A Iでコマース、業務はどう変わる? ーー 有力EC各社のAI活用最前線

 生成AIの普及・進化が進む中、ネット販売関連企業各社の中でも展開するコマースビジネスや既存業務の改善にAIを活用するケースも目立ってきた。AI活用で先を行く注目すべきネット販売各社の現状のAI活用の取り組みとは――。

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楽天が「実店舗の接客」実現へ

AIコンシェルジュの接客強化

 楽天グループでは、仮想モール「楽天市場」において、AIコンシェルジュの機能を強化している。「実店舗での店員による接客体験をオンラインで提供すること」をコンセプトとして設計しており、ユーザーが商品を購入するまでの時間は、モール内検索と比較して約41%短縮しているほか、平均注文額は約17%向上している。今後は対話の品質をさらに改善していくほか、出店店舗の知見を取り入れた接客やパーソナライズ化を進める。同社の髙間真里執行役員市場編成部ジェネラルマネージャーは、「個性あふれる、5万を超える店舗の専門性やナレッジを活用しながら、AI活用を通じて買い物体験を提供していきたい」と述べた。

店舗の知見取り入れる

 消費者庁は、6類型(=表)のダークパターンについて規制を検討している。課題は、景品表示法など他法令で対処可能なものとのすみ分けが明確でないこと、故意性、悪質性の評価が難しいことだ。

 2025年12月より対話形式のサービス「楽天市場AIコンシェルジュ」を提供している。利用者数などについては「非公開」(髙間執行役員)としているが、利用者数や質問数については「予想以上に伸びている」(同)という。今後の利用状況については「まだアクセルは完全に踏んでおらず、AIコンシェルジュ経由の買い物シェアはまだまだ伸ばせる」(同)とみる。

 例えば、選びやすい切り口の提案や、季節・セールイベントにあわせたスタータープロンプト(チャット画面に表示される指示文や質問)の提供などが特徴。機能のアップデートも進めており、直近では「商品比較機能」を導入。これは、AIとの対話を通じて提案のあった商品をユーザーが複数選択すると、発送状態や配送目安、レビュー傾向など、詳細情報を表形式で比較するというもの。また、「商品詳細機能」は、AIが提案した単一商品の特徴やおすすめポイント、レビューの情報などを分かりやすく表示するというものだ。

スタータープロンプトが特徴的な「楽天市場AIコンシェルジュ」

 今後は会話品質の向上を引き続き進めるほか、出店店舗の知見を取り入れながら、専門性・接客ノウハウを活かしたサービスへと進化させる。具体的には「例えば『洗濯機が欲しい』という抽象度の高いニーズに対し、『どんな観点で選べばいいか』『最新トレンドは何か』など、家電量販店の販売員に相談するような体験を提供していきたい。出店店舗は商品ページにおいて、『選び方』などのコンテンツを工夫しているので、AIコンシェルジュ上でも同様に示していきたい」(髙間執行役員)という。

 また、AIコンシュルジュにおける広告商品については「店舗にとってメリットがある形でないといけないので、現在はそこを分析中だ。自信を持って提供できるようになれば、ゆくゆくは考えたい」とする。従来型のモール内検索は、AIコンシュルジュよりも多くの選択肢から商品を選ぶことができるため、「両者はしばらく共存するのではないか」とみる。

 ユーザー1人ひとりの興味・関心に合わせて商品の画像や動画、商品ページの情報を表示する「ディスカバリーレコメンデーション」に関しては、パーソナライズ化を進めるほか、ライブコマースの導入など、エンターテインメント性を強化していく方針。

 なお、「ChatGPT」など、汎用生成AIから楽天市場への流入については「グーグル検索や広告経由の方がまだまだ多いが、増えてはいる」という。髙間執行役員は、AIエージェント経由で商品が購入される「エージェンティックコマース」への対応について、「現段階で『こうしたい』とは答えられないが、非常にチャンスであり、入り口として活用したい気持ちでいっぱいだ」と意欲を示した。

AIで店舗の付加価値高める

 一方、楽天市場の出店店舗向けAI機能としては「RakutenAIforRMS」を提供している。店舗の業務時間効率化を目的として機能を提供してきたが、今後は「店舗が付加価値を高めるためのAI機能を導入していく」(コマース&マーケティングテクノロジー統括部の山川祐介ジェネラルマネージャー)という。第1弾として、4月30日に「データ分析エージェント」の提供を開始。「どうやってデータを分析すればいいのか分からない」という店舗の声に応えたもので、AIエージェントと会話しながらデータを分析できるほか、深堀り質問候補の選択や追加質問入力によるデータの深堀りも可能となっている。

