「宅配クライシス」に挑む 注目EC各社の“配送力”とは?

大手配送会社の配送運賃の値上げに起因した上昇する物流コストの問題、いわゆる「宅配クライシス」がEC実施企業に暗い影を落としている。ただでさえも多くない利幅が圧迫され、ECの存続すら危うい事業者も出てきているなど業界全体を揺るがす深刻な問題となっている。今後も配送キャリアの状況次第でさらなる運賃値上げの可能性もある状況の中、様々な手段、工夫で配送力を磨き、「宅配クライシス」に挑むEC事業者も出てきた。注目すべき各社の試みを見ていく。

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商品在庫をビル内に一時保管
受注後、即配の小口配送をテスト

【事例① アスクル】

東京ミッドタウンで実施している新たな小口配送の実証実験。館内に届く荷物を集積する 荷捌き所に2つのラックを置き在庫を一時保管。館内に入居する企業からの実注文に応じ て館内配送業務を担う佐川急便が台車で納品する

日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」などを運営するアスクルが法人向けオフィス用品通販で実証実験を開始した新たな小口配送モデルが成果を上げ始めているようだ。

このモデルはオフィスビルの空きスペースに需要予測をした上で一定数の商品をあらかじめ輸送、一時保管し、実注文に応じて都度、当該スペースから近隣の顧客事業所のもとに台車で商品を配達するという独自に考案した小口配送のスキームだ。この取り組みの利点の1つは受注から1時間以内など商品を迅速に顧客に配送できるという配送サービスレベルの向上。そしてもう1つは物流コスト軽減にある。このモデルの考案者でサービス設計に当初から携わってきた同社ECR本部配送ネットワーク配送イノベーションの東田圭介マネージャーは「従来、小口配送では当社の物流拠点から出荷した時点で1個いくらで(配送料が)発生していた。ここにきて物流コストが急激に上がってきた。もっとラストワンマイルを短縮できないかと考えた」と実証実験に踏み切った狙いついてこう話す。

このモデルの実証実験は2018 年7月12日から東京・六本木の商業ビル「東京ミッドタウン」でスタート。通常、アスクルでは顧客からの注文に応じて都度、全国9つの物流拠点で顧客ごとにピッキング・梱包した荷物を出荷して輸送・配送を行うが、この実証実験では過去の購買・配送のビックデータを解析するなどし、あらかじめミッドタウンに入居する顧客事業所の需要予測を行い、一定数の商品を通常の都度出荷品とともに物流拠点から事前出荷し、これをミッドタウンの館内に届く荷物をすべて集積する地下の荷捌き所の一角にラックを2 つ置き、そこに一時保管し、ミッドタウン入館企業からの実注文に応じて館内配送業務を担う佐川急便が台車で納品する仕組み。なお、対象商品は売れ筋の同社のオリジナルコピー用紙(A4)に限定して実施した。

現場負担とコストの軽減に成果

実証実験開始から約半年が経過した現状はどうか。東田マネージャーによるとこの半年間は現場でのオペレーションの確認のため、特に“1時間以内で”など本来、この試みの1つの売りともしていた即配をあえて行うことなく、アスクルの配送レベルの中で、例えば同社の法人向けオフィス用品通販では都内を含む都市圏などでは当日の午前11時までの受注分は夕方までに配送するという当日配送を実施しているが、これに合わせてミッドタウン入居の顧客事業所にも配送を行ってきた。ただ、この中でもすでに成果として現れてきたのが現場の作業負荷の軽減と物流コスト削減効果だ。

実証実験前は住居企業がアスクルに例えば、コピー用紙を注文すると、この荷捌き所に都度、運ばれ、そのたびに荷卸し作業が発生していたが、需要予測に伴い、一週間に1度などまとめてコピー用紙が運ばれてくるようになったため、ほぼ毎日あった荷卸しが週1回に済むようになった。

また、館内配送の配達スケジュールも組みやすくなった。従来は当日配送の商品が夕方に多く荷捌き所に届くことがあり、苦慮することもあったようだが、実証実験開始後は午前11時の当日配送受付終了後に「今日の配送は○社に○個」などミッドタウン入居者の注文情報をすぐに現場に伝えることができるため、空きのある時間に、一時保管ラックからコピー用紙を配送できるようになった。

