーが気にするのは「クレジットカードが安心して利用でき、荷物がきちんと届くかどうか」ということ。セキュリティーを向上するためにも、クレジットカードの安全基準である「PCI DSS」の取得を検討しており、自社サイトにカード情報を残さない形にする予定だ。
リピート購入してもらうために重要なのは「ユーザーの期待値より高いサービスレベルを保つこと」(片桐社長)そのためにもサイトの改善やアプリの改善を続けていく。決済についても、利用の多いデビットカードに対応するなど、バリエーション増やすこともカギとなる。
また、関税の支払いがネックになることもあるため、対応を検討している。現在は商品が届いた際にユーザーが着払い・後払いする形だが、これが面倒だというユーザーが多いという。配送方法によっては、輸入前に前払いする(ネオ・ウィング側が立て替えて払い)ことも可能だが、国によって税制が異なり、さらに定期的に税率は動く。「フィギュアでも合金なのか樹脂なのかで変わってくることがある」(片桐社長)など、取り扱う品目が多いとさらに複雑になるため、関税を自動で計算できるようなシステムも導入する予定で、ユーザーは後払いと前払いが選べる形となる。

越境EC比率、50%超へ

人気はJ─POP、アニメ、洋楽、フィギュアなど。また、CD JAPAN内には、日本の伝統的な商材など、日本製の商品を取り扱うショップとして「JAPANCraft」を設けており、外部企業の商材も取り扱っている。この中では化粧筆が人気商品だ。
ポップカルチャー以外でも、最近は日本でしか取り扱いのない、高級なオーディオケーブルが売れてきているという。ただ、こうした商材は実際に自分のオーディオセットに接続し、音楽を聴いてみないと良さが分からない。そのため、レンタルサービスも検討している。返却のスキームをどうするかが課題となるが、音質にこだわるユーザーは国外にも多いだけに、需要はあるとみている。
また、昨年には訪日外国人向け情報サイト「GetAroundJapan」を開設。あわせて、日本の店舗で商品を購入した外国人が、帰国後にリピート購入できる仕組みも提供している。同サイトに関しては、JAPAN Craftとの連携を強化している。商品販売ページから、店舗ページヘのリンクが張られており、GetAroundJapan内の企業プロフィールページで詳細が確認できる。逆に、企業プロフィールページには人気商品ランキングや新着商品が掲載され、JAPAN Craftの商品ページに飛べる仕組みだ。ネオ・ウィングでは、こうした支援事業も引き続き強化していく。
同社の売上高に占める越境ECのシェアはほぼ半分だが、徐々に上がってきており、今後は越境EC比率の方が高くなることが予想される。今年に入ってからは円高が進行していることもあり、ヨーロッパ向けを中心にやや落ち込んでいるものの、成長性の高い東南アジアや中国、さらには中南米などからの売り上げを増やしたい考え。

【事例② ジェネレーションパス】、【事例③ Tokyo Otaku Mode】、【事例④ NHNテコラス】、ジグザグ・仲里 一義 氏に聞く越境EC成功のポイントなどは本誌にて→購入はこちら

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