 7月7日に開催された記者会見には、店舗運営支援ツールを効果的に活用している出店店舗の代表として、「プチギフトmomo-fuku」(運営は百福)の木澤典子専務が登壇。「問い合わせ対応の劇的な効率化」としては、月間で67時間かかっていた対応時間が20時間程度に削減できたという。

 また、外注していた商品登録業務の作成を内製化できるようになり、商品数は1000点から1万点へと増加。これまで外部のコンサルタントに依頼していた売上分析レポートもRMSに任せることが可能になったという。今後については「楽天のAIツールを使った他店舗の成功事例を共有してもらいたい」と要望した。

リピート購買の購入率増に寄与

 電動工具や物流用品など工場向け副資材(MRO)のBtoB通販を行うMonotaRO(モノタロウ)は2026年3月末から、運営する通販サイト「モノタロウ」にこれまで磨いてきた商品検索の仕組みとLLM(=大規模言語モデル※人間が話すような自然な言語を理解・処理・生成するAI技術)を組み合わせて自社で開発した購買AIエージェントを実装し、ユーザーの質問に最適な商品を提案する取り組みを開始している。適切な商品を素早く提案することで特に購入実績のある商品を再び購入するリピート購買の購入率が増加するなど成果を上げ始めているようだ。

質問に8秒で回答し、推奨品を表示

「モノタロウAI」は利用者の質問に応じて最適な商品を推奨する(6月25日開催の「AWSSummitJapan2026」の同社発表時の表示資料より抜粋)

 同社が通販サイトに実装している購買AIエージェント「モノタロウAI」は通販サイト内の商品検索結果画面の右側に専用欄を表示。専用欄下部の「モノタロウAIに質問する」という部分に「前に購入した結束バンドを再購入したい」など商品に関する質問などを入力すると、8秒程度で「ご購入履歴から結束バンドがみつかりました。以下のような商品をご案内します」として合致する商品を同欄に表示する。続けて「昔買った黒い結束バンド」と入力するなどして対話形式で絞り込みなども行うこともできる。上記のように過去に購入した商品はもちろん、「二度拭きが要らない壁紙洗剤を探したい」といった“用途”の入力でも「乾拭きOKな壁紙洗剤」や「シンプルで使いやすい壁紙洗剤」など当該商品を提案した理由を添えつつ適切な商品を提案する。

 この「モノタロウAI」は現状、一部のユーザーのみが利用できるベータ版だが、すでに商品検索サービスとして一定の成果を上げているようだ。それはLLMとこれまで同社が培ってきた商品検索サービスを組み合わせて、MROを購入する事業者というユーザーの利便性に照準を合わせた設計になっているからだという。

 およそ2800万点という膨大な商品数を取り扱う同社ではこれまでも様々な業種の事業者が適切な商品を短時間で探せるよう商品検索の強化を継続的に進めてきた。通常、「手袋」と検索すると1万件を超える商品がヒットしてしまうが、同社では全文検索システムをベースとしつつ、顧客事業者の過去の購買・行動情報や業種情報をもとにしたデータ解析によって独自の高い精度を持つ検索システムを構築。例えば商品検索で「手袋」と検索された場合、医療施設の事業所であれば医療の処置などで使用する合成ゴム製手袋を、製造業の事業者であれば耐火熱性や耐切創性を持った繊維などでできた手袋など業種によって購入実績が多い商品などを優先的に表示するようにしたり、建設業では手押し一輪車を「ねこ」と呼称するが、「ねこ」と検索すると手押し一輪車が検索結果画面に表示されるように特定業種で使用される専門ワードや業種用語を用いたキーワード検索でも、適切な商品を検索結果画面に表示している。「取扱商品数が2000万点を超えているため、1商品ずつキーワードをタグ付けするのは大変。なので統計学的に過去にある属性のお客様がこのキーワードで商品を検索した際に、こういう商品を買った、カートに入れたというデータを用いて自動的に最適化するような仕組みにしている」(普川泰如常務執行役CTO)とする。