館内配送に担う佐川急便の担当者も「工数的にも時間的にもだいぶ楽になった」と話す。

コスト面でも「出荷時点から小口配送とするよりも、まとめて輸送し、短距離の小口配送にした方が当然、圧倒的にコストメリットが出る」(東田マネージャー)と成果が見えているとし、加えて一時保管スペースに商品を物流拠点から事前出荷する際も、通常の都度出荷品を積載する車両の空きスペースを活用して輸送するため、コスト削減効果があるという。また、車両の積載効率も高まり、全体的にも生産性が向上するメリットもできているようだ。

即配解禁、商品やエリア拡大も

この半年で一定の成果を得たことから、2019年はさらに踏み込んだ試みを実施していく考えだ。

この半年で有効性や館内配送を担う佐川急便側のオペレーションも問題ないと判断したため、この小口配送モデルを実施する上で最も大きな利点の1つである即配サービスを解禁する。まず、2~3時間以内の配送から始め、サービスレベルが担保されたと判断した時点で、ミッドタウンに入居する顧客事業所限定のサービスとしてアナウンスを行った上で「1時間以内」など配送時間を確約した即配サービスを開始するという。

対象商品も増やす。この半年はコピー用紙に限定してきたが、近くミネラルウォーターも加える計画。「飲料水は売れ筋であることに加えて、万一、災害があった際などに、入居者や近隣の方々に提供できるというCSR的な意味合いもあることから取り組んでいきたい」(東田マネージャー)とする。現在、荷捌き所には2つのラックを置き、コピー用紙を一時保管しているが、需要予測の精度をさらに高めたり、館内の顧客事業所限定で必要な分を必要な時に、迅速かつ安価に配送するサービスを実施するなどして、コピー用紙と水の一時保管在庫量を極力減らし、それぞれ1つのラックで在庫しつつも、問題なく運用できる形とすることなどで実施していく考えだという。

展開エリアの拡大も進める。現在は東京ミッドタウンのみで実施しているが、都内の別の商業ビルのほか、大阪や名古屋といった大都市圏でも、現在、ミッドタウンで実施しているような形の一定規模の商業ビルの空きスペースに在庫を置き、館内の顧客事業所を対象とした小口配送を「現在、具体的に候補先を検討し、準備中。今期中にも実施したい」(同)考えだ。

LOHACO でも実施を検討

また、現状は法人向けオフィス用品通販に限定している同小口配送モデルを同社が展開する個人向け日用品通販サイト「LOHACO」でも実施を検討していく。法人向け(BtoB)では商業ビルの入居事業者を対象にビル管理会社と当該ビルの館内配送を請け負う配送業者と連携して実施しているが、BtoC(個人向け)では大規模マンションの住人を対象顧客に想定。マンションの管理会社やマンション内のコンシェルジュ事業者およびセキュリティ事業を行っている事業者などと組んで実施していく考え。
ただ、BtoC の場合、BtoBよりも需要が多岐にわたり、一時在庫の対象商品の選定や需要予測がシビアなことなどハードルが高いことから明確な開始時期は明らかにしていない。とは言え、「BtoCに関しても飲料やトイレットペーパーなど大きくてかさばるものはお客様にとっても我々にとっても運ぶのが大変でコストがかかる。これらをなるべく短距離の移動にしたいのは同じ」(東田マネージャー)として、タイミングを見ながら実施を検討していく考えだ。

さらにその後のステップとして、様々な商業ビルやマンションでこの小口配送モデルが展開された段階で建屋外の周辺にも配送するような形も想定しているようだ。

迅速な配送サービスに加え、宅配の現場負荷の分散や配送の労働環境の改善など社会的課題の解決にもつながり、さらに物流コストの圧縮にもつながりうるこの取り組みだが、「スケールを出していくことが一番の課題。アイテムを広げすぎると一時保管しておくスペースもまた多く必要になってしまうが、それを確保するのは難しい。いかに少ない在庫量で必要十分な数を置き、かつオペレーションの手間の観点から在庫補充回数をなるべく減らせるか。そのあたりをうまく勘案しながら全体のスケールをとっていくのは結構、難しい。スケールがとれる算段がつけば一気に拡大していきたい」(同)と今後も試行錯誤を続けながら最適な拡大策などを模索していく考えのようだ。

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