楽天では、仮想モール「楽天市場」の出店店舗に対し、出稿した広告の効果開示を始めた。すでに7月4日からCPC(クリック課金型)広告においてレポートの提供を開始。いずれはディスプレー広告など、全ての広告について、店舗向けに効果を伝える方針だ。楽天市場ではこれまで、出稿した広告の詳細な効果を店舗には明らかにしていなかった。出店者からは非常に要望の強かった広告の効果開示。同社が方針を変えたことで、出店者のマーケティング戦略に大きく影響しそうだ。
他店舗との比較も
CPC広告は、仮想モール内で検索をした際、検索結果の上部に表示される広告(=画像)。価格は1クリック50円から(スマートフォン向けは40円から)の入札制で、楽天側が検索語句に関連する商品を自動的に広告として表示する仕組み。出店者がキーワードを指定する場合は1クリック100円からとなる。
これまで開示していたアクセス数やクリック数だけではなく、より詳細な効果が分かるようになった。具体的には、買い物カゴへの到達率や商品の投入率、お気に入りに入れた数、最終的な購入率のほか、パソコンで広告を見た後にスマートフォンで購入するユーザーに代表される「デバイス間転換率」、さらには同ジャンルの他店舗との比較も可能となっている。
そのため、例えばカゴへの到達率が低い場合は、「離脱を防ぐための工夫をする必要」、投入率は高くても購入率が低い場合は「競合店舗に流れている可能性が高い」など、店舗の抱える課題が浮き彫りになる。また、広告を閲覧したユーザーが広告とは別の商品を購入した、といったことも分かるため、今後広告を活用するかどうかの判断もしやすくなる。
ECCの教育進める
CPC広告は昨年秋、一時停止したが、今年初めに再開していた。同社の河野奈保上級執行役員は「ユーザーの入力したキーワードとは違う広告が表示されるなど、検索品質が悪いという声があり、いったん停止した。ロジックを変更し、ユーザーの不満が出ない検索品質となったため、現在はCPC広告を拡大している」と説明する。レポートを閲覧するには別途申し込みが必要で、1クリックあたり6円が上乗せされる。「6円上乗せは決して安い費用ではないが、効果開示で悪い点を把握し改善しやすくなったのは店舗にとって大きい。これまで楽天は広告を出してもうまくいっているのかどうかが分からなかった」(業界関係者)。
今後はバナー広告に代表されるディスプレー広告など、すべての広告で効果を開示していく方針。CPC広告については比較的新しい広告であることから、効果測定や開示が比較的容易という。一方で、古くから運用しているディスプレー広告については、効果測定のルールがCPC広告とは違う部分もあるため、段階的にシステムを変えることですべての広告効果開示に対応していく考えだ。
河野上級執行役員は「店舗がレポートを見た際に、きちんとコンサルティングできるスタッフが必要なので、ECコンサルタント(ECC)の教育を進めている。ECCは広告の販売や重要なアナウンスの通知に仕事が偏りがちな面があったが、本来の役割に戻さなければならない」と話す。
また、ECコンサルティングプラットフォームとして「Rカルテ」を年内にも提供する。従来からの「R-dataTool」や「店舗カルテ」などを統合。「商品登録数や商品キャンセル率などさまざまな指標について、他店と比較してレーダーチャートのような形で表示する。加えて運営改善をサポートできるツールを考えている」(河野上級執行役員)。改善すべき点を分かりやすく、視覚的に見せていくわけだ。
河野執行役員は「ECCは若いスタッフも多く、経験の長い店舗に比べると引き出しが少ないことがある。社内プログラムを作ることで改善したり、ECCと店舗間で詳細なデータを共有したりすることで、流通額の底上げにつなげたい」と話す。
楽天にとってはモール内広告の「実力」が明らかになるだけに、リスクもある今回の施策。店舗への広告の「売り方」も大きく変わってきそうだ。