 より商品検索を強化するため、2024年からは「ベクトル検索」を導入。ベクトル検索とはあらかじめ取扱商品をベクトル値という数値に変換しておき、ユーザーが入力した検索キーワードも一旦、ベクトル値に変換し、検索キーワードと商品のベクトル的な計算の類似度の近さから判断して、適切な商品を検索結果に優先表示する仕組みだ。「検索エンジンのベースは全文検索。検索ワードが商品に関する文字に引っかかるかで検索しているわけだが、それだけでは拾えない商品もある。例えばお客様は商品名ではなく、自分がやりたい“用途”で検索する場合も多いが、それは従来の検索では対応できなかった」(同)とする。例えば、「工場の床に白い線を引く」といったキーワードで検索された際、これまでは検索結果画面は「0件」だった。「白工場」などキーワードにスペース区切りのような検索に適した検索ワードでないと商品がヒットしないためだ。ベクトル検索の導入で検索ワードの書き方によらず、ほぼすべての検索ワードに対して関連した商品を検索結果画面に表示できるようになり、検索結果で「0件」と表示される状態は70%減少したとする。

AIを活用し商品検索より強化

 このように同社では商品検索の精度向上や強化に注力してきたわけだが、AIの台頭という世の中の変化へ対応とさらなる商品検索の強化を図る目的で2025年12月から着手し、4カ月間で開発して限定公開したのがAI購買エージェント「モノタロウAI」だ。

 「AIの台頭はリスクとチャンスの両方がある。これまでは検索エンジンで商品を検索されているお客様をSEOやSEMで当社のサイトに来て頂き、そこでまた商品を検索頂き、購入頂くという流れだった。それが我々の競争優位だった。しかし、今では検索エンジンを使わず汎用的なAIのチャットで商品を探すという流れになってきており、目的の商品や型番が分かった上で当社のサイトに来て頂き、購入頂くことが増えた。購入頂くことはありがたいが、我々はデータを活用してサービスの改善・強化を行っているため、データが取れなくなることは大きなリスク。一方でこれまでの検索ではできなかった新たな価値をAIを使って提供できるチャンスでもある。汎用的なAIのサービスよりも『BtoBのお客様が商品を探す時』には、我々のAI購買エージェントを使って頂いたほうがよりうまく探せると思って頂けるようなものを開発しようと考えた」(同)とする。

 「モノタロウAI」はLLMによる汎用的なAIサービスとは一線を画す。BtoB通販では「特定の機械の部品」や「特定用途で使用するためにこの程度のスペックがある商品」など求められる商品がずれると使い物にならなくなるために厳密な商品同定が求められる。一方で先の「工場の床に白い線を引く」といった曖昧なユーザーからのリクエストにも対応すべく、二律背反な要素を解決できるようにしたことが特徴。具体的には用途はわかっているが商品名が分からない場合でも「曖昧な入力」で目的に商品にたどりつけるようした。また、同社の顧客は基本的には事業者であるため、同じ商品を何度も繰り返し再購入することが多い。しかも再購入する商品の数も膨大で中には数千点、1万点を超える場合もあるよう。そうした膨大な商品群から目的の商品を購入履歴から探し出すことは面倒だったようだ。こうした再購入品を効率的に購入できるようにした。加えて、商品の表示にあわせて推奨する根拠を記載した。BtoB通販の場合、現場で必要な商品を購買担当者が要望を受けて購入する場合も多いが、当該商品が欠品しており代替商品を買わなければいけない場合などに、どういう根拠でこの代替品を推奨しているのかを商品ともに表示することで安心感を醸成しスムーズな購入決定を支援するためだ。

 必要な部分はLLMを活用しながら、自社データやこれまでの作り込んできた商品検索エンジンを組み合わせることで効果的かつ4カ月間という短期間で開発した「モノタロウAI」は、曖昧な記憶での検索や同カテゴリで複数種類の商品を過去に購入した場合などにも柔軟に対応することで、特に同社の従来までの商品検索ではできなかった過去購入品のみに絞った商品検索が可能になり、過去に購入した商品の購入率が増えるなど成果をあげているようだ。

今後のAI購買エージェントは

 現状、「リピート購入」については、提案した商品が24時間以内に購入された率は商品名や型番を指定した「指名検索」や使用目的を検索する「用途検索」、問い合わせなど「その他」に比べて2倍を超えるなど成果を出しているが、指名検索、用途検索については利用率が高い一方で購入率が低く、今後、改善していくとする。また、LLMの場合、同じように入力し場合でも、毎回、挙動が変化する性質のため、異なる出力となることが多く、再現性が低く、利用者などから不具合を指摘された場合でも検証が難しいことがある。それゆえに今後は専用ツールやトレーシングの導入で品質管理を強化してLLM特有の挙動を詳細に把握できる体制を構築していきたいとする。その上でさらなる機能の高度化を進める。「ユーザーとAIの対話が増えていくとAIが最初の会話を忘れてうまくいかなくなってしまったりなどがあるので改善が必要。あとはエージェントなので単に商品の検索補助だけでなく、比較検討やカートに入れて購入まで完結できるような機能の追加を行っていきたい」(同)とする。また、現状は一部ユーザーへの限定公開となっているがこれを全ユーザーに公開した場合にはコストが現状のままでは増加することが分かっていることから、「トークンの効率化やSLM(小規模言語モデル)のSelfHosting/キャッシュ高度化などを使用して、まずはすべての客様に使って頂ける状況を作っていきたい」(普川CTO)としている。

