「アマゾン商法」の実態 原価割れ赤字の「補填」依頼、 公取委が立ち入り検査へ

 公正取引委員会は2018年3月、アマゾンジャパンに独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を行った。アマゾンがセールなどで原価割れ赤字で販売した商品の納入業者に対し、事後的に割引販売で生じた損失額の補填を要請。このことが、「優越的地位の濫用」にあたる疑いがあるとみている。「地球上で最も豊富な品ぞろえ」と「最安値」を追求し、ネット販売業界の巨人に成長したアマゾンだが、その安さの〝カラクリ〟は、納入業者に対する「割引補填」で実現されてきた可能性が濃厚だ。「割引補填」の要請を受けた事業者の声から「アマゾン商法」の実態が明らかになる中、公取委はこれをどう判断するのか。

公正取引委員会が入る合同調査6号館(左)とアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長

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「リベート」名目で要求

「ひどかったのは2017年。〝1月から半年経った。1千数百万円の赤字だ〟と。それを払ってくれときた。拒否しようとすると平気で取引停止すると言いますから」。アマゾンに商品を卸すある家電卸はこう不満を漏らす。

200億円近い年商のこの事業者の場合、アマゾンとの年間取引額は十数億円。「割引補填」の要請は年数回あるという。「リベート」の名目で、月末の場合もあれば、四半期末に行われる場合もある。「こちらが『それなら赤字にならんように価格設定すれば』と言うと〝売価について言うと独禁法(再販売価格の拘束)に触れますよ〟と返してくるからタチが悪い」という。要請は、毎回交渉になる。ただ、「メーカーからは〝なんでこんなに安く売るんだ〟と。アマゾンは〝安く売らせろ〟と。メーカーは商品卸さないと突っぱねることもできるが、うちは年間予算を組む中で急に億単位の商売が切られると計画が狂う」と、赤字にならないぎりぎり手前の範囲で要求を呑まざるを得ないという。こうした事業者は複数に上っており、多くは数%~数十%の範囲で割引補填を要請されていたとみられる。

 家電卸の営業利益は、一般的に1~2%程度とされる。加えて、アマゾンには広告等のサービスメニュー「COOP」など固定費負担もある。この家電卸の場合、昨年12月、それまで部門ごとに2~5%の範囲でばらつきのあった「COOP」も「一律5%にされた」としており、「リベート」負担が事業を圧迫している。

 とくに要請が激しいのは「家電」分野とみられる。「はっきり言って卸した原価より安く売っている。例えば、1000円で入れたら980円。採算があってないのでは」とするが、背景に何があるのか。

「価格調査システム」で最安値実現

競合サイトの同型製品の価格を自動追尾し、より安い値付けを自動的に行うアマゾンの価格調整システム

 「損して売れば誰でも売れますよ。そんな楽な商売ない。システムが勝手に商売して、最安値で売ってくれる」。前出の家電卸が言う〝システム〟とは何か。
「例えばヨドバシ(・ドット・コム)が1000円で売っていたら、(アマゾンは)自動で910 円くらいの売価になる。ヨドバシの場合、ポイント10%還元があるから実質900円。ポイントを加味した売価になる。互いにそういうシステムが入っている」。アマゾンは、競合するモールやサイトの価格をリサーチし、自社通販サイトの価格に反映する「価格調整」システムを導入しているのだ。

 〝システム〟がとくに威力を発揮するのは、価格比較が容易なナショナルブランドが力を持つ「家電」業界などだ。家電は価格変動が激しい市場。1日10 回前後、10 円から100円前後で変動するのはザラだ。扱う商品も数千から万単位に上る。このため、ウェブを主戦場にする小売業者で同様のシステムを導入する企業は多い。

 ただ、運用は各社で異なる。顧客の商品選択の決め手となり、企業が差別化する要素は、「価格」のほかに「ポイント」や「送料」「在庫の有無」など複数ある。ただ、ポイント施策で後手に回るとされるアマゾンは「最安値に振り切っている」(同様のシステムを提供する事業者)とみられている。このため表示される価格は「スバリ(安い)価格」(前出の家電卸)になるというわけだ。 

 アマゾンが競合とみるモールやサイトは「取材に協力できない」(アマゾン)とするため不明だ。ただ、強みを持つ「家電」で競合関係にある「ヨドバシ・ドット・コム」は意識しているとみられる。

 立ち入り検査をめぐって、ある公取関係者も「対抗意識を燃やしているのはヨドバシカメラと言われている。ヨドバシが下げればアマゾンも追随。価格競争でどんどん下がる」と話す。「優越的地位の濫用」の疑いが持たれている「割引補填」は、新時代のテクノロジーが生んだシステムによる苛烈な価格競争の末に行ったものとみることができる。

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