アスクルは業務改善にAI活用 品ぞろえスピード倍に

 事業者向けオフィス用品通販のアスクルは事業の企画から開発・運用に至るまでの開発プロセス全体にAIを組み込む開発手法であるAI-DLC(AI駆動開発ライフサイクル)を導入を進めている。2025年10月に発生したランサムウエア被害によって2カ月間にわたって受注・出荷は制限され、そこからの復旧を進めるタイミングでより効率的かつよりよい形で事業を展開していくために導入したという。「人は目的と仮説を立てて指示をすることに特化して、調査・生成・提案はAIが主役になって行い、それをもとに人が判断すると。これによって1つのことに仮説を立てて判断をするまでの速度が劇的に早くなった」(吉岡晃社長)とする。

属人化から仕組み化へ

 同社ではAI-DLCの本格導入を前にまずビジネスメンバー、エンジニアが一堂に会した合宿形式でメールマガジンや広告の作成をAI-DLCで実施。AI-DLCの成功体験を積んだうえで、積年の課題だったとする品ぞろえスピードの改善に着手した。これまでそれぞれの商品担当者が仕入先や社内の様々な部門の窓口となり、様々なツールを使って管理してきた。「何十年と業務を都度、アップデートさせていく過程でやることが増えて、煩雑となり商品担当者の業務はカオスなものとなっていた。すべて担当者がハブになってさばかねばならず、属人化され暗黙知はすべて人に依存し、スピードも遅く、大企業病の根源になっていた」(同)とする。こうした点を解消すべく、一人の担当者がハブになって、様々なツールを使ってさばく形ではなく、すべてのデータツールを一元化して各部門と連携させる形にして商品担当者は商品の在庫を切らさないとか、新商品の発掘、仕入れ方法の改善など本来すべき業務に注力させるべく、AIを使った仕組みの作り直しに動き出した。最初の合宿と同様、「ビジネスメンバーとエンジニアが一緒にプロダクトに関してAIと壁打ちをしながら、その場でフィードバックして即断即決をしていった。これによって待ち時間が激減する。しかもノウハウはAIにすべて入って暗黙知は形式知として固まっていった」(同)という。そうした形で新たな仕組みの構築を進めたところ、こうしたケースでは従来は12カ月かかると見積もっていた開発期間が6カ月まで短縮、そして商品掲載スペードは従来の2倍となったという。

AI で方針決定を迅速化するアスクル(6 月 26 日開催の「AWS Summit Japan 2026」の同社発表時の表示資料)

ナフサ危機への対応案作りも

 また、「ナフサ危機」における同社の方針決定もAI-DLCで行った。同社では26年2月28日にアメリカとイスラエルによるイランとの軍事衝突によってナフサの供給不安が発生すると考え、対策を検討した。「具体的にどのような商品が枯渇してくるのか。また、どのような業種のそのような顧客がどのような商品をどの程度、必要とするのか。それによってどのような商品をその程度、確保しなければならないのかなど緻密にシミュレーションし、それをもとに供給元にできるだけ早期に話ができれば目詰まりが起きないようにできると考えた」(同)とする。このシミュレーションを考える際にAIを活用したことで従来は同様のシミュレーションを立て、方針を決定するまでに2週間を要していたが、今回は「私とエンジニアではないマーケッターの2人で資料を作ったのだが、3時間でできた。従来までは需要分析、世界情勢分析、商品・お客様特定、提案資料作成とそれぞれ異なる人が時間をかけて直列で進んでいくわけだが、AI—DLCで構築したメカニズムに指示をすればAIが各作業それぞれを同時並列で行うことで時間が短縮され、仮説立ての手前の段階までやってくれる」(同)とする。

本誌ではこの他、景品表示法の 運用見直しへーー規制改革推進会議、「不実 証広告規制」見直し提言、もお読みいただけます。ご購入はこちら >>

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